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絶晩成型  作者: 咫城麻呂
第二章 中立都市ツァオベラー
25/68

2-18 死の恐怖

 やっほー。千曳ちびきだよ。

 死、ってなんだろう?

 僕的には、生物共通の最後だと思う。

 大事なのは、死ぬまでに何ができたか、じゃないかな。


 ―――――――――――――――――


 翌日の昼。僕らは森の入口に着いた。

 道中で野営をしたから一日経ってしまったが、ツァオベラーに向かう時には三日かかったから、まあいいだろう。

 それもこれも、チーガル先生の魔法のおかげだ。とは言ったものの……


「マジックハンド使ったら一日もかからなかったのになぁ」

「それは出発前に言ったでしょ?」


 独り言のつもりだったのだがチーガルに拾われてしまった。つくづく聴力がいいやつだ。


「分かってるよ。無暗な多用は禁止、だろ?」

「そ。戦闘と命の危険以外では多用しないこと。流石に荷物持ち位はいいけど、それだって長時間利用しないこと。こまめに回復しなさい」


 先生のような口調で釘を刺してくる。

 そこで僕は、答えづらいであろう問をぶつけてみた。


「熟練度上げたほうが死ににくくなるんじゃない?」

「それは……一理あるけど、やっぱダメ」

「理由を聞いても?」

「そうだね……魔王と同じくらい強くなれたら話してあげてもいいよ」


 要するに教える気はないってことか。まるでかぐや姫を見ている気分だ。

 そこまで考えて、荷物持ちのマジックハンドが二体しかいないことに気がついた。

 今のマジックハンドの最低展開数は5体。荷物持ちを除くと3体。あれ? 多用しなくても乗ってこれたじゃん。

 急いで文句を言おうとしたが、チーガルはそれよりも早く、口を開いた。


「じゃあ、行きますか」

「何、するの」

「そういや聞いてなかったな」


 セルの呟きを聞いて、チーガルはやっちゃった、とでも表現できる表情になった。


「あちゃー。ま、まあ、話したら逃げ出す可能性もあったし? 大丈夫、大丈夫」

「大丈夫じゃないよ。思いっきり聞こえてるよ」


 独り言のつもりかもしれないが、バッチリ聞こえています。

 それにしても、『逃げ出すかも』って、何やらせるつもりだよ。カルネさんも死ぬ死ぬと口を酸っぱくして言ってたし、何が始まるんだ?


「ゴホン。とりあえず、このダンジョンをクリアするところから始まるよ。あたしは手助けしかしないから、頑張って」


 なんという投げやりな。でも、やるしかないんだろうな……。


「セル。前衛は?」

「無理」

「そっか。じゃあ、僕が前衛やるから、隙を見て弱点を狙って」

「ん」


 セルの返事を聞きながら、僕は荷物の中から、適当な武器と防具を手にする。と言っても、武器は飾りだ。だって戦えないし。防具も家にあったレザーアーマーだから、性能は微妙だろうし……。

 気づくと、セルもまた忍者装束になっていた。手には小太刀を持っている。

 チーガルは……どうでもいいか。どうせなんともないだろうし。


「じゃあ、行きますか」


 そう言って、森に足を踏み入れた。


 ★★★


 飛びかかってきたオオカミ風の魔物を、マジックハンドが受け止め、その隙にセルが首を落とす。

 反対から来たウサギ風の魔物を、マジックハンドの土の魔法で牽制しつつ、後ろに回った別の個体が風の魔法で作った刃で首を切り落とす。

 魔物の種類こそ違うが、ここ数時間で見慣れた光景だ。いったい何体の魔物を殺してきたのか。

 それにしても、セルが強い。彼女がいなければ、今頃僕はマジックハンドを多用していただろう。

 そしてもう一つ。魔物の数が異様に少ない。いや、ここに来るまでに比べたら圧倒的に多いんだけど、僕がこもっていた時に比べると明らか少ない。

 深さの問題かな? 確か我が家って、そこそこ深いところにあったはず。だとしたら、奥に行くほどきつくなるのかな?


