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絶晩成型  作者: 咫城麻呂
第三章 教会都市キエーザ
35/68

3-4 奇抜な少女

 やっほー。千曳ちびきだよ。

 三次元ではけしてみることができない、見たくもない際どい服装。

 可愛いならまだしも、ブスのくせしてそんな服着てるのにはムカつく。


―――――――――――――――――――――――――――


 あれから一週間。朝から晩まで雑用暮らしを続けてきた。


 朝、5時に起きて朝ごはんを作る。騎士団員を送り出したあとは、それぞれのの部屋を回ってシーツと掛け布団と服を回収する。これはマジックハンドの仕事だ。


 その後、回収したものを洗濯する。洗濯機なんてないから、手洗いだ。マジックハンドの独壇場になる。手がたくさんあるからね。


 洗濯物を干す。これはマジックハンドがやてくれる。


 その後、公仁こうじんに連れられて魚を買い、昼ごはんを作る。マジックハンドは荷物持ちだ。


 午後からは、観光を兼ねて見回りだ。これには、セルや公仁、希にアヤムまでもが付いてくる。


 見回り中に買い物も済ませ、帰ってくるとすぐに夕飯を作る。荷物はマジックハンドが持ってくれる。


 夕飯はとにかくたくさん作る。これは、団員が疲れていることに加え、孤児なんかへの炊き出しも含まれているからだ。だから、夕飯だけは本部の前で豪快にやる。酒なんかも出て、団員たちはその日の英気をやしない、明日に備えるそうだ。


 だけど、そんな楽しそうなイベントには一切関わることができず、一足先に食べて洗濯物を取り込むことになる。マジックハンドが心強い。


 あとはそれぞれの部屋に洗濯物を返して仕事終了。フェーダの記憶力に助けられている。僕なんて、興味あるものしか覚えられないからね。


 どう? 忙しそうでしょ? いやー、もうホントに辛くて。これを一週間も続けてきた僕の根性を褒めて欲しい。


 そうして、一週間耐え抜いた報酬を受け取ることができた。1日休みをもらえたのだ。


 ★★★


「災難だったね」

「くっそ……」


 ふっふっふ。イケメンが手洗いで洗濯している姿は、非常に面白い。クラスの連中に見せてやりたいぐらいだ。


「カメラみたいな魔法ってないの?」

「おまえ、何企んでる?」

「別に」

「……ま、いいか。あるにはあるが、記憶に焼き付ける程度だぞ?」

「……そっか」


 ちぇ。つまんねー。


 今日は僕が休みなので、代わりに公仁がやることになっている。だてに一ヶ月もやってなかったようで、その手際には無駄がない。


「あ、ご飯は僕に作らせてよ」

「言われなくてもそのつもりだ。お前の料理は孤児にも人気だしな」


 そう言ってもらえると素直に嬉しい。毎日頑張って作っている甲斐があるってものだ。……ん? 待てよ。もしかしてこいつ、僕が何も言わなくても料理を押し付けるつもりだったのか!?


 そっちがその気ならこっちにだって考えがある。フェーダの記憶力なめんなよ!


 僕はフェーダに小声で指示を出した。


「フェーダ。今この状況を全力で脳裏に焼き付けろ」

「え? ……はい! 頑張りますっ!」


 久しぶりの指示で、フェーダの目が輝く。熱心に公仁を見つめる姿は、まるで恋する乙女のように見え――ない。どっちかって言うと、ヤンデレ気質だ。怖い。


「おい待て今何を話していた」

「天気の話。今日は3時くらいから雨が降りそうだねって」

「よくこの晴天でそんな会話ができるな……」


 おっと。コイツ、夏の天気の恐ろしさを知らないようだな。海に近いこの街で、どれくらいの勢いで雲が流れていくのか。身をもって味うがいい。


 その後も色々ありながら、なんとか昼ごはんを作った僕は、当初の目的を遂行することにした。つまり、観光だ!


 ★★★


「こうやって二人で歩くのは久しぶりだね」

「ん。旅以来」


 僕は今、セルと共に街のメインストリートを歩いている。見回りの時は公仁やアヤムがいたから、二人になれなかったのだ。セルが言うように、この都市に来て以来だ。


 メインストリートには多くの露天が出ていて、食欲をそそるいい匂いが漂ってくる。軽く覗いてみると、串焼き、サンドイッチ、フルーツ、ジュースなど、多種多様なものを売っていた。


 出歩いて喉が渇いたので、フルーツジュースを二つ買う。一つはセルに、もう一つは僕に。


「はい、これ」

「え?」

「喉渇いたでしょ? あ、僕のおごりだから、お金は気にしなくていいよ」

「……ありがとう」


 セルは素直に受け取ると、一気に飲み干した。やっぱり喉渇いてたんだ。僕も飲んでみる。うん、うまい。


 そのほかにも軽く買い物をしつつ、街を見て回る。


 この街は、十字に伸びた道によって区切られている。港側は商業区。港よりも北側の、海に面した側が貴族街。そのほかが居住区だ。畑はない。山だから農業ができないのかな?


