3-2 階段オーガ
この前に、もう一話投稿しています。
やっほ―。千曳だよ。
上級者が簡単なクエストしちゃいけないなんてルールはないと思う。
まあ、やりすぎは良くないけど。
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チンピラは三人。大中小だ。
その内の一人、中肉中背なおっさんが、あざ笑うかのように言う。
「おいおい、ここはガキの来るところじゃねーぜ?」
「そうだそうだ」
その横にいる丸いちびのおっさんが、いかにも虎の威をかる狐って感じのセリフを吐いた。
「……一応、冒険者なんだけど」
こんな時に、持病のコミュ症を発症してしまう。おっさん達には、かなり小さく聞こえたはずだ。
どうやらカンは当たったらしく、三人のおっさんは口を歪める。多方、冒険者になったばかりのひよっことでも思っているんだろう。さらに、僕らがいるこの場所が、勘違いを加速させる。
「てめぇらもしかして、駆け出しか? まぁそうだよな。こんな簡単なクエスト見てるぐれぇだしよぉ」
「その年で冒険者とは、悲しいやつらだな」
一番高い、ごついおっさんが僕に、勘違いをしてると教えてくれる。二段目のおっさんなんて勝手に勘違いして、勝手に泣き出す始末。
ちなみに、僕が見ているクエストボードはFランク。配達や雑用がほとんどだ。流石、最低ランクといったところか、危険がほとんどない。まあ、報酬も少ないけど。
「……一応、三週間経つんだけど」
貴様コミュ症! まだ僕の邪魔をするか! これじゃまるでセルじゃないか。いや別に、セルを悪く言ってるわけじゃないけど。
僕の発言を受けて、ますます盛り上がる三人。正直、めんどくさい。ちょっと楽しいけど。
「三週間も経って、まだそんなランクか」
「前からいた割には見たことないけどな」
「たまたま時間が合わなかったってだけだろ? なんたって俺たち、Dランクだしよ。遠征やらでこの街にいないことが多いんだよなぁ」
目の前でコントが続く。僕らのような初心者に構って、何が楽しいんだろう?
「名前は?」
これはセルだ。いくら僕でも、初対面に暴言は言わない。
セルの質問を受けて、一段目のおっさんがキーキー喚く。
「なんだ、その言い方は!? おめーら俺たちが誰か分かってねーようだな!」
「おいおい、落ち着け。どうせどこかの没落貴族だ。先輩に対する礼儀すらなってないわけだし」
「そうだ。あいつら、無駄にプライド高いしな」
「とはいえ坊ちゃんに名乗らないのも失礼だな。いいだろう、名乗ってやる」
三段目の男は、ひと呼吸おいてから大声で名乗った。
「俺たちは、Dランクパーティー、オーガの棍棒だ!!」
その瞬間、ギルド内にどよめきが起こった。かなりの有名人らしい。
『オーガの棍棒って言うと、あの最速記録の……』
『ああ、この年のDランク最短記録保持者だ』
『噂には聞いてたが、あれが……』
そんな声が聞こえてくる。どうやらかなりギャラリーが集まっているようだ。冒険者ラッシュか?
そんな考え事をしてると、勘違いオーガはまた勘違いを始めた。
「どうした? こんな有名人に会えて嬉しいのか?」
もう救いようがない。どうにかしてこの場を切り抜けたい。さて、どうしたものか。
「どうして俺たちが前らに声かけたのかしりてーか?」
「……まあ、一応」
「じゃ、教えてやろう。俺たちはなぁ、後輩を育てんのに力を注いでんだ。ま、先輩としては当たり前だな」
「すげーだろ」
「ま、普通のやつらにはそうそう出来ることじゃないよな」
勝手に話す階段オーガ。後輩を育てるとか言っておきながら、どうせパシルつもりだろう。汚い連中だ。まるで盗賊の様……そうか!
「そういうわけだから、お前ら、感謝して俺たちのことを師匠とよ――」
「師匠はもう間に合ってるから」
周りには聞こえないくらい小さな声でつぶやく。僕らには地獄神がいるしね。
それと同時に、階段が倒れる。セルにアイコンタクトして、それに駆け寄る。
「って、おい。大丈夫? 誰かー! ギャラリーの中にお医者さんは居ない?」
「ある程度なら、見れるが……」
「頼んだ」
医者を名乗る男に後を託し、こっそりとギルドから抜ける。最近、移動中の息抜きに習っていた忍者流の移動方法が役に立つとは。
ギルドからだいぶ距離をとり、ようやく一安心。いやー、あの人達、だいじょーぶかなー?