 ヒュッ!


「うわ!」


 考え事をしていたら、不意に風切り音が聞こえてきた。見ると、いつの間にか接近してきていたウォルフの目に、セルの作り出した手裏剣が刺さっていた。

 あれ? マジックハンド仕事してなくない?

 そう思ってあたりを見渡すと、結構な量の魔物に囲まれていることに気づいた。ちょっと考えすぎたようだ。

 とりあえず、マジックハンドをさらに五体増やして応戦させる。

 マップを確認すると、ここを抜ければある程度の距離までは魔物がいないようだ。セルにこのことを伝え、魔物が倒されていくのを眺めるのだった。


 ★★★


 夜。

 十日ぶりに、我が家で夕飯を食べていた。もちろん、料理人は僕だ。

 今日のメニューは、焼いた魔物の肉にフルーツを使ったソースをかけたものと、有り余る野菜を使ったサラダ。そして、果汁百パーセントジュース(たぶんオレンジ)。

 相変わらず二人に好評だった。僕的にはいつもと変わらないんだけど、そんなにおいしいのかな?

 夕飯のあとは、見張りをどうするか、と言う話になった。

 僕的には、マジックハンドがあるからみんなで寝て大丈夫だと思うんだけど、冒険者として見張りは大事だ、という結論になった。

 結果として一人三時間。三人いるから、合計六時間は寝れるローテーションになった。


「じゃ、最初はあたしね。一度寝ちゃうと、朝まで起きないし」


 そう言って、チーガルは家を出ていった。

 ちなみに、家の近くに来ても魔物の量は変わらなかった。むしろ、少なくなっている気さえする。

 普通ダンジョンって、奥に行くほど魔物が多く、強くなるものなんじゃない? まあ、日本の知識だけど。

 セルに聞いてみるが、セルもダンジョンは初めてだそうだ。

 わからないことであれこれ考えていてもしょうがない。交代まで寝ますか。

 魔物を警戒して電気はつけていないから、そのまま横になる。もちろん雑魚寝だ。

 それでも、家の真ん中で寝れるわけだから、一番安全なんじゃないだろうか。まあ、チーガルが魔物を見逃すとは……修行の一環としてはあるかも。

 そう思いつつ、交代の時間まで熟睡しました。


 ★★★


 次の日の午後。

 僕らは、最新部と思われる広場に着いた。

 広場は半径五十メートルくらいあり、真ん中に一本の巨木が生えている。それには、クリスタルのようなものが埋め込まれており、淡い光を放っている。多分、ダンジョン核だろう。

 そして、その核を守るようにして立つ、一体の獅子。

 全長は二メートルくらい。迷彩柄で、額に一本の角が生えている。四本の足はどれも発達していて、こちらを警戒するように唸っている。

 セル曰く、フォレスト・レオと呼ばれるBランクの魔物らしい。

 あれを倒せば、修行はクリアかな? ……流石にそれはないか。

 そこへ、チーガルが恐ろしいことを告げる。


「あいつを倒せば、とりあえず準備運動は終了だから」


 何? 準備運動? 今までのダンジョン攻略が、準備運動だと?

 確かに、マジックハンドのおかげで僕の消耗は少ないけど、セルは、かなり動き回っていたはずだ。それこそ、準備運動とは比べ物にならないくらい。

 僕は何か言おうとしたが、それよりも先に獅子が吠えた。


 グアァァァァ!!!


