表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶晩成型  作者: 咫城麻呂
第三章 教会都市キエーザ
34/68

3-3 ブラック騎士団

 やっほ―。千曳ちびきだよ。

 ブラック企業、ダメ! 絶対!!


 ――――――――――――――――――――――――


 次の日の早朝。朝食を食べ終えたあと。


 交渉の結果、なんとか騎士団の宿舎で泊まれるようになった僕ら。そんな僕らに、というか僕に、騎士団長エクウスさんから一枚の紙が渡された。


「シフト表だ。きっちりこなせよ」


 ~~シフト表~~


 掃除:千曳


 洗濯:千曳


 見回り:千曳


 買い出し:千曳


 料理:千曳


 その他:千曳



 …………。


「ンダこれはっ!!!」


 シフトとは、その組織の全員が、不満なく、無理をせず、きっちり仕事をこなすための、仕事の割り振りのこと、だと思ってた。


 今ここに、シフトの意味が、音を立てて、崩壊した。


「セル殿は強い。さらに鍛錬を積めば、チーガルにも追いつけるかもしれない。だが……」

「だが?」

「貴様は弱い! だから雑用をして筋力をつけろ。以上だ」


 断言されてしまった。呼び方も『貴様』になってる。それにしても、こなすだけで筋力がつく雑用って何なんだ? 何をさせるつもりなんだ?


「あ、あの……」

「口答えするな!」

「は、はい!」


 悔しい。何も出来ない自分が悔しい。


「というわけだ。見習い期間中、ずっとこのシフトだからな。わからなかったら公仁こうじんにでも聞け」


 シフトとは、何ぞや?


 今ここに、新たな意味が、シフトに、刻まれた。奴隷状態という、新しい意味が……。


 ちなみに、今のステータスはこんな感じ。


  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ステータス

 名前  :夜物平よもつひら 千曳ちびき

 職業  :引きこもり

 レベル :10

 経験値 :5398024115978

 次レベルまで:4601975884012

 スタミナ:147

 MP  :10

 SP  :2000

 攻撃力 :10

 防御力 :10

 魔力  :10

 精神力 :10

 素早さ :50

  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 経験値が相変わらずすぎる。もう桁がわかんない。


 スタミナと素早さが上がってるのは、きっと修行中逃げまくってたからだと思う。MPが増えたのは謎だ。ま、嬉しいからいいけど。


 こんな感じで、色々ひどい。これじゃ弱いと言われるのも納得だよ。エクウスさんはこの弱さを筋力の所為にしたみたい。確かに筋肉ないしね。


 でも、面倒は嫌だ。というわけで――


 ~~シフト表~~


 掃除:マジックハンド


 洗濯:マジックハンド


 見回り:マジックハンド


 買い出し:マジックハンド


 料理:千曳


 その他:マジックハンド



 これでよしっと。


 すると、脳天に拳骨が降ってきた。声が出ないほど痛い……。


「全部自分でやれ!!」


 ……はい。


 ★★★


「ハハハ。災難だったな」

「そう思うなら手伝ってよ……」


 くっそ、この野郎楽しみやがって。いつか絶対に見返してやる。


「ま、お前が来るまで俺の仕事だったんだ。しっかりこなせよ、後輩君?」

「かわいそうに、師匠運ないみたいだね」

「……そこか」


 騎士団全部の仕事を任せられるなんて。ああ、かわいそうかわいそう。


 ちなみに、今僕とフツーに話してるこいつは音野おとの公仁。僕の幼馴染だ。ロリコン、二次ヲタと救いようのないやつだ。それなのに顔はよくて、かなりモテるというのだから世の中よく分からない。


 そんなイケメン(笑)が、今僕がやているように洗濯をしている様はさぞ面白かったことだろう。見たかった……。


「災難やったな」

「それもう俺が言った」

「せやけど、何度も言いたいもんやろ?」

「世間一般ではそれをいじめって言うらしいぞ」

「楽しいからええやん」


 いま公仁と楽しそうに話してるのはアヤム。巫女見習いで、エクウスさんの友達だそうだ。僕の周りには珍しい組み合わせが多い気がする。


 低身長、小麦色の肌、巫女服、八重歯、白髪、関西弁、ぺったん(←これ重要)、童顔、天真爛漫な性格、ぺったん(←大事なことだから二度言った)と、何故公仁が死んでないのかとても不思議なくらい完璧な存在だ。


「千曳、災難」

「災難ですね」


 セルに加え、最近ご無沙汰だったフェーダまで同じことを行ってくる。


「もういいよ。聞き飽きた」


 するとセルは、悩むような素振りを見せた後――


「じゃあ、乙」

「乙です」

「乙やな」

「ちょぉっと待ったぁっ!!」

「おい千曳、買い出し行くぞ。ついでにこの街を案内してやる」

「まって公仁! 僕にはやることが――って引っ張るな! 離せ!!」

「いってらっしゃーい。きぃつけてな」


 フェーダ、後で覚えておけよ……。


 ★★★


 公仁に引っ張られること数百メートル。目の前に崖が現れた!


