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絶晩成型  作者: 咫城麻呂
第四章 和ノ都市プリュス
49/68

4-4 殺人たい焼き唐辛子

書き終わったんで投稿します。

 やっほー。千曳だよ。

 猫舌の人ならわかると思うけど、焼きたてのお菓子が食べられないのはかなり辛いよね。

 食べたい。でも食べると火傷する。一種の拷問だよ。


 ――――――――――――――――――――


「おっす、おつかれさん。どうよ成果は」

「まあまあってところですかね。あんまり魔物が出てこなくて」

「ああ、よくある話だ。でも、ちゃんと狩れたんだろ?」

「ええそれはとっても」

「……今日こそ泊まれるといいな」

「……ええ、それは……とても」


 門番と爽やかに会話しているの、僕なんだよ? 驚いた?


 昨日、温泉だけ入って宿の前で野宿しました。


 警備の人に見つかりました。


 ……つまみ出されました。


 で、夜勤の門番に泣きながら話したんすよ。


 同情してもらえました。


 もうね、こう、なんというか、この世にもこんな優しい人がいるんだなぁ、と。


 そう思ったわけです。


 それに比べて仲間の薄情さときたら。


 流石、自己中のより集めパーティー。


 幼女三人は別にいいんだよ。可愛いし、そこそこ優しいし。安いところとってくれたり、狩りの手伝いしてくれたり。


 だが公仁、てめぇはダメだ。


 寝てる間に、こっそり額に「肉」って書いておいた。……ミナミゴリラの血で。


 今頃大騒ぎしてるだろう。


 話が逸れた。


 結局、魔物狩りと睡眠を兼ねて街道からほど近い森で野宿。


 そこで新事実が一つ。


 マジックハンドが殺した魔物、素材は回収できるのだ。


 本体は何事もなかったかのように消えちゃったけど、魔石は残った。捕獲した魔物も同様に消えなかった。


 やったね!


 ★★★


 懐が暖かい。


 ま、この世界だと財布が重いとかないんだけどさ。


 硬貨って存在するのかな? 金貨とか銀貨とか。未だに見たことがない。


 というか、お金の取引すべて冒険者カード。便利すぎて何も言えない。


 無駄遣いできないクレジットカードとはなんと便利なことか。


 お金を持ち運ぶ必要もないし、盗まれる心配もない。


 銀行が襲撃されたら? ……考えないでおこう。


 一応勇者が作ったらしいから、そうそう襲撃されることもないだろうし。


 とにかく、魔石を売って四日分の宿代を確保した。少しあまりもあるし、遠足のおやつ程度だったら買える。


 ここら辺の魔物は軒並みCランク以上だとかで、かなり高額で売れた。


 何でそんな強い魔物ばっかなんだろ? ま、いっか。


 あ、懐の暖かさが――


「頭に登ってきたんでさっさとおろしやがれください」

「俺がどんだけエライ目に会ったと思ってる! 蛮族扱いだぞおらぁ!」


 知るか。心臓麻痺で死ななかっただけありがたいと思え。


 昨日の悪戯のせいで、公仁の人気は鰻登りだ。


 曰く、血で化粧する野蛮人。

 曰く、ゴリラキラー。

 曰く、雨に濡れて煙出す人。

 曰く、この肩パットは100キロ。


 スゴイよ公仁さん!


 後半の方何が何だかさっぱりだけど、とりあえず額のたった一文字で周辺住人のヘイトをもってけるところ流石です。


「心の中で褒め倒したのでそろそろ降ろしてください」

「いやダメだ。お前がトイレに行きたくなるまでこのままだ」


 地味すぎる。


「トイレイキタイナー」

「顔が赤くなるまではこのままだからな」


 ちぇ。これでも充分頭に登ってるっていうのに。いや、下ってる……か?


「どう言うことよ」

「昔聞いたんだがな。頭を下にして吊るしておくと血が集まるもんで、脳が水分が多いと勘違いして排出しようとするらしい」

「それはこっちの世界でも通用するのかしら」

「さあな。でもまあ、どっちにしろ血が集まるわけだし、そのまま血管やら脳やら頭蓋骨やらを突き破って死ぬだろ」

「あら、グロイわね」


 事も無げに言わんでよ。死ぬんだよ? いいの?


「流石に殺しゃしねぇよ。悲しむ奴がいるからな」


 へぇ、ついに僕にも存在意義が生まれたか。なにげに最終目標だよこれ。あれ? じゃあもう死んでもいい?


 いやいやいやいや。流石に死ぬのは嫌だって。なんでか知らないけどさ、少なくても若いうちに死んじゃいけない気がするんだよね。


「てかさ、この近くにトイレってあるの?」

「各家庭に備え付けられてるよ。だよね?」

「ん。法律、家、トイレ、付ける、義務」

「流石に人ん家の使うのはちょっと」

「そうね……誰か! この近くに診療所は?」


 答えたのは、野次馬のおっさんだった。


『二つ目の角曲がったところにあるぞ!』

「ありがとう」

『いいってことよ』


 最近、人の優しさに触れる機会が多い気がする。おっと、目から鼻水が。


 いや、待てよ? この状態を助けないのは果たして優しいと言えるのか。こっちは死刑宣告されてるも同然なんだぞ?


