1話 覇王系お姫様の日常は血のかほり
もうひとつの小説書くのにちょっと詰まったてたら、なんか生えてきた。
超不定期連載になる予定です。
王様は悩んでいた。王様には3人の王女が居た。王女ばかりが3人、王子が生まれず、世継ぎは、もう他国から王子を貰うしかないかとのんきに考えていた。妻を愛していたし、側室を迎える気にはならなかったからだ。王女は上から、18、15、11歳、一番上の王女は行き遅れになりかけていたが、そのことについては王様は気にしていなかった。
実は一番下の姫に、すでに婚約者が居るからだ。隣国の第二王子だ。王子は健康で聡明、王女と同じ11歳ながら、剣も魔術もそれなりの腕が立つという優良物件だ。隣国との友好の懸け橋にしたいと考え、姫が5歳のころに婚約を結んでいたのだ。我ながらよくやったと自分をほめたい気分だ。
姫たちの名前を紹介しておこう、第一王女リリィ、百合の花のようにたおやかな女性に育ってほしい、そう願って付けた名前だ。第二王女ローズ、バラのように美しくきらびやかに育ってほしいそう願った。第三王女ラオウ、力強く強大な敵すらも薙ぎ倒す修羅の王となってほしいと願って付けた名前…ぶっちゃけ酔っていてシャレで付けた名前だ。
名前に反してラオウは、とてもおとなしく引っ込み思案な性格をしている。日がな一日、本を読み、お菓子を手ずから作ることもあるくらいとても可愛らしい性格だ。外見もふんわりと柔らかい金髪に青い目をして、まるで国中の財貨を積んで最高の素材を集め、最高の職人に最高の仕事をさせ作らせた人形のようだ。国の至宝と言っても過言ではないと思っている。
第二王女のローズは、名前に反せず快活な性格でよくパーティーなどに出席をし、多くの貴族を魅了している。ふんわりと柔らかい金髪に茶色の目をした美少女だ。王妃ととてもよく似ていて、王妃をそのまま小さくすればローズになると言われるくらい似ている。王妃は物静かな性格なので性格は似ていないようだが。ローズもラオウと並んで王国の至宝のひとつと言っても過言ではない。
問題は、長女のリリィだ。目はくりっとしてて愛らしい茶色で、肌は滑らかな白、髪は下の二人の王女や王妃と違いストレートで艶やかな赤毛をしている。なにか外見が明らかにほかの王女と違うが間違いなく王と王妃から生まれた子だ。きっと先祖の遺伝が発現でもしたのだろう。王は惜しみない愛情を注いでリリィ王女を育てた。王女として恥ずかしくないように教育をした。黙っていれば美人だし、話をしても聡明で王女としてなにも恥ずかしいところはなく育っていた。性格はおっとり気味で優しい性格をしている…ように見えるし、実際心根は優しいはずだ。
それがどうしてこうなった。
王国はここ数年で勢力を拡大し、すでに二つの国を併呑している。隣国であるヘイラス王国は、第三王女ラオウの婚約者が居る国だとして見逃されているが。今現在も勢力を拡大し、いくつかの国と戦争状態にある。
それを指揮しているのが、長女のリリィだ。
リリィがその頭角を現したのが5年前、ラオウ姫の婚約が決まって一年後だった。リリィ姫は心優しい女性に育ってくれていた。国内の貧者に施しをし、どうにか助けてやれないかと頭を悩ませる姿は微笑ましかった。しかし、当時の王国は近隣の国から睨まれ、戦争を回避するために他国に援助金という名目で富を吸いあげられていたのだ。
王は優しい性格だった。戦争で苦しむ民を見たくなかったし、自分が指揮をしても戦争に負けるだろうという自覚があった。だから弱腰の外交しか取れずに、なんとか味方を増やそうと腐心した成果がヘイラス王国の第二王子とラオウ姫との婚約だったのだ。
結婚が成るまでの10年、なんとか耐えればヘイラス王国との同盟が強固になり、王の代理として王子も戦争の指揮を取ってくれるはずだった。そのための教育もヘイラス王がしてくれると約束してくれていた。
10年、なんとか10年耐えればいい、そう言い聞かせていた一年後。当時14歳のリリィ姫が覚醒をした。してしまったのだ。
