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絶晩成型  作者: 咫城麻呂
第三章 教会都市キエーザ
33/68

3-2 階段オーガ

この前に、もう一話投稿しています。

 やっほ―。千曳ちびきだよ。

 上級者が簡単なクエストしちゃいけないなんてルールはないと思う。

 まあ、やりすぎは良くないけど。


 ――――――――――――――――――――――


 チンピラは三人。大中小だ。


 その内の一人、中肉中背なおっさんが、あざ笑うかのように言う。


「おいおい、ここはガキの来るところじゃねーぜ?」

「そうだそうだ」


 その横にいる丸いちびのおっさんが、いかにも虎の威をかる狐って感じのセリフを吐いた。


「……一応、冒険者なんだけど」


 こんな時に、持病のコミュ症を発症してしまう。おっさん達には、かなり小さく聞こえたはずだ。


 どうやらカンは当たったらしく、三人のおっさんは口を歪める。多方、冒険者になったばかりのひよっことでも思っているんだろう。さらに、僕らがいるこの場所が、勘違いを加速させる。


「てめぇらもしかして、駆け出しか? まぁそうだよな。こんな簡単なクエスト見てるぐれぇだしよぉ」

「その年で冒険者とは、悲しいやつらだな」


 一番高い、ごついおっさんが僕に、勘違いをしてると教えてくれる。二段目のおっさんなんて勝手に勘違いして、勝手に泣き出す始末。


 ちなみに、僕が見ているクエストボードはFランク。配達や雑用がほとんどだ。流石、最低ランクといったところか、危険がほとんどない。まあ、報酬も少ないけど。


「……一応、三週間経つんだけど」


 貴様コミュ症! まだ僕の邪魔をするか! これじゃまるでセルじゃないか。いや別に、セルを悪く言ってるわけじゃないけど。


 僕の発言を受けて、ますます盛り上がる三人。正直、めんどくさい。ちょっと楽しいけど。


「三週間も経って、まだそんなランクか」

「前からいた割には見たことないけどな」

「たまたま時間が合わなかったってだけだろ? なんたって俺たち、Dランクだしよ。遠征やらでこの街にいないことが多いんだよなぁ」


 目の前でコントが続く。僕らのような初心者に構って、何が楽しいんだろう?


「名前は?」


 これはセルだ。いくら僕でも、初対面に暴言は言わない。


 セルの質問を受けて、一段目のおっさんがキーキー喚く。


「なんだ、その言い方は!? おめーら俺たちが誰か分かってねーようだな!」

「おいおい、落ち着け。どうせどこかの没落貴族だ。先輩に対する礼儀すらなってないわけだし」

「そうだ。あいつら、無駄にプライド高いしな」

「とはいえ坊ちゃんに名乗らないのも失礼だな。いいだろう、名乗ってやる」


 三段目の男は、ひと呼吸おいてから大声で名乗った。


「俺たちは、Dランクパーティー、オーガの棍棒だ!!」


 その瞬間、ギルド内にどよめきが起こった。かなりの有名人らしい。


『オーガの棍棒って言うと、あの最速記録の……』

『ああ、この年のDランク最短記録保持者だ』

『噂には聞いてたが、あれが……』


 そんな声が聞こえてくる。どうやらかなりギャラリーが集まっているようだ。冒険者ラッシュか?


 そんな考え事をしてると、勘違いオーガはまた勘違いを始めた。


「どうした? こんな有名人に会えて嬉しいのか?」


 もう救いようがない。どうにかしてこの場を切り抜けたい。さて、どうしたものか。


「どうして俺たちが前らに声かけたのかしりてーか?」

「……まあ、一応」

「じゃ、教えてやろう。俺たちはなぁ、後輩を育てんのに力を注いでんだ。ま、先輩としては当たり前だな」

「すげーだろ」

「ま、普通のやつらにはそうそう出来ることじゃないよな」


 勝手に話す階段オーガ。後輩を育てるとか言っておきながら、どうせパシルつもりだろう。汚い連中だ。まるで盗賊の様……そうか!


「そういうわけだから、お前ら、感謝して俺たちのことを師匠とよ――」

「師匠はもう間に合ってるから」


 周りには聞こえないくらい小さな声でつぶやく。僕らには地獄神がいるしね。


 それと同時に、階段が倒れる。セルにアイコンタクトして、それに駆け寄る。


「って、おい。大丈夫? 誰かー! ギャラリーの中にお医者さんは居ない?」

「ある程度なら、見れるが……」

「頼んだ」


 医者を名乗る男に後を託し、こっそりとギルドから抜ける。最近、移動中の息抜きに習っていた忍者流の移動方法が役に立つとは。


 ギルドからだいぶ距離をとり、ようやく一安心。いやー、あの人達、だいじょーぶかなー?