 涙が急速に乾いていくのを感じる。いいぞ、その調子だ。


「セルさんや、助けて」

「見てて、楽しい」

「アウエラさんや……って、あれ? どこいった?」


 さっきまでいたよね?


「見物、お菓子、買う、言ってた」


 敵しかいねぇ!


 しょうがない、マジックハンド使うか。


 うーん。バレないようにするにはどうすればいいか。


「フェーダさんや」


 とりあえず読んでみる。が……。


 し~~~~ん。


 あ、あれ?


「フェーダ? フェーダ!」


 なぜだ! なぜ出てこない!


「は~い?」

「遅い!」


 たくもう。いつもならすぐに出てくるのに。何なんだ一体。後でデコピン確定だな。


「降ろして」

「このギャラリーの中ではキツイかと」


 今の僕の状況は、宿の近くに生えてた木の一番上から真っ逆さまに吊り下げられている。


 マジックハンドでこっそり縄を解いたところで、地面に落ちて首を折るというわけだ。


 落ちるのを足場で防ごうにも、チーガルみたいな魔法を持った人が居た場合バレる。流石に運任せはしたくない。


「それは何とかするから」


 ここは伝家の宝刀を使うしかない。


 僕は大きく息を吸い込み、上を指差して叫ぶ。


「あ! あれはなんだ!?」


 伝家の宝刀、あそこにUFO。


 効果は抜群で、メンバーを含めた全員がその方向を向く。


 その隙にマジックハンドが縄を切り、足場を使って危なげに着地。


 いつの間に戻ってきていたアウエラから三色団子を没収し、パーティー全員の首根っこをつかみ、裏路地に飛ぶ!


 誰もいないのはマップで確認済み。そのまましばらく飛び続け、頃合を見て着陸。事なきを得た。


「返してボクのお団子!」

「嫌だ」


 裏切り者にやる団子などない。お、うまいなこれ。


「見てた人は?」

「いません。作戦成功です」


 よし。なんとかなった。


「良くないわよ! なんなのよあの飛び方! 死ぬかと思ったじゃない!」


 この程度で死ぬほど柔じゃないだろ。


「楽しかった。また、やって」


 ひとりお気に召したようで。アトラクションにできるんじゃない? ……無理か。首が死ぬ。


「今日は観光するんだから、さっさと案内してよ」

「ちぇっ」


 不満そうな公仁。手伝わなかったお前が悪い。


「というか、ここはどこなのよ」

「んっとね。7-3-12かな」


 この都市は縦横9の通と、通に囲まれた8×8の区画。さらにその中の4×4の小区画から成り立っている。


 最初の数字が北西側からの縦区画番号で、次が横区画の番号。最後の数字が、その中にある16の小区画の番号だ。


 まあ、将棋の盤の数え方とだいたい同じだし、わからなかったら各自調べて。


 とりあえず、温泉街は6-1から8-3までって覚えといて。


「そうね。とりあえず7-7まで行って、そこから西へ、最後には降光神社に行くルートでいいわね」

「よし、行くか」

「おー」


 公仁とセルの掛け声の元、プリュス観光が始まる。


 ★★★


「はむ。ふむふむ、うまいなここ」

「でしょ? ボクも昨日来てからハマっちゃってさ~」

「ああ。マジでうまい」


 それはもうとても。驚くくらい。


「あら、美味しいわね」

「ん。変わらない」


 ああ、うん。セルも前から好きな場所か。


 そりゃそうか。だって、こんなに、こんなに――


「こんなにも美味そう」

「金、無い、悪い」

「高いのが悪い!」

「失礼ね! ウチは素材と味に釣り合った値段だよ!」


 店長からお叱りの声が。


 ああ、食べたい食べたい。しかもよりによってたい焼きだと!? なぜこんな時に!


「お、そうだったな。お前大好物だもんな。た、い、や、き」

「くっそ。死んでしまえ」


 思いっきり中指を立てたい。ギリギリしか金がない自分を憎みたい。そんなギリギリの金額しか稼げなかったマジックハンドを呪殺したい。


「ダーリン。あーん」

「へ? あー――ンガッ!」


 瞬間、口内に激痛が走る。


 細胞が死に、神経が燃える。


 熱は喉まで侵食し、肺胞を焼く。


 脳が許容量以上の激痛に、情報をシャットダウンしにかかる。


 そして、めのまえがまっくらになった。


 ★★★


「はっここは!?」


 目が覚めると、知らない天井だった。


「あっやばい起きた」

「くっそ、あと少しだってのに」


 あの二人共、赤いインクを指につけて一体何を?


