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絶晩成型  作者: 咫城麻呂
第三章 教会都市キエーザ
36/68

3-5 アルハレタヒノコト

 やっほ―。千曳ちびきだよ。

 何でもかんでもフラグにする人っているじゃん?

 フラグってのはぶち壊すものだと思うだよね。


 ―――――――――――――――――――――――――――


 図書館での衝撃の事実から一週間近く経った、とある昼下がり。


 雨が降る気配もなく、完全に『アルハレタヒ』だ。公仁に言ったら、変なフラグたてんじゃねぇ! って言われた。けどま、フラグになんてならないでしょう。だってここんとこ、すごく平和だもん。ライオンと連戦したり、三つ首をレンキルしたり、盗賊を気絶させたりなんてものが何もない。いや~、平和平和。


 そんな平和な午後に、僕は砂浜に来ていた。港の横にある、大きなビーチだ。騎士団の訓練もここでやっているらしい。毎日毎日朝早くからどこ行ってるのかと思ったら、ここだったのか。浜ダッシュとかやるのかな?


 今は午後だから騎士団はいない。今日は客が少ないらしく、十数人程度しかいない。こんな真夏に海にこないってただのあh……ああ、引きこもってるのか。


 ちなみに僕は海が嫌いだ。べたつくし、砂がうざいし、サンドワインダーに足持ってかれそうになるし、フジツボが膝蓋骨の裏に増殖するし、有毒生物多いし、サメ出るし、シャチ出るし、挙げたらキリがない。


 そんな僕がなぜ砂浜に来てるのか。そう、魔法の練習のためだ。というよりかは、魔法の紹介的な?


 講師は、我らが公仁先生、特別ゲストにアヤム先生、セルでお送りします。


「よし、はじめるぞ」


 公仁先生の掛け声で授業が始まる。まあ、椅子も机もないけど。


「具体的に何するの?」

「とりあえず魔法の基礎知識について。そのあとは呪文と効果の確認だな。もしもの時に使えると便利な魔法とかな」


 魔法についてならチーガル先生に……って、あれ? もしかして特に聞いてない? あの幼女、ことごとく必要最低限しか教えないな。


「魔法を使うには魔力が必要になる。これは知ってるな?」

「うん。生活魔力でしょ?」


 それくらい知ってる。バカにすんな。


「魔素については?」

「しらん」

「何やってねん、チーガルちゃんは……」


 だってあいつ、僕が魔法使えないのをいいことに魔法に関する説明をバッサリカットしたんだもん。教える人としてそれはどうなの?


「まあいい。いいか? 魔素ってのは、言ってみれば万能元素だ。自然にある全ての元素になることができる」

「全て?」

「ああ。で、その魔素を変化させて、想像を具現化させたものが『魔法』だ」


 魔法と言いながら、なんという科学的な。でも、確かにわかりやすい。わかりやすいんだけど……


「風とか炎とかってどうやってできるの?」

「さっぱりわからん。というか、理解したくない」

「あ、やっぱし」


 どうせそんなもんだと思った。でもまあ、あれも元素が関係してるんだよね? じゃあいっか。原理も知らずに使うよりもはるかに。


「続けるぞ。生活魔力は、魔素をより変化しやすくしたものだ。イメージをしっかりと持った状態で魔法の名前を唱えると、その言葉とともに生活魔力が吐き出される。で、それが自然の魔素に干渉して変化させ、魔法ができる。だよね?」

「せやで。合格や。まあ、ホントはほかにもいろいろあるんやけど、そんなんでええやろ」


 アヤムに合格をもらって、公仁がガッツポーズをする。よほど嬉しいらしく、ちょっと引くぐらいはしゃいでいる。


「おーい、公仁。続けてもらっても?」

「ん? ああ、悪い悪い。と言っても、もう言うことはほとんどないんだがな」

「イメージって、どれくらいしっかりしてないといけないの?」

「その魔法によって何が起こるか、魔法の見た目、原理……は流石にいいか。ま、そんなところだ。できるなら温度やら匂いやらも考えたほうがいいんじゃないか?」


 うへ~。そんなに?


