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絶晩成型  作者: 咫城麻呂
第四章 和ノ都市プリュス
55/68

4-10 お尋ね記者

 やっほー。千曳だよ。

 新聞記者ってテレビレポーターよりも会う確率少なくない?

 まあ、テレビレポーターが分かりやすいってのもあるだろうけど。


 ―――――――――――――――――


「「「「「「「「「「すみませんでしたぁぁぁ!!!!」」」」」」」」」」


 時間はすっかり夜。――だと思う。ここ地下だから何時かよくわかんない。


 場所はもちろん独房の中。一日と経たずに帰ってきてしまった。


 で、しばらく暇を潰しながらダラダラしていると、自称勇者サマが起きだして、全員揃ったと思ったらこれだよ。


「へ?」


 思わず間抜けな声出しちゃったじゃん。


 それぐらい、実に見事な土下座だった。全牢獄土下座選手権優勝候補。どんな看守でも確実に釈放へ持っていける。


「俺たち、なんとお詫びを言えばいいか……」

「いや、別に怒ってないけど。むしろ利用してたし」


 追いかけられるのを理由に訓練しようとしてたし。


 ほら、よくあるじゃん。死の淵に立たされると覚醒するって展開。


「いや、多分お前は勘違いしてる。その件について謝るつもりは一切ない。モテる自分を呪うんだな」


 ひどいこと言われた。別にもててないし。ただいじめられてるだけだし……。


「……ほかに何かあるの? 初対面だよね?」

「はぁ。ほんとに覚えてないなんてな。これでも俺ら、いじめてた側なんだが」


 覚えてない? いじめ? なんのこっちゃ。


「お前、高校通ってたのは覚えてるか?」

「ああ、うん。なんか頭の片隅にそんな単語があるようなないような」


 そういえばそんな施設に通っていたようないないような。


「俺たちはそこでお前の同級生やってた者だ」

「全く記憶にないんだが」

「まあ、碌に話しかけてないからな」


 彼らの話をまとめると、どうやらクラス全員で無視をしていたらしい。


「ああ、そういや」

「思い出したか」


 なんとなくだけど、僕が寝て夜魅が起こそうとして笑われるって光景があったようななかったような。


「それで、ここに来て謝ろうと」

「それに関しては、ほんとにすまん。いくら命令されていたといっても、悪いことをした。このとおりだ!」


 そう言って、再び土下座。流行ってるのかな、これ。


「別にいいよ。全然覚えてないし、もしそうだったとしてもきっと利用してただろうし」


 僕がそう言うと、全員が元に戻った。


「ところで、命令って誰に?」

「十六夜姉妹だ」

「……そっか」


 ……考えるのはやめとこう。


 ★★★


 次の日。


 暇です。


 勇者様方は先ほど釈放されました。僕は二回目なので二日間だそうです。


 罰金でもいいらしいんだけど、僕金持ってないし。


【急募】独房の暇つぶしに使える遊び求む。#拡散希望


 今すぐツイートしたい。どうせ何の反応もないだろうけど。


 こんなに暇だなんて刑務所を甘く見てたかな。


 なぜかフェーダは来ない。さっきから呼び続けてるんだけどね。何やってんだあのドМ。


 幸か不幸か、ほかに入ってる人はいない。治安がいいと喜ぶべきなのか、話し相手がいないと悲しむべきか。あ、居たところで話せないや。


 暇過ぎて死ぬって過剰表現だと思ってたけど、実際にありそうでコワイ。床をゴロゴロしたいけど石だから結構痛い。それでもしてるけど。


 そんなこんなで三時間ほどたっただろうか。不意にフェーダが現れた。


「遅いぞ! 僕がどれだけ死にそうか――」

「そんなことよりこれつけてください!」


 マスターの死がそんなことって……。


「悲しんでいる暇はないです!」

「暇しかないです……」

「いいから早く! マジックハンド存亡の危機ですよ!」


 そう言いながらグイグイと白いものを押し付けてくる。


 仕方なく受け取ってみると、それはイヤフォンのようなものだった。


 右耳しかなく、イヤフォンピースしかない。飾りのたぐいも一切ない。驚くことに繋ぎ目もない。ないことずくめだ。


「なにこれ?」

「これはマジックハンド技術部の英知の結晶です! とにかく装着してください」


 そういえば、さっきから何を焦っているんだろう? そう思いつつ、言われたとおりにしてみる。なんて部下思いなんだろう。


「つけたよ」

「No.43と念じてください」


 はいはい、43ね。


 耳につけた何かは、見た目通りイヤフォンの働きをした。……のだが、聞こえてきた内容に、僕の頭は真っ白になった。


『――さん、聞こえてますか~。千曳さ~ん。聞こえてたらこれの透明化解いてくださ~い』


 ………………………………へ?


「どう思いますか、これ」

「いや、どうって、へ?」


 まって。いきなり過ぎて頭が回ってない。


 ……。


 ……。


 ……。


 よし再起動!


