4-1 姫様の入浴
やっほー。千曳だよ。
サバイバルで入る風呂は五右衛門風呂が基本だけど、そうそうドラム缶って落ちてないと思うんだ。
川の水温めただけでも、充分風呂の足しにはなるよ。
――――――――――――――――――――――――――
「おえぇぇ……」
「千曳、大丈夫?」
「無茶するからよ」
「だって……今日は行けると……思ったんだもん……うぷっ」
「その自信はどっから来るんだか。車でも無理なんだから馬車がいけるわけないだろとあれ程」
「そろそろ諦めたほうがいいんじゃ……」
「明日こそ…必ず…」
「もう辞めて! ダーリンのライフはゼロだよ」
「処理するこっちの身にもなれ」
「貴男がダウンするとご飯が食べれないじゃない」
「皆、迷惑。即、諦め、付ける」
皆自分のことしか考えてないということがよく分かった。アウエラは優しいなぁ。
キエーザを旅立って数日。僕は馬車に乗っては酔ってダウンするという事を繰り返していた。
だって、馬車の小さな箱の中には幼女しか居ないという理想郷が広がってるんだよ!? 諦めるわけないじゃん!!
え? 1人男だろって? 馬鹿言え。男の娘は女に数えたって問題なかろう。これ以上何か言うなら、マジックハンドけしかけるぞおらぁ!
いけないいけない。連日のダウンでテンションがおかしくなってる。
でもまあ、毎日の様に地獄を見てることに変わりはないし、言われるまでもなく控えるけどさ。
というか、場所的にそろそろプリュスに着くし、これが最後になりそう。
兎に角、今日も今日とてマジックハンドに横になって込み上げてくる吐き気を抑えつつ、窓から話しかけてきてくれる三人と会話しながら、僕らは往くのだった。
★★★
「へ? なんて?」
「だーかーらー風呂よ風呂! 風呂に入りたいの!」
それは、その日の夕方。野営地を決めた直後の事だった。
唐突に、ディーネ様が注文して来た。
「なんでまた?」
「入りたいからよ」
そりゃ分かってるよ。
「なんでこんな場所でかって聞いてんの。あと一日我慢すれば入れるだろ」
「ダメよ。私、一週間風呂に入らないと死んじゃう病なのよ」
どこの海賊だよ。
「どうしても入らなきゃダメなの?」
「ええ。最悪、ここら一帯が吹き飛ぶわ」
「何それ怖い」
ここら一帯を吹き飛ばすって、何するつもりだよ。暴れるの?
「そういうわけだから、よろしくね☆」
「うっざ」
「あ゛?」
「すみませんでした……」
小さな女の子に凄まれるって、こんな感じなんだ。マジで怖い……。
「可愛い顔が台無しだよ?」
「さ、さっさと作りなさい!!!」
ちょっと顔が赤いのは、きっと西日の所為。
★★★
「A班は穴掘り、B班は石の採掘、C班は屏風作り、D班は薪の準備、E班は待機ね」
マジックハンドがあると、工事が楽でいいね。ちなみに、一班五体編成だ。
丁度良く、近くに川が流れてるから、石を使った簡易的なお風呂を作ることにした。
風呂自体は小四の頃に作ったから、それほど問題じゃない。マジックハンドのおかげで楽になってるほどだ。
穴掘って、石敷き詰めて、水引いて、熱した石で沸騰させれば完成。
お、石が揃った。さっさと燃やそう。薪班準備オッケー?
