1-4 バトルジャンキー魔王
やっほー千曳だよ。
普段から話してる人が思いのほか賢いとびっくりするよね。
いつもあんなにばか騒ぎしてるのにここぞという時に賢くなるのって反則だよ。
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ルールが出来たから今後について話し合うことになった。
「これからどうしようか」
「とりあえず、何処か街に行きたな」
「それは明日からだね。夜に歩くのは危険すぎるから」
「今出来ることはないのかな?」
「そうだね…ステータスを公開するのは?」
「それはだめだ」
さっきから黙って考え事をしていた公仁が夜魅の提案を否定した。
「え、なんで?お互いの力を知っていれば連携取りやすいじゃん」
「これはあくまで推測だが、俺達はそれぞれ違う森にいるんじゃないかと思ってな」
「どういうことかさっぱりわからないけど、それとステータスの公開にはどんな関係が?」
「まあ待て。先に俺の考えを聞いてくれ。だがあくまで推測だから、それを考慮してくれよ」
とりあえずうなずいておく。まあ聞き流すつもりだけど。
「まず、マップについてだ」
げ。関係あるじゃん。一応聞いておくか。
「マップに何かあるの?」
「ああ、お前の話を聞くと俺達は青い点で表示されているんだろ?」
「うん」
「青い点は友好モブだったはずだ。普通、友好モブってのは敵対していないっていう意味だろ?」
確かにあのゲームはそうだった。僕はうなずく。
「だが、俺達は敵対して無いなんてレベルじゃない。仲間だろ。仲間は白だったはずだ」
「確かに」
言われてみれば不思議だ。
「だから目の前にいるのは違う誰かなんじゃないかって思ったんだ。まあ、マップの仕様が違うからかもしれないがな」
「まあ筋は通ってるね」
あのゲームをやってない夜魅は微妙な顔をしてる
「これが一つ」
「まだあるの?」
「ああ、だがその前に、歩き回ってるときに俺は何かしゃべったか?」
「はぁ?何いってんの?」
「ついにおかしくなっちゃったか」
「柄にもなく頭使いすぎたんじゃない?」
「……とにかく何かしゃべったか?」
公仁が思いのほか真面目な顔だったから一応真面目に答える。
「なにもしゃべってないよ」
「そうか。ならいい」
訳が分からない。
「どうかしたの?」
「いやこれで二つ目の確証が取れたからな」
「自己完結してないでさっさと教えてよ」
「わかったわかった。えっとな。俺はしゃべったぞ?」
「え?」
「むしろ、しゃべらなかったのはお前らの方だしな」
「何いってんの?アンタと千曳は何もしゃべらなかったじゃん」
ちょっとまった。
「僕はしゃべったよ。しゃべらなかったのは二人じゃん」
「ちなみに、何をしゃべった?」
「何って、この森広いねとか、さっきの鳥人についてとか。全部無視されたけど」
「無視したのはアンタでしょ」
「夜魅はそもそも何もしゃべってないじゃん」
「しゃべったってば」
埒が明かない。
公仁を見るとにやにやしている。
「公仁、そろそろ種明かししてよ」
「そのままだ。俺達三人とも何かしらしゃべったがお互いに聞いてなかった」
「私らはともかく公仁が聞き漏らすことなんてないでしょ」
公仁は情報収集が趣味なだけあって人の話には常に気をつけている。
その公仁が聞き漏らすってことは……。
「じゃあつまり……どういうこと?」
「お前らはしゃべったがお前らの目の前にいる俺達は話してない」
「……どういうこと?」
「つまり、目の前に俺達のフリをした違う何かがいてさっきまでの会話はこいつらが代読してたってことだ」
突飛な内容だったが笑い飛ばすことはできなかった。
「どういうこと?」
夜魅は理解できてないようだ。
「とりあえず。目の前にいるのは俺らじゃないってことだ」
「見た目同じなのに?」
「そうだ」
「ふーん」
こいつ、絶対理解してないな。
