表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

2話 王都陥落咲き乱れるは血の惨劇

なんということだ、むっちゃ長くなってしまった。

 リリィ姫はエイゲル王国の首都エイゲルに辿り着いた。初代建国王エイゲルが興した都市だ。堅牢な外見をしており見た目通りの難攻不落の城塞都市である。エイゲル王国は山麓部にあり多数の鉱山を抱えている。


 エイゲル王国の南には、平野部を多く所有しているグラスラント王国がある。エイゲル王国はかつてグラスラント王国の一部であったが、初代建国王エイゲルがグラスラントの圧政に反抗し都市を制圧、地形を利用してグラスラントの大軍を退け続け建国した国である。


 そういった経緯もありグラスラントとは犬猿の中で、すでに建国して50年ともなるが関係は改善されずに小競り合いが続いている。現在は3代目の王カルナンが治めているが、若くして王の座を譲られたカルナンは、肥沃で農業に向いている平野部が多いグラスラントの地を手に入れようと軍を拡充しているのである。


 グラスラントはその豊かな穀倉地帯を武器に軍を拡張、大陸の覇権を狙った拡大政策を取っていた。かつてグラスラントは、その大軍をもって勢力を拡大、大きな国土を手に入れてきた。だが急激に大きくなる国土に対し、領地を治める貴族の育成が追い付かず国内の至る所で反乱が発生、その対応に追われ軍が疲弊、いまはいくつもの国に分割されてしまい。かつての栄華はなりを潜めている。


 しかし、かつての栄華を忘れられない王侯貴族は多く、軍を拡張しもう一度大陸の覇権を手に入れようとしている。そのためには良質な武具を大量生産するために、まずはエイゲル王国を手に入れ鉱山をその手にしようと画策しつづけているのである。


 リリィ姫の国レイナル王国と、その隣国ヘイラス王国もかつてグラスラントの一部だった。エイゲルがグラスラントからの独立を獲得するための戦乱を起こしたさいに見捨てられた地に住まう民が国を興したのがはじまりになる。国の興りがそのようなものだったせいか、両国とも国民性は牧歌的なものになり、軍事に力を入れてこなかった。近年のエイゲルとグラスラントの戦争の激化により軍事をおろそかにしていたツケを払うことになってしまったのだ。


 エイゲルとグラスラントの両国と国境を接しているレイナルは、両国から戦争に必要な資源、エイゲルからは食糧を、グラスラントからは鉱物資源をそれぞれ毟り取られているのである。


 ヘイラスもレイナルが墜ちれば侵略を受けることは必至なため、レイナルと連携をして侵攻を食い止める算段をすることになっていたのだ。


 さて、視点をリリィ姫に戻そう。


 リリィ姫は堂々と歩いていた。都市の中央街道は馬車が行きかい人通りが多かった。馬車の運行を邪魔しないために中央からは外れた場所を歩いてはいたが。歩行者はリリィ姫を見ては足を止め、道を開けていた。


 あきらかに貴族と思わしき人物が街道を歩く、平民にとって貴族は恐れの対象でもある。だが、都市の中とはいえ非力な少女に見え護衛も連れていないリリィ姫にちょっかいを掛けようとするものが現れなかったのには理由がある。


 リリィ姫があまりにも堂々と、まるで王者のごとく歩いていたからである。あのくらいの少女ならばたとえ高貴な生まれであっても、もう少し慎ましく歩くものである。背も低く可愛らしい外見をしている少女が、まるで王者のごとく歩く。通常ならば絶対にありえない光景だ。しかし、その姿は堂に入っており、生まれついての王者としての貫禄すら見て取れるではないか。その絵画から抜け出て来たかのような非現実的な光景にリリィ姫になにかしようと考えることができなかったのである。


 王者の行進はエイゲル王国の王城入口で止まった。堅牢な城を守る堅牢な城門、そして門を守る多数の兵士が居た。軍が攻めてきたのならば門は閉められ、兵士は戦闘態勢に入っていただろう。そうであればこの城を攻め落とすのは困難を極めるに違いない。だがリリィ姫はたった一人、しかも国を代表して国王に謁見を求めて来たのだ。門番の兵士はリリィ姫が武器も持っておらず、正式な使者の証も持っていたことから城門を通してしまった。門番のこの行動を誰が咎められるだろうか。非常に常識的な対応であった。


