4-16 国鳥
やっほー。千曳だよ。
折り紙をやると頭がよくなるって、よく噂されてるよね。
それをまともに受け止めた馬鹿が一人いたんだけど、結果は察してやってください。
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次の日。
ナミに報告しに来た。報連相(ほうれん草)は社会人の基本である。
彼女は最奥にある元団長の部屋で作戦を煮詰めていた。あれで問題ないと思うんだけどなぁ。まあ、考えるに越したことはないか。
どうやらあの現象は魔垂というらしく、魔物が多くなりすぎると希に良く発生するらしい。
ほかにも、無茶した冒険者が逃げ惑う最中に引っ掛けていくとか。要はトレインである。
だけど、あの山で魔垂が発生した報告は、ここ五百年以上ないらしい。
理由は魔除けの木。なんでも、魔物が嫌う成分を放出してるとかで奴らは近づかないらしい。
あれは魔法植物の一種らしく、あの山が魔法で出来ているからこそ生えているとか。逆に、普通の植物は生えることができないらしい。
いったい誰が植林したんだろ。世の中不思議が多すぎる。
ともかく、人為的に出来た可能性を指摘された。途中で巻き込まれて死んじゃったけど、勢いは収まらなかったってとこかな? よくあるMPK的な出来事で、作戦に関係はないだろうとの事だ。
「おっはよー」
「うむ、おはようじゃ。昨日はかたじけない」
「いえいえ。ダーリンの頼みだし」
アウエラが起きた。彼女はあの後、疲れたとか言ってぐっすり眠ってしまったのだ。
気づいたらあの新聞記者もどっかいってたし、ディーネが載せてけとか言ってたし、魔物の死体に驚いたローヴさんに問い詰められてたしで大変だった。結局、全員連れて帰ることになったんだっけ。
で、展開しすぎていたマジックハンドを戻した際の衝撃で眠りについて、今に至る。
スキルを切った時の痛みは、すでに気絶するレベルまで成長していた。いやまあ、SPが底をついてたってのもあるけど。
そのうちショック死するんじゃないかと、今まで以上にSPの残量に気を配るようになったのは言うまでもない。
「今日は何もないゆえ、楽にしてると良いぞ」
「そっか。じゃあ、ルーリー!」
アウエラが呟くと、目の前に一冊の本が現れた。
基本的にルーリーは、自身の図書館に引き籠って活字を摂取する毎日。アウエラは時々蔵書を出して読んでいるというわけだ。
本の取り出しにもパターンがあって、今回は読書中。タイミングよく読んでない時は、彼自身が持ってくることもある。夢中になっている時なんて、呼びかけに応じないことも。
して、今回の本はっと……折り紙?
「あれ、どうしたのその本」
「もらったんだ~」
「わらわには必要ないのでな。読んでもらったほうが、本も幸せじゃろう」
「ついでに、折り方なんかを教えてもらってるんだ」
なるほど。ナミの魔法は折紙だったっけ。
と言うか、こんな本あるんだ。
「折り紙、流行ってるの?」
「勇者さまが広めたと聞いたことはあるのじゃが……あまり流行ってはおらぬな」
「じゃあ、その本は?」
「落ちてきたのじゃ」
キョトン。
本が落ちてきたと聞いて、これ以外の反応ができる人がいるなら是非召喚したい。僕には無理だ。
「その心は?」
「「「……はぁ」」」
「うぉい!」
なんだその反応! 普通僕がするリアクションだからね、それ!
「常識がないって、疲れるね」
「まさか知らぬとは」
「どこで育て方を間違ったんだろうね」
「あずかり知らぬのじゃ……」
あんたらに育てられた記憶は一切ない。
結局、教育者がおかしかったと納得させることに成功した。
「チーガル殿はどこか抜けておるからの」
「一応、彼女なりの方針的なのには乗ってると思うんだけどね」
一日で全てを叩き込むなんて不可能だし、あの時は領主的な人との約束もあった。仕方ないといえば仕方ないかもしれないけど……うん、あいつが悪い。
こうして、アウエラ先生の異世界講座が始まった。
「この世界で『落ちてきた』って表現されることは、『落とし穴』を通ってきたものを指すんだ」
「落とし穴って?」
待て待てと右手を上げるアウエラ。地味にムカつく。どこかチーガルに通じるものがある。
「要するにダーリンの世界、異世界の異物のことなんだ。まあ、落ちてくる可能性はかなり少ないんだけどね」
「流れ星のような存在じゃな」
あのあの、流れ星って空見ればだいたい見れると思うんだけど。だって、一日に二兆個だよ!? まあ、昼間とか暗すぎるモノとか含むけどさ。
そういえば、この世界の宇宙ってどうなってんだろ。太陽と月、後金星の存在は確認できたんだけどね。
「ま、いいや。で、落とし穴って?」
「落とし穴、学者的にはアイリスホールって言うらしいんだけど、これはダーリンの世界とこっちの世界をつなぐもの、って感じかな」
詳しくはこれ見て、と一冊の本を押し付けられた。
異世界講座、完。
『サルでも分かる? アイリスホール』
・アイリスホールとは、世界に無数に存在する『穴』のことであり、普通は小さすぎて通れないが、時たま巨大なものが発生することもある。その正体は世界と世界をつなぐ道であり、それを通れば異世界に行くことができる。
・忽然の失踪や出現、あったはずの物がない、見たこともない物があるなどといった、日常的にありふれた不思議は全てこれの所為だと睨まれている。
・一説には、勇者もコレに落ちてやってきたのではないかとも言われているが、宗教団体から批判を受けている。
こんなところかな。正直、猿が理解できるとは思えない。
でもまあ、異世界人がそこそこいる理由がわかったからよしとするか。
「にしても何か、パッとしないね」
「そうなんじゃよ」
声に顔を上げると、幼女二人が折り紙をするという非常にほっこりする一場面が。場所が洞窟じゃなければ尚の事いいんだけどなぁ。
「千曳、いや師匠。お願いがあるのじゃ」
「あ、その設定まだ生きてたんだ」
もう二ヶ月近く経つんだけど?