「いきなり、倒れた」
「いやー、驚いた。熱中症かな? いきなり気絶するなんて、かなり重症だよ」
「ん。心配」
先輩たちの心配をする僕ら。なんていい後輩なんだろう。
「とはいえ、金ない。宿、取れない」
「うーん。最悪野宿かな。そだ、とりあえず、手紙渡しに行くか」
そう言って、僕は腰につけてる収納袋から二枚の手紙を出した。チーガルの友達って話だし、もしかしたら停めてくれるかも。
「ん、それが、いい」
「じゃ、騎士団の詰所にでも行きますか」
詰所は教会の裏手にある。もしもの時、動けるのかな?
来た道を戻り、外へ。相変わらず受付さんが怖いので、なるべく顔を伏せながら進む。
外に出ると、冒険者ラッシュ中なのか、かなりの冒険者がここに向かってきていた。その中に、綺麗な鎧を着た人を見つける。多分騎士団だろう。
追いかけると、予想通り、教会裏の建物に入っていった。ここが詰所で間違いは無いようだ。
入ってみると、教会とは違う、飾りっけのない質素な雰囲気だ。これはこれでいいと思う。
そうして、ロビーとでも言える空間を眺めていると、端の方から声が聞こえてきた。
「その話、ホンマなん?」
「ああ、門番は何も見てないって話だ」
「む~。遅れとるんかなぁ」
「かもな。にしても、チーガルも困ったやつだな」
「せやなぁ。弟子のこと悪く言うのはよぉないなぁ」
談話スペースとでも言える、椅子と机が置いてある場所には、二人の女性が座って……いや、一人はたってる。
というか、その人は座れるのか? というのも、立っているのはケンタウロスだ。馬の下半身と人間の上半身を持つ、あのケンタウロス。
もう片方は、限りなく人に近いが、一箇所が決定的に違う。畳まれてはいるが、カラスのように真っ黒な羽が生えているのだ。さらに、セルや夜魅やチーガル並に背が低い。さらに巫女服だ。ロリ巫女だ! 公仁が見たら鼻血ものだろう。
珍しくじっくり観察していると、僕の視線に気づいたのか二人共こっちを向いた。うん、ロリだ。いかにもロリって感じのロリだ。小麦色の肌。ちらっと顔をのぞかせる八重歯。しかも関西風の喋り方。全て僕好みだ。ということは公仁の好みでもある。輸血の準備が必要そうだ。血液パック、こっちにもあるかな?
と、自分の世界に入っていると、ケンタウロスの視線が一層強くなる。やばい、何か言わないとロリコン扱いされちゃう。
だが、僕が何か言う前に、ケンタウロスが口を開いた。
「何か用か?」
「いや、あの、その……」
鎮まれ僕のコミュ症。これだとただのロリコンじゃないか。僕はただチーガルって単語が聞こえてきたから気になっただけで、別にやましい気持ちがあったわけじゃなくて……。
「エクウスって、誰?」
セルは平常運転だ。実に羨ましい。
「私だが」
「お届けもの」
そう言うが早いが、セルは僕が持っていた手紙をひったくると、ケンタウロスもといエクウスさんに渡した。
最初は訝しんでいたが、手紙に書いてあるマークを見てエクウスさんは目を見開いた。
「まさか、お前たちが?」
「ん。チーガルの、弟子」
それを聞くと、エクウスさんは怪しむような視線から一変、見定めるような視線を向けてきた。
「貴女ならわかる。なかなかに強いな。だが……」
そう言って、エクウスさんは僕の方を見た。こ、こえ~。これが眼力ってやつか……。
「お前は分からん。さっぱり強くない」
「ちょっと待て。そんなにきっぱりと――」
「ん。雑魚」
「セルぅ!? なんでそこで裏切るの!? あの地獄を乗り越えた仲でしょ!?」
「過去、振り返らない」
「その気持ちはわかるけど、こんな時くらい思い出して! 今夜の宿が危ないんだから! 僕は布団で眠りたいの!」
「……ふっ」
「ねえ? なんでそこで『これだから最近の若者は……』みたいな顔してお手上げのポーズをとるの!?」
「布団なんて、ない。わたしには、最初から……」
「え? あ……ごめん」
悲しい記憶を思い出させてしまったかもしれないと、謝る。悪気はなかったんだ。ホント。
『地獄ゆうてるで』
『ってことは、本当にチーガルの弟子なのか? これが? こんなのが勇者候補なのか!?』
『しー。聞こえてまうやろ』
『済まない。ついな』
『気持ちは分かるで。ウチやってお驚きや。せやけど、《猫と男の二人組、猫は強いけど男は雑魚、多分宿が取れない》に合致しとるで』
『たしかに、だが……』
向こうも向こうで何か話し合っている。が、それは問題じゃない。どうせ僕が雑魚なことについて話し合ってるはずだ。くっそ、僕だってマジックハンドが使えれば強いのに。
「師匠、買い出し行ってきた……ぞ……って、千曳!?」
カオスな空間に、新たな闖入者が現れた。そいつは、幼い頃から聞きなれた声をしていた。
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