4-18 あれは地獄神様ですか?
やっほー。千曳だよ。
ピンチってなんでこう毎回毎回ギリギリのところで助けられるんだろう?
もっと早く来いよ、とも思うし、せっかく決めた覚悟が……、とも思う。
―――――――――――――――――――――――
深夜。
――始まる。
全員が洞窟の前に集まり、作戦開始の合図を待っている。
雲は出ているが、今は空気を読んだのか月を遮っていない。
空気の汚れていない空は綺麗で、月も星もよく見える。まあ、雲のせいで範囲は狭まるけどね。
篝火に照らされた各員の顔は真剣そのもの。僕も真面目にしたほうがいいかと思ったけど、作戦が作戦のためにどうにも力が入らない。
だって――
「皆の者!」
とと、ナミの演説が始まってしまった。
「今宵はついに、わらわ達の悲願が達成される時じゃ。本来なら、これはこの都市の問題。部外者であるお主らに頼むなど恥ずかしい限りなのじゃが……」
「そんなことはない!」
これはローヴさんだ。演説の邪魔って、して大丈夫なのかな?
「俺たちは、あなたに存在価値を与えられた。虐げられていた俺たちを救ってくださった。だから、今度は俺たちの番だ!」
「そうだ!」
「恩返しをさせてくれ!」
ローヴさんの言葉に、ほかの人たちが賛同する。かく言う僕も感謝してる。ナミのおかげでチーガルに会えて、色々学ぶことができた。
「お主ら……。それなら、わらわから言えることはただ一つじゃ」
そこで一度止め、息を吸い込む。ちなみに、拡声的なことはしていない。人が少ないとは言え、いい肺活量だ。
「絶対に、勝つ!!!」
『『『オウ!!』』』
その後は各自行動に移る。ナミたち本隊は先に出発し、しばらくしたら夜物平観光のタクシーが出発する手筈だ。何その会社怖いってそうじゃなくて、つまり、作戦終了までにナミに会えるのはこれが最後というわけで……。
「ナミ!」
「む? なんじゃ?」
どうしても外せない頼みだ。これがなきゃ、マジで山に入らないといけない。異世界の薬草ってまだ完全に覚えてないから嫌なんだけどなぁ。
で、話してみると、
「お安いご用じゃ」
あっさり引き受けてもらえた。
「千曳。セルを、頼んだぞ」
「ああ。もちろん」
絶対に送り届けてやるさ。
★★★
そんなわけで、別働隊として数人を連れて移動中だ。
とりあえず、僕の役目は先鋭の数人を疲労なく運ぶこと、セルを安全に屋敷まで運ぶこと、セルを生かすこと。所謂タクシーだ。
できるなら北門制圧に参加したいところ。が、あしでまといだろうね。おとなしくしてますか。
今回の作戦は、自警団で一番強い、なおかつ前夜祭でも酒の入らない北門制圧から始まる。ここは思念の古戦場に接しているため、魔物が多い。イコール門番のレベルも高い。
ここを落としても忍者部隊が待ってるんだけど、それはまぁ向こうに任せよう。なんたって、こっちは最強と謳われる忍者を抑えるんだからね。
……セルの役目だけど。
僕の仕事、マジでタクシーじゃん。自分でもネタにしたけど、悲しいなぁ。
そんなこんなで森を進む。
いい感じに曇っている。こっちも見えないが、向こうも見えない。……あれ? 忍者相手に視界が悪いって不利じゃね?
ま、いいや。どうせ成功するんだし。心配なのは、ナミが結界を破れるかかどうか。
空輸だから音はほとんどない。風は涼しい。ちょっと寒いかな?
誰も彼もが無言の中、ついに目標の篝火が見えてきた。
「やっぱり堕とすか?」
「いや、流石に俺らがやる。来てる意味なくなるしな」
とはいえ囮ぐらいは引き受ける。なんの危険もないしね。
近くの草むらを揺らしてやれば、門番の視線が集まる。その隙に出て行って、音も立てず首に手を回す。惚れ惚れするほどの手さばきで北門を制圧。手馴れてやがる。
「セル、信号弾。……セル?」
「――ん?」
反応があからさまに遅い。よほど緊張していると見た。
「大丈夫、絶対殺させないから。ナミにあるもの準備してもらったし」
「ある、もの?」
「そ。絶対に守る、とあるもの。だから安心して」
「……ん」
少しは安心したかな?
