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絶晩成型  作者: 咫城麻呂
第四章 和ノ都市プリュス
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4-6 おさわりの代償

 やっほー。千曳だよ。

 電車で人を痴漢に仕立てようとするやつに一言言いたい。

 「自惚れるな」、と。


 ―――――――――――――――――――――――――――


 城を眺めていると、次第に話の流れはこの街の警備についてへと変わっていった。


 えっと、確か忍者隊なるものがあったような。


 敵の情報を知るのは大事だからね。今のうちにしっかり聞いておかないと。


「それじゃ、プリュス忍者隊ってのは六つの隊で構成されてるってこと?」

「ん」


 風隊。

 素早さと機動力に優れる。


 林隊。

 影の薄さと諜報力に優れる。


 火隊。

 情熱と殲滅力に優れる。


 山隊。

 安心感と防御力に優れる。


 ここまでが一般的に知られている忍者隊。


 陰隊。

 闇に紛れ敵を切る。暗殺専門の集団。


 雷隊。

 住民に溶け込み情報を操る。サクラや情報規制、噂の発信など多くの仕事がある。


 これが内部にしか知られていない忍者隊。


 ここまで聞いて一言。


「ここってそんな危ないところ?」

「んん。仕事、あまりない。みんな、暇」


 そもそも、忍者隊というものはそこまで人数がいるわけじゃないらしい。


 普段の些細な事件は自警団の仕事だ。


 よかった。この街にも提灯持って駆けずり回る人がいるのか。


「わたしたち、速さ、売り」

「つまり、事件が起きたらすぐに飛んでくるってこと?」

「ん。そう」


 僕が言うよりも先に、アウエラが質問してしまった。まあ、聞くことは同じだからどうでもいいか。


「なんで忍者隊なんてあるんだ?」

「……さあ」

「それでいいの?」


 どうせ初代勇者のことだ。ロマンとかそこらへんの産物だろう。


「たまに、事件、ある。忍者、必要」

「自警団は?」

「迅速解決、モットー」


 仕事取るなよ。


「仕事ぶりを見せてもらいたいものね」

「そんな都合よく事件なんて起きないでしょ」


 流石に不謹慎すぎる。


 すると、セルは僕に向き直って一言。


「手、出す」


 シェイクハンドを要求された。


「何で?」

「いいから、出す」


 よくわからないつつも、セルの頼みということでおとなしく差し出す。


 すると、彼女は僕の腕をつかみ、自らのまな板に押し付けた。


 傍から見たら完全無凹凸なまな板だが、実際も凹凸がない。


 だけど、凸凹がないくせに妙に柔らかくて、弾力があって、人肌の暖かさとセルの鼓動が感じられて――。


「きゃーちかんよー」


 はっ! しまった。つい指を動かしてしまった。


 あれ、これってもしかして、いやもしかしなくても痴漢!?


 急いで手を話そうとしたら、握りつぶされそうな勢いで掴まれた。意地でも離すつもりはないと。


 てか待って、折れる! 折れちゃうから! 離さないから、だからせめて力抑えて。


「そこの貴様ぁ! いくら相手が副た――美少女だからって、やっていい事と悪い事があるだろ!」

「そうだそうだ! 手を出したい気持ちもわかるが、貴様に副たい――超絶美少女は不釣り合いだ!」

「大丈夫ですか!? 副隊ちょ――絶世の美少女さん」


 唐突に三人の旅人風の男性が現れ、僕をセルから離し、手を縛っていく。


 というか、隠しきれていない。お前ら陰隊かよ。ほかの隊の仕事奪うなよ。さっき暗殺専門って言っちゃったじゃん。


「分かった?」

「ええ。かなり早いわね」

「思った以上だ。優秀だな、ここの警備は」

「痴漢対策はうれしいね」


 は……薄情すぎる、うちのパーティーメンバー。仲間が策にはまってお縄を頂戴してるんだよ?


