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絶晩成型  作者: 咫城麻呂
第四章 和ノ都市プリュス
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4-22 雉と黄頷蛇

 やっほー。千曳だよ。

 魔法って、瞬時に怪我を直したり斬られたパーツをつなげたりと便利だよね。

 でもつわりとか大丈夫なのかね? そこが心配だ。


 ―――――――――――――――――――――――――――――


「風遁、きじ!」


 それが聞こえると同時に、時の流れが元に戻る。


 須臾の間に刺さるかと思った棒手裏剣は、しかしなくなっていた。


 では、どこに言ったのか?


 答えは簡単。セルの手の中だ。


 思ったより早く完成したようだ。流石、天才と呼ばれるだけある。


「それを待っていたわけか」

「もう少し掛かると思ってたんだけどね」

「千曳、下がって」


 言われた通りに、邪魔にならない位置まで下がる。


「どういうことですか?」


 何も知らないフェーダが訊ねてくる。


「セルの才能に賭けただけさ」


 セルの力を際限なく発揮させるなら、ただ忍術を使うだけじゃ足りない。新たな術を創造してこそ、セルの全力全開を師匠にぶつけられる。そう思ったまでだ。


 まあ、どんな忍術かは僕にもわからないし、そもそも作り出せるかどうかすら不安だったんだけど。我ながら賭け要素が多すぎだと思う。


「それだけ大層なものを作ったんだ。見掛け倒しは許容できんぞ」

「もちろん」


 セルは、体中に緑色のオーラらしきものを纏っている。特に足には重点的に補強しているようだ。


 雉、と言うからにはスピード強化と蹴爪の一撃かな?


 対峙する二人。刹那のうちに戦闘が始まった。


 そこから先は、理解を放棄してフェーダに説明を丸投げした。だって見えないし。僕そんなに動体視力良くないんだよ。いやまあ、運動に関する能力は全部駄目だけどさ。


 それに比べて、神に作られたスキルフェアリーならハイスペックなので、余すことなく見ることができる、というわけだ。


 ただ、惜しむらくは――。


「えっとですね、こう、ビューっと行って、バーってなって、ガキンッ、クルッ、ドカーン! って感じですね。今の」


 果てしなく説明が下手くそだということだろう。体のスペックは良くても、脳のスペックは駄目駄目らしい。あれ? そこそこ頭良かったよね?


「いや~。戦いは興奮しますねぇ」


 なるほど。興奮のせいでボキャ貧になるわけね。


 今ほど、うまい実況が聞きたいと思ったことはない。


 そういえば、新聞記者の、えっと、風呂? いや違うな。そうそう、フルだ。あの子確か実況してたよね。何時かちゃんと聞いてみたいものだ。


 ちなみに、さっきの説明を翻訳すると、走って、後ろに回って、小太刀を振り下ろすも受け止められて、空中で一回転、踵落とし、といった感じだ。やっぱり蹴爪か。


 その後も、駄妖精の説明を翻訳しながら戦闘を見える範囲で見ていた。


 一つ分かることは、結局ムクロさんは動いてないって事だ。


 それでも、最初よりは力の差が縮まったらしい。フェーダ曰く、蹴爪による攻撃の度に鱗が少し剥がれているようだ。


 塵も積もればエベレスト。このままなら行けるかもしれないけど、その前に終が来るだろう。


「セルさん、だいぶ辛そうです」

「だろうね。最初の状態で疲れてたのに、さらにドーピングだ。もう体は乳酸地獄に支配されてるんじゃない?」

「そんなになってまで、勝ちたいんですね」


 ここからだと見えづらいけど、セルを見守るフェーダの目に、少し力が篭った気がする。


 だからだろうか。彼女はすぐに異変に気づいた。


「大変です! 既に、まともに的を狙えないほどに疲れてるようです!」


 話を聞くと、どうやら苦無や手裏剣が見当違いの方向に投げられているようだ。


 さっきまで正確に足を狙っていたのに、突然逸れはじめる。地面を削りながら明後日の方向に飛んでいく暗器に対して、最初は律儀に拾っていたムクロさんも無視し始めたらしい。