「何かいい折り紙はないかの」
「……?」
「敵は城に入っておる。恐らく、結界を弄っているはずじゃ。じゃとすれば、城の結界を破れるだけの魔法が必要じゃ」
ああ、その可能性は僕も考えた。と言うか、絶対にそうなると思う。
「今のわらわには、正直そんな力はないのじゃ。じゃから、折り紙の本場から来た師匠に教えてもらいたいのじゃ」
う~ん。正直、僕はそこまで折り紙には詳しくないんだよね。夜魅がひけらかしてたのを軽く覚えてるぐらいでさ。
あ、アレとかどうよ。
「それじゃあ、雉とかどう?」
「雉? あの鳥のかの」
「そうそう、それ」
何故それを? とでも言いたげなナミに、説明してあげることにした。
「まずね、この鳥は日本の国鳥なんだ」
知ってる人、意外と少ないんだよね。みんな鶴とか朱鷺とかわけわかんない回答をするんだ。ま、僕だって夜魅に言われるまで知らなかったんだけどね。
ちなみに、国鳥が狩猟鳥なのは、フランスの鶏を除いてほかにないらしい。なんでも、食べられる=身近にいるってところが推薦理由だとか。
「ニホン……。勇者様の故郷のことかの?」
「うん。多分そう」
異世界召喚って勇者確定なのかな。でもなぁ。アイツ等どっからどう見ても勇者じゃないしなぁ。
「まさか勇者と同じ故郷だったなんて。驚きだよ」
「そんなに?」
「うむ。この世界の住人は、皆行きたがっておる。このことは隠しておいた方が良いぞ。面倒に会いたくないならの」
持ちのロン。
とと、脱線脱線。
「さて、戻すよ。で、この雉なんだけどね、足の後ろに蹴爪ってのがあるんだけど、これがとにかく危険でさ、蛇とか余裕で切り裂けるの。そりゃもう、やばいよ」
つい興奮して語彙力が大変なことになってるけど、それだけやばい。相手の蛇、二m超だよ!? あれは、もう、こう、やばかった。うまかった。両方。
「聞いた話だとティラノサウルスと同じくらい力があるらしいんだけど、流石にそれはないかな。でも、それくらい筋肉が発達してて、走る速度は人間じゃほぼ追いつかれるほどなんだ――ってどうしたの?」
などと話していると、二人の頭にはてなが浮かんでることに気づいた。はて、わからないものなんてあったっけ? 小学生でも分かる、くらいの気持ちで説明してきたんだけどなぁ。
「「ティラノサウルスって何?」」
流石に頭を抱えざるをえなかった。まさかドラゴンがいてT.レックスがいないなんて。
「知らない? ティラノサウルス・レックス」
蜥蜴っぽくて、二本足で、腕が小さくて、と色々説明したが、結局理解は得られなかった。僕が得たのはただ一つ、この世界には恐竜はいない、と言う事実のみ。
なにげにショック。まあ、魔物とかに似たような見た目の奴いるかもしれないし、大丈夫。上を向いていこう。
閑話休題。
「雄はさっき言ったように気性が荒くて力も強いんだけど、雌は逆に精神的に強いんだ。アオダイショウとかの天敵が近くに来たら、子供を守って草むらでじっとしてるんだ。微動だにしないでじっとだよ」
僕なんてすぐ飛び出しちゃうしなぁ。熊の時もそうだった。
「そんなわけだから、戦闘力が高くて、オリハルコンメタルの心を持った雉がいいと思うんですよ。どうです?」
「是非教えて欲しいのじゃ」
無事、面接に受かることができた。もしかしたらセールスマンの才能があるかもしれない。
ナミが作り出した折り紙を使って、実践形式でレクチャーしていく。なんでも、折紙魔法はその折り方を完全にマスターしなきゃいけないらしい。大変だね。
――十数分後。
「できたのじゃ!」
「わーい」
二人の手元には、立派な雉が折られていた。
「でも何かパッとしないね」
「……ひどい」
せっかく頑張って教えたのに。
「だってぇ~。もっと派手なものないのぉ? じぃみぃ~」
アウエラがだだをこね始めた。
こうなったら『アレ』を出すしかないか。夜魅ですら折るのに一時間は掛かる、人類最強と言っても過言ではないあの折り紙を!
馬鹿の一つ覚えと言うか、バカって長い名前とか難しいモノとかって妙に覚えるよね。その真価が、コレに宿っている。
「それならとっておきを出してやろうじゃないか。ただし、途中で投げ出すなよ」
「どんとこい! どうせ大したことないでしょ」
その言葉、忘れるなよ。
――三十分後。
「もう嫌だー!」
「まだまだ始まったばっかりだぞ」
「千曳、次じゃ」
――一時間後。
「で、次ここ折って、それから開いて――」
「……」
「ふむふむ」
――三時間後。
「あ、次ここね。それからこうして、ここをこう――」
「――」
「なるほどのう」
――五時間後。
「はい、これで完成!」
「完成じゃ!」
「 」
「……もしもーし」
ありゃ、反応が全くない。と言うか、目がどこを見てるか全くわからない。口はだらしなく開いていて、少し涎が垂れてる。
……これ、ヤバくない?
そう思っていると、不意に小さく、注意しないと聞き取れないような大きさで、
「ごめんなさい」
そう聞こえてきた。
うん、分かればよろしい!
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