 リリィ姫が城に来ることはあらかじめ王も知っていた。姫は国境からここまで、隠れもせずに歩いてきたのだ、当然、道中にリリィ姫に事情を聞いた騎士や兵士が早馬を走らせ、王都へ伝令を送っていた。ただ、徒歩で来ているという報告であったのでもっと遅いと考えていた。まさか国境からここまでたった二週間で到達するなど、徒歩であれば鍛えられた兵士であってもかなりの難易度を誇ることである。


 謁見の準備は整えられリリィ姫はいよいよカルナン王との会見に臨む。運命の時であった。


 謁見の間には王と宰相、10名の近衛騎士と3名の宮廷魔術師、そして幾人かの使用人が居た。王を守る騎士達は精強であり、魔術師達も精鋭だ。謁見を求める者が凶行に及んだ際には、騎士が取り押さえ、魔術師が防御の魔術で王を守る手はずである。武器も持たない小娘相手に過剰すぎる戦力である。しかし現在はグラスラントとの戦争中、大きな戦が開戦しているわけではないが、その準備は着々と進んでいる最中である。万が一にも王を害されるわけにはいかなかった。


 リリィ姫が謁見の間に入場してきた。カルナン王がリリィ姫を見て感じたことはただひとつ、美しい、だった。外見は年相応にとても可愛らしい、そのうえでピンと伸ばした背筋、しっかりとした足取り、いまは可愛らしいという印象が勝るが、あと数年もすれば絶世の美女に育つことは疑いようがなかった。


 リリィ姫の謁見の理由は聞かずともだいたい想像ができる。おそらく自らを差し出す代わりにレイナルから奪っている食糧などを減量してほしいとでも言うのだろう。レイナル王ロイドが第三王女とヘイラスの第二王子との婚約を進めているのは知っていた。なんとか奪われる量を減らし、国としての体裁を保ち続けるための苦肉の策。そしてあわよくば血縁を結ぶことで、エイゲルとも通じグラスラントとの本格的な戦争が勃発したさいにレイナルを攻められ難くしようとする政略だろう。


 あの軍事には疎く弱腰な王にすれば、頭を回したものだ。いや、軍事力に劣っているからこそ、このような搦め手を使わざるを得ないのだ、そうカルナン王は結論付けた。


 カルナン王は、まだ25歳、若く精力に溢れていた。若くして王となったのには理由がある、先王である父が健康面に不安を抱え体力が衰えてきたからだった。平時であれば先王もまだ国政を手放す年齢ではない、だがいまはいつ戦争が起きても不思議ではない時期だった。体力面で劣る先王では、いざ本格的な戦争がはじまればその指揮に不安が生じる。よって、カルナン王は若くして国政を任されることになったのだ。


 すでに王妃は迎えており、子供も3歳になる長男がいる。世継ぎに不安はないカルナン王は軍備を整え数年後には決戦に挑む心算だった。ここでレイナルから得られる食糧が減ってしまったら、戦端を開くことが1~2年ほど遅れてしまうかもしれない。だが、それくらいのことでリリィ姫が手に入るなら儲けもの、それほどに王の目にはリリィ姫は魅力的に映っていた。


 リリィ姫が王の前、10メートルほど離れたところで跪き、礼を示している。王は発言を許すために声をかけた。


「レイナル王国のリリィ姫よ、長旅ご苦労だった。して、いかなる理由での謁見の申し出であるのか発言を許す答えるがいい」


 リリィ姫は跪いたまま王と目を合わせ発言した。


「はい、エイゲル王国、国王カルナン様、わたしが訪れたのは、我が国から不当に奪った食糧を返還していただくためです」


 カルナンは耳を疑った。来年からの減量ではなく返還?どういうことだ、そんなことはありえない。なんらかの取引条件を持っているならともかく、レイナルに差し出せるものなど姫くらいしかないはずだ。いや、たとえ取引材料があったとしても今食糧を返還なぞしたら、エイゲルの民が飢える。


 軍備を整えるのにはとにかく大量の食糧が必要だ。軍自体が食いつぶす分も大量になるが、軍備を整えるために民を働かせるために必要な食糧だって膨大な量になる。徴兵すれば働き手が減ってしまう。その分を残された家族には食糧という形で報いねば、徴兵された兵も満足に働かなくなる。徴兵されたせいで家族が飢えて死んだとなると反抗的になる。それだけならまだしも自暴自棄になり他の兵士を傷つけ自らも死ぬ、そんな行動に出る可能性だってあるのだ。


「それはまた、大きく出たものだ、リリィ姫よ。その条件がとてもではないが飲める条件ではないのは理解しているか?」


「はい、理解しています。しかし我が国の民はいままさに飢えています。自らが耕した畑から得られた恵みを、自らの口に運ぶことが出来ずに飢え死んでいっている者たちが居ます。わたしは彼らを助けたい、なんとしても命を繋いであげたいと考えてここに来ました」


