第6章ー19
アラン・ダヴー少佐は、まずはグランデス将軍に、無事に到着したことを報告することにした。
日本軍が行った特訓により、何とか臨時編成された舟艇部隊は使い物になりそうになりつつあることを、直接報告せねばならない。
これまで、電文で随時の報告を行っている以上、書面を提出するだけで済ませてもいいかもしれないが、ことがことだ、直接、口頭でも報告を行った方が、グランデス将軍と行き違いが生じずに済むだろう。
ダヴー少佐は、そう考えて、グランデス将軍の下に向かったのだが、グランデス将軍の態度は、ダヴー少佐の考えとは全く違っていた。
「舟艇部隊を実戦に投入することは可能か」
ダヴー少佐の顔を見た瞬間、グランデス将軍は第一声を発した。
「正直に言えば困難です。ある程度、海面での機動に慣れさせる必要があります。少なくとも1週間、できれば2週間はいただかないと役に立ちません」
ダヴー少佐は、そう答えた。
実際、日本軍の特訓が功を奏し、徐々に操船等ができるようになりつつはあるが、まだまだ未熟だ。
幾ら素養のある兵を集めたとはいえ、限度がある。
だが、グランデス将軍の気はかなり焦っているのだろう、ダヴー少佐の最後の一言に半ば飛びついた。
「それでは2週間後にケルチ半島攻略作戦を発動する」
グランデス将軍の言葉に、ダヴー少佐は少し唖然とした。
「それは急すぎます」
ダヴー少佐は懸命に言葉を尽くして諫めたが、グランデス将軍は自ら地図を示して、戦況の説明を始めた。
「この戦線をどう見る」
「確かに地形を生かしたのもあるでしょうが、中央が突出しているように見受けられます」
「君ならどうする」
「当然、中央部を切り取るように」
そのやり取りで、ダヴー少佐は気づいた。
ソ連軍は罠を仕掛けている。
では、どうする。
戦力的には、ほぼ対等と見ていいだろう。
スペイン青師団の戦力は3個師団、ソ連軍はケルチ海峡越しに援軍が届いている結果、重装備が乏しいが4個師団の戦力と見積もられている。
本来なら、ソ連軍側が攻撃に出るが、重装備が乏しいので逆撃に賭けているのだ。
それなら守勢にこちらは徹するというのも一案だが、ソ連軍の味方、冬将軍が近づいている。
ケルチ海峡から更なる援軍が到着し、冬将軍まで来ては、我々の苦戦は必至だ。
それなら、今のうちに攻撃に出るしかない。
「北側に突撃砲を始めとする主力がいるかのような偽装工作をし、戦線の南端を舟艇部隊を活用して、迂回攻撃による突破攻撃を2週間後に発動する。なお、目標はケルチだ。敵を陣地から引き離し、機動戦に応じざるを得ないようにして、そこを叩く。それ以上は遅らせられない。何しろ冬が近づいている。南欧出身の我々にはつらい冬が。君を舟艇部隊の臨時指揮官とする。君の力を見せてくれ」
ダヴー少佐が無言の内に、自らの作戦構想を理解したと判断したのだろう。
グランデス将軍は手短に説明を加えた。
無茶苦茶だ。
しかし、舟艇部隊を使える指揮官となると、自分しかいないだろう。
他の者を指揮官にしていては、もっと間に合わなくなる公算が高い。
「分かりました。微力を尽くします」
ダヴー少佐は返答した。
11月9日、月齢はほぼ新月といってよかった。
そのために、ほぼ星明かりを頼りに進まざるを得ない。
「親切な小父か」
内心でダヴー少佐は、そう呟いて心から感謝せざるを得なかった。
ここまで舟艇を輸送、指導してくれた海兵隊の面々は、今回の作戦を聞いて、多くが参加希望をしてくれたのだ。
「お前らみたいなガキだけで実戦に行かせられるか」
そう吐き捨てるように言いながら、体を震わせ、涙を零しながら参加を希望した兵までいた。
それを見聞きしたスペイン兵は心から感謝した。
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