 と思ったら、アヤムが助け舟を出してくれた。


「別にそこまでせんでもええで。見た目と現象程度で大丈夫や」


 助かった。臭いものを出す時に匂いを思い出すのは嫌だからね。


「それに、イメージの補助として呪文もある。そんなに難しく考えなくて大丈夫だ。ラノベみたいにガンガン使え。ま、魔法も呪文も何も知らないお前には無理だろうけどな」


 いちいちムカつく野郎だ。ほかの人からなら何も思わないような言葉でも、こいつが言うとつい反応しそうになる。これが幼馴染特権ってやつか。


「でも、その魔法を今からたくさん見せてくれるんでしょ?」

「ああ。だがその前に、千曳。お前の魔力は?」

「10だけd――」

「今日の授業はここまでだ。復習しっかりしとけよ」

「ちょっと待った!」


 まさかコスト10の魔法はないとか言わないよね!?


「冗談だ。師匠の言いつけだし、しっかり教えてやる」

「やらんかったらうちがチクるで」

「そ、それだけは勘弁。ほら、魚あげるから、さ」


 そう言って公仁は、どこからか焼き魚を取り出して、アヤムに献上した。スキルの応用だっけ? 相変わらず便利だ。


 あれってマジックハンド界でもできるかな? 今度試そっと。


「うまいで、千曳。公仁が気に食わんかったら、いつでも言ってな」


 アヤムの言葉に、公仁が死にかける。袖の下を渡して裏切られたようなものだしね。とは言っても、その袖の下は他人の物。当然の結果だ。


 そんな公人に、さらに追い討ちをかける。


「早く、始める」

「せやで」

「せ、ん、せー? は、や、く!」


 公仁は何か言いたそうだったが、僕らの煽りを受けて決心がついたようだ。


「ああもうわかった! やればいいんだろやれば!」


 わかってくれたか。ここまで煽っておいてなんだけど、アヤムに聞けばわかるから別にこいつに教えてもらう必要はない。


「手始めに最も基本な魔法から……《空気よ固まりて、我が足場と成せ。【エアクッション】》」


 公仁がそう唱えると、目の前に半透明な座布団サイズの物が現れた。半透明とは言っても、ほかに何と言っていいか分からなかったからであって、実際は限りなく見づらい。ストーブとか焚き火とかで出る、空気のゆらぎみたいな感じ。


「これは?」

「風属性魔法エアクッション。誰しもが最初に覚える最も基本な魔法だ」

「クッションなら横でしょ。なんで縦にしたの?」


 僕が質問すると、公仁が驚いた顔になる。これも面白い。


「おまえ、これ見えるのか?」

「うん。半透明? で、座布団サイズで、僕の前に縦で浮かんでる」

「よう見えるな。普通は見えへんで」


 ふーん。僕は何かした記憶ないんだけど、なんでだろう。


「あ、マジックハンドの所為かも」

「どういうことだ?」

「マジックハンドは魔素の濃度を色として見て、それによってどこに何があるか認識している。そのせいで色の濃さとかに敏感になってるんじゃないかと思ってね」


 マジックハンドは机に置いてある紙も認識できる。紙の厚さは一ミリもない。その程度の距離で変化する魔素なんて微々たるもの。そんな極小の違いを判断して認識するんだから、色の違いを感じ取る力は相当なものだろう。しかも、色は白から黒まで。サーモグラフィーみたいにほかの色に変わったら楽だろうに。