「しかし、食糧の返還などすれば、我が国の民が飢える。姫は自らの国の民が飢えなければ、我が国の民が飢えてもいいと、そう言うのか?」


「いいえ、そうではありません。エイゲル王国が大量の食糧を必要としているのは軍備を急速に拡張しているからです、それを止めて軍に徴兵している若者を農地に返せば民が飢えることもないでしょう」


「残念だが、その案は飲めない。我が国はグラスラントとの決戦を控えている。決戦までに出来る限り軍の拡充を進めねばならんのだ。そしてその時は刻一刻と近づいている。先延ばしになどはできんのだ」


「では、返還にはどうあっても応じられないと、そうおっしゃるのですね?」


「ところで姫よ、そのような条件を出すからには、そちら側からのなにかの取引材用があったのではないか?その条件はとうてい飲めるものではないが、取引材料によっては、来年から戴く食糧の減量くらいなら応じてもよい」


「いいえ、先ほどの条件を飲んでいただけないのなら、もはや交渉はできません。武力によって返していただくことになります」


 カルナンは驚愕によって目を見開いた。武力?武力と言ったか、レイナルに我が国とまともに戦える軍は無かったはずだ。守りに徹すればもしかしたら時間稼ぎをすることくらいは可能な程度の軍しか無いはず。攻めてくるなぞ論外だ、あちらの領土で戦うのなら地の利を生かされ、こちらも損害がそれなりに出るだろう。だが攻めて来たならば地の利はこちらにある。軍自体の強さもこちらが上なのは間違いがないし、負ける要素なんて皆無だ。軍をこっそり用意したのか?いや軍を用意するのをこっそり行うことなど不可能だ。軍はただ存在しているだけで大量の物資を必要とする。我が国と戦えるだけの軍備を整えているのなら、こちらの諜報網に引っかからないはずがない。


「それは、脅しというものかな?だがいささか虚仮脅しにもほどがあるな。レイナル王国に我が国の軍を打ち破れる軍は存在しない」


「はい、たしかに軍は存在していません」


 カルナンは困惑をした。じゃあ、なにを持って武力に訴えるというのだろう?


「ですから、この場で武力を行使してカルナン王に従っていただきます」


 は?なにを言っているんだお前は?カルナンには、リリィ姫がなにを言っているのか理解できなかった。この場でということはリリィ姫がここで武力を行使するといことなのだろうか、いやそれ以外にはないが。姫の外見は華奢だ、けしてがっしりとした筋肉に全身を覆われた大男の様相を呈しているわけではない。この場には姫ひとりだけ、護衛の者もいない。この状況でどうやって姫が武力に訴えるというのだ。こちらには精鋭の騎士と魔術師がついているのだ。姫が自分の許可なく立ち上がっただけで取り押さえることになっている。どうあがいても武力に訴えることなど不可能だ。


 リリィ姫が立ち上がった、騎士たちがすぐさま行動に移る。姫を取り押さえるのだ。重厚な鎧を着た騎士が、まずはひとり姫に突撃をした。武器は構えていない。力任せに押さえつけ、しかるのちに腕を捻り無力化すればいい。騎士はそう考え行動をしたのだ。


 騎士が姫に覆いかぶさるように接触した。すぐさま姫は無力化され縛りあげられるだろう。だれもがそう思った。だが、そうはならなかった、あろうことか、姫のほうが力任せに騎士を押さえつけ地面に叩きつけたではないか。ありえないことだった。姫の身長は騎士の胸ほどである。どうみても膂力において騎士が負けるようなことなどないはずである。


 リリィ姫は叩きつけた騎士に、そっと足を乗せ押さえつけた。本来ならそんな程度で騎士が押さえつけられるハズがない、即座に跳ね返し姫は転倒することになるはずだ。だが、そうはならなかった、押さえつけられた騎士は、まるで自分の上に大岩が乗っているかのような重圧にさらされ身動きが取れなくなった。息が詰まりまともに息ができなくる。


 あまりの衝撃的な光景に場が静まり返った。だれも動けなかった。だが、そんな場をひっくり返すように、動き出した者たちがいた。宮廷魔術師達である。即座に姫が人外の存在であると判断し、撃滅するための魔術を練り上げ発動したのだ。姫を覆うように結界が展開された。結界内に姫を閉じ込めたのだ。魔術師の行動はそれで終わりではない。結界は長くは持たない。いつまでも閉じ込めておけるわけではないのだ。