 中心の高台が教会関係で、聖職者は全員ここに住んでいる。なんでも地下に宿舎的なものがあるんだとか。ホントになんでも揃ってるな、あの高台。


 う~ん。思い返したところで、特に行きたい場所はないな。大体どの場所も見回りで行ったし。


「どこか行きたいところかある?」


 結局、セルに任せることにした。見回りについてきたことはあっても、毎回ってわけじゃなかったしね。


「む~。ん? ……武器屋」

「そっか。じゃ……公平にジャンケンだ!」


 ……負けた。


 ★★★


「らっしゃせー」


 やる気ない店員に迎えられ、僕らは店に入った。


 道行く冒険者らしき人に聞いた結果、居住区の南側にあるこのお店が一番いいという答えが帰ってきた。マジで聞くの怖かった……。


 ざっと見回してみると、剣やら槍やら、珍しいところだと鞭。さらに、何に使うのかさっぱりわからない金属の棒みたいなものまであった。


 にしても、セルは何が欲しいんだろう? 武器なら無限に生成できるはずだし、防具は動きの邪魔になるだけだし。ま、ここに防具があるかしらないけど。


 と、セルは謎の棒を見に行った。え? あれに使い道が?


 セルは、何本かある棒の中から数本取った。だが、その後もしばらく眺めたあと、困ったように首を振った。まだ必要なものが?


 その後、セルは店員に話しかけ、店員は別の店員に話し、その店員は店の奥に行き、銀のような、無駄に光沢のある金属の小さな固まりを持ってきて、セルはそれを買った。


 な、何かすごく高そう。あんなもの買えるなんて、セルってば金持ち?


 僕のもとに戻ってきたセルはやけに嬉しそうだった。目的の物が買えて喜んでいるようだ。


「持つか?」

「いい。忍者式、荷物持ち、使う」


 なんだ? 忍者式荷物持ちって。今までそんなこと一度も聞いたことないぞ。


 おっと。セルの買い物を見ているうちに、かなりいい時間になった。早く図書館に行かなきゃ。


 僕は、セルの手を引いて駆け出した。


 ★★★


「ふぅ。なんとか間に合った」

「ん。ギリギリ」


 僕らの真後ろでは、バケツをひっくり返したような土砂降りになっていた。あと数秒遅れていたら、濡れ鼠になるところだった。


 ここは、キエーザにある図書館だ。居住区の北側にあるので、だいぶ走った。うう、スタミナが……。


「ホントに、降った」

「信じてなかったのか」


 ま、僕だって半分カンだけど。


 さて、そんなことは横に置いておいて、図書館ですよ、図書館。聞くところだと、魔物図鑑や魔法図鑑、神話なんてのもあるらしい。


 さらに、禁書なるものがあるとかいう噂が……。ま、僕が関わることなんて無いだろう。


 僕がここに来た理由は、単純に来てみたいと思っていたからと、雨宿りと、この世界について知りたかったの三つだ。二つは達成したので、あと一つをどうにかしよう。


 この図書館は二階建てで、中央が吹き抜けになっている。一階には机と椅子が並び、二階には本棚が所狭しと並べられている。


 また、入口のところにはカウンターがあって、本の貸出も行っているらしい。気になるものは何冊か借りてこ。


「ねぇ。頼むよ! 売ってよ!」

「何度も言ってるように、あれは、絶対に、売れないの! たとえ何百万BS積まれたって、絶対に!」

「そこをなんとか!!」

「ダメなの! そもそも、女の子がそんなカッコしてちゃダメでしょ! この街だって治安悪い場所もあるんだから!」

「ボクは強いからいいの! とにかく売ってよ!」


 ふと、カウンターで話し合う二人の声が響いてきた。お互いにテンションが上がっているようで、かなり大声だ。


 見てみると、受付のお姉さんと、……非常に奇抜な格好をした少女がいた。


 水着並みに短いフリル付きスカート。紐ぐらいの太さの布で、見えちゃいけない場所だけを隠した上半身。もちろんぺったん。ピンク色の、サイドテールだっけ? そんな感じの髪型。多分僕くらいの身長。ボクっ娘。


 へ、へ、


「兵器だ。歩く兵器がいる……」

「何、言ってる……」


 だめだ。こんな奴がいたら、一人の尊い(?)犠牲者が出てしまう。ただでさえ一つこの都市にあるってのに。


 そんな内心の葛藤があるとも知らず、彼女らは話し続ける。いや、叫び続ける。


「とにかく、その、……は門外不出なの! 売ることなんて以ての外なんだから!」


 ん? 途中のところが上手く聞き取れなかった。マジックハンドよ、聞いてきておくれ。


「いいじゃん! どうせ読まないんでしょ!? 本が可哀想だよ!」

「そんなこと言ったって、……は出せないの! そもそも、人に見せられるものじゃないんだから!」

「むぅ……」


 しばらくすると、さっきまでの威勢はどこに行ったのかと思うほどに少女はおとなしくなった。


 うなだれながら、僕らの横を通って、雨の中に消えていってしまった。ん? 正面から見ると何か違和感が……? 