「流石にもう引っ張れねーな。ほら、歩け」

「さっきからそう言ってるじゃん」


 騎士団の宿舎からここまで、どれだけ恥ずかしかったと思っているんだ。今は冒険者ラッシュの時間だってのに。うう、今でも多くの視線を感じる。


「相変わらず長い階段だなぁ」

「ま、そう言うなって。これも筋トレのひとつだと思えばいい」 

「……まあ、そうなんだろうけど、疲れてると厳しくない?」


 依頼を終えて戻ってくる冒険者には酷だと思う。せめて手すりぐらいつけないと、年寄りに厳しいよ。


「おいおい忘れたのか? ここは異世界だ。魔法がどれだけ便利か、使えないお前にはわかるまい」


 どうしよう。すっごく殴りたい。


「ま、いいや。マジックハンド使えば」


 いつでも殴れるしね。


「おっと、いいのか? スキル持ちだってバレるぞ?」

「え? あ、ああ、そ、そうだった」


 一瞬考えを読まれたかと思ったけど、話の流れからして「マジックハンドを使って降りる」と解釈したようだ。


 マジックハンドとサブアームには、決定的な違いがひとつある。それは、腕だ。


 サブアームには腕があるが、マジックハンドは手しかない。だから、旧式魔法が盛んなこの都市でマジックハンドを使うのは自殺行為だ。バレてしまう。


 他にも違いは多い。術者を乗せられない。色が変わらない。あまり遠くに届かない。等々。


「ま、対策は考えてるけどね」


 そんなことを言いながら渋々階段を下りていくと、か弱そうな男の子の声が聞こえてきた。


「すきるはべんりなのですぅ。つかいたいのですぅ」

「だれ!?」

「おっと忘れてた。こいつは俺のスキルフェアリーだ」

「しゃどーですぅ。よろしくですぅ」


 見ると、公仁の型に黒い人型の妖精が止まっていた。


 見た目はフェーダを軽く男にした感じ。でも、完全に男になりきれていない。うん、可愛い。


 公仁とは正反対って感じの性格だ。僕とフェーダはあんまり違わない気がするんだけど、どうなんだろう? 意外と僕はサドだったりするのかな。


 そんなこんなで階段を下りきる。上りよりはまだ楽だったが、それでもフォレスト・レオ一体分くらいは体力を持ってかれた。朝からこれはきつい。


「で、どこ行くの?」

「港だ」


 港? ああ、西の方にあるあれか。……あれ? なんか嫌な予感。


 忘れるように首を振ると、先を行く公仁を追いかける。


 そして、目の前に現れる崖と地平線。


「これを降りろと?」

「無論だ」

「殺すつもりか!」

「ああ」


 ここの階段、高台よりも倍ぐらい長い。そりゃ、いやがおうにも筋力がつくわけだ。


「そいじゃ、俺は先に行くから、あと頑張れ」


 そう言うが早いが、公仁は何かをつぶやく。すると、やつの体が浮き始めた。


「おまっ、魔法は反則だろ!?」

「使えねーお前が悪い」


 そう言って、下に降りていく。ひ、卑怯な。自分から使えないようにしたわけじゃないのに……。


 しゃーない。降りるか。


 ここの階段は高台の階段と違って、なんていうのかな、学校の階段みたいに踊り場があって、折り返していく感じ。高台の階段は真っ直ぐだったからね。


 階段から見える景色は、絶景だ。太陽の光を反射している青い海と、その上に浮かぶ無数の船。漁の帰りだろうか、港にも多くの船が止まっていて、多くの人が木箱を持って忙しそうに走り回っている。この眺めを見ながらだったら、だいぶ楽に降りられそう。


