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バレンタインぶち壊し隊  作者: 竹内緋色
5/13

2月6日

2月6日 火


「さあて、諸君ら。作戦の方はどうかね。」

 だが、一同は暗い顔をしたままだった。

「どうした?」

「失敗です。」

 タミが申し訳なさそうに言う。

「どういうことだ?」

「バレンタインには逆らえなかったってことさ。大バッシングだよ。」

「そうか。なら、次の作戦だ!」

 中々にポジティブだな、とミワコは呆れる。

「僕は、風評被害ということはいいせんだと思うんだ。だから、もっと大々的に行えばいいんじゃないかな。」

「お前、何を考えている。」

 ハイドは険しい顔で言う。

「かいじん20めんそう事件は知ってるだろ?お菓子に大量の毒物を入れたってやつ。ちょっと前にはお菓子の中に虫が入ってたりとか、食べてはいけないものが入っていたりした。」

「そんなこと、ダメです!」

 エンドが声を張り上げる。

「君たちがどれほど本当にバレンタインをぶち壊したいのかは分からない。でも、そろそろおままごとは終わりの時じゃないかな。僕は、もう、そんな強硬手段しか思いつかないもんでね。」

 シャインの言葉に一同黙りこくる。

「まあ、冗談さ。でも、僕はバレンタインなんて茶番をどうにかしたいわけさ。だから、僕の都合だけでいうと、バレンタインの周辺に誰も学校なんて来ない方がいい。僕の場合家まで押しかけて来たりするから、大変だけど、起き上がれないくらいの状況だったら?」

「そんな危険なこと・・・」

 マイは苦しそうに言う。

「どうだい、フルイ。君の意見が聞きたい。君がどれほどバレンタインを憎んでいるのかを。」

 フルイは閉ざしていた口を開く。

「確かに、今の状況では危険を冒す必要があるかもしれない。でも、俺は誰かが犯罪者になるようなことは絶対にさせない。だから、他の方法を考えよう。」

「何かあるかい?」

 だが、意見は出てこない。

「そもそもだ。お前はチョコの受け取りを拒めばいいだけじゃないか。」

 ああ、これはダメだな、とミワコは思った。誰か個人が個人的に意見しては会議は会議でなくなってしまう。あの面白くもない国会答弁と同じになる。

「それを君が言うかい?僕は君にその言葉をそのまま贈りたいね。」

「お前!」

「待って!」

 叫んだのはミワコだった。

「そんなの、みんな一緒でしょう?誰だって拒むことができないから、必死でどうにかしようって考えているわけだし。だから、もうちょっと考えてみよう?」

「それが茶番なんだ。」

 シャインは罰が悪そうにつぶやいた。

「そうだな。では、逆転の発想はどうだ。つまり、バレンタインを貶すことができないのなら、別のイベントで、興味を塗り替えればいいんじゃないか?」

 フルイが口に出す。

「でも、どうやって。」

「そうだな。何か、みんながバレンタインなんてめんどくさいものを忘れてしまいそうなイベントがあれば・・・」

「そう!チョコを作る暇がないくらいの何かをすればいいんだ!」

 エンドが嬉しそうに言う。

「そうしたら、あ、忙しくってチョコ作れなかった、みたいな流れにもなるし。」

「でも、具体的にはどうする。そんなものになれば、学校を休んでまで行くようなイベントか、バレンタインに集中できないほどの大がかりな祭りでないと――」

「ライブ・・・」

 マイが呟いた。

「それよ!確かに、バンドのライブで学校休む子もいる。」

「でも、難しいだろう、それは。みんなが好きなバンドなんてそうそうない。よっぽど国民的なアイドルなら、みんな熱中するだろう。でも、次の日はおじゃんだ。チョコがどっさり・・・ごめん。考えただけで吐き気が・・・」

「実現可能かは分からないが、総合すると、大きなイベントで、みんなが熱中するようななにかがいいわけだな。それも長期間準備が必要そうな。」

「うーん、そういうのって、学園祭とかかな?でも、うち、学園祭みたいなのはあるでしょう?」

「それだ!」

 フルイはミワコをぴしっと指さして言う。

「学園祭をするんだ。生憎、この学校の学園祭、もとい、運動会と文化祭を無理矢理引っ付けたような面白くもなんともない祭りではみなも不満だろう。だから、我々で勝手に祭りをでっちあげればいいのではないか?」

