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絶晩成型  作者: 咫城麻呂
第二章 中立都市ツァオベラー
17/68

2-10 残留死念

 やっほー。千曳ちびきだよ。

 魔物って、どこまでが魔物なんだろう?

 物によってはドラゴンも魔物って呼ばれるけど、あまりそんなイメージはないかな


 ---------------


「次は魔物についてかな」


 先生はそう呟きながら黒板に手を着くと人間の断面図が消えて、……オオカミ? にしては角とか生えてるし。流れ的にあれが魔物かな? にしては森で生活してた時に見た記憶がない……。とにかく、オオカミが描き出された。

 とりあえず質問。これ、異世界の鉄則である。


「それが魔物?」

「そうだよ。見たことある?」

「いや、ないけど」


 僕の答えに意外そうな顔をしたけど、数秒で納得いったように手を打った。


「そっか。少年自身馬鹿みたいに弱いからね。前線に出れなくて当然か」

「う……。ま、まあそうなんだけどさ。もうちょっとオブラートに包めない?」


 さっき僕を絶望の淵に立たせたばっかりでしょ? もうちょっとソフトな物言いを覚えた方がいいね。


「事実でしょ?」

「そうだけどさ―」

「嘘言って調子のられると困るの。慢心が油断を生んで、魔物に後れを取ったらどうするの」

「すいませんでした」


 先生のもっともと言えばもっともな意見に仕方なく頷く。


「反省しなさい。さてさて。少年が今まで乱獲していた魔物についてですよ」

「ナミに説明されてもいまいちよく分かんなかったんだけど」

「まあ、一般に伝わってるのなんてあんなものさ。国が情報操作してるから、嘘は無いけどほんとのこともあまり言ってないんだよね」

「ってことは……」

「うん。君にはほんとのことを教えよう」


 ナミには感謝だな。気まぐれとはいえ、助けて本当によかった。第一村人って言うのも助けた原因だったと思う。


「少年は残留死念グラッジポイントについてどこまで知ってる?」

「魔物を倒すと増える。増えると魔物がスポーンする。濃度によって強さが変わる。魔物が暴れると減る。くらいかな」

「おかしいと思うところはある?」


 おかしなところ……ねぇ。ぱっと考えただけでは無いけど、さっきの話からすると何かしらあるんだろうな。


「降参」

「ちょっと難しかったかな? まあいいや。何箇所かあるんだけど、とりあえず、最初の魔物についてかな」

「最初の魔物?」

「そ。最初の魔物はどうやってスポーンしたと思う?」


 何その卵が先か鶏が先か的な質問。魔物がいないと残留死念グラッジポイントは出ないし、逆に残留死念グラッジポイントがないと魔物はスポーンしないし……。


「魔物を倒さないかぎり残留死念グラッジポイントが増えることはない。じゃあ最初の魔物は……」

「気づいた? 答えは簡単。生物は皆、死んだときに残留死念グラッジポイントを放出するんだ。だから最初の魔物はスポーンすることが出来た」

「生物は皆? 人間でも動物でもってこと?」

「そう。人族だろうと獣族だろうと魔族だろうと動物だろうと魚だろうと、考えて行動する生物は全部、無念を残して死んだ場合、残留死念グラッジポイントを放出する。魔物はその無念を晴らす存在だとされている。これなら、魔物が被害を出すと残留死念グラッジポイントが減るのにも説明がつく。ってのが学者の考えね」


 確かに筋は通ってる気がする。でも、そんなに簡単なことならみんな気づくんじゃないかな?


「そのことに気づく人とか居ないのか?」

「それが案外居ないんだよね。まあ、気付いたところでなんだって話だけど」


 それは言えてる。この事を知ったとしても出来ることが増えるわけでもなさそうだし。

 僕がうなずくのを見て、先生も満足げにうなずいた。


「じゃあ次ね。そもそも、魔物とは何なのか」

「それって、ある意味永遠の謎じゃないのか?」

「まあそうなんだけど、ある程度は答えが出てるんだよね」


 そういいながら、黒板のオオカミもどきを指差す。


「これはウォルフって呼ばれてる一般的な魔物だよ。強さも大した事無くて、下手したら、一般人でも倒せるかも」

「そんなに弱いのか?」

「うんうん。でも、元はオオカミだから群れで行動しててね。個々の力はないけど、群れるとそこそこになるんだよね」


 この世界の魔物って、ランク分けとかされてるのかな? 先生が言わないなら無い……先生のことだから忘れてそう。


「はーい、先生。冒険者みたいに、魔物にもランクとかってあるの?」

「ん? ああ! 忘れてた忘れてた。いやー、ナイスだよ少年」


 いくらなんでも抜けすぎじゃね? そんなに僕の料理はおいしかったのかなぁ?

