3-7 鱗の天使
やっほー。千曳だよ。
誰だって怒られるのは嫌だよね。
たとえそれが避けられないことだとしても、出来るなら怒られたくない。そんなもんだよね。
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「はい、はーい!」
突然の声に、団員達は出処を探すように辺りを見渡し始めた。
まあ、すぐわかるはずだけど。手、挙げているし。
「……なんだ小僧」
エクウスさんの声が震えている。おお、怒ってる怒ってる。
「龍翼種ってなんなんですかー?」
僕は努めておどけて尋ねる。周りの団員が馬鹿なことするなと言ってきている気がするけど、これもみんなのためだ。
「……邪神の、使いだ」
「具体的にー」
「…………話すと長い。今は時間がない」
うっわー。マジで怒ってる。でも、どんなものかわからないと何もできない。なんとか聞き出さなくては。
「せめて特徴だけでも」
「奴らは針のようなものよ」
「針?」
「そう、まち針の頭に針が4つ、背中に羽根役が二対四本付いているのを想像すればいいわ」
針4つって、胴体ないじゃん。それに何なんだ、羽根役って。
「大きさはほぼ人と同じ。まあ、個体差はあるけど。攻撃は頭からの魔力砲のみ。かなりの速さだから注意が必要よ」
「ふーん。なるほど」
大体わかった。あとは硬さか。
「ありがと、ディーネ」
「別に。戦う相手のことは知っておいたほうがいいわ」
「というか、時間あったじゃん」
「…………………………」
おうおう、腕が震えてる。怒りのボルテージが上がっているみたいだ。
だが、これも必要なこと。すぐにサンドバックが来るから、それまで耐えて。
そして、時は訪れる。
「な、なにか降ってきたぞ!」
誰かが叫んだ。エビルピットを見ると、教えてもらったような見た目の、黒光りする物が降りてきた。
丸い頭のようなもの。短い針と長い針が二つずつ。体の後ろにも二対四本の針があるのが見て取れた。二つの羽のあいだに、光の膜のようなものが張っている。あれで飛ぶのか? 僕の知る天使とはだいぶ違う。
ってか、数多! 何体来るの? ざっと五十は超えてるよ!? あれが動き出したら相当やばそうな。
『『『『『キャアアァァァ!!!』』』』』
動き出す前から相当やばいことになった。
住人大パニック。蜘蛛の子を散らしたように、四方八方へ好き勝手に逃げ始める。周りの人への被害なんてお構いなし。自分さえ助かればいいという薄汚い考えが、人々を支配していた。
「くっ。パプストは何をやっている!」
「おおよそ、カーディナルがあることないこと吹き込もうとしたんじゃないかしら。まあ、あれを見ればそれも効果無いでしょうけど」
ディーネが話すと同時に、後ろから誰かが走ってきた。
「教皇様より命令です。住人の避難を最優先。あれが動き出す前にひとりでも多く避難させること、だそうです」
「聞いたな! 訓練通りに避難誘導! 各員、隊長の指示に従え! 指示がない場合、各自の判断に任せる!」
『『『『『はっ!』』』』』
ぞろぞろと団員たちが動き出す。僕も参加しようと思ったら、誰かに腕を掴まれた。
「貴様はここで私とお話だ」
「りょ、了解っす……」
ひ、ひぃ。怖い怖い怖い怖いこわいこわいこわいコワイコワイコワイコワイ。
エクウスさんの迫力は、僕に死すら予感させるものだあった。
「せ、セル。先行ってて。どうやら別任務があるっぽい」
「ん。自業自得」
セルも団員とともに下に降りていく。
団員が高台から降りたのを確認したあと、エクウスさんはゆっくりと息を吸った。
あ、オワタ。
「貴様は事の重大さがわかっているのか!!!!」
み、耳が……。咄嗟にマジックハンドで耳栓してなかったら絶対鼓膜破れてたって。
「あ、あいつらのこと知らないと、倒すのとか、大変じゃん――じゃないですか」
「だからと言って、あの態度はなんだ!!」
あなたを怒らせるためですとは口が裂けても言えない。ここは誤魔化さないと。
「緊張、解そうかと思って。ガチガチになってる人いたし」
「うそだな。貴様が他人のために動くとは到底考えられん」
即答されました。
「待ってそれひどくない!?」
「ひどいもなにも、真実だろう?」
「……」
くっそ。何も言い返せない。確かに下心しかなかったけどさ、もう少し僕の発言を吟味してくれたっていいじゃん!
