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絶晩成型  作者: 咫城麻呂
第二章 中立都市ツァオベラー
23/68

2-16 マジックハンドの使い方

 やっほー。千曳ちびきだよ。

 修行と言えば滝しか連想できないのは僕だけじゃないはず。


 ――――――――――――――――


「意外と早かったな」


 机に移動して、僕の前にチーガル、その隣にセル、と言った風に座ってから、僕は口を開いた。

 確かこいつは事件の重要参考人と言った立場だったはずだ。最悪、帰ってこないことも考えていたってのに……。


「いやね。お尋ね記者が突ってきたから、その騒ぎに乗じてカルネに丸投げしてきた」

「逃げてきたのか……」

「お尋ね、記者?」


 セルはお尋ね記者に興味をもったようだ。お尋ね者の……記者! 確かに気になる。

 セルの質問を受けて、チーガルは思案顔になる。


「あ、そっか。えっとね……あ! そうそう。ジライ新聞って言えば分かる?」


 それを聞いて、セルが納得したように頷いた。こうしてまた一人置いてかれるのか……。

 と思っていたら、意外にも教えてくれた。


「ジライ新聞てのは、使える情報はすべてネタにするって言うモットーの二人組が書いてる新聞さ」

「すべてってどれくらい?」

「言葉の通り。秘密の会議から闇の取り引き。果ては人のプライベート情報なんかまで。今回のなんて適当な家の晩御飯を乗せるらしいよ」


 やばすぎるだろその新聞。僕は顔が引きつるのを感じた。


「ぷ、プライベートって、どれくらい……?」

「名前、性別、年齢、身長、体重、スリーサイズ、体脂肪率、ステータス、住所、好物、特技、所持金、昨日の三食の献立なんかは基本じゃん。後は、服のコーディーネート、シた回数、行動パターン、性格診断、顔面偏差値、最近の悩み、行きつけのお店、エトセトラ。ツッコミの切れに点数付けてた時もあったっけな~」


 チーガルが指折り挙げてく例に、僕は戦慄した。そんなの乗せられたら人生終わったようなものじゃん。

 ちらっとセルを見ると、どこか遠い眼をして頷いている。チーガルが話を盛ってるわけではなさそうだ。

 僕は、話を聞いて浮かんだ疑問を口にした。


「そんなことして捕まったりしないの?」

「そりゃあふつうは捕まるよ。だからお尋ね記者なんだし。でも、書かれる人ってのは、基本的に悪人だけなんだよね。だから捕まえようにも捕まえられないんだ」


 よかった。無差別だったら、書かれたら最期、お天道様の下を歩けなくなるところだったよ。僕は胸を撫で下ろした。

 すると、今度はセルが口を開く。


「悪い人、多い?」

「そうらしいよ。友達に聞いたんだけど、政治ってのはそういうことしないとやってけないらしいからね。あの子もそこら辺理解してるから、本当に迷惑な人だけを書いてるんだ。それでも、そのことを知らない人はいつ書かれるか脅えてるんだって」

