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絶晩成型  作者: 咫城麻呂
第四章 和ノ都市プリュス
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4-15 山頂にて

 その景色は、絶景であった。


 雲一つない、澄んだ青空。


 下界を覗けば、雄大な自然が飛び込んでくる。


 東を見れば薄らと、この大陸の、いや世界のシンボルが見て取れる。


 南には草原が多い。北には森が多い。人族と獣族の違いが、ここからだと良くわかる。


 遠くから、鳥の囀りが聞こえてくる。獣の鳴き声や、風で揺れる木々の音、偶に流れる雲の音も。


 そこまで高くないながらも、山頂からの景色は世界が丸いことを実感させてくれる。


 そう、ここは山の頂。人工的に造られた、思念の古戦場と呼ばれる山、その峰。


 草木が生えない不毛の地では、魔物達が生存争いを繰り広げていた。あちらこちらに動物の死骸が転がっているが、転がっている生物はどこにも居ない。


 過去形である事から分かる通り、既に生き物と呼べるモノは居なくなっていた。


 だからではないだろうが、そこに佇む人物は周りに気を配ることも無く考えに耽っている。


 太陽光をありありと反射させており、直視することは危険を伴う。それが何故かは、あえて語るまでもないだろう。


 そんな人物の肩には、黒い何かが。


 よく見てみると、人の形をしている。


 黒髪ショート。それと対象した、赤い服。背中からは翼を生やし、あまつさえ尻尾まで付いている。


 ここまではいい。だが、その身長は小柄の一言では片付けられないほど小さい。


 最近のなんでもスマート化の発想は、ついに人体にまで及んだらしい。もしくは都市伝説か。とにかく、肩に載せられるサイズである。


 そんな小柄な人物もまた、顎に手を当て考えている。ふたり揃ってうんうん唸っている姿は、ともすれば親子のようである。


 やがて考えが纏まったのか、ゆっくりと言葉にし始めた。


「檜はどう思う、さっきの」

「あの時も言ったように、あれは本物だ。それは間違いない。ただ……」

「それを放ったのがアウエラってことよね」


 彼らの議題は、先ほど魔物の大群――この世界では魔垂まだれと言う――を一撃で片付けた魔法【ゲイボルグ】と、それを使用したアウエラについてであった。


 簡単に【ゲイボルグ】について説明しよう。


 あの魔法は、最初に突き刺さった魔物の魔力を吸収することで新たな槍を作り出し、それが魔物に刺さり、吸い取り、増殖し、穿ち、吸い、増える。これの繰り返しである。


 新たに作られた槍の飛ぶ方向などは創造主の腕の見せどころ。だが、新式魔法なら『敵を狙う』という要素を追加するだけで簡単に再現できる。これが、新式と旧式の差である。


「本当に貴男たち二人だけなのよね?」

「ああ。俺とアイツだけだ。たとえ戦闘を見ていたとしても、函子はこねの魔法だけは見て覚えることはできない」

「とすると、あの子は向こう側なのかしら」

「かもな」


 何も知らない鳥が、近くに墜落した。起き上がったその目に正気は無く、目の前の餌に狙いをつけている。


 魔物化は目に見えないところから始まる。現に、その鳥の外見は何一つ変わらない。より多くの残留思念グラッチポイントを吸い込まなければ、変化は起こらないのだ。そのせいで、魔物だと気づかずに戯れ、殺される子供は少なくない。


 飛びかかってくる鳥を焼却しながら、彼らは話し続ける。灰すら残らなかった。


「そうには見えなかったけど」

「なら、アイツが直接教えたっていうのか?」

「その方が精神的に楽ね。あの子、記憶無いみたいだし」

「まあ、俺は直接見てないから何も言えないが」


 風のようなものが吹いた。妙に生暖かいそれは、ゴリラの息だった。山頂の魔物が消えたことで、中腹の魔物が逃げるように来ているのだ。


 それもそのはず、中腹だけで生えている木は通称魔除けの木。実際は柊を魔改造したもので、魔物が嫌う樹木である。さらに、この山に生えている植物はこれのみ。運良く外界から草食動物が入ってこない限りは、我慢してでもこの葉を食べないと死んでしまう。


 山頂の魔物は、その鬱憤をほかの魔物にぶつけることで解消している。中腹以下の魔物にはたまったものではない。


 そこへ、山頂ががら空きだと言う情報が入る。すると、中腹の魔物は我先にと頂上を目指すのである。


 山頂に着けば強くなれる。山頂に着けば楽になる。そんな思いで全力疾走したゴリラくん。見事一等賞の彼にプレゼントされたのは、地獄の業火だった。


 だが、彼はトップの特権で楽に逝けた。問題は二位以降。


 山頂を取り囲む、まるでゴールテープのように張り巡らされた細い糸。高速で振動しており、テープを切ったと思ったら自分が切られるという寸法だ。これは痛い。


「どっちにしても、少し様子を見る必要があるわね。あ、そうそう。後であの子の魂魄見ておいて頂戴」

「函子かもしれないと?」


 ないだろ、と一蹴する。しかし、最初の声は諦めない。


「勇者の例があるわ。それに、邪神化する前とは言えモルトと一緒にいたのよ? ありえない話じゃないわ」

「あいつに呪いが掛かっていたから、もしかしたら、か」

「ええ」


 溜め息。魔物の断末魔。雲の音。風の音。山頂は、ちょっとしたライブ会場になっていた。


「俺はとっくに退職したんだがな」

「任せたわね」

「わかった、師匠」


 二人は下山する。あとに残るのは、大量の魔物の死骸。いずれ分解されるだろう。


 この山が本来の姿を取り戻すまでに、しばらく時間がかかりそうだ。


「その時またこさせましょう。今度はここまで」

「いつになるんだか」

「月代には感謝しないとね。あの剣だけじゃなく、函子の手がかりも掴めたわ。宮津子みやつこにはああ言ったけど、時間が空いたら見に行こうかしら」

「あれのどこがいいんだか。人間の感覚はよくわからん」


 二人は雑談しながら、襲いかかる敵を燃やしながら下っていく。一瞬振り返ったその先には、地面に深々と突き刺さる、一本の剣があった。

誤字脱字の指摘、感想等お願いします。

情景描写って難しい……。

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