 で、そんなマジックハンドに入って街を徘徊したりしてるから、僕にもある程度認識力がついているんじゃないかと。


 あとは、公仁から伝授させられた観察眼も視認に一役買ってるかもしれない。


 とまあ、そこらへんを説明すると、なんとか理解してくれたらしい。ごめん二人共、僕は説明が下手だ。


「まあええわ。続けるで」

「へいへい。この魔法はコスト10だから、誰でも使える。よかったな」


 修行する前は使えなかったと言ってやりたい。


「よし、どんどん行くぞ」


 その後も、火属性、水属性、土属性、風属性と続き、かなりの量の魔法を見せてもらった。


 何個か気になったものを上げると――


「《鎖よ絡まりて、敵を束縛せよ。【バインドチェーン】》」


 これは土属性の魔法で、詠唱の通り、敵を縛る魔法だ。かなりの長さまで伸びるけど、その分伸ばせば伸ばすほど脆くなる。


「《酸素よ固まりて、我が足場と成せ。【オキシゲンクッション】》」


 風属性魔法で、エアクッションの酸素版だ。燃料用に使えそう。


「《炎よ変形せよ。汝の姿は剣。敵を切り裂き、焼き尽くせ。【フレイムソード】》」


 炎の剣を作り出す魔法だ。本人は持っても熱くないけど、他の物は触れただけで焼ける。料理に便利そうだけど、僕には手が届きそうにない。コスト高すぎ。


 武器生成系の魔法はほかにも種類があって、ちょっと詠唱が変わっただけのほかの属性の物もある。もちろん普通は武器として使う。


「《水よ球となりて、敵を吹き飛ばせ。【ウォーターボール】》」


 水分補給用の魔法だ。一応攻撃用らしいけど、みんな飲み水にしか使ってないらしい。


 ボール系も全属性あるけど、どれも使われてないみたい。公仁はコストと威力が釣り合ってないとか言ってたけど、結局使う人次第だと思うんだよね。


 ★★★


 しばらくすると公仁が魔力切れになり、次は特別ゲストのセルの番になった。


 セルが使うのは『忍術』と呼ばれる、プリュス忍者隊だけが使う特殊な魔法だ。


 忍術にも四属性有り、それぞれ、火遁、水遁、風遁、土遁とある。セルがいつも使う、苦無や手裏剣を作り出すのは土遁だ。土属性魔法でも似たようなことができるらしい。


 ほかにも、水蜘蛛、空蝉、畳返し等、日本でもお馴染みの忍術が使えるらしい。


 アヤムは巫女見習いなだけあって光属性の魔法が使える。というか、この話をして初めて光属性と闇属性、無属性の存在を知った。相変わらずうちの師匠は手抜きすぎる……。


 光属性は聖なる属性、神に使える者にしか使えない。というわけではないらしい。でも、あまりほかに広がってないのもまた事実。


 闇属性は邪悪な魔法。ではなくとても大事な魔法らしい。なんでも残留思念グラッジポイントを集め、魔物として召喚できるとか。残留思念グラッジポイントを処理でき、なおかつレベル上げにも使える。この世界ではかなり重要な魔法らしい。そんな大切なものをあの人は……。


 無属性はチート、と思っていた時期が僕にもあったが、実際は分類できない半端な魔法の寄せ集めだ。身体強化や回復なんかが含まれる。


 ついでに、職業についても教えてもらった。


 いくら旧式魔法が万人向けの魔法だったとしても、どうしても人には得意不得意がある。でも、生まれたばかりの頃には何もない。どの属性を使い続けるかによって、得意が出てくるらしい。


 そして、そうした得手不得手によって職業が決まる。ここでいう職業は、その人の戦闘スタイルを端的に表したものだ。例えば身体強化をして直接殴るタイプなら武闘家。回復系ならプリースト。闇属性ならネクロマンサー。といった感じだ。同じ属性でも攻撃系を使うか、防御系を使うか、支援系を使うかで変わってくる。もちろん途中で職業が変わることもある。まあ、ソシャゲのジョブみたいなものだ。


 僕の場合は、自分で手を出さずに安全な場所から一方的に殴れるから引きこもり……かな? なんかやだな。


 ★★★


 そして、四人で魔法交流をしている時に、それは起きた。


 ――ゴォォォォォン、ゴォォォォォン、ゴォォォォォン――


 不意に、鐘のような音が空に響いた。


 だが、澄んでいない。低い金属音のような、聞くだけで不安になるような、不気味な音だ。


 聞いているうちに、日本でネットサーフィン中に見つけた、とある音が頭の中に流れてきた。


 これって、もしかして――


「「アポカリプティックサウンド?(!?)」」


 僕がつぶやくとともに、アヤムが叫んだ。


「知ってるのか!?」

「あれは……あれは……邪神、降臨の、音や」


 頭を抱え、信じられないといった顔で、呟く。


 まじか。フラグ回収しちまった……。

誤字脱字の指摘、感想等お願いします。

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