で、熱してから思ったんだけど、これどうやって取り出そう。うーん。めんどくさいし、ゲートで裏に入れとこ。
正直なところ、五右衛門風呂が一番なんだけど、この世界にドラム缶があるとも思えないし、ディーネには素早く入ってもらうことにしよう。
魔素から作った安心安全綺麗な水をささっと流して、石をマジックハンド界から取り出してっと。
あ、ちょっとずれた。もういっかい。よしよし。すぐに沸騰するだろう。
屏風の位置はっと、オッケーオッケー。これで向こうからは見えませんよ~っと。
「あら、随分本格的じゃない」
「これでも結構手抜きだよ? 突貫だし」
「急に頼まれたにしては上出来よ。褒めてあげるわ」
「うん……」
褒められてる感が全然ない。ま、しょうがないか。
「すぐに冷えると思うから、出来るだけ簡単に済ませてね。あと、そこそこ浅いから、そこも気をつけて」
「むう。まあ、そこらへんはよしとしましょう。公仁たちからは見えないんでしょうね?」
「うん。そこも確認済み。篝火も焚いてあるから覗きもできないし、そもそも不審な動きは見逃さないし」
そうは言っても、アイツは紳士だから、覗くなんてこと絶対にしないだろうけど。覗いたら覗いたでここら辺一体が血まみれになるだけだし。
あ、もちろんあいつの鼻血だ。いくらお嬢様でも、殺しはしない……と思う。
「それじゃ、ごゆっくりー」
コンシェルジュ的な役割のために、フェーダとE班を残すことを伝えて、その場を去る。ご要望に応じて大体のことはしてくれる。ブラックカード並みの待遇だ。
屏風の向こう側にある野営地に戻る。今日の晩飯は……焼肉か。焼肉って言うと焼けた薄い肉の方が出てくるけど、実際は焼けた魔物の腕とか足とかだから、焼け骨付き肉の方がいいかもしれない。
ちなみに料理長はセル。彼女も料理はだいぶできる。
「お疲れ、ダーリン」
「ん。お疲れ」
「災難だったね、ってな」
皆先に食べ終わってるみたいで、一本しか残ってない。一本しかないと取るか、一本もあると取るか、悩ましい。
あたりもすっかり暗くなって、焚き火がいい味出てる。いい感じに野営感があるね。
「ったく、ディーネも人使い荒いよ」
「聞こえてるわよ?」
聞こえるように言ってんの。
人使いの荒さは師匠である程度なれたと思ってたんだけどなぁ。これは認識を改める必要がありそうだ。
そんなことはどうでもいい。飯だ飯。一仕事したあとの飯はうまい。まあ、僕自身は全然働いてないけど。酔っちゃったからね、仕方ないね。
しばらくしてから、水音が聞こえてきた。入ったっぽい。全くいい御身分だこと。
多分向こうでも、温いだの熱いだの言ってるんだろうな。対する方がドエムだから、案外うまくいってるかもしれない。
しばらくの間、肉を食べながら駄弁っていた。そうしたら、話の流れは戦闘の方に移っていく。
「僕もほかのステータス上がらないかなぁ」
「お前は本来の力でもその程度ってことだろ」
「それさぁ、レベル付ける意味あるの?」
ほぼほぼ愚痴である。
「んなもん、神に聞けよ。つか、素早さは上がってるんだから文句ゆうなよ」
「そもそも、ダーリンにはマジックハンドがあるんだから、その上肉弾戦が強いなんていったら弱点がなくなっちゃうじゃん」
アウエラにだけは言われたくない。遠近両用のくせに。
「アウエラは物理、ルーリーは魔法で死角がないじゃん」
「そんなことないよ。ボクあんまり早くないし」
「ま、僕の方が遅いけどね……」
「ダーリンはマジックハンド、公仁は影、セルはそもそも早すぎ。ボクだけ緊急離脱ができないんだよね……」
僕のつぶやきはスルーですか。そうですか。マジックハンドに、出来るだけ助けるように言っておこ。
「そういやさ、ディーネって戦えんの?」
「一応、魔法使い設定らしいぞ。どこまで本気だか」
「あんまり想像できないね」
「師匠、言ってた。ディーネ、わがまま、でも強い」
「ふーん。そっか、セルの師匠もディーネと――」
「きゃーー!!! 《め、【メルトダウン】》!!!」
叫び声が聞こえてきたと思ったら、体が浮いていた。
何言ってるかわからないと思うけど、僕も何が起きたのか、すぐに把握できなかった。
首に感じる触感。どうやらマジックハンドが首筋を掴んで持ち上げてくれたようだ。
あたりを見渡すと、一面の溶けた地面。そしてその中心地には、不自然な窪みと、そこにへたりこむ、ひとりの幼女がいた。
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