「いきなり、倒れた」

「いやー、驚いた。熱中症かな? いきなり気絶するなんて、かなり重症だよ」

「ん。心配」


 先輩たちの心配をする僕ら。なんていい後輩なんだろう。


「とはいえ、金ない。宿、取れない」

「うーん。最悪野宿かな。そだ、とりあえず、手紙渡しに行くか」


 そう言って、僕は腰につけてる収納袋から二枚の手紙を出した。チーガルの友達って話だし、もしかしたら停めてくれるかも。


「ん、それが、いい」

「じゃ、騎士団の詰所にでも行きますか」


 詰所は教会の裏手にある。もしもの時、動けるのかな?


 来た道を戻り、外へ。相変わらず受付さんが怖いので、なるべく顔を伏せながら進む。


 外に出ると、冒険者ラッシュ中なのか、かなりの冒険者がここに向かってきていた。その中に、綺麗な鎧を着た人を見つける。多分騎士団だろう。


 追いかけると、予想通り、教会裏の建物に入っていった。ここが詰所で間違いは無いようだ。


 入ってみると、教会とは違う、飾りっけのない質素な雰囲気だ。これはこれでいいと思う。


 そうして、ロビーとでも言える空間を眺めていると、端の方から声が聞こえてきた。


「その話、ホンマなん?」

「ああ、門番は何も見てないって話だ」

「む~。遅れとるんかなぁ」

「かもな。にしても、チーガルも困ったやつだな」

「せやなぁ。弟子のこと悪く言うのはよぉないなぁ」


 談話スペースとでも言える、椅子と机が置いてある場所には、二人の女性が座って……いや、一人はたってる。


 というか、その人は座れるのか? というのも、立っているのはケンタウロスだ。馬の下半身と人間の上半身を持つ、あのケンタウロス。


 もう片方は、限りなく人に近いが、一箇所が決定的に違う。畳まれてはいるが、カラスのように真っ黒な羽が生えているのだ。さらに、セルや夜魅よみやチーガル並に背が低い。さらに巫女服だ。ロリ巫女だ! 公仁こうじんが見たら鼻血ものだろう。


 珍しくじっくり観察していると、僕の視線に気づいたのか二人共こっちを向いた。うん、ロリだ。いかにもロリって感じのロリだ。小麦色の肌。ちらっと顔をのぞかせる八重歯。しかも関西風の喋り方。全て僕好みだ。ということは公仁の好みでもある。輸血の準備が必要そうだ。血液パック、こっちにもあるかな?


 と、自分の世界に入っていると、ケンタウロスの視線が一層強くなる。やばい、何か言わないとロリコン扱いされちゃう。


 だが、僕が何か言う前に、ケンタウロスが口を開いた。


「何か用か?」

「いや、あの、その……」


 鎮まれ僕のコミュ症。これだとただのロリコンじゃないか。僕はただチーガルって単語が聞こえてきたから気になっただけで、別にやましい気持ちがあったわけじゃなくて……。


「エクウスって、誰?」


 セルは平常運転だ。実に羨ましい。


「私だが」

「お届けもの」


 そう言うが早いが、セルは僕が持っていた手紙をひったくると、ケンタウロスもといエクウスさんに渡した。


 最初は訝しんでいたが、手紙に書いてあるマークを見てエクウスさんは目を見開いた。


「まさか、お前たちが?」

「ん。チーガルの、弟子」


 それを聞くと、エクウスさんは怪しむような視線から一変、見定めるような視線を向けてきた。


「貴女ならわかる。なかなかに強いな。だが……」


 そう言って、エクウスさんは僕の方を見た。こ、こえ~。これが眼力ってやつか……。


「お前は分からん。さっぱり強くない」

「ちょっと待て。そんなにきっぱりと――」

「ん。雑魚」

「セルぅ!? なんでそこで裏切るの!? あの地獄を乗り越えた仲でしょ!?」

「過去、振り返らない」

「その気持ちはわかるけど、こんな時くらい思い出して! 今夜の宿が危ないんだから! 僕は布団で眠りたいの!」

「……ふっ」

「ねえ? なんでそこで『これだから最近の若者は……』みたいな顔してお手上げのポーズをとるの!?」

「布団なんて、ない。わたしには、最初から……」

「え? あ……ごめん」


 悲しい記憶を思い出させてしまったかもしれないと、謝る。悪気はなかったんだ。ホント。


『地獄ゆうてるで』

『ってことは、本当にチーガルの弟子なのか? これが? こんなのが勇者候補なのか!?』

『しー。聞こえてまうやろ』

『済まない。ついな』

『気持ちは分かるで。ウチやってお驚きや。せやけど、《猫と男の二人組、猫は強いけど男は雑魚、多分宿が取れない》に合致しとるで』

『たしかに、だが……』


 向こうも向こうで何か話し合っている。が、それは問題じゃない。どうせ僕が雑魚なことについて話し合ってるはずだ。くっそ、僕だってマジックハンドが使えれば強いのに。


「師匠、買い出し行ってきた……ぞ……って、千曳!?」


 カオスな空間に、新たな闖入者が現れた。そいつは、幼い頃から聞きなれた声をしていた。

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