「それで、一体どう言う理由だ?」
「……」
ここで素直に吐けば、多分このプレッシャーからは解放させるだろう。でも多分、もっとひどいことになる。早くしてくれ、邪神さん。
無言でいること数分。エクウスさんはどんどんと怒りを蓄積なさっている。爆発までは時間の問題だ。
「き、さ、ま」
「ひぃ」
我ながら間抜けな声が漏れた。もうダメかと思った瞬間、天使が舞い降りた。
ドガァァァァン
ただ浮いているだけだった龍翼種が、唐突に動き始めた。さらに増えているのを見ると、仲間が揃うまで待機していたらしい。
ディーネが言っていたように、頭から赤い魔力砲を放っている。それは着弾すると、爆発する。
人々はさらにパニック。騎士団の静止の声も聞かず、何やら喚きながら避難所に駆け込んでいく。災害時のおはしも知らないなんて、異世界は遅れてるなぁ。
ふと、30体ほどの天使が、こっちに向かってきているのが見えた。頭が赤くなっている。チャージ完了だろうか。
「邪魔をするな!」
いつの間にか、エクウスさんの手には弓矢が握られていた。
引き絞り、放つ。
気づいた時には、先頭の龍翼種の頭が消えていた。
なるほど、憤怒のエクウスさんの一撃で消し飛ぶレベルの硬さか。なんとかなるかな? 問題は数だ。
そのまま殲滅に移ってしまったエクウスさんを横目に、公仁に話しかけてみる。
「なんとかなりそうだね」
「そうか? 俺は案外きついと思うんだが……」
「それにしても貴男、よくあの子を利用しようと思ったわね」
近くにいたディーネが呆れたように言う。
「なんとなく、思いつきで。今は後悔している」
「もう二度とやるな! 周りの俺たちの方が被害でかいんだからな!」
「そうよ。アヤムが起きちゃうじゃない」
「すみませんでした」
逆に何故この騒ぎで起きない。エクウスさんとは違う意味で怖い。
今も、怒り心頭といった様子でマチ針を消していくエクウスさんの背中でぐっすり眠っている。
「とりあえず、殲滅に夢中になっているあいだに降りよう」
「そうだな」
「ま、頑張ってきなさい」
ディーネの応援? を聞きながら、僕らは階段を下りた。
★★★
「これでっ、五体目!」
公仁の一撃が、龍翼種の頭を潰す。別に血が出るわけでもなく倒れる黒い天使。
「さ、今のうちに避難所に」
「は、はい」
「あの、その……ありがとうございます」
「いいってことよ。お前らも気をつけろよ」
「「「はい!」」」
僕らは現在、街の南側、あの武器屋がある場所の近くで龍翼種を倒しながら、逃げ遅れた人を探していた。まあ、龍翼種倒すのも、人助けも、全部公仁の仕事だけど。僕は探すの手伝ってるだけだ。
「ここら辺にはもう居なさそうだよ」
「よし、ほかの場所行くぞ」
敵は北側にある図書館に集中している。ディーネが言っていたように、禁書狙いかもしれない。無駄だというのに。
それでも、この街全域に龍翼種が散っている以上、ここでも油断はできない。今だって上空から狙われてるかもし――
「マスター、危ない!」
すぐさま横に飛ぶ。おかげで直撃はまぬがれたが、爆風の所為で吹き飛ばされ、背中から壁にぶつかった。
あれ? このパターン、前にもあったような……?
「大丈夫か?」
「ああ。なんとかね。助かったよ、フェーダ」
立ち上がっている間に、龍翼種が地面に降り立った。
相変わらず黒いが、表面に鱗のような模様が入っていることに気がついた。なるほど、だから『龍』なのか。
「ちぃ、邪魔だ!」
先手必勝。公仁が切り掛る。
だが、相手はひらりと躱し、大きく距離を取った。その頭がだんだん赤くなっていく。
「あめぇんだよ!」
突如、公仁はしゃがみこみ、自分の影に剣を突き立てた。すると、剣が飲み込まれていく。
「おりゃ!」
そのまま腕まで飲み込まれると、公仁の声と共に甲高い音が響いた。
出処を探すと、少し離れた場所に頭の潰れた龍翼種がいた。
これがコイツのスキル、影使いだ。
その名の通りに影を操り、瞬間移動したり、ものを出し入れできたりする。浜辺で焼き魚を出したり、気づいたら消えていたりしたのは、このスキルのおかげなのだ。
影系の魔法が繋がっている影にしか作用しないのに対し、このスキルはどの影にも作用する。流石スキル、なんたるチート性能か。
自身が入れるってのがデカイな。マジックハンド界には空気がないから生物は入れないって言われちゃった。ちくせう。
あ、そうだ。ちょっと試そ。僕は頭の潰れた龍翼種を指差しながら訪ねた。
「公仁。これ借りていい?」
「ん? まあ、いいが……何に使うんだ?」
「ちょっと実験に」
そう言いながら、奴の下に《ゲート》を開く。
う、かなりSP使うな。そりゃそうか。普通の人間の手の大きさですら0.1も使うんだ。その何十倍もあるんだから当然消費SPも増えるよね。
でも、多くのSPを消費しつつ、龍翼種を一匹鹵獲することに成功した。……もう死んでるけど。
ていうか、こいつらの生死ってどうなってんだ? 動きとかも機械っぽいし、生きてるわけではないのかな?
っとと。脱線脱線。今はポカンとしてる幼馴染をどうにかせねば。
「大丈夫?」
「……お前、何した?」
「別に。公仁の真似しただけだよ」
「規模が違うだろ!」
それもそうか、と相槌を打とうとすると、不意に空に稲妻が走った。それも、下から上に。
一瞬遅れて、凄まじい音が襲いかかってきた。とは言っても、ゼロ距離のお説教よりはましなんだけど。エクウスさんマジ怖。
「あの方向は、図書館か?」
「奴らの攻撃……じゃないよね」
「違うはずだ。とすると、誰かが戦っているのか?」
「とにかく、行ってみよう」
「ああ!」
僕らは駆け出した。
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