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絶晩成型  作者: 咫城麻呂
第四章 和ノ都市プリュス
54/68

4-9 第一回爆殺★マラソン~inプリュス~

遅れてすみませんでした!

 やっほー。千曳だよ。

 オタクって読む分には面白いけど、実際に会うとかなりめんどそうだよね。

 数分と持たずに限界だと感じそう。


 ――――――――――――――――――――――――――


 猫の気持ちになる飛び方で後ろに逃がされると、目の前に黒煙が漂っているのが見えた。


 あ、完全に狙われてる。


 こんにちは死ねとはまさにこのこと。


 誰とも知らぬ人間から爆殺されたのはこれが初めてだよ。


 銃殺されかけたことならあるけど……。


「ダーリン!?」

「あぁっ!? ダーリンだと!?」


 二度、三度。


 再び爆発が起こる。


 見えた! 先頭の奴が手を握るたびに、爆発が起こっている。


 何なんだ? 魔法か?


 と言うか、ノータイム爆破をよけられるマジックハンドやべぇ。


「なんなんだ! 見ず知らずの人間を爆殺しようなんて!」


 爆発がひと段落したので、平和的に話し合いを試みる。


「ことによってはクリークだ!」


 ね? 実に平和的でしょう?


「んだ貴様! 一ヶ月一緒だった学友すら忘れちまったか!」

「知らん! 一ヶ月程度で覚えられていると思うな!」


 最低二年は持ってくれないと、顔と名前が一致しない。


「忘れたのか! かつての学友をよ!」


 ん? 学友? なんのことだ? そんな奴、いたっけか?


「お前、もしかして橋姫か!?」

「なんだロリコン! こっちは異端者抹殺に忙しいんだ!」


 そう言って、僕と公仁達の間に走り込んでくる。数は、十人といったところか。


 軽く見てみると、僕と変わらない年齢であることがわかった。


 全員、旅人みたいな格好だ。


「さて異端者。お前の罪を数えろ」

「まさかお前は、通りすがりの――」

「ああ、俺は、俺たちは、通りすがりの――勇者だ!」


 僕は思った。ああ、こいつ痛い奴だと。


 普通、初対面に向かってそんなことを叫ぶ!?


「えっと、何の罪?」

「美少女にあーんされた罪だ!」


 だからあれは自ら望んだ訳では無い上に気絶、気絶、気絶の三コンボだと何度も言ってるんだが。


 てか何こいつら、リア充ハンター? 随分過激ね。


「というわけだ。さっさと死ね!」


 うわー、マジ怖い。鹿肉食べてる最中に襲ってきた動物愛護団体過激派のやつら並に怖い。


 あいつら、強かったな。罠仕掛けておいて正解だった。


「おい待てよ! せめて名乗れ!」

「お前、ほんとに覚えてないのな……」


 そう言って大仰にため息を吐いた。


「俺の名は橋姫はしひめ宇治うじ。貴様のクラスメイトだ」


 なんだそのフルネームで呼ぶと敬ってるように聞こえる名前は。聞いたことないぞ。


「詳しいことは後ろのロリコンに聞け」

「お断りだ!」


 僕は懐からマジックハンド界に手を突っ込み、あらかじめ仕込んでいたあるものを掴むと、奴らに向かって全力投球!


 が。


 僕の『マイ唐辛子』は美しい放物線を描いて大暴投。


「ん? なんだ?」

「セル!」


 で、だ。ボムは不審者の頭上を通り過ぎ、セルの元へと飛来する。


 でもまあ、何も心配ないけどさ。こんなへなちょこボールをよけられないほど、セルは甘くない。


 てなわけで、予想どうりにセルは僕の『特性唐辛子爆弾』をキャッチしてしまった。


「セル! パス、パース!」


 とりあえず仲間意思を強調してみる。


 が。


「せ、セル?」


 あ、あの、セルさん? 何そのめちゃくちゃ悪魔的な笑みは。


 セルは懐に『マイ唐辛子爆弾』をしまうと、



「頑張って『あ、な、た』」



 その瞬間、世界が凍りついた!


 時間が、空気が、空間が、全てが!


 腕も、脚も、体も、全て!


 息遣いも、足音も、話し声なんてもってのほか!


