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絶晩成型  作者: 咫城麻呂
第二章 中立都市ツァオベラー
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2-3 中立都市ツァオベラー

 やっほー、千曳ちびきだよ。

 異世界の町は日本の町と大きく違っていて見どころたくさん。

 ……だと思っていたら、意外な共通点があったりしてびっくりすることがよくあるんだよね。


 ―――――――――――――――


「ようこそ、中立都市ツァオベラーへ」


 門をくぐると、ナミがそんなことを言い出した。

 目の前には都会の道路並みに大きい通りが一つ。

 通りにはもう夕方だというのに露店や屋台や人でそこそこ賑わっている。子供のころに行った七夕祭りを思い出す。

 遠くにはまた壁がある。また、その手前には水が噴き出している。噴水かな?

 通りに面した建物には、文字やら絵やらが描かれた看板が飾ってあった。どうやらお店らしい。

 ざっと見ただけでも、『地久屋』『村雨魔法店』『家庭教師のギブアップ』『喫茶梟の巣』『オ・マエンチ内装業者』『お食事処ハセベ』等々。

 正直一軒一軒回ってツッコミを入れたい気分なんだけど、さすがに迷惑だから何とかとどめる。

 内心でそんな葛藤があるとは知らないナミが、黙っている僕に尋ねる。


「どうじゃ、この街は?」

「う、うん。とってもいい街だと思うよ。少なくとも日本では見たことはないね」


 日本人からしたらとても当たり前なことを適当に返す。

 しかし、そんな僕の考えを知らないナミはまるで自分が褒められたかのようにとてもうれしそうな顔をする。


「そうじゃろうそうじゃろう。本当にいい街じゃ。異世界にもないなんて相当な街じゃ。ここまで…どれ……たことか」


 最後の方は独り言のように小さく、うまく聞き取れなかった。


「リーダー、感慨に浸ってる場合じゃないっすよ。さっさと行くっす」

「そろそろ日が暮れるのです」


 ポワブルとシュルクの催促でようやく普通の顔に戻った。よほど思い入れが強いとみた。


「そうじゃな。とりあえずクエスト達成の報告も兼ねてギルドに行くのじゃ。そうじゃ!道案内、必要かの?」


 ナミが提案してくる。観光するにしても、事前知識があるのとないのとでは違ってくるだろう。だから、頼むことにした。


「頼む」

「任せるのじゃ」

「バリバリ~?」


 ナミの返事が頼もしい。


 通りをそのまま直進しながら、ナミにこの街について色々説明してもらった。


「この街は森が近いということもあって林業が盛んなのじゃ。森で取れるフルーツが人気で、とくにアトベーレとツィトロが有名じゃの」


 ナミがバスガイドよろしく話し始めた。ちなみに、アトベーレはイチゴで、ツィトロはレモンだ。


「この街には四つの地区があっての。わらわ達がいるのが商業区。右に少し行くと居住区じゃ。目の前にある城壁に囲まれているところが貴族区。王様も貴族区に住んでいるのじゃ。そしてその向こうに農民区。街の大体半分を占めておって、この街に流通している食料の半分を生産している巨大農場があるのじゃ」


 街の食糧の半分とはすごい……のかな?食料に関してはよく分かんないや。


「また、お店に珍しいものがよく売られているらしくての。一部の人にはとても有名なのじゃ」


 一部って何だろう。この世界にもコレクターみたいな人がいるのかな?


「そういえばさ。中立都市ってどういう意味?」


 ふと疑問に思ったので聞いてみた。するとナミはしばらく悩んでから……


「その話をするには魔法について詳しく話さねばならんのじゃ。だから家に帰ってからの」


 そんなに大変な話なのかな?とか思っていたら、二つの大きな建物が左右に立っている場所でナミたちが立ち止まった。左の建物は木造二階建てで、かなり多くの人が出入りしている。


「左手にあるお店は『インチ24』。この世界でトップシェアを誇るお店じゃ。食料から消耗品、魔法具、その他もろもろを一手に担い、なおかつ24時間営業なのじゃ。どっちかと言うと冒険者向きじゃがな」


 こっちの世界にもコンビニみたいなものがあるんだ。……そういえば魔法具とか言うのがあたっな。僕の知ってる物と同じなのかな?


