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絶晩成型  作者: 咫城麻呂
第四章 和ノ都市プリュス
57/68

4-12 団長のメモ

 やっほー。千曳だよ。

 たまに、なんでもないようなところですごい集中力が発揮されたりするよね。

 これを別のタイミングで使えたらと、何度思ったことか。


 ――――――――――――――――――――――――


「千曳、釈放の時間じゃ」

「待って今アリの観察で忙しい」

「者共掛れ!」

「うをぁ!!」


 てな事があった今日この頃。3度目の釈放です。


「ナンデ!?」

「アリを見つけたら殺すのがここら一帯の常識じゃ」


 聞くところによると、アリ系は最も多い魔物の一つなんだとか。


 そこら辺にいるため、気づいたらアリの王国が出来ていることも稀によくあるらしい。ちょっと見てみたい。


 つまりは、プリュスの人はアリを箒で叩き潰して歩いてるってことか。


「そんなこと言ったら生物全部殺すなんてことにならない?」

「生きる必死さと脳の大きさがなんとかって聞いたことあるっす」

「様々な条件で変わってくるからのう。考えるだけ無駄じゃよ」

「それでも、この都市は生物に対して厳しいのです」

「なんで?」

「『古戦場』が近いからじゃ」


 思念の古戦場。


 数千年前の戦場だっけか。なんでかダンジョン化して無いらしいね。


「なんでダンジョンにならないの?」

「説は色々あるっす。土地がどうとか時代がどうとか。最近は見えないだけでダンジョン化してるって説まであるっす」

「なんだそれ」

「地中に埋まってるからダンジョン核が見つからないと、そういうわけじゃ」

「ん?」


 いまいち話が見えなかったから、詳しく説明してもらった。


 要約すると、戦争中に通りすがった鉱石の妖精が、醜い争いに怒って周囲一体を土で埋めてしまったらしい。


 それまでは海抜以下の盆地だったらしい。それが、今では周りよりも高い丘のような状態に……。何者かしらんが、その妖精は僕の精霊より優秀らしい。交換してくれないかな。


「何かすごく失礼なこと考えてません?」

「そんなことないよ。結構頼りにしてるよ」

「ほんとですかぁ~?」

「実際、頼りにしてるよ。危険とか知らせてくれるし、イヤフォンも使えるし。いいパートナーだよ」

「え……え、そそそそ、そんなこと、ななな、ないですよ//」


 顔を真っ赤にして全力で顔をそらすフェーダ。やっぱりこいつは面白い。ドМだけど。


「にしても、鉱石の妖精って何?」

「土属性の古い言い方らしい。七大妖精の一人じゃ」


 古い? 七大属性? またまたわからんワードが。あのちび虎なにやってんだか。


「それ必須ワード?」

「古い言い方はほとんど知られていないんじゃ。忘れ去られてるからの」


 じゃ、いいや。


「七大妖精は?」

「知らぬものはおらんな」


 はいきましたよ僕の知らない常識。ホントあの幼女は……!


