第1章ー10
ともかく、そのために上陸作戦において米海兵隊が被った損害は、それなりになった。
第一波の上陸部隊となった3個師団全ての損害を併せれば、1個連隊近い兵員が上陸を済ませるまでに死傷したと伝えられる。
「もし、独ソの戦車部隊が、速やかに我々に向かってきたら」
と背中に冷たい汗が流れた将兵も少なくなかった。
だが、幸いなことに。
ルフヌ島での大砲撃戦の砲声は、リガ湾一帯に届くほどのものだった。
更に、リガ湾において、日仏伊の三国連合艦隊が姿を見せて、艦砲射撃を行ったことから。
「連合国軍の侵攻作戦近し」
とラトヴィア人のレジスタンスの蜂起を促した。
(この動きは、エストニアやリトアニアも、速やかに波及していく)
そのために
「リガ市においた防衛軍司令部との有線通信が途切れました」
「速やかに修復しろ」
「どうやら複数の地点で破壊工作が行われているようです。リガ湾近辺においた部隊との有線通信が、相次いで途絶しています」
「無線通信に頼れ」
「連合国軍の様々な通信妨害が激しくなっています。通信塔への破壊工作も試みられています」
「厄介なことになったな」
そんな会話が、独ソ軍の各処において交わされる羽目になった。
また
「鉄道線路も破壊工作の目標になっています。また、連合国の空母部隊の空襲の目標にも」
「リガ湾に上陸作戦を行った部隊に、速やかに反撃部隊を向けられるか」
「反撃部隊は、夜間に自走することで向かうしかないですね」
「それでは、到底間に合わない」
そんな会話も交わされることとなった。
実際、リガ湾に上陸した部隊に向かった独装甲部隊は、装甲師団4個と額面戦力ではなっていたが、自走に伴う部隊の消耗と、レジスタンスの破壊工作による妨害、また、空襲被害が重なった結果、日米海兵隊の前に現れるまでには、2個装甲師団余りに戦力が低下していた。
更に。
「何だ、あの巨砲は」
独装甲師団の面々は驚愕した。
「放て、リシュリュー級戦艦の主砲の威力を独陸軍に教えてやれ」
ダルラン提督は、そう命じた。
「ヴィットリオ・ヴェネト級戦艦の花道だ。この艦名に相応しい戦果を挙げるぞ」
イアキーノ提督までが、そう命じていた。
「やれやれ、仏伊艦隊がこれ程、張り切るとはな。だが、武蔵を含む日本海軍が、この場では最強と独軍に知らせてやれ」
嶋田繁太郎大将は、苦笑いしながら命じていた。
戦艦13隻を含む日仏伊三国連合艦隊が、日米両海兵隊支援のために駆けつけていたのである。
更にその戦艦13隻の内7隻が、4万メートル以上の有効射程距離を誇る主砲持ちである。
勿論、戦艦以外の日仏伊三国連合艦隊の巡洋艦や駆逐艦も、支援のための艦砲射撃を行ってくる。
「こんな地獄の艦砲射撃が降り注ぐ中、日米の海兵隊に突撃しろだと」
そう独軍の将兵の多くが呟きながらも、勇敢に突撃していき、独軍の将兵が、ジークフリートの末裔であることを、後世に伝えることになった。
この戦いを生き残った独軍の将兵の一人は、第一次世界大戦のソンムの戦いを経験した古強者だったが、次のように回想録で書き遺した。
「かつてのソンムの戦いでの砲撃は、この時と比較すれば、砲撃の名に値しないものだった。38センチや46センチの砲弾が、我々が攻撃を行うと、豪雨のように降ってくるのだ。これ程の最終防護射撃が行われた戦場は、空前絶後ではないだろうか。戦車といえど突撃砲といえど、この三国連合艦隊の艦砲射撃の前には破壊を免れることはできなかった」
細かいことを言えば、最終防護射撃の定義が違うという指摘がありそうだが、独軍の将兵のこの記述も、感覚的には間違っているとは言い難い。
独ソ軍のリガ市救援が、上手くいかなかった最大の原因だった。
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