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絶晩成型  作者: 咫城麻呂
第二章 中立都市ツァオベラー
20/68

2-13 別れ

 やっほー。千曳ちびきだよ。

 別れは悲しいけど、あまり悲しんでいると相手にも迷惑がかかると思うんだよね。

 やっぱり、また会えると信じて笑顔で見送るのが一番だね。


 ――――――――――――――――――――


 フェーダが現世に降臨してしまってから二日間、訓練の傍らにマジックハンドの使い方や考え方なんかについてを教えてもらっていた。

 マジックハンドの性格を知るまでは、非人道的でとてもしたくないと思っていたものも、フェーダに言わせれば序の口とのことだ。

 それくらい、奴らはマゾなのだ。それも、『絶』を付けられるほど。

 さらに言うと、フェーダともども、物理より精神的な攻撃の方がいいらしい。だから、もっと仕事を与えてこき使ってくれろのことだ。

 これ以上使うとこっちが持たないかもしれない……。実際、あの激痛のことはフェーダも知らないらしい。それでもスキルの管理者か!?

 なんにせよ、マジックハンドが使いやすくなったので良しとしましょう。


 ★★★


 訓練開始から7日たった。日々の訓練も少しは楽になった……かな?

 少なくても、スタミナは前より増えてるんだから、多少は楽になったはずだ。

 そうは言っても、低いことに加はりは無く、すぐに倒れてはマドラさんに再生してもらってる。マドラさんは、『再生魔法の熟練度上がるからどんどん倒れちゃって』って言ってたし、もうしばらくお世話になるかな。

 そんなこんなで、訓練も終わりに近づいたとき、『それ』は現れた。


「姫様!!」


 遠くからこちらに向かって走ってくる黒い人型。見た目犯人っぽいそれは、良く見てみると黒い装束に身を包んだ忍者だということが分かった。

 忍者!? 忍者なんで!?

 とうっかり叫びそうになるのを何とか抑える。幸い、DNAに刻まれた恐怖に打ち勝てたのか、失禁することは無かった。


「セイカイ!良く戻ったのじゃ!」


 ナミが安どのため息とともに言う。あべんしゃーの面々も、どこかホッとしている気がする。

 忍者はナミの前まで走ってくると跪いた。


「このセイカイ、無事プリュスの偵察から戻ってまいりました」

「して、街はどうだったのじゃ? 父上は無事かの?」

「殿は無事です。街も変わりありません。ただ……」


 そこで忍者は口ごもった。殿も街も無事なのに、何があるんだろう?


「何があったのじゃ?」

「……魔族の城への出入りが多くなっていました。また、城の訓練場で何人かの魔族が訓練もしていました。近々何かを始めるやも知れません」

「……そうか……」


 ナミは難しい顔をして考え込む。ほかの人も黙っている。僕はどうすればいいか分からず、茫然としていた。

 考えるにも情報が少なすぎる。しかも、ここで出した結論は、世界を揺るがす可能性がある。ゲームだったら戦略間違えてもゲームオーバーで済むけど、この場合は間違ったらプリュスがゲームオーバーしてしまう。まだ行ったことのない街だけに、それだけはどうしても避けたい。だから、この場は黙って経験豊富な人の意見に沿うのがベストだろう。

 そんなことを考えてるうちに考えがまとまったらしく、ナミが口を開く。


「師事していただいてるチーガル殿やカルネどのには大変心苦しいのじゃが……やっぱりわらわは父上を助けたいのじゃ」


 そう言うと、ナミは二人に向かって頭を下げた。


「姫ちゃんならそういうと思ってたよ。あたしとしても危険なところに行かせるのは嫌だけど、姫ちゃんがそう決めたならその道値を突き進みな」

「私も同感だ、気にせずに行くといい」


 それを聞いて、ナミは頭を上げた。目が少しうるんでいる。


「感謝するのじゃ!」


 二人とも、なんともないとばかりに首を振った。


「セイカイ! わらわもクレタに行くぞ!」

「しかし……いや。ここまで言われてはどうしようもありませんね。分かりました」


 それからは場所を変えての細かい話し合いになった。

 正直、僕がいていいのか分からなかったけど、異世界人の知恵が役に立つかもと言うことで、同席することになった。

 なお、常人の3倍の聴力を持って僕が異世界人であることを知った忍者に大変珍しがられるのだが、それはまた別の話だ。

 話し合いは、クレタと言う迷宮都市までの日程や、今動かせる戦力の確認、必要な荷物などに関してだった。

 それらも終わり、いざ必要物資の買い出しに行こうとしたところで、カルネさんから待ったがかかった。


「一ついいか? セルはまだ幼い。あベんしゃーの中でも特にな。それなのに連れて行ってもいいのか?」

「確かにねー。魔物は大丈夫でも、人はだめかもしれないしね」


 その意見には一理ある。僕だって、人を殺した場合平常心を保てるか分からないしね。

 それを言ったら、ほかの子たちも十分幼いと思うんだけどいいのかな?


「むう。それもそうじゃが……」

「セルも仲間っす。一緒に今までやってきたっす」


 あべんしゃーから反対意見が上がる。それでも勢いがないのは、自分たちも半ば認めてるからだろうか。

 それを制したのは、意外な人物だった。


「大丈夫、問題無い~?」

「じゃが……」

「一路平安~?」


 セルは、それだけ言うと止める間もなく部屋から出て行ってしまった。


 ★★★


「結局、来なかったな」


 僕は、北門の近くで荷物が満載した馬車を見ながら、その馬車の主に向かって言った。もちろん、主はナミだ。

 あの後、荷物をそろえつつセルを探したが、見つからなかった。

 セイカイさんは今日中に出発したいとの事だったので、あれからすぐに荷物を準備し、積みこんだ。ちなみにこの馬車は、セイカイさんがプリュスから戻ってくるのに使った馬車だ。

 馬に関してはマドラさんに再生してもらったから、元気いっぱいだ。彼――または彼女――はまだ知らない。これから地獄の強行軍が待っていることに。


「姫、そろそろ行くっすよ」

「分かったのじゃ」


 そう答えたものの、ナミは浮かない顔をしている。それもそうだ。仲間と、こんな別れになるとは思ってもいなかっただろう。


「セルに会ったら、よろしく言っておいてほしいのじゃ」

「任しとけ。もう少しはこの街にいる予定だから」


 それを聞いて安心したのか、いくらか表情がましになった。

 そのまま馬車に乗り込むと、御者台に乗ったポワブルが馬に鞭を入れる。

 僕らは、馬車が見えなくなるまで見送った。


「あの子たちもこれからさらに大変になるね」

「なんとかなるだろう。姫ならな」


 ナミは慕われてるな。気づくと、大勢の人が見送りに来ていた。特にナミが出発することは言ってないはずなのに、なんでだろう?


「少年はこれからどうする?」

「もうちょっとセルを探してみる」

「ほどほどにね。明日も早いし」


 チーガルの言葉に返事をしつつ、僕は街に戻った。


 ★★★


 結局、夜になってしまった。

 マジックハンドで探しても見つからないとか、あいつ何者なんだ?

 気付いたら、通ったこともない道を歩いていた。多分居住区だろうけど……ダメだ。見たことある場所がない。

 とりあえず城壁までいって、壁沿いに大通りへ……なんて考えながらも、もう少しセルを探してもいいかな、なんて思っている。

 なんだかんだ言って、突然いなくなったら心配になるくらいには親しくなっていたようだ。

 もう少し、あと100M、そう思っていると――


「ごめん千曳。殿のためだから……」


 突然首筋に衝撃を感じ、僕は意識を手放した。

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