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絶晩成型  作者: 咫城麻呂
第一章 異世界ラオム
3/68

1-3 異世界ルール三ヶ条

 やっほー千曳ちびきだよ。

 バーチャルリアリティのゲームって画面が近すぎると思うんだよね。

 脳に直接作用できるようになるまではやりたくはないかな。


――――――――――――――――――――――――――――――――


 森から出るために動き始めてから3時間後。

 結局森から抜ける前に夜になってしまった。

 今日は途中で見つけた広場で野宿だ。

 なぜか夜魅は最初から火の魔法を覚えていたようなので、焚き火を起こしてもらった。

「この森なかなかに広いよ」

 色々調べた結果、マップについてある程度分かるようになった。

 まず黒い点。これは僕を表している。

 次に青い点。これは友好モブを表している。夜魅よみ公仁こうじんがそうだ。

 最後に赤い点。これは敵対モブを表しているらしい。というのも、まだ敵対モブに会ったことがないからだ。

 地形の確認は設定でカラー表示にしたのでとても分かりやすい。

 またそのマップに入ってから10分後という制約はあるが、マップ全体を調べられるようにした。

 それで森の大きさを調べていたわけだけど、とにかく広大だ。

 多分マップの端が森の出口だと思うんだけど、一番近くてもあと2日近くかかりそう。

 しかも途中には敵対モブを示す赤い点がいくつかある。

 そのことを話すと公仁は考え込んでしまった。


 しばらくして、考えがまとまったらしく僕に話しかけてきた。

「なあ、これは本当に夢だと思うか?」

 突然の話に驚きつつ、率直な感想を言うことにした。

「よく分からない。でも、こんなリアルな夢なんて聞いたことないよ」

「だよな、俺もそこが引っ掛かってるんだ。夢って普通、感覚はないはずだしな」

 そこへ、火の番をしていた夜魅が質問してくる。

「どういう事?」

「オマエ、夢見たことは?」

「わからない、起きて3秒もすれば夢見たか忘れるから」

 僕はため息をこぼす。まさかここまでとは……。

「千曳、教えてやれ」

「えー、やだ。めんどくさいしめんどくさいことになるし」

「どういう事?」

「ほら、早く教えてやれって」

「わかったよ。でもその前に、怒らない?」

「なんで?」

 夜魅がキョトンとして聞き返す。それはそうだ。僕が夜魅の立場でもたぶんキョトンとするだろう。それでも保険を掛けておくことに越したことはない。

「とにかく、怒らない?」

「う、うん」

 夜魅の返事を聞いてから僕は夜魅にチョップをかました。

「痛っ!ちょっとなにするの!?」

 やっぱり怒った。だから嫌だったんだよ。

「ちょっと待って、耳は勘弁し…痛い、痛いって」

 怒った夜魅が耳をひぱってくる。保険なんてなかった。

「な、わかっただろ。普通、夢には感覚がない。でもオマエはチョップを受けて痛がった。つまりそういうことだ」

「まあなんとなくわかった。つまりこれは夢じゃない、と」

「まあ、一概にそうとも言えないがな」

「ね、ねえ。そ、そろそろ、放して、よ」

「はいはい」

 やっと放してくれた。

「やれって言ったのは公仁だよ?なんで僕が怒られなきゃいけないの。それに、怒らないって約束したじゃん」

「言ったのは公仁でも、やったのはアンタでしょ。それに、私が暴力に訴えられたら暴力で返すっていう考えなのは知っているでしょ」

 だからこその保険だったのに……。

 とにかく、僕の耳を犠牲にして、夜魅は理解したようだ。

「で、色々と考えたんだが、恐らくここは異世界ってやつだろう」

「「異世界!?」」

 僕と夜魅は同時に聞き返した。が、それは僕も薄々感じていたことだったからそんなに驚かなかった。

「ああ。恐らく、だがな」

「根拠は?」

 夜魅が質問する。彼女はこれが夢だと本気で考えていたらしい。

「メニューとさっきの火の魔法を見ればだいたい察しはつくだろ」

「確かに二つとも地球では考えられないことだけどさ。えっと、ヴァーチャンリアリティ、だっけか?」

「なんだそれ」

 聞いてから真っ先に思いついた言葉を口にする。

「...バーチャルリアリティじゃない?」

「そうそう、それ。なんでVなのにヴァじゃないの?」

「さあ」

 ちょっと気になった。今度調べてみよう。

「まあいっか。で、その可能性は?」

「それも少し考えたが、無いな。さっきまで散々歩き回ってただろ。脳に直接作用するのなんてまだ空想上の技術だから、実際に歩き回る必要がある。あれだけの時間何にもぶつからずに歩けるような広い場所なんてねーよ」