「じゃあ目の前にいるのは何なの?」
「それは我が説明しよう」
突然違う声が聞こえてきた。
声がしたほうを向くとゲームに出てきそうな服装の天王君がいた。
なんか、こう、危なくなったら世界の半分を譲りそう。
「ぶっ」
あ、夜魅が吹いた。僕はこらえてるってのに。
「やっぱりお前の仕業か」
「馬鹿三人組と思って甘く見ていたが、お前だけは認識を改める必要がありそうだな。もうちょっと情報を聞き出そうと思ったんだがな
ちなみに、馬鹿三人組というのは僕たちの呼び名だ。なんでも中学からいろいろやってきたことが影響してるようだ。
最近は何もしてないし元から馬鹿なのは夜魅だけのはずなのに。
「お前は何者だ?目的は何だ?」
「我は魔王サタナ=フレッサ。目的は強き者と戦うためだ。なんでも異世界人は強くなるらしいからな」
どうやら魔王さんはバトルジャンキーなようだ。
「異世界人ってことはやっぱりここは地球じゃないんだな」
「そうだ。ここはラオム。わが故郷だ」
「どうしてこんな手の込んだことをした」
公仁が聞くと一瞬だけ魔王さんの目が光った気がした。気のせい……だよね?
「順を追って説明しよう。まず、起きた時に一人じゃないと思わせる。これは、昔、一人だと思って落ち込みそのまま魔物に食われたやつがいたからだ」
やっぱりいるのか、魔物。というか、前にもこっちに飛ばされた人がいるのか。
「次、夢では無いと自覚させる。これは夢だから大丈夫と思って勝てもしない魔物に挑んで食われたやつがいるからだ。最後に行動の基準や目標を作ってもらう。こうすれば一人になっても困らんだろう」
「バトルジャンキーって大変なんだね」
まさか自分の欲求のためにここまでするとは。
「……とにかく。これら三つを完遂するために、妨げとなる話は全部カットさせてもらった」
「森での会話が聞こえなかったのはそのせい?」
「いや、それはただ単に用事があってダミーの声を出せる者がいなかったからだ」
それいいのか魔王さん。その間に大事な話してたらどうするつもりだったんだろう?
「で、俺達はどうすればいい?」
「お前たちの決めた通りにすればよかろう」
「そうすると、お前と戦うことはなさそうだな」
「へ?」
魔王さんが素っ頓狂な声を出した。
「どういうことだ。お前たちは元の世界に帰りたくないのか?」
「ああ、こっちの世界の方が楽しそうだしな」
「なんということだ。これでは計画が成功しないじゃん」
あれ?魔王さん。キャラ変わってません?もしかしてそれが素なのかな?
「むむむ。しょうがない。それじゃあ奥の手を使うか」
「奥の手?」
「ああ。負担が大きいからしたくなかったが、そうも言ってられんからな」
その後、魔王さんが何か唱え始めたけど聞き取れなかった。
魔法の詠唱ってやつかな。赤い光も出ててすごいかっこよかった。
しばらくして詠唱が終わった。
あれ?特に何も変化がない。何したんだろう。
「お前、なにをした?」
「はあ、はあ。魔物が寄ってくる匂いを付けてやった。これで効率よく経験値を稼げる。人体には無害だから気にするな」
「お前、それやって俺達死んだらどうするんだよ……」
「知ったことでは無い。あ、そうだこれをやろう」
そうやって懐から取り出したのは剣だった。
なぜ懐から?
「それではな。ある程度育ったら適当に誘拐するから」
「そんなこと出来るのか?」
「いや。出来んが」
出来ないんかい。じゃあなぜ言った。
「そうだった」
そういって魔王さんが指を鳴らすと、公仁たちが崩れ始めた。
どうやらスライムだったらしい。にしてはさっきチョップしたとき硬かったんだけどな。
その様子を見てるうちに魔王さんもどこかへ行ってしまった。
後に残ったのは僕と魔王さんの出した剣だけだ。
僕の長い夜は始まったばかりだった。
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