表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仁鳥の短編集  作者: 仁鳥
5/9

ビー玉と温もり





「嫌いだよ、お前の事なんか」


 そう言い放つと、ビー玉の様な水色の瞳がきょろりと動いた。

言葉の意味を理解しているのか否かは分からないが、その瞳の中にはただ歪んだ表情の自分だけが映し出されていた。


 暫く無駄な睨み合いを続けた後に背を向けると、直ぐ様くるぶしの辺りにさわりと何かが巻き付いた。


「……よせよ、そんなことしても無駄だぞ」


 慌てて振り返ると、じっとこちらを窺い見る水色のビー玉は再び自分を映し出した。

先程とは違って、酷く情けない顔をしている。


「……お前なんか嫌いだ。弱くて、自分勝手で、いつも僕の気持ちを振り回して」


 鬱陶しいくらいしつこく傍にすり寄っては喉を鳴らす癖に、僕の手をすり抜ける様にどこかへと行ってしまう。本当に勝手な奴だ。


 懐かしい手触りを手のひらに感じながら、ぽつりぽつりと愚痴のような言葉を溢していく。


 心地好さげに細められた瞳はかつて自分を映し出していたそれとは色も大きさも違ってはいたが、だからこそ忘れかけていた喪失感が僕の心を瞬く間に蝕んでいく。


「どうせお前だって、僕よりも先に……」



ーー心を絞られる様だった。

永遠なんて続くことはないことぐらい分かっていた筈だけど、あんなにも早く別れが来るなんて思いもしなかった。


 ご飯を食べるとき。

テレビを見るとき。

うたた寝をするとき。

傍らの存在を探しては、ぽつりぽつりと冷たい喪失感が心に染みを落としていった。


 右手に感じているこの温もりだって、いつまた自分の元を離れていくか分からない。

幸福な時間なんてあっという間に過ぎて、きっとまた同じ後悔を背負うことになる。


 だからーー



「みぃ」



「……」



 ぎくりと強張る体。

指先をペロリと舐めてこちらを窺い見る水色の瞳。



「みぃ」



 みるみるうちに、ビー玉に映る自分の頬が薔薇色に染まってく。

雫が伝った跡も、既に乾き始めていた。



「……僕は、お前なんか嫌いだ」



 三度目のその言葉は、抱き上げた温もりに溶けて消えていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