「楽しいことが起こりそうだね」

「そうですか? 私には何が何だか」


 まあ、喚起させたの僕だし? とはいえ、ホントにやるなんて。彼女の戦闘のセンスはなかなかなんじゃないだろうか。


 そうこうしてる間に、セルは距離を取った。見ると、肩が大きく動いている。そろそろ限界だろう。


 それに比べて、ムクロさんはまだまだ余裕そうだ。息も特に乱れてない。


「どうした、その程度か」

「次で、決める」

「ほう。楽しみだ」


 強敵と戦う際、さらに、どうしても勝てないほどの壁だった場合に取れる手段。


 それは、かつての日本がアメリカに対して行ったように、戦えば相応の被害が出ることを理解させる事だ。


 勝利した時の利益よりも、戦いで生じる損害のほうが多くなると理解させられたら、不可侵条約を結んでくれるかもしれない。


 日本は、宣戦布告をしなかったがためにアメリカの反撃を食らった。だが、今のセルはしっかりと宣言をして、返事ももらった。力が示せれば、殺されることはないだろう。


 セルはまず、懐から何かを取り出し、ゆっくりと投げる。そして苦無を作り出し、投擲しつつ後ろに飛んだ。


「水遁、へび!」


 苦無は先に投げた丸い何かを貫き、ムクロさんの足元に刺さる。そして次の瞬間、赤い粉末が彼女を包む。


 あれはもしかして、唐辛子一号!? 爆殺マラソン以降、ずっと持ってたの?


 すぐにムクロさんは見えなくなるが、代わりにフェーダが報告してきた。


「左腕に、何かが巻きついています」


 苦無を中心に水の蛇が出来上がり、ムクロさんの左手に巻き付いているらしい。


 ここに来る途中で何度も見た、忍者が使う罠だ。必要なのは星型の印と忍術を込めた苦無。後者はさっき投げた。では、前者は?


「なるほど。そういうことか。まさか、戦闘中に彫るとはな」


 そう、明後日の方向に飛んでいった暗器は、セルの疲れを表すものではない。今までの戦闘でむき出しになった地面に、線を彫るためのものだ。


 あとは忍術を込めた苦無を差し込めばいい。唐辛子一号は、一瞬でも意識をそらす為の犠牲になったのだ。回避されるかもしれないしね。


 そうまでして、左手にこだわる理由はなんだろう?


「土遁、首頚鹿きりん!」


 見ると、壁際まで後退していたセルが、壁を蹴って飛び出すところだった。


 壁はあまりの力に崩れ落ちるが、それまでにできる限りの援助をセルにしてくれた。


 壁の命をかけた助太刀によって、電気によってはじき出されたコインのような速度をたたき出すことに成功したらしい。そんなことは絶対にないと思うけど、それだけ早いということだ。


 勝負は一瞬だった。


 目の端で、セルが赤い霧の中に突撃するところまでは辛うじて見ることができた。その先、これといった戦闘音は聞こえてこない。


 息を飲んで見守っていると、不意に東から風がピューっと吹き、唐辛子を吹き飛ばした。


 その先には、背を向けて佇む二人の姿。片方は切ったままの姿で動かず、もう片方には、左腕がなかった。


「合格だ」


 その言葉を受けて、セルは崩れ落ちた。


「セル!」


 駆け寄ると、右肩から左腰にかけてばっさりと切られているのが見えた。


 名前を呼ぶも返事がない。息はあるし、気絶しているだけだと思う。


 僕はマジックハンドに命令して、遠くに保管しておいたあるものを持ってきてもらう。その間に傷口の確認だ。


 仰向けにして服を脱がせると、小ぶり、と表現してもなお余りある平らな胸が出ていた。一瞬意識を奪われそうになるけど、人命救助だと自分に言い聞かせて事なきを得た。


 軽く覗いてみるも、見えるのは真っ赤な鮮血のみで、いくら探しても黄色はない。よかった。縫合の必要はなさそうだ。


 そこまで出血もひどくないし、焼灼の必要もないだろう。


 にしても、乙女の柔肌を傷つけるなんて、血も涙もない師匠だこと。これ、跡残るよなぁ。


 ムクロさんの非道について考えていると、マジックハンドが例の物を持ってきてくれた。


 ナミの折紙魔法で作り出した、青い布だ。正直折ってない気がするけど、気にしたら負けだ。


 青は回復効果があるらしい。確か、瘡蓋になるんだっけか?


 この世界の回復魔法は、ほかの世界のように傷を塞ぐようなことはしてくれない。だって元素だからね。できることといえば、消毒したり、絆創膏の代わりになったり、義手義足になったりだ。


 と、今はそんなこと考えてる暇はない。


 傷口に合わせて布を貼っていく。ちょっと余ったけど、長いに越したことはないだろう。


 で、あとは圧迫か。ん~、仕方ない。


 僕はセルを抱き起こし、そのまま抱きしめた。傷の範囲が広いから仕方なくやってるだけなんだからね。


 支えきれない分はマジックハンドで抑える。まさか少女一人分も持ち上げられないほどに弱いなんてね。あれ? 目から海水が……。


 顔色はまだ悪いが、寝息は穏やかだ。助かったらしい。いやーよかったよかった。


 さてと、それじゃ、起きるまで雑談と洒落込みますか。

誤字脱字の指摘、感想等お願いします。


テストで免疫反応のところにつわりって書いたらバツもらった。なんでや……。

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