リリィ姫は国が貧しくなり、国民が飢えていることが我慢できなくなったのだ、その原因が王の弱腰にあり、他国に富を吸い上げられていることを知ったリリィ姫は、突然、王に詰め寄ったのだ。
「お父様、我が国が貧しいのは他国に富を不当に奪われているからなのですね?わたしはそれが許せません。我が国の民が富めば他国の者がどうなってもいいとは言いません。しかし、不当に奪われ民が飢えるのは我慢なりません!!」
「し、しかしリリィよ、だからといってどうするのだ?我が国の騎士団は弱い、給金もまともに払えず数も少なくなってしまった。反抗するために兵をあげようにも国庫に余裕など、ほとんどないのだぞ?」
「知っています。ですから、わたしが奪われた富を奪い返してきます」
「はぁ?」
なに言ってるんだお前は?そうとしか言えない発言だった。姫に騎士や兵士を指揮する教育なんてまったくしていないし、戦闘訓練も魔術の修練もまったくさせていない。そんな姫が突然奮起をしたとして兵をあげても返り討ちに会うだけだ。
「いやいや、待て待て、国庫に余裕なぞないのだぞ?兵を集めることもままならん、そのうえ、お前が指揮を執ったとしても、まともに用兵なぞできはすまい、あと9年待て、あと9年待てばラオウとヘイラス王国の第二王子キリアスどのとの結婚が成る。そうすればヘイラス王国との同盟がより強固になり、二国で協力し他国の圧力をはね除けることも可能になるのだ。だから、お前は心配せずいままで通り暮せばいいのだ」
王は優しくリリィ姫に己の秘策を披露した。王は弱腰ではあるが、けして無能ではない、自らではできずとも、他人を利用し目的を果たす目算をすでにつけてあるのだ。あとは、奪われつくさないように、なんとか時間稼ぎをしてその時を待つ、それが王の考える最善の策だった。
「いいえ、待てません!、こうして話している間にも国民は飢えているのですよ?もはや一刻の猶予すらないのです。それに、騎士団を貸せなどとは申しません。わたしが単身で交渉に赴き、富を返してもらってきます」
「はぁ?」
まさかの二度目の、なにを言ってるんだお前は?だった。
「えっ?いやいやいや、それは無理だろう、捕らえられて身代金を要求されるオチになるだけだ」
「ご心配にはおよびません、わたし、こう見えても強いのです」
「えっ?」
そんなはずはなかった、リリィ姫が武芸や魔術を習ってるところは見たことはないし、習っていたのなら、王の耳にその報が入ってこないはずがないのだ。
「えっ?いや、嘘はよくないぞ?、リリィに戦うための教育はしたことがないし、どこぞで習っているという報も受けたことがない」
「大丈夫です、お父様、わたし民を助けるためにダンジョンに潜ってきていました。もうこの国にあるダンジョンは、すべて制覇しました」
「はぁ?」
まさかの、三度目のなに言ってるんだお前は?状態である。ダンジョンと言えば、我が国の騎士団でも選りすぐりの精鋭で挑んだとしても制覇どころか、10階層まで進めればいい方の危険地帯である。我が国の領内には、みっつのダンジョンがあるが、一番簡単なダンジョンですら、そのような状態だ、最も危険なダンジョンに至っては一階層の探索ですら騎士がボロボロにされて、しばらく療養させなくてはならないほどの危険地帯なのだ。
「ダンジョン”で”多数の心強い味方も得ました、わたしが交渉に赴いている間は、彼らに国の防衛を任せば大丈夫です」
そうか、ダンジョンに挑んでいたというのは本当だが、ダンジョンに潜るときは仲間に守ってもらっていたに違いない。制覇したというのはさすがに嘘だろうが。姫を守りながらダンジョンに潜れるほどの猛者が居たならリリィのこの自信にも納得がいくというものだろう。問題はそれほどの猛者が王である自分の耳に入って来ていないということだが。強者はえてして奇人変人が多い、名声に興味などなく己を鍛えることのみしか興味を示さない者も居ると聞くし、きっとそういうたぐいの者を味方につけたのだろう。
