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第7章ー1

 第7章の始まりです。


 この章では、色々と問題のある描写が多発するとは思いますが、小説世界と異なる世界とはいえ、史実の米軍が行った作戦を参考にして、小説中の描写を行っています。

 できる限り、緩く見て下さるように、平にお願いします。

 1942年秋、極東、中国本土の戦線においては、日本軍の江西省、福建省、浙江省の制圧作戦が発動されており、米軍は陝西省の制圧作戦を発動していた。

 理由は言うまでもない。

 来春に行われる予定の成都侵攻作戦発動を前に、日本軍は後顧の憂いを完全に断つためであり、米軍は四川省への北からの玄関を開けるためであった。

 だが、その一方で、別の冷酷な作戦が、米軍によって発動されようとしていた。


「日本政府としては、協力を全面的に拒否する。さすがに妨害はしないが、人間として、良心から言ってそんなことはできない」

 吉田茂外相は、そう駐日米国大使を呼びつけて、そう宣言していた。

 勿論、吉田外相は、米内光政首相、それに日本の陸海軍部の意向も受けて、そう言っている。


「共に戦う友軍、同盟軍の行動に協力しないというのですか。米本国は、日本への対応を考え直すことになると思いますが」

 米国大使は不快感を示して、そう半ば脅迫と取られかねないことを言ったが、吉田外相は泰然と言った。

「それなら、こちらも英仏伊等、諸外国に米国の行動を通知しましょう。何でしたら、新聞社等に情報提供をしましょうか。どちらが困りますかな」

 米国大使は口をつぐんだ。


 この夏に蔓延した日本住血吸虫症による米軍の被害が発端だった。

 米軍、政府は、これへの対処として、大量の枯葉剤等の薬物散布を中国本土に行うことを決めたのだ。

 だが、これはある意味、化学兵器の使用と取られても仕方のないことだった。

 米軍、政府の一部には、共産中国軍が生物兵器を使った疑惑がある以上、それへの報復として当然許される措置だ、という強硬意見まであるらしい。

 だが。


 日本軍、政府が調べる限り、共産中国軍が生物兵器を使用した痕跡は全く見当たらない。

 彭徳懐将軍等、共産中国軍から投降してきた将兵も全員が、共産中国軍が生物兵器を使用したことは全く無い、と言明している。


 吉田外相の見るところ、米軍の一部、特に衛生部隊が、自分達の失敗を糊塗しようとして、共産中国軍の生物兵器使用疑惑を唱えているのでは、と思えてならなかった。

 共に戦う日本軍に、余り被害が出ていないことから、米軍の失敗は明らかになっている。

 いや違う、共産中国軍が生物兵器を使ったから、こうなったのだ、と言い訳を作り出して、自分で自分の言い訳を信じてしまった、というところではないか。

 そう吉田外相は勘繰っていた。


 全く明治の陸軍の脚気騒動ではあるまいに。

 吉田外相は、梅津美治郎陸相から聞かされた小噺を思い出していた。


 明治、日清戦争の頃、陸軍では脚気が蔓延していたが、共に戦う海兵隊では海軍の兵食改善を受け入れていたので、脚気がほぼ撲滅されていた。

 素直に麦飯、副食導入を陸軍もすれば良かったのだが、陸軍に入れば白米を腹一杯食える、と散々吹聴していたし、陸軍省医務局は脚気は伝染病であり、食事療法は効果がない、と面子から言い張った。

 その結果が、日清戦争後の台湾平定における陸軍の脚気惨害だった。

 海兵隊は脚気患者がほぼ出なかったのに、陸軍は脚気患者続出、余りの酷さに、明治天皇陛下、直々のお叱りを、山県有朋陸相が受ける羽目になったという半伝説まで遺されている話だという。


 梅津陸相は、米軍の一部が当時の陸軍省医務局と同様の路を歩んでいるのではないか、と懸念しており、吉田外相に、この小噺をすることで、米軍をたしなめてほしい、と伝えたのだが。

 吉田外相への米国大使の態度を見る限り、却って逆効果になりそうな状況のようだ、と吉田外相は判断せざるを得なかった。

 少なくとも、日本の国益のために、日本の手を綺麗にしておくしかないようだな。

 吉田外相は冷めた考えをしていた。

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