 しかも妙に顔がスースーする。


 これはもしや……。


「どうするの公仁」

「構わねぇ。もう一発ぶっ込め!」


 貴様ら、一体何を!?


 マジックハンド、こいつらを掴ま――


「千曳、あーん」

「もうその手にはのら――ブヘっ!」


 腹パンされた。勢いで、口が空く。


「いいから、食う!」


 瞬間、口内に激痛が走る。


 細胞が死に、神経が燃える。


 熱は喉まで侵食し、肺胞を焼く。


 脳が許容量以上の激痛に、情報をシャットダウンしにかかる。


 そして、めのまえがまっくらになった。


 ★★★


「はっここは!?」


 目が覚めると、知らない天井だった。


「お、やっと起きたか……ブッ」

「ごめんねダーリン……ふふ」


 どうやら何かで気を失って、一服の従業員スペースを貸してもらったようだ。シフトやらロッカーやらが見える。……ロッカーなんてあるんだ。


 ん? やけにボロボロだな。壁にも床にも穴空いてるし。見た感じ新しいお店だと思うんだけど、老舗なのかな?


 というか、さっきから周りの反応がおかしい。


 全員がなんとなく視線を逸らしているような、何かを必死にこらえているような。


 そして、僕の顔を擦るナニカ。


「なにやってんの?」

「知らない方がいいですよ。マスターのためにも、みんなのためにも」


 フェーダさんのそっけない返事。


 すごく気になる。一体何が起きてるのか。


 擦ってるのは、布……か?


 アカい……?


 一体何が……グッ!


 あ、頭が、頭が痛い!


「やばい。また暴れるぞ! 次弾準備急げ! 例のヤツ!」


 痛い、痛いイタイイタイ!!


「くっ、抑えられません!」

「貴女、スキルフェアリーじゃないの!?」

「マスター権限には逆らえません!」


 ぐぁぁぁ!! 割れる、頭が割れる!!!!


「アンタら、いつかきっちり払ってもらうからね!」

「公仁、アウエラ、ケジメ、取る」

「後でな!」

「ほら、焼けたよ!」

「さっさと突っ込め!」

「千曳、死になさい!」


 瞬間、口内に炎が生まれる。


 その熱は細胞を溶かし、神経をこれでもかというほど刺激する。


 その痛みは神経に乗り、脳を叩く!


 かつてないほどの痛みに、脳は即時に情報遮断命令を下した。


 そして、めのまえがまっかになった。


 ★★★


「は――うっ」


 声を上げた瞬間、口内に激痛が走った。


 なぜだか、息をするだけで肺が痛い。


「ああ、まだ話しちゃダメです。口内の細胞がどれだけ死滅してると思ってるんですか」

「唐辛子入りの効果は凄まじいな」

「アンタ、えげつないこと考えるねぇ」


 唐辛子、だと? それを火傷した口に? 殺すつもりか!?


 ん? そもそもなんでそんな事態に? 僕はただやけどしただけのはずじゃ?


「千曳、私、見る」

「え? ああ、うん」


 はぁ。相変わらず、小さくて可愛いなぁ。完全無凹凸。素晴らしい。


「よし、気がそれた」

「今のうちに」


 うん? そういや、なんで寝てるんだろ。確か、アウエラにたい焼きを食べさせられて……。


「さあ、さっと次行くわよ」

「あ、うん。ってあれ? もう夕方?」

「貴男、気絶しすぎよ」


 口内の火傷で気絶ってだけでも充分恥ずかしいのに、しかも夕方までってどんだけだよ。


「さて、行くぞ」

「この代償は高くつくからね!」

「「は、はい……」」


 うん? どうしたんだろこの二人。妙に元気が無いというか、店長に怒られてる?


 って、うわ。ここの従業員スペースやけにぼろっぼろだな。


 壁も床も穴だらけだし、凹んでるし、ひどいところなんか大きく貫通してるところもあるし。


「ここって老舗?」

「さっさと出てきな!」


 なぜか店長に追い出された。


 店を出ると、帰宅途中の人や、今から夜勤の人、買い出し、外食、その他。多くの人でごった返していた――のだが、この店の周りだけは違うようだ。


 やっぱりあの熱さは殺人級のようだ。誰もが遠めにみるだけで近づかない。


「何も知らないって、平和ですねぇ」

「俺らがどんなに苦労したと思ってんだか」

「自業自得、諦める」

「分かってはいるんだけどさぁ」

「ま、千曳の本気が見れたことだけよしとしましょう」


 ん? みんな何話してるの?


「なにか隠して――」

「さ、行くわよ! 夕飯おごってあげるから」


 やけに優しいみんなに、夕飯を恵んでくれたから良しとするか。


 しかし、一体なんだったのか。

誤字脱字、感想等お願いします。

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