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第6章ー17

 日本遣欧総軍司令部を訪ねたアラン・ダヴー少佐への対応をしたのは、(皮肉なことにお互いに全く知らないことだが、実際には身内と言える)土方歳一大佐だった。


「すいませんが、日本軍が保有している舟艇を提供していただけないでしょうか」

 ダヴー少佐が、頭を下げながら言ったのに対して、土方大佐は、

「ふむ。実戦レポートを出してくれるなら、格安で提供しよう」

 と半ば即答した。


 ダヴー少佐は虚を衝かれてしまった。

 ダヴー少佐にしてみれば、破格の好条件と言えたからだ。

 そもそも、正規の買取さえ困難だ、とダヴー少佐は思っていた。

 何故かというと。


「幾ら何でも、自国の兵器を現地判断で売却していいのですか」

 失礼とは思ったが、ダヴー少佐は思わず疑念を土方大佐に呈してしまった。

 実際、普通に考えれば、ダヴー少佐の言う通りで、現地判断で自国の軍隊が装備する兵器の売却が認められることは基本的に無い。


「上陸作戦用舟艇等、日本に持って帰るのにも金が掛かるからな。だから、適当な値段なら、一部の兵器等の現地売却を認めるということになっている。それに、上陸作戦用舟艇等、対共産中国戦が終わったら、少なくとも10年は大量に必要なことは無いだろう。だから、スペイン青師団が欲しいなら、売ってもいい。ああ、これは北白川宮成久王大将の裁可を既に受けているからな。だから、心配するな」

 土方大佐の説明を聞いて、ダヴー少佐は安堵のため息を(内心で)吐いた。

 まさか、こんなにあっさり話がまとまるとは思わなかった。

 親切な小父がいて、本当に良かった。


「只より高い物はないぞ。厳密に言えば、只ではないがな」

 ダヴー少佐が訪ねて来たことを、どこから小耳に挟んだのか、石原莞爾提督が、二人の会話の場に顔を出してきた。

「不穏なことを言わないでください」

 土方大佐がたしなめるが、石原提督の顔は笑ったままで、とんでもないことを付け加えてきた。


「装甲艇を付けてやろう。海兵隊では余り使ったことが無いので、その実戦評価をしてくれないか」

「装甲艇とは何ですか」

 ダヴー少佐は、本当に知らなかったので、二人に尋ねた。

 土方大佐は困った顔で、石原提督はにやにや顔で説明してくれた。


 海兵隊だけで小規模な舟艇機動による奇襲的な上陸作戦を展開する際、一々、海軍艦艇の応援を受けるというのは、手間がかかる。

 また、ある程度は上陸作戦の際に、近接して火力支援も行いたい。

 そういった要望が出たことから、前部に短砲身型の57ミリ戦車砲を砲塔型式で、後部に対空用も兼ねている12.7ミリ重機関銃連装の銃塔を備えた装甲艇を、日本海兵隊は開発、保有したのだ。

 最もトップヘビーを嫌ったために、装甲艇と言いつつ、小銃弾や砲弾片に耐えられる程の薄弱な装甲しか備えていない、という欠点がある。

 幾つか試作された末、中国内戦介入前後に量産化されたのだが、皮肉なことに海兵隊よりも陸軍が中国本土等で愛用する兵器になってしまい、海兵隊では余り使われないままになっている。


「欧州まで遥々持っては来たのだが、小規模な上陸作戦自体が無くてな。持て余していたのだ。12隻程、提供してやるから、実戦評価をしてくれないか」

「願ってもない話です」

 ダヴー少佐は即答した。


 舟艇機動を伴う上陸作戦を行う際の火力支援は頭の痛い話だ。

 何しろ、スペイン青師団には海軍が無いのだ。

 装甲艇があれば、そういった時に火力支援ができる。


「後、大型発動艇を20隻程、提供してやろう。1隻に2個歩兵小隊が乗れるから、2個大隊程度なら海上機動できる」

 いつの間にか、石原提督が場を仕切っている。

 土方大佐とダヴー少佐は(内心で)肩をすくめながら、石原提督の仕切りに乗った。

 この話の中に出てくる装甲艇ですが、作中に出てくる戦闘爆撃機「雷電」と同様に、史実と名前は同じでも、作者の私なりに変えた史実とは異なる装備等がなされていますので、予めご了承ください。


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