 人外の存在に自由を許してはならない。魔術師達は、撃滅のため結界内に爆裂魔術を放っていた。あらかじめ結界内に爆裂する魔力を封じていたのだ。結界内で爆裂魔術が荒れ狂う。宮廷魔術師達が組み上げたこの術は、謁見の間の内部で、王に被害をもたらさない様に組み上げられた撃滅術だった。本来の爆裂術であれば力が拡散してしまう。だがこれならば結界内部に閉じ込められれば、結界内に爆裂術の威力が封じられ拡散せずにその威力を通常運用の何倍もの威力でもって内部のものを完膚なきまでに破砕する。たとえドラゴンであっても、結界内に閉じ込めることさえできれば殺害しうると考えられている術だった。


 姫に押さえつけられていた騎士も結界内に閉じ込められ、もはや生きてはいないだろう。だが騎士をああまで容易く無力化できてしまう存在を滅するためには、もはやこの撃滅術しかなかった。彼は尊い犠牲になったのだ。


 撃滅術により結界内部にはチリが舞い上げられ内部は見えなかった。もはや生きているものはいない。そう判断し魔術師達は結界を解いた。数舜のあと、舞い上げられたチリが風と共に晴れていく。残ったものはなにもないはず。その場にいた者たちは誰もがそう考えた。


 チリが晴れ姫が立っていた場所が見えてきた。その場にいるものは、またもや体を硬直させることになった。姫が立っていたのだ。体の周りには球体の結界を展開し、見た目には優し気な微笑すら浮かべていた。平時であればだれもがつられて笑顔になったであろう。だがこの状況で、その笑みが意味するところは明白だった。


 姫の周りに展開していた結界が消えうせた。瞬間、謁見の間に居る者達に強烈な圧力が加わる。物理的なものではない。猛獣の前に武器も防具もなしに放りだされたかのような。絶望的な状況に追い込まれたときにでも感じる。そのような絶望をもたらす圧力だ。


 圧力を感じると同時に、3人の魔術師たちの頭が消し飛んだ。なにが起きたかは判らなかった。どのような手段で人間の頭を消し飛ばしたのだろうか。魔術師達の頭は吹き飛び謁見の間の壁に血の沁みを作っていた。落ち着いて検証すれば判ったことだろうが。血の沁みが出来た方向は姫を中心とした放射状にできていた。姫がなにかを飛ばし魔術師達の頭を消し飛ばしたのだ。


「あっあっあ…」


 カルナン王は絶句した。何か声を出そうとするが出てくるのは意味のない声だけだった。その中で弾かれるように動いた者たちが居た。生き残っていた騎士たちである。全員が素早く剣と盾を構え、王と姫の間に割って入った。


「お逃げください!」


 騎士が叫んだ。王は立てなかった、逃げなくてはいけなかった。だがあまりにも非現実的な光景に体が動かなかった。騎士の一人が王に駆け寄り無理やり立たせようとする。騎士が王に手を掛けた瞬間。騎士の体が爆発した。鎧の隙間から溢れ出た血が王を紅く染めあげた。


 見れば、王を守るために立ちはだかった騎士達全員が、同じように血飛沫を上げ倒れ伏していた。どのようにすればこのようなことになるのだろう。犯人はひとりしかいなかった。リリィ姫だ。道中の盗賊達を始末した技、あの技を騎士たちに使ったのである。


 騎士達の鎧には対魔術処理がしてある。少々の魔術であれば鎧を傷つけることすらできない。宮廷魔術師達が使った撃滅術クラスならば話は変わってくるが。あの魔術は、謁見の間にあらかじめ長い時間をかけて組み上げた魔法陣と起動するための魔力源として多数の魔石や様々な触媒をふんだんに使って組み上げられていたからこそ発動できたものである。


 人間がそのような魔力を、それもただの一人で扱えるわけがない。通常であれば個人が使う魔術程度であれば、王の壁となった騎士たちはその身で受け止められていたはずだ。少なくとも王を逃がす時間くらいは稼げていたはずだったのだ。だが、そんなものはリリィ姫には関係がなかった。鎧に施せる程度の対魔術処理など、力任せに突き破り騎士達の体内に爆裂魔術を叩き込む。そのようなこと造作もないことであった。


 鎧がオリハルコンなどの伝説の金属で作られていたならさすがに通用はしなかっただろうが。騎士達の鎧に使われていたのはハガネである、鉄を特別な処理をすることで強度を増したその鎧は、エイゲル王国の技術の粋を集めて作られた強靭な代物だった。事実、鎧内部で爆裂魔術が炸裂したにもかかわらず、鎧自体は原型を留めていた。


