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第6章ー20

 11月9日黎明と同時に、ケルチ半島南端のソ連軍陣地に砲撃が浴びせられ、スペイン青師団の攻撃が始まった。

 ソ連軍の堅陣は、それを容易に跳ね返せる筈だったが。


「突撃」

 アラン・ダヴー少佐は、事前の航空偵察で奇襲上陸に適していると見極めていた砂浜に、このために臨時編制された歩兵2個大隊相当の上陸部隊を奇襲上陸させ、ソ連軍陣地を後方から襲わせた。

 後方からスペイン兵が襲ってきたことに、ソ連軍は浮足立ちかけ、更に。


「どんどん撃て」

 ダヴー少佐は時機を見極め、装甲艇12隻による海上からの支援砲撃等を命じる。

 装甲艇の能力から、直接の砲撃や銃撃しかできないが、海上からの銃砲撃を想定していなかったソ連軍にしてみれば、二重の衝撃になる。

 11月9日の昼前、ソ連軍陣地の南端は崩壊し、スペイン青師団はケルチへの玄関口を蹴破った。


「急げ、時間はないぞ」

 グランデス将軍は、指揮下にあるスペイン青師団の面々に檄を飛ばした。

 そう、スペイン青師団に時間は無かった。


 ソ連軍をケルチ半島から駆逐せねばならない。

 ソ連軍に、陣地を突破されたという衝撃から立ち直る時間を与えたら、兵力差から言って、また戦線が膠着するという事態が起こりかねない。


 また、時間が経つほど、冬が差し迫るのだ。

 既に早朝には霜が降りるようになっている。

 一部のスペイン兵にしてみれば、11月に霜が降るというのは衝撃だった。

 故郷では真冬の1月、2月でも霜をそう見ないのだ。

 それなのにここでは。

 スペイン青師団の面々は急進撃を図り、それは報われた。


 11月19日、ケルチをスペイン青師団の先遣部隊が制圧した。

 それまでの間に、ケルチ半島に展開しているソ連軍は、スペイン青師団の展開する機動戦への対処を余儀なくされ、陣地を捨てざるを得なくなり、火力の劣位も相まって、各個撃破された末に、スペイン青師団の前に武器を置く将兵が続出する有様になっていた。

 ケルチ半島に展開していたソ連軍は、兵を失い、更にケルチを制圧されたこともあり、組織的に抗戦する力を失い、スペイン青師団の残敵掃討対象に転落したのだ。


 11月22日、残敵掃討任務に当たっているスペイン青師団の部隊の最前線を、ダヴー少佐が視察しているのは、そういった戦況の変化から起きたものだった。

 ケルチには装甲艇部隊が展開し、ソ連軍の逆上陸に備えている。

 また、伊空軍の対艦攻撃部隊もケルチ半島に駆けつけることになっている。

 ソ連軍のケルチ半島からの反撃は、今や困難だろう。

 ダヴー少佐は、そう想いを巡らせた。


「そう言えば、セヴァストポリ要塞は、結局、外周包囲に止まっているみたいですな」

 フリアン曹長の声が、ダヴー少佐の想いを少し遮った。

「ルーマニア軍の実力からして、仕方ない話だろうな。あそこを強攻するとなると、かなりの覚悟がいる」

「確かにそうですが」

 フリアン曹長は、ダヴー少佐の言葉に納得できないようだ。


「春までこの状況が基本的に続くだろうな。それに悪い状況ではない。セヴァストポリ要塞は、今やクリミア半島における完全に孤立無援の要塞だ。補給が途絶している以上、何れは落ちる」

 ダヴー少佐は、そう言った後、更に想いを巡らせた。


 春までか。

 冬季戦が我々にとって困難である以上、南方軍集団全体もこれ以上の進撃を行うのは春になってだろう。

 仏伊軍は、クルスク、ハリコフ等は制圧できたが、ロストフは手に入っていないらしい。

 結局、思う様に進撃できたのは、北方軍集団だけか。

 今年の内に、南方軍集団は、スターリングラードまで進撃、制圧を果たしたい、と考えていたが、やはり夢だったか。

 徐々に吹く風が、気持ち寒さを増す中で、ダヴー少佐は、そう想いを巡らせていた。

 第6章の終わりで、次から極東戦線を描く第7章になります。


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