「魔法具って何?」

「魔法具とは魔力が込められた道具のことじゃ。結界を張ったり道具を収納できたりと便利なものが多いんじゃ。ほかにも魔法武器や魔法防具もあるんじゃが、どれもちと高くてのう」

「隔靴掻痒~?」

「高すぎるのです……」


 そんなに高いのか……。まあ、ラノベとかでも魔法具って高かったりするしね。しかし、道具の特徴をどっかで見たような。


「あ!じゃあ僕の食糧入れは?」

「そうじゃ、あれも魔法具の一つじゃな」


 なんと、もう持っていたとは。我が家には掘り出し物が多いな。

 にしてもあれ、普通の袋と外見は大差なかったけど、どうやって見分けるんだろう?気になって尋ねると、ポワブルが答えてくれた。


「鑑定のアビリティを持っていればそれが何なのか見ることができるっす」

「アビリティ?」


 はて。アビリティとな?メニューには何も表記がなかったけど。そう思って尋ねると今度はシュルクが答えてくれた。


「アビリティは持ってるだけで効果が出るのです。私の魔力感知なんかがそうなのです」


 何それ!働かなくてもいいってこと?


「どうやったら覚えられるの!?」

「わっ!近いのです……」

「ああ。ごめん」


 いかんいかん、興奮しすぎてしまった。これだと周りの人に誤解されかねない。

 幸いなことに、近くに人はほとんどいなくて、いる人もこっちに興味を示している人は見えなかった。


「今ですら働いてないと思うんじゃが……」


 ぼそっとナミが何か言ったけど無視。そもそも心の中を読むな!


「ごほん。で、どうしたら覚えられるの?」

「ええっとですね。先天性のほかにも、魔法の熟練度を上げることでその魔法に関連したアビリティを覚えられることがあるのです」

「つまり僕には縁がないと?」

「そうなるのです」

「ちょっ。そこは嘘でも何かしら励ますところっすよ。それに、レベルアップでも覚えられるって聞いたことあるっす」


 しょぼんとする僕をポワブルが励ます。が、軽く希望をもったところでナミが追撃を入れる。


「それは人族以外では無かったかの?」

「リーダーも何で人の頑張りを無駄にするんすか……」


 ポワブルがため息をつく。上げてから落とす。僕もよくやったけど、自分が受けるとこんなにもダメージが来るのか。ごめん夜魅よみ。次からは控えるようにするよ。ほんの1%くらい。


「だいじょうぶじゃよ?なくても生きていけるのじゃ」

「でもあったら楽になるんでしょ?」


 ここで、もうちょっとナミがオブラートに包んでくれたらよかった。でも、そんなことをしてくれるわけもなく……。


「それはもちろんじゃな。魔法を強くしたり、回復が早くなったり、経験値が増えたり、アビリティには便利なものが多いのじゃ」


 聞きたくなかった。どうしよう。そんな便利なものほしくなるにきまってる。本気で泣けてきた。

 リアルorzになっていると、さすがに励まそうと思う気持ちが出てきたらしく、唸るような声が聞こえてきた。

 最初に方法を思いついたのはセルだ。


「一念通天~?」

「そ、そうっすよ。努力が大事っす」

「努力って何?食べられるの?」

「ネタ入れる余裕があるならせめて立ってくださいっす」


 通じた!?この世界にもこのネタはあるのか。異世界でも通じるなんてすごいな。と、思ったらほかの子たちは頭上に?が浮かんでた。ポワブルだけか。

 にしても、努力、か。したくないな。


「努力しないとだめですか?」

「そうじゃな、スタミナは訓練せんとあがらんし、魔物を倒さなければレベルアップもできぬ。それに、生きようと努力せんとすぐに野垂れ死にじゃ」


 へー。スタミナが増えないのはその所為か。なかなかにハードな世界だな。


「最後以外出来る気がしない」

「……それが出来るだけ、まあ良いじゃろう」


 ナミがため息交じりに言う。あれ?僕、呆れられてる?


「はい、はーい!」

「はい、千曳君!」


 僕が挙手をすると、ポワブルが乗ってくれた。いいやつだな。


「マジッ……サブアーム君の所為で近くに魔物が一体も来ませ~ん」


 危ない危ない。こんな人が多いところでばらすところだった。


「サブアーム君がかわいそうじゃ。毎日寝る間もなく働かされて。それなのに召喚者はこんなぐうたらしおって」

「僕だって好きで引きこもってるわけじゃないの!!」


 僕にだって、それなりの理由(ステータスが絶望的に低い)が有るんだ!

 

「それはサブアームをこき使っている理由にはならんじゃろ!」

「また考えていることを読む!」

「顔に書いておるぞ!」


 その後もしばらく僕とナミの言い争いは続いたんだけど、セルの一言で現実に戻された。


「……本末転倒~?」

「そうだったな。何のためにここに来たんだっけか?」

「そうじゃったそうじゃった、ギルドに用があったんじゃが……」


 ナミが道の右側を見たから、それに習って見ると……正面に『ギルド』と書かれている半壊の建物があった。

良ければ誤字脱字の指摘、感想等お願いします。

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