「セバスチャン!!出てきなさい!!」
リリィ姫が突然叫んだ。良く通るとてもいい声だ。涼やかな中にも凛とした気持ちのいい声だ。
しかし、異変は突然起こった。リリィ姫の影が濃くなったように感じたら、そこからゆっくりと、男が現れたのだ。黒髪に赤い目、そして不健康な、まるで死人のような白い肌、顔は整っていて背丈は王より頭ひとつ分くらいは高いであろう執事服を着た男が現れたのだ。
「推参いたしました、リリィ様」
男の声は底冷えするような冷たさを含んだ声であった。声を聞くだけで魂を抜き取られるかのような恐ろしい声。それはこの男が明らかに、ただの人間ではないということを暗示していた。
「バンパイアロードのセバスチャンです。ダンジョンで仲間になってもらったの、わたしが留守の間は彼と、その配下に国を守ってもらえばいいでしょう」
「セバスチャンと申します。ロイド王様、わたしが守護するからには人間の軍など、たとえ攻めてきたとしても蹴散らしてごらんにいれましょう。ご安心ください」
セバスチャンと呼ばれたバンパイアロード…、えっ?バンパイアロードって伝説上の存在じゃなかったの?伝説を記したと言われる物語で出てきたのを読んだことあるけど、たしかいくつもの国を滅ぼし、その国の民をことごとく滅ぼしつくした罪で神に封印されたとかなんとか書いてあったはずだ。名前は封印されたさい伝承することを禁止されたとかで書いていなかった。しかしセバスチャンなんていかにも執事の代名詞みたいな名前ではないはずだ。
「セ…セバスチャンというのか?」
「はい、セバスチャンでございます。リリィ様に仕えることになった際に、古い名前は捨てリリィ様に名付けていただきました」
「お父様、執事といったらセバスチャンでしょう?名前を名乗ることが出来ないと言ったから名付けてあげました」
リリィは簡単に言っているが、簡単なことではない、バンパイアロードなどの上位存在を名付けるなど、最低でもバンパイアロード以上の力がなくてはできないのだ。しかも、古い名前を捨てさせ新しい名前に書き替えるとなると、それこそ途方もない魔力を使うことになる。通常は人間程度の矮小な存在がそのようなこと可能なわけがないのだ。
「では、お父様、わたし行ってきますね、まずは特に多くの富を奪っている、エイゲル王国と話を付けてきます」
そういうとリリィ姫は消えた、文字通り消えたのだ、忽然と。
「それでは、ロイド王様、わたしは国防の任務に当たらせていただきます」
そう一言断りを入れセバスチャンは黒い霧となって消えていった。
王女は怒っていた。弱腰な王…、お父様にではない。民が飢え苦しんでいるのは知っていたのに、その原因にまで思い至らず。日々、民のために施しをすることしか考えていなかった己に怒っていたのだ。
「お父様、わたしやります、民を助けます」
そうつぶやきながら、まるで飛ぶように走るリリィ姫、いや飛ぶようにではない、飛んでいた。人間は飛べるようには出来てはいない。もし飛べるとすれば高度な魔術を使用し膨大な魔力を垂れ流しながらなら飛べないこともないが。世界に存在する魔術師のなかで、それが可能な者となると一握りしかいない。それらの魔術師でもリリィ姫ほどの速度で、しかも長時間飛び続けるなど不可能というものだ。
リリィ姫は、たった数時間でエイゲル王国との国境まで飛んだ。通常の馬での移動だと一週間はかかる距離だ。それも単騎で馬を使いつぶす勢いで走った場合である。国境まで飛んだところで姫は地上に降り立った。
「ここから先は地上を歩いていったほういいわね。他国の民とはいえ驚かせてはいけないもの」
姫は、他国の民のためを思って歩いていくことにした。それはある意味異様な光景であった。簡素な造りではあるが、見る者がみれば明らかに質の高い布地を使っているドレスに身を包んだ美少女が、たったひとりで街道を歩いているのだ。