 まさに氷河期。活動できる生命など存在しない。圧倒的なまでの衝撃。


 だが、そんな氷河を溶かす存在が、一つ。いや、十つ。


「許せねぇ……。許せねぇ……! 許せねぇ!」


 悍ましいほどの嫉妬の炎は、氷河期を吹き飛ばし、太陽に匹敵する熱量を放つ。


 禍々しい負のオーラが、彼らにまとわりつく。


 それはまるで神のような、見たものを恐怖と混沌の渦に叩き込む、陰の感情。


 黒よりも漆黒くろい、光をも飲み込む、邪悪な存在。


 それが、今の、彼らだった。


「憎い。この世の全ての男女が憎い。この世はなぜここまで差別に塗れているのだ。この世はなぜ人を選ぶのだ。見た目か? 性格か? 頭脳か?」


 先頭の男は呟く。聞くだけで背筋の凍るほど、その声は、嫉妬と怒りと憎しみが凝縮されている。


「人は生まれを選ぶことはできない。生まれ持った物が最悪だったとき、俺たちは、どうすればよいのだ……?」


 生まれが最悪でも、頑張ってる人はたくさんいるよ。セルや、ディーネや、夜魅なんかも。努力を怠った人間に、吠える資格なんて無い。


 ま、僕も言えたぎりじゃないけど。


「誰かが言った! クリスマスはなぜあるのか! 俺たちを殺すため? 否! ダイナマイトをプレゼントするためだ! 誰かが言った! バレンタインはなぜあるのか! 俺たちにストレスを抱えさせるため? 否! 毒殺の罪を誰かに押し付けるためだ!」


 橋姫なる人物は、後ろを向くと演説を始めた。てか、物騒すぎやしませんか?


「誰かが言った! 初詣は!? ホワイトデーは!? ゴールデンウィークは!? 夏休みは!? 何のために存在するのだと! リア充のためか!? 否! 断じて否だ! それらは全て、神敵を討つために存在しているに過ぎない! 答えよ! 我らの神は何方だ!」


「「「「「「「「「橋姫様!!!!!」」」」」」」」」


「であるならば! この世の全てのリア充は、橋姫様の名の元、絶滅させるべきではないか! この世の全ての男女の仲を粉々にするのが、我々の使命ではないか!」


「「「「「「「「「おおお!!!!!」」」」」」」」」


「諸君! 我々の初仕事だ! 神の意に背きし愚者に、裁きの鉄槌を下す時が来た! 奴の首を掲げ、今ここに! 我らの存在を! 神の意思を! 全人類に知らしめようではないか!」


 あっこれ拙い。逃げなきゃ!


「しねぇぇぇぇぇ!!!!」

「「「「「「「「「死ねぇぇ!!!!」」」」」」」」」


 僕が走り出すのと、爆発が起こるのはほぼ同時だった。


 逃げる背中に、ディーネの声が届いた。


「絶対に攻撃をくらってはダメよ! 掠るのすら禁止よ!」


 ま、僕の紙耐久じゃ爆発の余波だけで死にかねないもんな。


「フェーダ、状況報告! ……フェーダ? フェーダ!」


 いつもはすぐ出てくるはずのドМが、いくら呼んでも出てこない。


 仕方ない。マップだけを頼りに逃げるしかないか。


 マジックハンドは使えない。この状況じゃ、何か使ってることなんて一目瞭然だし。解析掛けられたらバレるし。


 ならば、出来るだけ人通りの少ない道を見つけるしかない。


 僕はとりあえず、近場の路地に入る。


 この都市、区分けの影響で路地が無数にあるんだよね。マップがなければ確実に迷うレベルで。


 何本か曲がり、手頃な物陰に身をひそめる。息を整え、スタミナを回復させているうちに、作戦を考える。


 ふと、遠くから叫び声が聞こえてきた。


「出雲とえのきは屋根に上れ! 夏向かなたは物見櫓から周辺の警戒! 俺たちは周りを囲む! 絶対にこの区画から逃がすなよ!」


「「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」」


 なるほど考えている。こういったところだと、上から見たほうが見やすいし、大通りに出ると人ごみに紛れられる可能性が高い。まあ、僕にはマップがあるから、警備の穴をかいくぐるくらいわけないけど。


 そうは言ってもここから出るつもりもない。全員返り討ちにしてくれる。


 マップを頼りに、一番近くにいる男の近くに行き、マジックハンドをステンバイ。


 そして、振り下ろす――が。


「おっとっと」


 向こうは訳のわからないところで転んだ。おかげで空振りだ。


 まさか……ドジっ子属性? こんないかにも高校生なガタイの男が?