「七大妖精は、それぞれの属性を極めた妖精のことっす」

「ムム連合の切り札なのです」


 またもや意味不明な単語が……。もう無視しようかな……。


 やっぱ無理。


「ムム連合って?」

「……この国じゃ」


 何と。初期スタートが連合国とは。またまた珍しい。


「人獣領、中立領、魔族領、この三つから成り立っておるのじゃ。領主は四人いるんじゃがな」

「実質的なトップは妖精族なのです」


 その後も色々な常識を埋めていく作業をしているうちに、料理ができた。


 脳容量がやばい。僕の容量、3bitしかないのに……。あ、それは夜魅か。


「まって、元々なんの話ししてたんだっけ?」

「どうでもいいから盛り付けてくれよ」

「だれ!?」


 気づくと近くに、犬っぽい耳の男性が立って居た。灰色の髪と、右しかない目が特徴的だ。


「俺は灰狼の種族のローヴってもんだ。ま、よろしくな」

「よ、よろしく……」

「さぁて、お前ら、飯だ飯!」


 あ、まだ警戒されてる。なんか、こう、すっごい畏怖の目で見られてる。そんな気がする。


「ほんとに大丈夫なのか? 毒でも入ってんじゃ……」

「バカお前、姫の命の恩人だぞ」

「俺を、殴って、オレ、よけれずに……」


 なんという豆腐メンタル。ライフル並みの速度で打ち出しても人を殺す前に潰れそうだ。


「なんというか、メンタル弱くない?」

「不意打ちで顔面殴られたら、普通そうなるっすよ。姫の命を守る身ならなおさらっす」

「いっぺん丸腰で熊と戦えば考え方が変わる」


 いやー、あの時は死ぬかと思った。親切な猟師が来なければここにいなかったね。みんなで分けた熊肉は最高だった。


「それ、何歳の時っすか?」

「9歳だったかな」

「……そっすか」


 それから、獣族の皆さんと食事会。近くで採れた魔物と果物を適当に合わせた本当に有り合わせな料理だったけど、無事に警戒度を下げることに成功した。


 と言うか、なんでさっきの灰色狼は警戒していなかったんだろう。それだけが謎だ。


「なんでこんなにうまいんだ?」

「俺たちが作ったのとは全く違うぜ」

「材料もなにも同じなんだがなぁ」

「……えっと、そ、その、あの……」


 なぜかすごい話しかけられるようになった。おかげで緊張しっぱなしだ。いい加減コミュ症なんとかならないかな。


 ★★★


 その後も脅迫まがいの緊張する会話が続いていたが、ナミが機転を効かせてくれたおかげで、なんとかガチムチに囲まれるという恐怖の時間から解放された。


 ホントにもう、恐ろしい。猪に追われた時も、熊に襲われた時も、まして動物愛護団体過激派に怒鳴られた時も、ここまで緊張はしなかったと思う。わからないけどね。あの時必死だったから。


 ガチムチ達は訓練するとか言って全員出払っている。


 ついでだから、このアジトをじっくり調べてみますか。


 中身はアリの巣のように結構入り組んでいる。という程でもないが、まあ、そこそこ入り組んでる方なんじゃないかな? ちょっとしたダンジョンじみている。


 ちょっと楽しくなっている自分がいる。


 ワクワクしながらゆるい斜面を下っていると、最奥の部屋に机やら椅子やら本棚やらが置いてあるのが見えた。


 ほかの道はなかったはずだし、ここが団長の部屋だろう。


 なんというか、団長らしくいい家具使ってるっぽいな。


 どれどれ。どんな本がっと。


『拷問全集』『拷問の歴史』『盗賊会社』『プリュスの歴史』『初代勇者について』『プリュス城の謎』


 だいたいこんな感じのラインナップ。拷問系とプリュスについての本ばかりだ。


 最初の二冊は、これといって楽しいことは書いてなかった。異世界ってこんなもんかね。


 気になったのは、最後の一冊。


 読んでみると、半ば団長の日記っぽくなっている。


 なんでも、あの城の中には伝説の剣が封印されていて、結界の魔力と連動して抜けるようになるらしい。


 実際に『プリュスの歴史』には、『有事の時、最強の剣が助けてくれる』的なことが書いてあった。もちろん、もっと堅苦しい。


 だが、それが結界の魔力と関係しているとは書かれてなかった。なんでそんなことを知っているんだろう。


 ほかにも、いくつも興味深いことが書いてある。どうやらこの盗賊団は、二年前からあの都市を狙っているらしい。何度も侵入し、その都度失敗しながら、少しづつ情報を集め、内通者を集め、ここまでやってきたようだ。


 そんなに頑張ったのに捕まっちゃうなんてね。まあいいや。この情報は、僕らの攻略に役立てさせてもらう。


 それにしても、また謎が増えたな。今回の事件は謎が多すぎる。


 まず大本として、なぜ魔族は都市を乗っ取ることができたのか。


 ドラゴンでも撃退すると呼ばれる都市だ。城内に入れるのは初代勇者と王族と、許可されたものだけらしい。有事の時はその限りではないが。


 どうやったんだろう? 近い人になれるよう頑張ったのか、取り入ったのか。


 ま、考えるだけ無駄か。


 二つ目。角付きの件。


 師匠がいる都市から逃げるなんてどうかしてる。何があったんだろ。あのマスコミももう少し話してくれればいいのに。


 わざと逃がした? 逃げられた理由はそれしかないけど、そうするとなんでっていう新しい謎になるしなぁ。


 ほかにも、この盗賊のことも気になる。なぜこの盗賊が――


「千曳、ここにおったか」


 振り向くと、ナミが立って居た。相変わらずののじゃロリ。聞くたびに癒される気がするよ。


「どしたの?」

「どうもこうも、もう夕飯の時間じゃぞ。信用度回復させんでよいのか?」

「え? もうそんな時間?」


 いったい僕は何時間ここで調べ物してたんだっていう。


「わかった。すぐ行く」


 腹が減っては戦はできぬ。今は腹ごしらえだ。どうせ作戦まで3日あるんだし。……思ったより短いな。大丈夫か、これ。

誤字脱字の指摘、感想等お願いします。

今日で、初投稿から一年経ちました。

今まで読んでくださった皆さん、ありがとうございます。

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