「祭りのでっち上げには、とってもいい祝日があるよ。」

 けっけっけ、とタミは今までの沈黙を破り、口に出す。

「2月11日、建国記念日。今年は日曜日だから、月曜日が振替で休みだ。」

「はいはいはい!建国記念日って何の日ですか?」

 ナイス質問、とミワコは小さくガッツポーズする。

「この国に初めて天皇陛下のご先祖が地上に降りられた日らしい。たしか、GHQに祝日にするなと言われていたようだが、失敬。それは今、関係ないな。」

「なるほど。天皇は宇宙人で、健康食品なんですね!」

 ああ、流石あほの子、とエンドをミワコは褒め称えた。

「どうだ。天皇宇宙人説については一日中語ることができるぞ。なにせ、月刊ムーの愛読者だ。まず、蚕という未知の虫の話から始めるか。」

 フルイが長々と話し続けるので、みんなぞろぞろと帰っていき、空き教室に残っていたのはミワコとフルイ、そして、シャインだった。

「さて、みんな帰ったし、僕らだけで秘密のお話と行こうか。」

 シャインに苦手意識を持っていたミワコはうげっとなる。フルイは秘密、というワードに反応して、弾丸トークを止め、耳を傾ける。

「まずは、君たちを褒めたいと思う。流石だ。そして、礼と詫びを言おう。ありがとう。そして、すまない。」

「急になによ。」

 いつも気取っているシャインが頭を下げるのを、ミワコは気味悪そうに眺めている。

「いや、僕だけではみんなを危険な方向に向かわせるだけだった。僕はそれでも間違ってはいないと思う。でも、君たちは、主に君たち二人がみんなに新たな可能性を提示した。そのことに僕は正直、感嘆せざるをえなかった。」

「はあ。」

「まず、わが友、フルイだ。君はよくみんなを取りまとめていると思う。人の前で話すということは、自身が無防備になることだ。よくやっている。それに、みんなを危険に遭わせないという絶対的な方向性がなければ僕らは本当に犯罪を犯す可能性もあった。成績は中の上くらいだとは聞くが、勉強で得られる知識以外の雑学としか呼べない知識を有効活用し、色々な事象と照らし合わせ、臨機応変に活用している。それに、しっかりとみんなの意見も聞いている。流石としか言いようがない。」

「・・・そうなのか?・・・」

 フルイは虚を突かれたような顔をしている。

「だが、僕が真に評価しているのは、君だ。ミワコちゃん。」

「ごめん。ちゃん付けは止めてくれるかな。あんたの顔を見てるだけで吐き気がするのに、ちゃんづけで呼ばれると、虫唾が走る。」

「ええ!?女の子はみんなこれでいちころなのに。」

「うるさい、黙れ。日本海の藻屑となりたいか。」

「まあ、冗談はさておき。って、本当にトイレに駆け込もうとしないでくれるかな?まあ、女の子は男子の分からない苦労を抱えてるって言うし、って、泡吹かないで。吹くならs――」

「殺すぞ、お前。」

 ミワコは上靴をシャインに投げつける。

「ああ、こういうのもいいね。うん、実にいい。」

「ごめん。早く済ませて。私、三分ももたない。」

「雑学としてだが、ウルトラマンが三分の活動時間とされたのは帰ってきたウルトラマンからだ。三作目で、それまでの――」

「はい、無視。」

「僕が実感として抱いているのは、君が裏からみんなを操っている、いや、言い方が悪いな。導いているように思える。フルイのように前に立つものは、それを支える誰かが必要なわけだ。それを君が請け負っている。恐らく、みんなもうすうす勘付いているだろう。」

 通りでみんなおかしな敬意を払っている、とミワコは理解した。

「でも、別に意識してやってるわけじゃないわ。結果論よ、それは。」

「そうか。でも、君のおかげで今でもいい感じに僕らは進んでいる気がするね。君がいなければバラバラだし、フルイがいなければ、そもそもみんな集まらなかった。」

「うん?そう言えば、どうしてみんな集まったの?このバカが何かやらかすと思って監視してた私はともかくとして。」

「ああ、フルイ。君、彼女を邪険にしたのかい?」

 大袈裟な態度がミワコには気にいらない。

「2月2日の朝に、全校生徒の靴箱にサークル勧誘の紙が入っててね。それがこの集まりのチラシだったわけさ。全く、盲点をついてくれたね。掲示板にポスターを掲示すれば、正式なクラブ活動でもないこの集まりの紙ははがされるし、なにより、この時期に目にする人間も少ない。だが、靴箱はみんな見る。」

「そう言えば、靴箱に紙が入ってたって全校集会になったけど、あんただったの?」

「うむ。」

「うむじゃないわよ。」

 ミワコはもう一方の上靴を投げる。フルイは上靴を難なくキャッチする。そして、軽くミワコに投げる。

「あんた、靴返しなさいよ。」

「懐で温めてありますよ。お嬢様。」

「いや、絶対に返さないで。弁償で。マジで弁償でお願い。」

 ミワコはシャインの行動に身震いした。

「僕がこの活動に興味を持ったのは、バレンタインを憎んでいたのはもちろん、その手法だね。どうして全校集会まで開いて、結局犯人を特定できなかったと思う?」

「さあ。」

「ビラには場所も日時も、代表者の名前や連絡先もなかったのさ。」

「それじゃあ、誰もたどり着けないじゃない。」

「そう。普通はたどり着けない。つまり、彼は僕らを振るいにかけたのさ。さすがフルイと名乗るだけある。」

「あんたはどうやってここまで来たのよ。」

「僕かい?僕は色々考えてね。誰かに聞こうかとか、ね。でも、よく考えたら、僕がバレンタインを壊そうとしていることを誰かに知られる訳にもいかない。だから、必死で探すしかなかった。こんなふざけた集まりは、公認のはずがない。だから、放課後、空き教室を覗きまくった。そして、一番人目につかないような場所に意志の強い男が立っている。きっとこれだ、と思ったね。きっとこういう六感みたいなのも試してたんだろう。知恵と努力と直感。あと一歩踏み出す勇気かな。中々の入会試験だったと僕は思う。」