 先生がオオカミが描かれてない場所に手を当てると、11段のピラミッドのような絵が出てきた。どっちかと言うと、遺跡の方じゃなくて食物連鎖の方。


「魔物のランクも冒険者とおんなじで、F、E,D、C、B、A、AA、AAA、S、SS、SSS、に分けられてるね」

「そんなに細かいのか」

「あれ? 冒険者の方も知らなかった?」

「うん」

「そっかー。ま、いいや。なぜこんなに細かいのかと言うと、AランクとSランクの間には、絶望的なまでの壁があるからなんだよね」


 もとSSランクに言われたくないな。


「それだもんで、Aランク、とひとまとめにすると力に大分ばらつきが出来るんだよね。だから細かくしたの」

「Sランク以上は?」

「Sランク以上は気分だよ。全体でも四桁に届かないくらいだし。特にSSSランクなんて二桁に届かないしね」


 思ってた以上に多い。この手の物語は最上位のランクなんて2、3人程度なのに。


「まあ、魔法の熟練度を最大まで上げればAAAランクにはなれるよ。後は、その他のステータスやレベルの問題もちょっとあるかな」

「レベルとステータスってほとんど同じじゃないのか?」

「これも話してなかったか……」


 先生は、いい加減自分がどれくらい手抜きしてたかを理解したらしく、ため息をついている。


「レベルってのは、一種のストッパーで自分の体に負荷をかけないようになってるんだよね。レベルが上がるとステータスが上がるのは、もともとはもっとステータスは高いんだけど、体に負荷をかけないように抑えられてて、レベルが上がる=体が強くなることでここまでなら使って大丈夫って体が判断するからなんだ」

「じゃあ、僕の体はそれだけ弱いと?」

「まあ、そういうことになるね。中にはほんとに元が低い人もいるけど」


 ほんと、なぜこうもステータスが低いのか。異世界人は基本的にチートスペックじゃないの!?

 そんな内心を見透かしたように、先生がフォローに入る。


「いいじゃん。少年にはマジックハンドがあるんだから」

「まあね。引き籠るには便利だよ」

「……絶対使い方間違ってるよ」


 自分で言っときながらため息をついてる。何をいまさら。マジックハンドが荷物持ちしてるのは知ってるでしょ? 防御用に何体か常時召喚してるし。


「ところで、上限レベルとかってあるの?」

「100レベが最高だよ。そこまでいったら、自分のすべての実力を出したといえるね。もっとも、魔物と戦うだけじゃだめだけどね」

「と、言うと?」

「ひょろひょろの人間が、レベルが上がったからって重い物を持てると思う?」

「元の筋肉が必要になるのか」

「そう。でも、この意見はレベルがストッパーになるって意見と矛盾してるんだけどね。とにかく、そういうわけだからレベルとステータスは若干違うんだよ」


 結局は努力しないといけないってわけか。めんどくさいな……。


「てっとり早く強くなる方法ってないの?」

「ないこともないけど……かなりの確率で死ぬけどね」

「死亡率は?」

「数が少ないからまだ何とも言えないけど、今のところは100パーセントだよ」


 今の言い方からすると、こっちにも人体実験はあるんだね。ってことは奴隷とかもあるのか。ま、どうでもいいけど。


「なんの話だっけか? ああ、そうそう。魔物の話ね」


 僕と話すとかなりの確率で話がそれる気がする。しょうがないね。知りたいことはたくさんあるし。


「話を戻すと、ウォルフはFランクの魔物なんだよ。で、さっきも行った通り、ウォルフってのはオオカミが変異したものなんだよね」

「つまり、魔物には元となる生物がいるってこと?」

「そこが問題なんだよね。考えても見てよ。スライムのもとって何? ほかにもゴブリンやらグリフォンやらシーサーペントやらのもとって何?」

「確かに、ちょっと考えずらいな」


 日本にいた時も、想像上の生物のモデルになった生物はいても、その生物とそっくりな動物なんて今も昔もいなかったしね。


「でしょ? で、意見が二つあって、一つは、まだ確認されてないけど、すべての魔物には元となる生物がいて、その生物が残留死念グラッジポイントを吸って魔物化する。もう一つは、魔物は残留死念グラッジポイントが集まって誕生した」


 どっちの意見も、それなりに筋は通ってるけど問題もあるね。前者は、頻繁に出るであろうスライムやゴブリンの元が見つかってないのはおかしい。後者は、空気のようなものが集まって実体化するのかどうか。


「先生はどっちだと思うの?」

「あたし? あたしはどっちもかな」


 何その優柔不断な回答。はっきり決めなさいよね。


「またありきたりな……」

「そもそも、元が確認されてない魔物は魔物じゃないんじゃないかって思ってね」

「詳しく」

「ウォルフとかの動物的な魔物と、スライムみたいな魔物は、根本的な誕生の仕方が違う……と言うか、そもそも後者は残留死念グラッジポイントを祓わない生物なんじゃないかと思って。まあ、全部予想だから、どれが正しいか分からないけどね」


 確かにそうだけど、それを言っちゃうと今までの論争の意味がなくなっちゃうじゃん。それに、魔物の誕生とか冒険していく上ではどうでもいいしね。

 先生は黒板に手を当てて、書かれたものを消しながら、僕に言った。


「さてと。大体こんなところかな。後は、まあ。思い出した時にってことで」


 そんなこんなで、ぐだぐだになりつつも、チーガル先生の異世界講座は終了した。

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