 それに、途中で休憩場があるから、見た目ほどきつくない。下りだってことも関係しているだろう。


 そうして三十分。なんとか下り切ることに成功した。


「いくらなんでも遅すぎるだろ……」

「先に行ったお前が悪い」


 愚痴りながらもしっかり待ってくれる幼馴染に感謝。多分二十分くらい待ってただろうに。


「ま、こいつと話してりゃ暇も潰れるってもんだ」

「おやくにたてて、なによりですぅ」


 うん、確かに暇も潰せそうだね。可愛いし。


「で、なんでここに来たんだっけ?」

「買い出しだ。忘れたのか?」

「それは覚えてるよ。なんでここに来なきゃいけなかったのかって話さ」

「魚のためだ。アヤムちゃんは魚が大好きだからな」


 ちゃ、ちゃん……。さ、流石公仁。ロリには甘いな。チーガルとか見たら倒れそう。あ……。


「そういえばさ、なんで生きてるの?」

「どう言う意味だコラ」

「いや、アヤムって言う歩く最終兵器がいるのになんで倒れてないか不思議になって」


 鼻血すら出してないし。


「ああ、そりゃお前、一ヶ月近く見てたら流石に慣れるぞ? こっちには回復魔法もあるしな」


 つまり、最初の方は死にかけ続けた、と。やっぱりね。でも、回復魔法って血は戻らないよね? どうやったんだろ。……ま、いっか。


「そんなことより、さっさと買いに行かないと売り切れちまうだろ」

「あ、うん」


 公仁の後をついていきながら、街を見てみる。


 上の街ほどじゃないけど、こっちにも家が多くて活気がある感じだ。階段から見えた木箱を持った人々が忙しそうに働いてる。覗いてみると、魚が大量に入っていた。


「港からの魚を上に運ぶアルバイトだ。なかなかに報酬がいいらしい」

「あ、確かにあったかも」


 Fランクのボードに貼ってあった気がする。なるほど、金を稼ぐと共に筋力を付けるのか。理にかなってる。


「ん? これじゃあここに来なくても良かったんじゃない?」

「こっちのほうが安いんだ。人件費がないからな」

「そんなに変わらないんじゃ――」

「馬鹿にすんじゃねぇ。貧乏学生には1BSバスの差が死を意味するんだ」


 まさかの自費だった。そんなにアヤムに魚をあげたいのか。にしても、魚好きな黒い翼の鳥っていたっけ? 一体何の種族なんだろう……?


 そんなことを話しながら、漁港を歩き続ける。行人は、時折すれ違う人に声をかけられている。意外と有名人みたいだ。


 そうして、ひとつの店の前にたどり着いた。


「よう公仁。遅かったじゃねーか」

「ちょっとこいつが遅くてな」

「ん? 知り合いか?」

「幼馴染だ。それより、いつもの量で頼む」

「あいよ。しっかり取っておいたぜ」


 親しげに話す二人。どうやら公仁の行きつけのお店らしい。にしても、自分が置いてった癖に他人の所為するとか、最低だな。


 そんなこんなでかなりの量を買い込んだ公仁は、冒険者カードを取り出しつつ僕に魚の全てを押し付けた! 何たることか! この都市でも冒険者カードは使えるようだ。このシステムを構築した奴は最強だと思う。ノーベル賞レベル。異世界にここまで便利なものがあるとはね。


 流石に、手に持つくらいならマジックハンド使ってもバレないよね? そう思って召喚し、持たせてみるとお店の兄ちゃんから声が掛かった。


「お、サブアームか。珍しいの使ってるな」

「え、あ、その……」

「気にすんな。こいつはちょっとコミュ症でな。初めて会う自分よりでかいやつの前だといつもこうなんだ。年下だと大丈夫なんだがな」

「それはお前のせいだ!」

「な?」


 ごめんなさい、お店のお兄さん。別に意図して口篭ってる訳じゃないんです。ただ癖でついツッコミを入れてしまうというかなんというか。


 その後も何度か公仁にいじられつつ、無事にサブアームだと言い切ることができた。


 魚を持って上へ。上りはきつい。足が死ぬ。マジでマジックハンド使いたい。せめて、簡単に動き回れるような魔法が使えたら……。


「何か魔法教えてよ」

「お前のMPじゃ無理だ。そんな消費魔力低い魔法なんて空気を固めるぐらいしかできないぞ」

「それでもいい。異世界に来て魔法のひとつも使えないとか悲しすぎる」

「じゃ、今度な」


 よし、言質とった。いつか絶対に教えてもらうからな!


 ふと、踊り場に大きな扉があることに気がついた。前の階にも有った気がする。なんだこれ?


「ねえ公仁。さっきから気になっていたんだけど、この扉何?」

「これか? これは避難用だ。有事の時には、この奥に逃げ込むんだとさ」


 へぇ。確かに、この崖の中に入れたらよほどのことがない限り大丈夫そうだね。


 そんなこんなで上にたどり着き、安堵したところで高台が出てきて絶望したりしつつ、なんとか魚が痛む前に騎士団の本部に着くことができた。


 ここでも僕の作った料理は大好評だった。

誤字脱字の指摘、感想等お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