第6章ー16
その後、ルーマニア軍とスペイン青師団のそれぞれの幹部は、お互いの基本的行動を話し合って別れた。
スペイン青師団の幹部が、その後、自分達だけで集った場所において、作戦参謀は、早速、グランデス将軍に自らの疑念をぶつけることになった。
「我々には機甲部隊どころか、自動車部隊もろくにいません。そんな中で、どうやってフェオドシヤへ突進しようというのです。自動車化師団が、いきなり湧いて出ることはないのですよ」
作戦参謀の言葉は、疑念を呈しているというよりも、グランデス将軍を難詰するかのようだった。
「確かに問題だ」
グランデス将軍は少し重々しげに言ったが、口元には笑みが少し浮かんでいる。
「参謀長、君に臨時の戦闘団を編制して預けるから、フェオドシヤに突進してくれたまえ」
「はっ」
参謀長のインファンテス将軍が即答した。
そのやり取りを見たアラン・ダヴー少佐は察した。
これはこの2人で既に対策を詰めていたな。
そんなダヴー少佐の想いに気が付く筈もなく、グランデス将軍の言葉は続く。
「臨時の戦闘団には、自分達の隷下にある突撃砲大隊や偵察大隊等、自動車化されている部隊全てが配属される。なお、この配属はフェオドシヤ制圧までの時限編制と基本的にはする。何か疑問はあるかね」
先程の発言をした作戦参謀は、沈黙してしまった。
他の参謀、幕僚等も、ほぼ沈黙している。
ダヴー少佐も唸りながら納得せざるを得なかった。
確かにずっと編制したまま、という訳にはいかないだろう。
臨時の戦闘団への補給はどうするとか、時間が経つほど、融通を効かせて臨時に凌げる部分は無くなる。
だから、グランデス将軍も時限編制だと明言したのだ。
それに、時間が限られているのなら、融通を効かせる方も少しの間だ、と頑張る気になるものだ。
そして、この臨時の戦闘団の実質的な戦力は、本格的な日米等の機甲師団には及ぶべくもないが、少なくともルーマニアの機甲師団よりは戦力が上だろう。
何しろ戦車(突撃砲)の質量が違うのだ。
この臨時の戦闘団ならば、フェオドシヤを迅速に制圧できるのではないだろうか。
「分かりました。それならば、何とかなると思います」
作戦参謀が、少し経った後で重い口を開き、他の面々も口々に肯定していく。
ダヴー少佐も肯定の発言をした後、これで終わりか、と想っていたら、グランデス将軍からダヴー少佐に別命が下った。
「ダヴー少佐、君は親切な父方の小父を訪ねて、頼みごとをしてくれないか」
「親切な小父ですか」
グランデス将軍の言葉に、ダヴー少佐は何を言っているのかを察したが、敢えて即答しなかった。
というか、即答しにくかったのだ。
親切な小父も、そろそろ怒り出しかねない。
「日本の言葉に、おもてなし、というのがあるだろう。サムライ、君の親切な小父は、君をもてなしてくれると思うのだが」
「小父のもてなしにも限度がありますよ」
グランデス将軍の言葉に、不遜とは思ったが、そうダヴー少佐は言った。
そうサムライ、日本海兵隊が図る便宜にも限度がある。
「そう言わずに、上陸用舟艇やそれに随伴する舟艇を、おもてなし、として我々に提供するように交渉してくれ。ケルチ海峡を巡る攻防戦で必要になるだろう」
「確かに」
グランデス将軍の言葉を、ダヴー少佐は肯定せざるを得なかった。
半島部、海峡の攻防戦を行うに際して、その際に活用できる舟艇の種類や量は極めて重要な話になるが、スペイン青師団は、そんな舟艇をそもそも保有していないのだ。
そして、その舟艇を豊富に提供できるとなると英米日くらいで、更にスペインが頼みやすい国となると、日本くらいしか無いのが現実で。
ダヴー少佐は日本の遣欧総軍司令部に赴くことにした。
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