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絶晩成型  作者: 咫城麻呂
第四章 和ノ都市プリュス
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4-20 猫と蛇

遅れてごめんなさい。

 セルがマジックハンドから下りた場所は、北東の隅にある大きな屋敷の前だった。


 陰隊隊長ムクロの屋敷にして、陰隊の訓練地となっている建物だ。


 小さい頃、幾度と無く気絶し、幾度と無く死にかけたこの地に戻るのは、少し抵抗がある。


 だが、これも作戦のため。ひいては自分のため。震える足に喝を入れ、門をくぐる。


 くぐり終わると同時に月が顔を出し、庭で佇む一人の人物を照らし出した。


 二年ぶりに再会した師匠にむかって最初に抱いた感想は、やっぱりボサボサ、だった。


 それもそのはず、彼女は髪の毛に一切気を使わないため、常に実験に失敗したかのようにぼっさぼさなのだ。


 その上、常人の三倍の目つきの悪さを併せ持つ。近づきたいと思う人はそういない。


 わからない人は、いつでもどこでも寝てしまうプロゲーマーを思い浮かべればいいだろう。


 あの女子高生との違いは、恐らく服装と肌、あと性格。


 服装はもちろん忍者装束。全身を覆うはずの黒い布だが、彼女のそれは肩口でバッサリと切り取られている。


 その下にあるのは、皮膚ではなかった。そこにあるのは鱗。漆黒の蛇鱗が光を反射している。


 体全体を覆うそれは、並の刃では太刀打ちできないほどに固く、それでいて動きを阻害しないほどしなやかだ。


 彼女は濡の種族。日本では濡女と呼ばれる、妖獣族だ。


「久しぶりだな、セル」

「……ん。久しぶり、師匠」


 そこに感動はない。


「戻ってきたということは、死にに来た、ということでいいか」

「……」


 放たれる殺気とともに、修行時代を思い出す。絶望的なまでの力の差。たとえ間違いがあっても、決して勝つことはできないと、改めて理解させられる。


 だが、それでも、セルは返した。


「わたしは、生きる。そのために、来た」

「ほう」


 彼女が目を細めると共に、さらに殺気は濃くなる。池で泳いでいた鯉が、当てられてひっくり返った。ちなみにこの鯉、魔物である。修練用に飼っているのだ。


 庭の木、屋根の上、池の中。様々な場所で、何かが動いた。ほかの忍者だ。自らが敬愛する副隊長のために馳せ参じていたのだが、殺気のために動けずにいた。新人君など、気絶してしまっているものまでいる。せめて死なないように祈るのみだ。


 そんな気絶の渦の中、それでも、セルは留まった。


「いい度胸だ。ならばその覚悟、オレに示せ」

「……言われ、なくても」


 セルは魔法で、小太刀を作り出した。4年と半年、約1700日。毎日欠かさずに作り続けたその刀身は、すでに業物のレベルに達している。


 それに対してムクロは、左肩に手をかけ、そこにある鱗の内1枚を一気に剥がした。


 手に乗る大きさのそれは瞬く間に形を変え、小太刀へと変貌を遂げた。


 これこそが彼女の能力。体の一部を変化させることができる。実は彼女、ラミアのように下半身が蛇になっている。それを、能力を使って人と同じ姿になっているのだ。


 対峙する二人。師弟対決が、今始まる。


 先に動いたのはセル。自慢の素早さで迫る。


 対するムクロは、特にこれといった動作はない。強者によくある、その場から動かない戦法だ。精神的には有利だが、動いてしまった場合兎に角恥ずかしいという弱点を持つ。


 まずは正面から一太刀。――普通にはじかれる。


 すぐさま後ろに周り、袈裟懸けに振るう。――後ろを見ることもなく受け止められる。


 彼女の気配察知は達人級だ。アメフラシだって探せるかもしれない。


 砂利を投げる。苦無を投げる。手裏剣を投げる。――全てはじかれる。


 その後も攻撃を繰り出すが、ことごとく受け止められてしまう。左とも使わずに、右の小太刀一本で、だ。


 一旦距離を置く。――追撃は、ない。


 気づかないうちに奥歯を噛み締めていた。


 ――手加減されている。


 あの人なら、この数回のうちに自分を満身創痍にできるだけの技量を持っている。だというのに、傷一つなくここに立っている。


 試されている?


 ――千曳なら、なにか分かっていたのだろうけど。


 刹那の瞬間、風が頬を横切った。ほのかな熱を感じる。


「どうした。来ないのか」


 まあ、今はどうでもいい。この人に、実力を見せられるなら。


「地力は上がったようだが、まだまだだな」

「ん。だから、本気で」


 セルの真骨頂。それは、忍術を駆使すること。


 彼女の忍術の才能は頭一つ抜きん出ている。少なくても、プリュス中の忍者はそう確信している。


 わずか二年と少しで今ある忍術すべてを会得してしまったことが、何よりの証拠だ。


「火遁、ほたる!」


 見るものを失明に追い込む光が、あたりを覆う。


 それと同時に、セルは走り出す。


 音を偽装し、反対側に回り込む。現代で言うところの金遁に相当するだろうか。


 だというのに、そんな攻撃もあっさりと受け止められる。


 セルは止まらない。


 瞬時に苦無を無数に作り出し、地面すれすれに投擲する。


 四方八方から放たれた刃は大地を削り、一分の狂いもなく足を狙う。敵が動かないことを利用した、せこい手口だ。


 それに対してムクロは、


「水遁、かわず


 手に水のムチを作り出し、それを振ることで苦無を絡め取る。


 そしてリバース。


 一説によると、蛙の舌の速度は生物界一だとか。


 電光石火のお返しが、セルに迫る。


「土遁、さい


 ラオム版畳返し。返された全ての苦無を受け止める。


「土遁、蝦蛄しゃこ!」


 生物最強のグーパンが、目の前の土壁を粉砕する!


「水遁、舞鯛ぶだい


 ムクロは、水の膜を張ることでこれを防ぐ。意地でも動かない。だって恥ずかしいから!


 いや、彼女にそういった感情があるのかは謎だが。


 それでも、師匠たるもの、弟子に恥ずかしい場面は見せられない。


 ならば、勝つためにそこを狙うのは常識だ。


 ただただ足を狙う。ひたすらに足を狙う。盲目的に機械的に使命的に、兎に角足を狙う。


 流石のムクロも、これには嫌気がさしてくる。


 彼女の怒りが色行天になった!


「土遁、蜘蛛くも


 地面に幾重にも張り巡らされる白い糸。触れれば足を取られる粘着質のそれが、瞬時に庭を覆い尽くす。


 どこにも逃げ場などない。一瞬にして捉えられ、動きが鈍る。


 その隙に、全力全開の投擲が炸裂する。


「す、水遁、なまず!」


 反射的に、皮膚をムチンで覆う。魚によくあるヌメリ成分だ。


 だが、受け流しきれない。


 そして、左肩を切り裂かれた。

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