「火遁――」
「目を守れ!」
してなかった!
「――螢」
突如、眩い光がすべてを覆う。見るものを失明に追い込む閃光。太陽の降臨とも言えるそれは、なるほど兵器に転用されるのも納得の威力だ。これに熱量が加わればどうなるのか、想像しただけで恐ろしい。
と言うか、これ周りに注意しないといけない忍術なんだけど! いくらなんでも冷静を欠きすぎだろう。
「あ……。ごめん」
「まあ、被害がなかったからいいだろ」
幸い失明者ゼロ。危なかったぁ……。
でも、敵にも見えるわけで、ここからはスピード勝負だ。
「それじゃあローヴさん、僕らはここで。気をつけて」
「なに、あんたらほど危険じゃないさ」
まあ、言えてる。
なんせ相手は最強の忍者。初代勇者の一人が持つ異名と同じ名を持つムクロさんだ。
なんでも、仕事を受けて確実に相手の頭のみを持ち帰ったという伝説の暗殺者らしい。
そんな人と同じ名前ってことで、相当強いことが予想されている。そんな相手と戦うんだ。そりゃ緊張するか。
「じゃ、気をつけてな」
それだけ言って、ローヴさんほか数名は行ってしまった。
「じゃ、僕らも行くか」
「……」
返事はない。ただの人形のようだ。実際、人形みたいに小柄で可愛い。
さて、お遊びはここら辺にして、僕らも侵入しよう。
都市に入って最初に感じたことは、妙に涼しいということだ。
それに、意識しないと感じない程度だけど、霧が出ている気がする。
「こんなんだっけか?」
「……んん。初めて」
僕も、野宿したときはこんなんじゃなかった。
「なにか、起こってるのか?」
「……罠?」
それはない……と思いたい。
毒とかそこらへんも警戒したけど、今のところ体に変化はない。う~ん。
「行くしかないしょ」
後発だったにせよ、もうすでに引けないほど吸ってる。なら、進むしかない。
「…ん」
だんだんといつもの調子を取り戻せてるのだろうか。間が減った。
警戒用にマジックハンドを向かわせたあと、僕らも進む。目指すは1-1-4だ。
「あ、そうだ。勝率は?」
「……ふふ」
あ、笑われた。
「ここで、聞く?」
「ここだから、かな」
また笑う。その後しばらく間があって、
「腕、一本」
「……そっか」
最高で腕一本落とせる。うわー、きつい。
でもま、逆に考えればそれだけ見込みが増えたってことだ。最初なんてゼロだと思ってたんだから。
「マスター! 人です!」
そんなことを話していると、フェーダが出てきた。
「人?」
「はい。人です」
わざわざ話すってことはどうせ進行方向なんだろうなぁ。嫌だなぁ。怖いなぁ。
「避けてく?」
「待ち構えてる感ありますよ?」
大人気だね、セル。
「とりあえず、会ってから決めるか」
「いいんですか?」
「最悪、セルだけは送り届けるさ」
本当はあの手この手を使って避けるべきなんだろうけど、なんというか、嫌な予感がするんだよね。
「ま、向こうが反応しなければスルーだな」
そうなることを願うのみだ。
やがて、視認できるまでに近づいてきた。
道の真ん中に、腕を組んで仁王立ちする一人の男性がいる。
灰色でぼろぼろのコートを着た男だ。半袖から見える腕は目に見えて肉がない。じいちゃんよりも簡単に折れそうだ。
帽子を深くかぶっていて、目元は見えない。が、頬にはそれなりに肉が付いてる感じだ。
嫌だなぁ。なんというか雰囲気が怖い。修羅場をくぐってきた猛者と見た。
思いもよらず敵を観察していたからだろうか。それに気づくことができたのは。
「……!」
「《【ハンガーフィールド】》」
咄嗟にマジックハンド界に逃げて、イヤフォンをNo.2に合わせる。
大丈夫、7分以内なら死ぬことはない。耐えよう。
「マスター。特になにか感じませんが……」
「オッケー。とりあえず顔出すか」
まだ安心はできない。新式魔法というのは恐ろしいもので、相手を選択できるのだ。……それだと僕が出たところで意味ないね、うん。
「安心しろ。もう効果は切れた」
「魔素に変化はありません」
マジックハンドの魔素視にも異常はない。
じゃ、問題ない……か?
