一月から六月までの短歌
便り来て 友の面差し思ひ出す 変はらぬ笑みを浮かべたるらむ
紅白の 飾り取り去り 正月の気配薄れぬ 寒さ深みて
四十雀 歩きて飛ばぬ 急ぎ足 車に轢かる あな安からず
霜降りて 白々たりや 草むらの虫も蛙も起きぬ大寒
熊に会い お逃げなさいと言われたが その必要はないよ 熊鍋
蜂蜜の 味がするとかいう噂 ホントなのかな 熊の肉球
モグラって 意外とかわいいらしいけど ものによってはすごい顔だよ
牡丹鍋 食べてみたけど 肉固く 臭みがすごい との噂だよ
あの子から シカトされたわ 私なら平気よ だって 猫を抱いてる
傷口を 見ればオイルが漏れている いつの間にかの僕の機械化
真白かな 雪の降る降る地に満ちる 全てを隠し 清らに見ゆや
重なりし 山は微かに 雪景色 神の手による水墨画かな
しんしんと 雪の降る街 手を繋ぎ 君の顔見て 足跡つける
恋しても 忘れる君は いつまでも大人になれない無邪気な仔猫
私たち 親友だねと 言い合った あの子の顔は とっくに忘れ
十五年 経った今では あのころの 好きも嫌いもセピアに褪せた
生物に 食物連鎖がある限り 僕らはみんな罪人なんだ
貴賤なく 全ての人は塵芥 宇宙の隅で 風が吹き消す
えらいひと 威張っているよ 見下す目 確かにえらい この場限りで
昨日まで 王様だった教室を 抜け出し一人便所飯する
降る雨の 刃物に似たる感触の柔くなりけり 梅の香ぞする
散りてこそ 花と言へども 哀しけり 風と雨とに痛めつけらる
あれとこれ それと君とで疲れたよ 僕は蜜蜂じゃないんだから
明日から 残業かもね 変だなあ こんなに働いてるのにまだ?
いとせめて あらまほしきは ひと時の 茶をすすり 笑み 語らふいとま
ぬいぐるみ 落ちた音かな ベッドだし 真っ暗だから 見に行くの嫌
長袖の Tシャツ干して 目の前に 蜘蛛が垂れても春が嬉しい
春の風邪 鼻の調子がよくないが 絶対花粉症じゃない 多分
子らの群れ 歩道をあるく そういえば もう学校が始まったんだ
あのころの 君の胸には赤いリボン 僕ではなくて彼がほどいた
真夜中の趣味の園芸ねむくなる寄せ植え講座先生びじん
右がわはおまえが行くのこの道ろわたしは「大人」守るから、ポチ
むらさきの花が咲くのよ病身の叔母が差し出す鉢植えの桔梗
紫のベロでキスしてお前ってとってもキュートなのよねキリン
セーターを濃い紫にした朝は君のまなざしやさしくなるの
年齢を重ねて髪も色あせてだけどキレイな白髪じゃないの
子雀のたましひのごとちぎれ雲空に流るる父よ母よと
君につく嘘のストック底を尽き僕のホントが郷里の言葉で
花屋にて月下美人の鉢を買う美人の形に育つのを待つ
君を見て駆けだしてから立ち止まる君の横には今日もあの子が
風が起きポニーテールがそよぐ午後今日も田中が疾駆している
キャミソール着てるあなたの胴体が芋虫のよう 夏を目がけて
言うなれば君は蝶だと思うんだ たやすく逃げてすぐに死ぬから
むらさきの朝顔の花蔓伸ばす日差しが足りぬ雨などいらぬ
地を這って生きるしかないわれわれに神は豪雨を与えたもうた
宇宙には生命体があるそうだ君の故郷はそこだろう逝け
自制心とっくに壊れ嗜虐心言葉はナイフ血を見せろ矢野
鈍色の空の下にて雨を待つ街ごと洗い流してほしい