「よし、連行だ!」

「「はっ!」」


 こうして、僕は引っ張られるように連れて行かれるのだった。


 ★★★


「貴様、副隊長と随分仲いいようじゃあないか」


 お城の敷地内にある独房にぶち込まれ、あまりの痛さにお尻をさすっていると、三人の内で一番背が高い男性が話しかけてきた。


「どうなんですかね?」

「貴様、ふざけているのか!?」


 僕から見て右側の人――せっかくだから右京さんとでも呼んでおこう――が凄む。


 果たして策にはめて逮捕させる関係を仲がいいと呼べるのか。


「話によると、『あ~ん』してもらったことがあるとか」

「「う、羨まし過ぎる……!」」


 右京さんと左京さんが同時に呟く。あ、左京さんは左側の人ね。


 にしても、渋い声で『あ~ん』は笑える。


「まあ、ないわけでは無い様な有る様な」


 気絶させられたことならあるけど。


「さらには一緒に買い物に行ったこともあるようじゃないか」

「「で、デートっすか!?」」


 今度は同時に叫ぶ。双子かな? 息ピッタリ過ぎる。


 うーん。あの買い出しをデートと呼べるかはいささか疑問だ。でもまあ、初めて本性を知ったわけだし、間違ってないこともない……かな?


「極めつけはさっきのセクハラだ。もう有罪しかないな」

「「ギルティ!!」」


 おいおいおいおい。お前ら監視してたんだろ! さっきのが向こうから仕掛けたってことぐらいわかるだろ!


「いいか貴様覚えとけ! 副隊長に手を出すってことは、俺たち陰隊を相手にするってことだとな!」

「き、肝に銘じておきます」


 まじか。陰隊ってそんなにセルのこと好きなの? もっとこうかっこいいイメージがあったのになぁ。


「だが、あんなに楽しそうな副隊長を見たのが初めてだというのもまた事実」


 リーダー風の男性が、突如として勢いを変える。右京さんも左京さんもついてきていない。


「特別に、師匠からの伝言を預けよう」

「いいんですか!?」

「構わん。どうやら副隊長は、完全に俺らとは離れてしまったようだしな」


 左京さんの問を、あっさりと跳ね返す。


 ……それならあの勢いはなんだったんだ?


「『前日祭の夜、屋敷にて待つ』、だそうだ」

「っ!?」


 この都市は約千年前の9月15日に完成した。


 それを祝して、毎年『建都祭』が開かれるのだ。


 そしてこの前日、9月14日には、人呼んで『前日祭』と言うお祭りが開かれる。


 この日には、忍者隊を含めた全ての仕事が休みになり、一日中お祝いムードなのだそうだ。


 その分『建都祭』は奥ゆかしく行われるらしい。


『建都祭』には殿様も参加する上、お城も公開されるので忍者は休めない。その為に『前日祭』を作ったというのが通説だ。


 で、この『前日祭』の夜。これが、プリュス奪還作戦の予定時間だ。


 つまり、作戦がバレている!?


 僕が聞き返す前に、リーダーはさらに口を開く。


「あの人は鬼だ。冷徹だ。人ではない、まさに悪魔とも呼べるお方だ」


 ここで言うあの人ってのは、ムクロさんのことだろう。師匠をそんなに言っていいの?


「いくら娘のような存在でも、構わず切り捨てるだろう。そういう人だ、師匠は」


 娘のような存在。セルのことかな?


「副隊長にもしものことがあれば、陰隊総出で貴様を殺しに行くからな」

「は、はい」

「……副隊長を、頼む」


 それだけ言って、三人は離れていった。


 よかったじゃんセル。めっちゃ愛されてるよ。


 と言うか、あれだけ師匠の怖さを語っといて何かあれば殺す、ですか。


 まあ、僕としてもセルが殺されないように精一杯努力するつもりだ。仲間が死ぬとか嫌すぎる。


 ……ところで、何時出られるのかな、ここ。

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