「マスター。どうやら、『禁じられた聖典フォービドゥン・スクリプチャー』と言っていたようです」

禁じられた聖典フォービドゥン・スクリプチャー?」


 内容が意外すぎて、ついオウム返しになってしまった。


「はい。それから、少女をなだめるような低い声が聞こえてきました」

「内容は?」

「すいません。禁じられた聖典の意味を考えていたもので……」


 それはしょうがないか。僕だって気になるし。


 にしても、禁じられた聖典、ねぇ。響きと場所からして、邪神関係か? だとしたら、人に見せられないのも納得だ。読むことすら禁止になってそうだしね。


 ちょっと気になる。あそこまでして隠したい本に、一体どんな内容が書かれているのか。


「フェーダ。何体か使って、その本について調べといて」

「はい。しかし、なんでそんなに興味が?」

「ちょっとね」


 過去に何があったのか気になるじゃん。この世界で生きるものとして。


 ま、そっちはマジックハンドに任せて、僕は僕で調べ物しますか。ええと、歴史、歴史っと。


 お、あった。この列の棚全てか。探すの大変そう。


 適当に見つけたものを抜き出して一階へ。重すぎるからマジックハンドに持たせておこう。


 適当な場所に腰掛けて、パラパラとめくってみる。……違う。確かに歴史だけど、ここ五百年の話だ。


 僕が求めるのは神代大戦だか神代戦争だかいうものだ。あれは確か千年前だっけ? チーガル先生がちゃんと説明してくれればこんなことにならなかったのに。まあ、あの時は王様(?)との約束があって時間がなかったんだけど。


 適当にめくってみるも、全く出てこない。結局、持ってきた本すべてがはずれだった。むむむ。邪神との争いなんて大切な歴史だと思うんだけどな。


 それから何往復かするも、全て外れ。移動がめんどくさくなって、その場でめくってみるもハズレ、ハズレ、ハズレ。アタリのないインチキクジなんじゃないかと不安になってきたところで、小さな、一冊の本が当たった。


 それは、ライフルという人物が書いた、小さく薄い本だ。


 それには、こう書かれていた。


『邪神の力は絶大だった。どんな攻撃も無効化し、たとえ対神兵器で対抗したとしても、すぐに再生する。光の女神が持つ力のほとんどを吸い取ったのだから、ある意味当然かもしれない。私たちには成すすべもなかった。ただただ絶望し、死を恐れた。勇者である私たちに、勇気なんてなかったのだ。だが、唯一の勇者あった私たちのリーダーが倒れたとき、決心した。この世界を守れなかったとしても、友達だけは守る、と。その後、光の女神による協力もあり、なんとか天界の奥深くに邪神を封印することに成功した。……十二人の、命と引き換えに』


 ……。


 正直、僕はこの手のやり方は嫌いだ。仲間を守るのに、仲間の命を使う。矛盾してるじゃん。どんな手を使っても生き残る、がモットーの僕には理解できない。


 実際にその場面になって、夜魅よみや公仁が対象だった場合、僕はどう答えるか。多分、無理をしてでも全員で生き残る、かな。まあ、直面したら答えが変わるかもしれないけど。


 少なくても、友達のために犠牲になるのだけは勘弁願いたい。犠牲になったとして、残された友達がどう思うか。僕の分まで頑張ってくれるならいいけど、後追いなんてされたらただの犬死だ。


 冷めた奴だと思われるかもしれないけど、それが僕だ。


 とかなんとか言ってるが、邪神の恐ろしさはこの本を読んで理解した。なんでも、物理や魔法、レーザーに加え、生物兵器も効かないらしい。対神兵器とやらが気になるところだ。


 防御面だけでなく、攻撃面でもまた恐ろしい。一撃で山一つ、本気を出せば、小さな島一つ消し飛ばすぐらい容易とのことだ。この世界が残っているのがなんとも不思議だ。


 ほかにも、興味深い(?)内容が書かれていた。邪神は研究肌だとか、対神兵器がどこかに封印されてるだとか、ついでに邪神が作り出した神造合成兵器キメラも眠っているとか。


 さらに読み進めると、最後に驚愕の事実に直面した。


『邪神という、人が生み出した厄災を、もう二度と繰り返してはならない』


 この本は、そう締めくくられていた。


 つまり、邪神は人の手によるものだということか……?


 これが、人が邪神を作ったという意味なのか、人が邪神を降ろしたという意味なのか、はたまたそれ以外なのかはわからない。


 悩んでいるあいだにすっかり雨も上がり、夕飯を作らなくてはいけない時間になった。


 ま、いっか。ここで考えたって答えは出ないだろうし。胸にしまっておこう。

誤字脱字の指摘、感想等お願いします。

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