とりあえずセルも含めて外に出る。様子を見るも、特に何もないようだ。
「なんのようだ」
「足止め、だな」
完全な第三者か? いや、言い切れない。予想が外れてる可能性だってあるんだし。
「セル、先行って」
「っ! でも……」
「僕の仕事は、お前を安全に連れてくことだ」
幸い、ここから屋敷まで500メートルを切っている。マジックハンド界を通れば、外部干渉はできない。
「一矢報いて来い!」
「ん!」
マジックハンドから降り、ゲートを開く。
その後も、セルが完全に入るまで何もしてこなかった。
「横槍を入れないところを見ると、本心じゃないのか?」
何も答えない。だんまりですか。
「何者だ?」
「そうだな、ナミの義兄、とだけ言っておこうか」
「なっ……!?」
ナミの義兄……だと……!?
なんでそんな人物が足止めを?
「どう言う意味だ?」
「さあな」
なんだコイツ。ひとつ分かるのは、明らかに情報が違うってこと。
向こうが当たり前のように知っている情報を、こっちは一つも持っていない。……やりづらい。
とりあえず、堕とすか。安全な場所で聞き出せばいい。
と、思ってたんだけど……。
「《【ハンガーフィールド】》」
「うっ!」
急に胃袋が干上がった。そう感じるほどの空腹。断食四日目に感じたあの苦しみが蘇ってきた。
倒れかけたが、気合と根性で踏みとどまる。
「ほう。お前、飢餓状態になったことあるのか」
「数年前に……何回か、ね」
あれはホントに死ぬかと思った。三週間生きられるとは絶対思えない。
「まあ、お仲間はそうじゃないようだが」
「ん……? って、フェーダ!?」
目を凝らすと、地面にフェーダが落ちていた。
『記憶は、あり……ました、が、実際は、こん……なに、き、きつい、もの、なんです……ね』
近くのマジックハンドが、そんな声を拾ってきた。
と言うか、あれ!? なんでフェーダまで!?
「俺の飢餓は、生物全ての行動を阻害し、空腹感を与える」
「生物、全て……」
なんだそれ。最強じゃん。
「て、お前生物?」
『一応……魔法、生……物、です』
それは生物ですか?
はい、駄目駄目スキルフェアリーです。
とはいえ、これは拙い、か?
一応マジックハンドは動いてるけど、う~ん。
相手はナミの兄らしい。これ、攻撃していいの? どっち側?
それに、向こうの肉がなさすぎて、首トンの衝撃で骨折する危険が高い。リアルでも罅入るって聞いたしなぁ。
こういう時はただ一つ。
「攻撃していいですか?」
「はぁ?」
わからないことは即質問。
「ま、敵といえば敵だしな」
「え、じゃあ……」
「《【ハンガーフィールド】》」
「ぐぁ……!」
そういうことかぁ!!
流石に四日以上の断食はしたことがない。マジで死ぬ。誰だよ三週間生きられるとか言った奴! 理論的にできても精神的には無理なんだよ! 根性論なんて通用しないの!
たまらず地面に倒れる。じいちゃんなら骨折確定だ。
うぁ。意識が遠のいていく。生きろよ……。セル……。
その時だった。
「《【ウィンドアロー】》」
「……!」
逃げゆく意識を根性で捕まえた僕は、根性で顔を上げる。根性ってすごい。
そして、その先には……。
「よ、少年。元気してた?」
地獄神様が再臨なされていた。
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