「フルイ。書き忘れてただけよね。」

「いかにも。」

「だろうと思った。」

 ミワコは長話にくたびれていた。

「さて、ここからが本題だ。」

「あんたの話だけでどれだけ無駄なページを使ったと思ってるの?」

「いやあ、でも、それぞれの日にちが短いから丁度いいかなって。」

「だんだん長期化すると、作者があんたの存在を消すわよ。」

「残念ながら、僕は作者のお気に入りさ。僕は神にさえ愛される。」

「大丈夫。二度と浮かんでこないように重しをしっかり載せておくから。」

「いやあ。ヤンデレは二度とごめん被りたい。」

「こいつ、すごいわ。」

「まあ、本題はその辺りも触れてね。君らも、僕がどうしてバレンタインを憎んでいるのか知りたいだろう?」

「いいえ、全く。」

「右に同じ。」

「そうかそうか。では話すとしよう。」

「あんた、人の話聞いてないでしょ。」


 僕は自他ともに認めるハンサムでね。モテてモテて仕方がないんだ。でも、それは決して人を幸せにするとも限らない。

 バレンタインデーというのは本当に恐ろしい。女の子の愛憎が渦巻いているからね。

 あるバレンタインには、とんでもなく大きなチョコを送ってきた子もいるし、一日中僕の家の前に立ってる子もいた。

 あるバレンタインデー。僕は付合ってる女の子がいた。僕は女の子と長続きしなくてね。最長で二か月さ。あ、今はフリーだよ。お嬢様、狙い時だよ。ちょっと、シャーペンは危ないって。

 その日ね、僕は三人にも告白されてね。そのうちの一番顔のいい子と付き合うことにした。うん。当然二股さ。最低?こんくらいで惹かれても困るね。最大十股はかけたよ。え?文字がおかしい?少し黙ってくれないか。ここからいいところなんだから。

 でね、その日、彼女からもチョコを貰ったんだ。家に帰って食べると、チョコに大量の髪の毛が入っていてね。僕はトイレに駆け込んだよ。ほんと、怖かった。自分のやったこととはいえ、これはやり過ぎだと思って、彼女に電話したけど、二度と彼女が電話に出ることはなかった。今でも時々顔を合わせるけど、その時の事を思い出して、いつもトイレに駆け込むよ。

 多分、彼女は僕が二股翔けた時用とそうでないとき用のチョコを作ってたんだね。まあ、かつては汚物を入れられていたこともあったから、まだマシかな。あれは本当にやばかった。あれもバレンタインで、誰かが家の前に置いてたものだから、犯人もわからない。一か月は学校に行けなかったけど。

 今回の彼女も恐ろしい女だった。でも、話はこれで終わる訳じゃない。

 彼女が電話に出ないから、ずっとイライラしているところに、来客を知らせるチャイムが鳴った。僕はてっきり彼女かなと思って玄関に出たんだ。

 その瞬間、刺された。腹にぶすり、とね。彫刻刀だから、それほど傷は深くなかったからいいけど。ちなみに、刺したのは、僕が付き合おうとしていた、告白してきた女の子。あの時の顔は、思い出したくなくても思い出してしまう・・・

 ごめん。怖くて涙が。

 面と向かってずっとその子は呟き続けるんだ。

 殺してやる、殺してやる、殺してやるって。

 僕は救急車で運ばれた。その子は警察に連れて行かれた。あの後、学校を辞めたみたいだ。それでね、僕の体の傷は彫刻刀だから、それほど深くなかった。内臓が傷付くこともなかったって。何針かは縫う羽目にはなったけど、一か月で完治さ。でも、心の方はそうもいかない。半年も学校を休んで、心のお医者さんに通った。今でも薬が手放せない。

 この時期になると、本当は学校を休むんだ。怖くて怖くて、布団から出れない。でも、君たちと関わると、自然と気持ちが楽になってね。


「ごめん。薬を飲ませてもらうよ。」

 シャインはカバンから水筒を出し、胸ポケットから複数の薬を出した。それを一気に口に押し込み、水筒で喉の奥に押しやる。

「なに、そんな心配そうな顔をしなくてもいい。ちょっとの間、放心状態になるけど、あとは元通り。長話に付き合わせて悪かった。」

 本来ならば、早く退室するべきなのだろう。だが、ミワコとフルイはシャインの軽薄な態度と裏腹の重苦しいトラウマでしばらく身動きがとれなかった。



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