 まあ、二撃目で沈められたんだけど。


「あ、ロープがない」


 しょうがない。No.36に水属性の〔バインドロープ〕を使わせる。


 これは〔バインドチェーン〕のロープ版とでも言うべき代物で、魔素性の縄を作り出すものだ。なぜ水属性なのかは知らない。


 だが、一撃目を外したのは失敗だったようで――


「いたぞ!」


 頭上から声が降ってくる。見ると、屋根に一人の男子が。


 マップを見て、前へ逃げる。こういう家と家の間って通りたくなるよね。日本と違って室外機もないし、通りがいはないけど。


 ちらっと見てみると、頭上のやつは華麗な身のこなしで屋根の上を飛び移っている。まるで忍者のよう。


 フリーランニングってやつか? あれめちゃくちゃかっこいいよね。僕もやってみたいんだけど、いかんせん運動神経が低すぎて……。


 まずはあいつをどうにかしないとな。と思っていたら爆発が来た。間一髪避ける。窓が割る。住人が騒ぐ。


「おい! なんだその避け方! 何をした!」

「別に僕は何もしてないけど!」


 マスターを逃がすのが最優先らしく、何も命令せずともこういったことはしてくれる。実に頼もしい。


 と言うか、スタミナがやばくなってきた。そろそろ鬼ごっこも終わりか。


「ぐっ!」


 飛行中に首とん。マジックハンドの運動能力ならわけない。一応見ず知らずなので、下にもう一体召喚してクッションにしておく。


 ふう、終わ――


 ドカァァン。


「うお!」


 突然目の前で爆発が起こる。No.36と48が受け止めてくれたが、彼らは重体。すぐさま避難させる。


 ちっ。どこからだ?


 マップを見た限り、まだそこそこ距離はあるんだが……。


 考えてる間に二発目。今度は逃げに徹したので、被害はない。


 そうか、上か。


 物見櫓は2-4-6にある。あそこならある程度は見渡せるだろう。


 てか、爆破スナイパーとかシャレにならん。


「ちょとあんた! どうしてくれるのよ!」

「請求は向こうに!」


 僕被害者だし。


 地元の人の声は無視して、走り出す。


 何度も爆発が起こるが、マジックハンドを首元にスタンばらせているおかげで、すぐさま回避できる。便利。


 ついでに、足元にマジックハンドを仕掛けとく。トラップの一種だ。踏んだ瞬間高い高いしてくれる。


 飛ぶ方向は固定してあるから、都市か城の結界にぶつかって麻痺るだろう。その先は……知らん。強く生きろよ!


 そうこうしている間に、物見櫓が上まで見える距離に近づいていた。確かに一人、こっちを睨んでる。


 もうすでにスタミナが限界なので、さっさとご退場願おう。出口は下です。


 気絶して降ってきたところをキャッチ。縛っておく。


 一瞬影が通ったので見てみると、人型の何かがスポーンと飛んでいくところだった。……もうそんなに近づかれていたか。


 櫓の下に隙間があったので、潜り込む。それと男子がやってくるのは同時だった。


「夏向! 返事をしろ!」


 男子は上を見ながら叫ぶ。どうやらさっきの男子は夏向というらしい。


 彼は今、気道を確保した状態でマジックハンド界に放り込んである。ほかの男子も同じだ。


 高度限界まで移動させたから、こちらに支障は出ない。我ながら完璧だ。


蓮太郎れんたろう! 夏向は!?」

「いねぇ。やられちまったみたいだ」

「さっき田宮くんが飛んでくのが見えたけど……」

「ったく夜持平よもつひらのやつ、どんな手を使ってやがる」

「空飛ぶ魔法か?」


 文字どうり手なんですが。


「オウフ。拙者が最後ではござらんか。いや失敬失敬。コポォ」

ゆかり! お前もっと痩せろよ」

「デュフフ。拙者運動はしないタチなので。司令塔なのですよ。ドプフォ」


 オタク笑い! 出た! オタク笑い出た! 得意技! オタク笑い出た! オタク笑い! これ! オタク笑い出たよ~~!