「カルナン王様、考えを改めていただけましたか?」


 王の背後から声が聞こえた。優し気な声だった。だがそれがなによりも恐ろしかった。


「へぁ?えっ、あっ…なっなっ」


 なにが起こった。王はそう言いたかったのだろう。だが声にならなかった。あまりの恐怖に身動きが取れず、頭も思考を停止していたからだ。


「先ほどの条件、飲んでいただけますね?」


 場を沈黙が支配した。王の背後から正面へと、優雅とも言える足取りで移動したリリィ姫が微笑を浮かべ再度問いかけてきた。だが王は答えられなかった。


「声が出せないのなら、肯くだけでいいですよ?」


 王には降伏しか選択肢が存在しない。そう結論付けた物言いだった。しかしそれは正しかった。ここで首を横に振れば、王は即座に殺されるだろう。そのあとこの化け物がエイゲル国をどうするのかは判らない。だが、王が死んだとしてもリリィ姫はその行動を止めはしない。食糧を返してもらう、ただそれだけのために各地を蹂躙しつくすかもしれない。それだけは避けなくてはいけない。国を守るとは民を守るということだ、そしてその指揮を執るのは王である自分しかいなかった。王はゆっくりと肯くしかなかった。


「ありがとうございます。カルナン王様」


「もちろん、いままで奪った物を即座に返せとは申しません。とりあえず軍を縮小し、余剰を作った分だけでいいです。あとは、この10年で我が国から奪った富を10年かけてゆっくりと返していただければそれでいいです」


 リリィ姫はなにげなくそう発言した。だがその提案は苛烈極まりない内容だった。10年かけて奪った物を10年かけて返す、言うだけなら簡単だ。だが、相手の国が潰れてくれても構わないと考え奪ってきた物を、同じだけの期間で返せというのは無茶な話だ。そのようなことをすればエイゲルの民は飢える。現在のカルナンと同じ状況になってしまうのだ。しかもいつグラスラントから攻められるかわからないのである。最小限の国防軍は残すにしても、そのように弱体化したエイゲルにグラスラントが攻め込まない理由などはなかった。


「カルナン王様、大丈夫ですよ。国防のことについて悩まれているのですよね?」


 リリィ姫はまるでカルナン王の頭の中身を覗いているかのように質問をしてきた。王はそのことに新たな恐怖を覚えると共に肯くしかなかった。


「大丈夫です、国防に関しては我が国も協力いたします。民を無用な戦乱に巻き込むのは、わたしも避けたいですから。それにグラスラントには、次に交渉に赴きたいと考えていたところなのです。ですので、カルナン王様は、我が国に対する賠償を支払うことだけ考えていただければいいですよ」


 リリィ姫の提案は王であればだれもが受け入れられるようなものではない。その提案を飲むということは、主権を手放し、属国…、いやもはや領地の一部として扱うと宣言したのと同一だからだ。王と呼ばれていたとしても実質が領地を治める代官に過ぎなくなってしまう。王の権威は失われ、ただの臣下に落とされる。一度でも王の座に就いたものであれば、たとえ死んだとしても受け入れられる代物ではない。


 だが、カルナン王はそれを受け入れざるを得なかった。死んでも受け入れられはしない条件とは言うが、それは抵抗すれば生き残れる可能性がある場合に適用される。または死ぬまで戦えば名誉を残せる戦いであれば戦って死ぬことにも意味があった。


 だが、いまの状況はどちらでもなかった。抵抗は無意味、ただ死ぬだけ。名誉ある戦いでもない、王同士の一騎打ちならともかく、相手は少なくとも外見は少女だ。たとえ一騎打ちをしたすえでの死だったとしても、後世の歴史家たちはこぞって少女に負けた王としてその名誉を完膚なきまでに貶めるであろうことは明白だった。


「もう…、もう好きにしてくれ」


 カルナン王は、その一言を紡ぎだすので精いっぱいだった。エイゲル王国は、レイナル王国の、領土の一部へと変わることが決定された瞬間だった。


「では、わたしは一度、レイナルに戻ります。カルナン王様、すみやかな契約の履行をお願いいたしますね」


 リリィ姫は満面の笑みを浮かべていた。そして踵を返すと、堂々と歩いて王宮から出て行った。

読んでくれてありがとうございます


頭からっぽにして、その場のノリ的に書いてるので

整合性とかいろいろおかしくなったり

いろんな表現がおかしくなったり

頭がおかしくなったりしてます


まともな戦記物とか思って読んじゃやーよ?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