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七月から十二月までの短歌
まぼろしの世界とこちらを行き来する子供たちなら信用しよう
「あのころは場面緘黙だったのよ」母の言葉に「覚えているよ」
陽炎の土の下より蝉の子の生じては消ゆ空蝉残し
空蝉の収集箱や温めた無精卵など思春期に捨て
頭上より蜘蛛の糸垂る引きちぎる助けむとする意思を感ぜず
露草のちひさく青く群れ咲きぬ毒の花にも君にも似たり
去年の今ありしところに曼珠沙華なんぢわれをば覚へたらむや
やっぱりねシオカラトンボだこの青さ少女が図鑑覗きうなずく
きっと今熊もヤマネも冬籠もりぼくは毎朝起きなきゃダメだ
目覚めたら冬は終わって春になりぼくも素敵な蝶になってて
街路樹が舞い散らす葉は赤黄色掃く人並び連なる歩道
思春期のわたしをあの子と呼ぶくらいわたしは曇り錆びてしまった
思春期のぼくをあいつと呼ぶくらい過去は恥だし鍵をかけたい




