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絶晩成型  作者: 咫城麻呂
第二章 中立都市ツァオベラー
22/68

2-15 セルの正体

 やっほー。千曳ちびきだよ。

 異世界に忍者と言うのはちょっと違和感があるんだよね。

 簡単に言うと、八岐大蛇をヘラクレスが倒すようなものだよね。


 ―――――――――――――――――――――


 午前1時かそこら辺。とりあえず夜の遅い時間に取り調べが終了した。

 僕は別に悪いことしたわけじゃないから、ただ事件のあらましを説明するだけだたけど。

 問題はセル。

 一応犯人側だということでかなり厳重に取り調べが行われたらしく、こんな時間まで掛ってしまった。

 ……あのぽつぽつとしゃべる話し方のせいでもある気がする。

 いつものセルしか知らない人は、今のしゃべり方にかなり驚いたようだ。僕だって買い物の時はだいぶ驚いたしね。

 それでもセルが解放されたのは、ひとえにチーガルやカルネさんのお陰だろう。

 あの二人がほかの人たちに掛け合ったらしい。

 実際にほかの人を連れてこの部屋に突撃してきたり、ロープをしっかり三人分持ってきていたりと、妙に今回の件について詳しい気がする。

 警備の人たちも同じらしく、二人に話を聞くことにしたようだ。だから、僕らは邪魔者のように追い出された。

 チーガルにも屋敷に帰るように言われて、今現在こうして二人でソファーに座ってる。

 とは言ったものの、何を話せばいいんだか。仮にも誘拐犯に、はたしていつものように話しかけていいのかな?

 僕が柄にもなくあれこれ考えていると、不意に隣りから呟くような声が聞こえてきた。


「ごめん……」

「気にするなって。何かしら事情があったんでしょ?」

「でも……」

「それに、こうして無事なんだから問題は無いって」


 隣を見ると、セルが申し訳なさそうにうつむいている。あれだけ言っても、まだ分かってくれないらしい。

 それにしても、いつものセルからは考えられないくらい元気がない。それに、話し方もコンビニの時と同じで、無口な感じだ。

 はたして、いつもと今。どっちのセルが本物なのか。


「えっと……今のセルが本性ってことでいいの?」


 セルはそれを聞いて少しだけ体を震わせる。それから僕の方を見ると、意を決したように口を開いた。


「半分、そう」

「半分って、どういうこと?」

「知りたい?」

「うん」

「じゃあ、驚かないで」


 セルはそれだけ言うと立ち上がり、僕の前に来ると祈るように手を組み、目を閉じた。

 すると、セルの体に変化が起きた。頭に耳が出てきたのだ。逆に言うと、今まで耳がないことに全く気がつかなかった。

 あれ? いつから耳無かったっけか? 記憶を掘り起こしてもちっとも思い出せない。

 まあいいや。忘れてたものは仕方ない。

 耳が出たということは……。僕はセルの腰のあたりに注目した。すると、セルの後ろから尻尾が……2本現れた。

 あれ? 尻尾、2本もあったっけか? 記憶を掘り起こしてもちっとも思い出せない。

 そもそも尻尾を見た記憶すらない気がする。まあいいや。見て無かったものは仕方がない。

 これで変化は終わりかな? そう思って何気なく顔を見ると、違和感を覚えた。

 あれ? こんなに女っぽかったけか? 記憶を掘り起こすと、確かにさっきまでは男子よりの中性的な顔だったはずだ。

 それが今は、女子よりになっている。劇的に変わったわけじゃないけど、顔の輪郭や目の大きさ、口の大きさなんかが微妙に変わっている。

 どこを見ているんだと言われそうだけど、こればかりはしょうがない。ロリコンな誰かさんの所為で、そう言うのに敏感になっているだけだ。

 それで変化が終わったようで、セルが目を開けた。そして、おもむろに服を脱ぎ捨てた。

 一瞬のことに驚きつつ、目を逸らそうとしたところで再び異変に気づく。今までの服の下に、別の黒い服を着ていたのだ。

 いや、服と言うよりもそれは――


「忍者!?」


 セルが頷く。

 そう。まぎれもない忍者装束だった。


「わたしは、プリュス忍者隊、陰隊副隊長、セル。これが、本当のわたし……」


 そう名乗った。


 ★★★


 その後セルは、自分の生い立ちについて語った。

 彼女はプリュスに住む三毛猫の種族の親子から生まれた。だが、生まれた時から、彼女は両親にすら嫌われた。

 それは、彼女が妖獣族だったからだ。

 と、ここで妖獣族について少し。妖獣族と言うのは、獣族と魔族のハーフのことだ。だが、セルの例のように、獣族同士でもごく稀に生まれるらしい。

 特徴としては、種族ごとにある特殊な能力と、魔法が使えることだ。

 普通は使えないはずの魔法が使えてしまうため、忌み者として嫌われているらしい。

 その姿は、簡単に言ってしまうと、妖怪だ。

 そんなわけで、セルは生まれながらにしてほぼすべての獣族から嫌われる運命になってしまった。

 食べ物もろくに与えられず、外に出れば石を投げられ、家にいればこき使われる。そんな生活が続いたある日、彼女はついに家を出ることにした。

 夜。人どころか草木も眠る時間に家を飛び出した後、あてもなく放浪して、気付けばとある民家にいたらしい。

 その家の持ち主がセルの本当の師匠で、その魔力を買われて、忍者隊にスカウトされたらしい。

 そうして厳しい修行を生き延びて、ここにいるとのことだ。

 ちなみに、耳や尻尾を隠していたのは、セルの種族である猫又の種族の能力である幻術を使っていたからだそうだ。

 これでもまだまだ未熟で、師匠は姿形まで変えられるようだ。


「……ハードな人生だね……」


 全て聞き終わった後、僕の口から出たのは、そんなありきたりな言葉だけだった。

 なんでぼくの身の周りにはハードな人生を送っている人が多いんだろう?

 ……似た者同士ってことかな? でも、セルやナミに比べるとすごくちっぽけだし……。


「千曳?」

「いや。なんでもない」


 いつの間にかセルは服を着なおして、ソファーに座っていた。考え事をしていたせいで全く気がつかなかった。

 部屋に沈黙が訪れる。

 何か言った方がいいかな、と思って口を開いた瞬間、ヤツが帰ってきた。


「たっだいま――!! セル! 小年! 元気してた?」

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