 え? いやいや、僕はオタクじゃないよ。オウフならたまに出るけど。


「てか最後って決まった訳じゃねぇだろ」

「フォカヌポウ。主役は最後に出るモノなのですよ。デュフフ」

「まあたしかに、コイツの登場は決まって最後だからな」

「てこたぁ、やられたのは上紙うわがみ、田宮、青霧、八反田か」

「我にも分からぬとは、一体どんな邪悪な手を使っておるのだ」

「お前の邪気眼でも分かんねぇのか?」

「うむ。かなり強力な術と見た」


 だから手だって。


「どうでもいいが、どこに行ったか調べねぇと」

「もう遠く行っちまったんじゃ?」

「いや、爆発が止まってから俺がここに来たのはそう離れてない。近くで身を潜めてるはずだ」


 嫉妬に駆られただけの馬鹿かと思ったが、なかなかどうして利口なようだ。


「ふっ。あの時を思い出すな」

「ああ、あれか。生き残ったのはお前と出雲だけだったか」

「ごめんなさい……」

「いや、別にいい。お前は立派に働いたさ。止めもお前だったろ」

「でも、そのせいで、みんなが……」


 かなり気が弱いらしく、しきりに謝っている。どことなくしゃどーに似てるな。最近ちっとも見ないけど、大丈夫だろうか。


「過ぎたことは忘れようぜ。それよりも今は、夜持平だ」

「出雲は上から警戒。蓮太郎、ついてやってくれ。ほかの奴らも二人一組。見つけ次第、片方は全力逃亡だ」

「まさか、対宗教戦法か?」

「ああ、出来るだけ速い奴が逃げろ。後、落ち合う場所は爆発で指定。攻撃とかぶせて、異端者にバレないようにな」

「「「「「おう!」」」」」


 それだけ言うと、二人を残して散っていく。……この場合、いかがなものか。


 まあ、敵の攻撃が分からない以上、誰かが見極めるのは大事だろうけど、索敵範囲が狭くなっちゃねぇ。


 敵のことなんてどうでもいいか。糧になってもらおう。


「すみません、遅れました!」


 櫓のしたから出ようとしたタイミングで、フェーダが出てきた。


「やっと来たか。何してたんだ?」

「研究がもう少しで完了だったもので」

「研究?」


 なんのこっちゃわからんが、今は敵を倒す方が大事か。


「オウフ。司令塔の面目躍如ですぞ。デュフフ。拙者、つい難しい単語を――」

「縁!?」


 オタク笑いが鬱陶しくなってきてたので、とりあえずデブを片付ける。面目躍如が難しい単語って、お前何歳だよ。


「お前、どこから……!」

「灯台元暗しってね」


 おっと、つい諺が。すまぬすまぬ。


「卑怯な手を使いやがって! 縁に何をした!」

「軽く手を加えただけだ」

「はぁ!?」


 さっきから全部当たってるんだけどな。


「くっそ。これでもくらえ!」

「よっと。片方は全力逃亡じゃなかったか?」

「くっそ」


 落ち着いて対処すれば、避けられないこともない。まあ、最終的に猫の気持ちになるんだが。


「うおおお!」

「命令はどうしたんだよ……」


 敵は逃げるでもなく突っ込んできた。


 獲物は剣か。見た感じ、達人が打った様でかなりの業物だろう。


 だが、当たらなければどうということはない。


深草ふかくさ! どうした!」

「菊野君!」


 そうこうしているうちに、残りのやつらが戻ってきてしまった。


「まさかお前……!」

「へへ。待つのは慣れてんだよ!」


 手加減していたら、手盛りを食ってしまった。


 うーん。ホントはもうちょっと訓練に付き合って欲しかったんだけどなぁ。まあ、しょうがないか。


 その場にいる全員を気絶させ、ロープで縛る。


 ほかの奴らも取り出して、適当に積んでいると、自警団の皆様がやってきた。


「そこの君! これは一体どういうことだ!?」

「ああ、えっと、カクカクシカジカで」


 これまでにあったことをざっと話す。


「つまり、よくわからないが襲われたと?」

「はい。そうです」

「ふむ。よし、連れていけ」


 こうして、縛られている9人が全員連行されていった。


 いやー。マジで怖かった。爆弾魔と戦ったことなんてなかったし。


 でもまあ、かなり走ったし。少しはスタミナや素早さも上がるのではないだろうか。


 ん?


「何やってるんですか?」

「君にも苦情が来ていてね。一緒に来てもらうよ」


 気づいた時には、手首に縄が巻かれていた。ご丁寧に親指まで。


「ちょっとフェーダ。何か言ってよ!」

「サーワタシナンノコトダカサッパリ」

「この野郎!」


 絶対わざとだ。間違いない。


「ほら、行くぞ」


 こうして、この都市で二度目の逮捕となった。

誤字脱字の指摘、感想等お願いします。

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