「なるほどね」

 どうやら夜魅も納得したようだ。

「なんでこっちに飛ばされたんだろう」

「そりゃあお前、天王の仕業だろ」

 いきなりクラスメイトの名前が出てきたので驚いた。

「お前、まさかここに来る前のこと覚えてないのか?」

「えっと...確か天王君に質問しようの会をやったのまで覚えてるよ」

「そこまでか。その会の途中でアイツが『ラオム』とか言う地名を出してきて、床が光って、意識が飛んで、気づいたらここで寝てたってわけだ」

 言われてみるとそうだった…かもしれない。

「へー。そんなことが」

「お前もか。というか、お前も当事者だからな」

「確かにそうだね」

「……まあいい。とにかく、天王が関係してるのは確かだろう」

 さすがに公仁も夜魅にツッコミを入れるのに疲れたらしい。

「じゃあ、天王君なら地球に戻る方法を知ってるかも」

「そうだな」

「じゃあ、さっさと天王君を見つけて帰ろ」

 夜魅の提案はもっともだ。この世界には何があるかわからない。地球の方が安全だ。

「ちょっと待て。お前ら本当に帰りたいか?」

 公仁が問いかけてくる。

「どういう事?」

「俺は帰るつもりは無い」

 その発言に僕らは驚いた。

「どうして?この世界には何があるかわからないんだよ」

「よく考えてみろ。こんな楽しそうな世界から何もない地球に帰るなんて勿体ないだろ」

 確かにスキルとか魔法とかがあるこの世界はとても楽しそうだ。

「それに、地球に帰ってまた親に迷惑かけるのか?」

 そう言われて僕は昨日までの生活を振り返ってみた。

 朝、遅刻ギリギリまで寝てお母さんに起こしてもらう。家事の手伝いはしない。好き嫌いも多い。今こそ無視をされているが、中学のころは夜魅や公仁と騒ぎを起こして、その度に先生に呼び出されていて、保護者会でも話題になったらしい。今でも授業態度について色々言われるらしく、良く愚痴をこぼしていた。迷惑をかけているのは明らかだ。自分はいない方がお母さんは幸せなんじゃないかと考えたこともある。この世界に留まれば、お母さんは幸せだし僕は楽しめる。まさに一石二鳥だ。

「確かにもうお母さんに迷惑かけたくないな」

 夜魅も同じ気持ちのようだ。

「俺だって、お袋に迷惑かけたくない。だから、さ。この世界、めいいっぱい楽しもうぜ」

「うん、そうだね」

「楽しそう」

 僕と夜魅は同意した。

「じゃあ、ルールを決めなきゃね」

 夜魅が言い出した。

「いいな、それ」

 公仁が賛成した。もちろん僕にも異論はない。

「1人1個ずつ作って。この世界での行動の基準になるんだから、しっかりね」

 うーん。どうしよう。賛成したはいいけど、思いつかない。座右の銘でいいかな?

「じゃあ、言い出しっぺの私から。『この世界を楽しく遊び尽くすこと』」

 あれ、それって。

「ほとんどお前の座右の銘じゃねえか」

「えへへ、ばれちゃった。でもやっぱり、座右の銘ってその人の行動基準になると思うんだ」

「まあ、確かに」

「そんな事より次、アンタだよ」

 次は公仁か。どうしよう何も思い浮かばない。僕も夜魅みたいに座右の銘でいいかな。

「俺はやっぱり、『どんな状況でも、どんな手段を使っても、生き残ること』だな」

 げっ、公仁に言われた。アイツと僕の座右の銘ってほとんど同じなんだよね。

 公仁の方を見ると、してやったりって顔してる。あの野郎。

「結局アンタもほとんど座右の銘じゃん」

「まあな」

「さっきから反応薄くない?まあいいや。最後、千曳」

 甘いな公人。こんなこともあろうかと、もう一つ考えていたのさ。

「えっとね。『なるべくトラブルを起こさないこと』かな。旅がしづらくなるのは嫌だし」

 公仁がつまらなさそうな顔をする。どうだ参ったか。

 このルールは自分にしてはなかなかに上出来だと思う。

「まあ、座右の銘よりはマシじゃね」

「アンタがゆうな」

 こうして、僕達の異世界ルールが出来た。

よければ誤字脱字の指摘、感想等お願いします。

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