「正に地雷、か」


 自分で言って、かなり的を射ていると思った。


 そんな風にあたりさわりのない話をしばらくした後、ついに本題に入る。


「で、さ。少年はセルに捕まったわけだけどさ、どうやって脱出したの?」

「わたしも、気になる」

「それは私が説明します!」


 唐突に、フェーダが現世に降り立った。それを見て、二人とも驚く。ただし、驚き方はそれぞれちょっと違う気がした。


「へぇ。もう出せるようになったんだ。術者と違って成長早いね」

「ほっとけ」

「千曳、それは?」

「申し遅れました。私はスキルフェアリーのフェーダと申します」


『スキルフェアリー』のところを無駄に協調してドヤる妖精さん。

 それを見て、セルは興味深いものを見た、と言った表情で観察する。


「むう、小さい。暗殺、難しい」


 セルの目が光る。僕は知っている。あれは狩る者の眼だ。口ではああ言っているが、実際は後ろに『その方が、燃える!』と付け足されるに違いない。

 さすがのフェーダも殺されるのは嫌なのか、おぞましい速度で僕の頭の後ろに隠れて、必死に訴える。


「わわわわ! 私を暗殺するとマスターが悲しみますよ!?」

「むう。確かに……」


 フェーダの命乞いを聞いて、セルは狩るものの眼から普通の目に戻った。

 それでもまだ興味深そうな目でフェーダを見ている。純粋に気になるらしい。

 そう言った目は大丈夫みたいで、フェーダは隠れるのをやめてテーブルに降り立った。……若干顔が蕩けている気がするのは気のせいだろう。


「それでは改めて。今回の件は、マジックハンド44の便利技の一つ、『意識交換』によるものです」


 よく分かる、事件の背景。

 まず、セルが首トンで僕の意識を狩ろうとした瞬間に、たまたま召喚していたマジックハンド、NO.12と意識交換をした。

 マジックハンドは目がないため、魔素の濃度でしかあたりの様子を探ることは出来ない。それがあの白黒の世界だ。

 後は、僕がタイミングを見て自分の体に戻るだけ。

 便利なんだけど欠点もあって、人の体に移るマジックハンドの精神はかなり消耗するらしい。だから、そのマジックハンドはしばらく使えなくなる。


「もともとはマスターがマジックハンド界に来るためのものなんですけどね」


 そうフェーダは締めくくった。

 彼女の説明を聞いて、二人とも感心したようだ。ああ、フェーダがどんどんニヤけていく。

 いかん。これ以上二ヤけると暴走しかねない。早く話を変えないと。


「つうかさ、なんでチーガルは事件のこと知ってたのさ」

「ああ、それ? ただ盗み聞きしてただけだけど?」


 そんなさらっと言われても……。

 というか、チーガルが盗聴とか想像がつかない。絶対に考えより先に手が出るタイプだよね。

 あれ? ちょっとまった。


「それってつまりさ、もっと早く事件を解決出来たんじゃ……」

「うん。そうだよ」


 じゃあ僕は一体何のために捕まったんだよ!!!

 僕はただただ心の中で叫ぶことしかできなかった。


「まあ、これくらいどうにか出来ないと、あたしの修業なんてとてもじゃないけど生き残れないってことさ」

「そんなにきついの?」

「カルネ曰くね」

「……へぇ」


 あんな馬鹿きついメニューの考案者がきついと言う修行……。うん。死ぬな。


「まあまあ、そう絶望した顔をしなさんなって。あたしの場合は実践メインだからまだ大丈夫だと思うよ?」

「それってつまり失敗したら一撃で死ぬってことだよね?」


 僕の問いに、チーガルは視線をそらすことで答えた。

 だめじゃん。いったい何が大丈夫なんだよ。

 そんな中、不意にセルが言葉を発した。


「わたしも、参加する」

「そっか。セルも強くならなきゃだしね」

「ん」

「?」

「まあ、セルならもともと強いし問題ないよ。少年の生存率も上がるし」

「ん! がんばる」


 空気がよくなったのはうれしいけど、おいてけぼりにされるのはいただけないな。


「なんの話?」

「まだ聞いてなかった? セルがこの街に来た理由」

「うん」

「姫の、監視」


 それを聞いて、ピンときた。

 角付きの言葉、プリュスの状況、チーガルの指示。それらを総合すると――


「殿さまが人質か。で、ナミの監視から僕の監視に移ったと」

「さすが」


 僕の推理に、チーガルが称賛の声を上げる。大体はあっているようだ。


「師匠にも、勝ちたい」

「そのためにも修行修行! 明日一日休んで、あさって出発するからそのつもりで」

「出発ってどこへ?」

「森だよ。忘れたの?」


 思い出した。確かダンジョン核を取りに行けとか言われた気がする。

 じゃあそのダンジョン攻略が修行になるのかな?

 なんだ、案外簡単そうじゃん。チーガルのやつ、無駄にビビらせやがって。


 この考えがどれだけ浅はかだったか、あさって身をもって実感することになる。

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