 で、そうするかだよね。


 声からして、どうやら女の子のようだ。


「向こうの姿は?」

「背はディーネさんより少し大きいぐらい。黒い髪、黒い着物、黒い羽。肌も黒いですね。あと、肩に妖精らしき人物が乗ってます」


 ふむ。少なくても会ったことはないな。そんなシゲルみたいな人に会ってたら忘れないだろうし。


「とりあえず、僕のことを知っている上、マジックハンドのことも知ってて、透明化を見破ってるんだよね。じゃあ出るしかないじゃん」

「いいんですか?」

「透明化が効かない以上、戦ったら絶対負ける。唐辛子爆弾だって使っちゃったし。二個目できてないしょ?」

「え、ええ」

「こっちには手札がない。しかも向こうのことを何も知らない。出るしかないじゃん」


 声聞いた限りだと悪意とかなさそうだし。


 フェーダはそれでもしばらく渋っていたけど、結局最後は了承したらしい。イヤフォンから今までと違う声が聞こえてきた。


『お、どうやら聞こえているようですね。まずは自己紹介から。ワタシはフル。ジライ新聞社所長兼記者兼編集者です。以後、お見知りおきを』

『俺はライ。コイツの相棒みたいなものだ。よろしく』


 一緒に聞こえてきた男の声は、さっき言ってた妖精みたいな人かな?


 ジライ新聞って言うと、なんでも暴露するって言う恐ろしい新聞社だっけか。そんな人物が、僕に何の用があるというのだろう。


『我々は貴方に伝えたいことがあるので伺った次第です。できれば直接話したいので、脱獄して頂ければ幸いなのですが……』


 なんかとんでもないこと言い始めたよこの人。


『大丈夫ですって。ちょっと出てすぐ戻ればバレませんから』


 しかもそのまま逃亡の手伝いをしてくれるわけではないと。


「どうしましょうか」

「どうするもなにも、このままだと向こうから入ってくるよ、絶対」


 行くしかないでしょう。


 というわけで、僕は息を吸い込むとマジックハンド界へ飛び込んだ。


 マジックハンドに乗り込み、暗闇を進む。しばらく行くと目的地についたらしく、外へのゲートが開いていた。


 ざっと場所確認。どうやらお城の裏庭の一角らしい。草が伸び放題で、日向のない、何とも秘密の会話に向いている場所だ。よく見つけたな、こんな場所。


 件の人物は、お城に寄りかかっていた。僕を認めると飛び跳ね、さっと服装を正す。


 報告にあった通りの、全身真っ黒な少女だった。ブラックプレイヤーだってここまで黒くない。


「では改めて、ジライ新聞社のフルです。こっちは相棒的な何かのライ。お見知りおきを」

「よろしく」

「貴方が夜持平千曳さんで間違いないですね」

「う、うん」


 まさかのフルネームキタ! マジで何なんだ、あんた。


「どうしてフルネームを、ですか。言えるのは、記者の情報網は恐ろしいってことだけですかね」 


 ついに初対面にすら心を読まれるようになったか。なんでだろ。表情筋が弱いのかな?


「では本題に入りましょうか」

「伝えたいこと、だっけか? 新聞記者が?」

「ええ。新聞記者としてではなく、チーガルちゃんの友達としての立場ですけどね」


 師匠の友達、か。いたんだね、そんな人。弟子として光栄だよ。


「貴男だけには言われたくないでしょうね。あれでも友達多いんですよ」

「へぇ~」


 ボタンを連打したい気分になった。


「では、本題に入りましょうか。悪い話と悪い話、どちらがいいですか?」


 これは選択肢ですか?


「ぜ、前者で」

「角付きさんが脱獄しました。今はこの都市に向かってるそうです」

「はぁ!?」


 ちょっと! 何とんでもない話題ブッ込んできてくれてんの!?


「……後者は?」

「解析使える人ほとんどいないんで、もっとおおっぴらに使っていいですよ」


 理解に数秒を要した。


 つまり、人前でマジックハンド使ってもほぼほぼ問題ない、ってこと?


 ええええええええええ!?


「そうなの!?」

「ええ。チーガルちゃんのほかはワタシくらいですね」


 そんなに確率少ないの!?


 僕の今までの気遣いは一体なんだったの!?


「てか使えるの!?」

「ええ。ワタシは『情報の魔眼』持ちなので」


 魔眼。なにげに初めて聞く気がするね。異世界ものだとそこそこありがちな気がするけど。


「マジックハンドを見破ったのも、この目のおかげです」

「へぇ。じゃあ、師匠も?」

「ええ。全方位解析で位置を特定したそうですよ」


 何それチートすぎる。透明でもなんでも効果無いじゃん。流石初見殺し泣かせだね。


「ほかにはない?」

「ほかですか? うーん。そうですね。お嬢様アイドルのカグヤさんが近くを通るってことくらいでしょうか」


 異世界アイドル!


 しかもお嬢様。


 そんな人いるんだ。


 でもまあ、これ以上悲しむことはないってことか。よかったよかった。


 にしても、角付き、か。


「角付きの話って、ホント?」

「ええ。ワタシも確認しましたし、カルネ君やチーガルちゃんも認めてますよ」

「そこが怪しいんだよね」


 あの二人が揃ってて脱走できるって、ありえないでしょ。あんなに弱かったのに。


「仲間がいたとか?」

「ないと思いますよ。カルネ君いますし」

「だよね」


 まあいいか。来ら来でまた首トンするだけだし。


「それでは。ワタシはこれで。まあ、すぐに会うことになりそうですが」

「遠慮しときます」

「まあまあそう言わずに」


 また会うたびに衝撃の真実を知らされそうで怖い。


 彼女は手をひらひらさせながら飛び立った。


 そのまま上昇し、城の影に消えていってしまった。


 ……あれ? 結界は?

語尾脱字の指摘、感想等お願いします。

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