「ほら、さっさと戦う」


 そう言って、チーガルは、木の上に飛び乗った。戦闘には関与しないらしい。

 すると、それが合図かのように、今まで唸ることしかしてこなかった獅子が飛びかかってきた。


「右!」


 フェーダの言葉を聞き、脳からの命令を待たずに右へ飛ぶ。

 瞬間、さっきまで立っていた場所に、獅子の右前足が振り下ろされる。

 直撃は避けたものの、風圧で吹き飛ばされそうになる。

 当たっていれば、確実に死んでいた一撃。今までの魔物とは比べ物にならないほどの、力、スピード。

 それらは、一瞬で僕を恐怖のドン底に叩き落とした。

 襲いかかる獅子の左前足。それを見てもなお、僕は動けなかった。

 直撃する寸前に、マジックハンドが盾のようにあいだに入った。威力はなくなったが勢いは殺せずに、僕は吹き飛ばされ、背中から木にぶつかった。

 体中に激痛が走る。

 僕は、慢心していた。珍しいスキルを持ち、自分は死なないと勝手に思い込んでいた。だが、それは違う。この世界では、どんな人物でも、簡単に、死ねるのだ。

 たとえどんなにステータスが高くても、強い魔法やスキルを持っていても、容姿が優れていても、死ぬときは、死ぬのだ。

 少しでも生存率を上げるための努力をしなければ、簡単に、死ぬ。


「死にたい?」


 いつの間にか近くに来ていたセルが、そう言っているのが聞こえた。

 その言葉は、嫌でも現実を突きつけてくる。

 死ぬ。存在がなくなる。この世から消える。


『皆から、忘れ去られる』


 嫌だ。それだけは、絶対に、嫌だ。

 過去に封印したはずの思いが蘇ってくる。

 少しでも周りの人に注目されたくて、色々なことをしてきたあの頃。あの頃の僕は、忘れ去られることを、ただひたすらに恐れていた。

 どんな愚かなことでもいい。未来で、『こんな奴がいた』と、語られる存在になりたかった。

 決別したと思っていたのに、どうやらまだ離れられていなかったらしい、この思い。

 ――だとしたら。


「まだ……まだ、死ねない」


 まだ、何もしていない。今まのままでは、忘れ去られるだけだ。

 ダンジョンに挑み魔物に殺された、ただの冒険者としてすぐに歴史に埋もれるだけだ。

 それだけは、嫌だ。

 僕は、全身の痛みを無視して立ち上がった。

 気づくと、目の前に獅子がいた。

 今すぐにでも僕を食べようと、じっとこちらを睨んでいる。

 上等だ。

 こいつをぶっ殺して、生き残る。そんな簡単な考えが、なぜ浮かばなかったのか。

 満足するまでは、絶対に、生き残る。どんな障害があったとしても、どんな手を使っても、絶対に。

 僕は、獅子をに睨み返すと、マジックハンドを三十体展開し、すぐさま指示を出す。


「1から10は防御! 11から20は魔法! 21から25は遊撃! 残りは僕の護衛だ!」


 そう言うが早いが、僕は27に飛び乗り、その場をあとにする。

 獅子が突進してきていたのだ。

 スピードを利用した角の一撃は、後ろの木を破壊する。

 だが、もう恐れない。

 1から10は獅子の足元を浮遊し、前足による一撃を回避していく。

 マジックハンドの速さと的の小ささによって、自分の一撃が当たらないのを見ていると苛立ってきたのか、攻撃が雑になってく。

 そこで生まれた隙を見て、11から20の放った魔法が襲いかかる。だが、獅子もだてにBランクでは無いようで、すぐさま避けようとして……左後ろ足を、21から25に掴まれていることに気がつく。

 払おうとするが時すでに遅し。体に魔法が叩き込まれる。


 グアァァァァ!!


 さっきとは違う、悲痛な叫びがこだました。だが、さすがBランクといったところか、まだ倒れない。

 獅子は僕を見つけると、再び突進してきた。スピードは落ちているが、まだまだ死を連想するには十分な一撃だ。

 僕は上に回避すると、角が木に刺さり身動きがとれなくなった獅子の首に向かって、剣を構えたまま飛び降りた。

 いくら僕の攻撃力が10でも、落下のスピードと僕の体重を合わせればBランクにも通用するらしい。

 剣は半ばまで刺さり、ようやく獅子は絶命するのだった。

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