貴族であることを隠そうともしない、高貴な雰囲気を持つ美少女だ、それが護衛も付けず、馬車にも乗らずに単身街道を歩いていく。異様としか言いようがない光景である。街道ですれ違う者は、全てが彼女に目を奪われた、その非日常的な光景はいっそ幻想的ですらあったからだ。ただ、声をかけようとした者はいなかった。それはそうだ、本来平民は貴族に声をかけるなどすれば不敬罪により処刑されてもおかしくはないからだ。
平民は声をかけてはこない、だが国を守る騎士や兵士は別である。リリィ姫は道中、何度も兵士や騎士に声をかけられた。高貴な雰囲気を出しているとはいえ少女がひとりで歩いているのだ不審に思わないほうがおかしいのだ。そのたびにリリィ姫は、自らの身分を名乗り、エイゲル王との交渉に赴いているところだと説明した。
「わたしは、レイナル王国の第一王女のリリィ、我が国の王ロイドから交渉を任され、エイゲル王国の王カルナン様に謁見を求めにまいった次第です。こちらが、わたしがレイナル王国のリリィだという証です」
そう言い、王国の紋章を刻んだ聖印を見せやりすごしてきた。王女が単身交渉に赴くなど通常ではありえないことである。だが、まったくないとも言えない。王女自身が貢物として贈られる際などでは王女を他国に送る場合はあるし、その際王女のお願いという名目で譲歩を引き出そうというのはよくあることだ。ただ、護衛も連れているように見えないうえ馬車すら使わないというのは異常だったが、聖印は本物であり、彼女が本物の王女であるのは疑いようもなかったため、兵士も騎士も無理に引き止められなかったのだ。
道中、人目のつかない森のなかなどでは、野盗などに襲われることもあった。当然だ、野盗からしたらカモがネギを背負ってやってきたどころではない、すでに鍋で煮込まれて食べるだけの状態の獲物が通りかかったのだ、襲い掛からない訳がない。もっとも、野盗たちは後悔する暇もなく、この世からさよならすることにになったわけだが…。
盗賊たちは姫を呼び止め、足が止まったところを囲んだ。10人もの男がたった一人の少女を囲む。絶望的な絵ヅラだ、この後に起こるであろう惨劇は、誰もが想像できることだろう。少女は盗賊に捕まり身ぐるみを剥がされ、さんざん慰み者にされたあと、裏社会の奴隷商人にでも売られる。100人いれば100人、1000人いれば1000人が、その光景を想像するはずだ。だが実際に起こったのは違った。
「へっへっへ、お嬢ちゃん、こんなところをひとりで歩いていちゃだめだぜー、こわーいお兄さんたちにさらわれちゃうぜ、へっへっへ、まあ、もう遅いんだけどなー!!」
いかにも盗賊らしいセリフである、盗賊は一斉に襲ってきた、素手だ。当然である。少女を取り押さえるのに武器などいらない。大人の男が腕力で少女に負けるわけがないからだ。普通の少女だったら…だが。
リリィは、攻撃されるまでは動かなかった。襲ってこなければ殺す必要はないからだ。それは優しさでもあったのだろうけれど、ただ面倒だったからでもあった。盗賊も人間だが民ではない。それは王族としての認識だった。盗賊は倒すべき悪それは貴族としての認識だ。だが、今は急ぎの旅の最中で、しかも他国の領内である。わざわざ盗賊を倒して回る必要はないし、それを他国でしてしまうのは侵略行為と捉えられないからだ。
だから攻撃してくるまで動かなかった。だが攻撃してくるのならば反撃をするべきだ。リリィは、見た目は細いその手で優しく盗賊たちを撫でていった。一瞬で全員に触れ終わり、囲みから抜けたのである。盗賊からしたら少女が忽然と消えたように見えただろう。
「うわっぷ、っとっと、なんだ、消えやがった、どこいきやがった!!」
盗賊が少女が消えたことに驚き動きが止まっている。あたりをきょろきょろと見渡した。すぐに少女が見つかる。いつのまにか囲みを抜けられていた。
「なんだてめぇ!!なにしやがった!!」
「なにしやがったかわかんねぇが、もう容赦しねぇぞ!!」
そう叫びながら盗賊たちは腰に佩いていた剣を抜いた。サビすら浮かんでいる粗悪な代物だ。だが人を殺すだけならそれで充分なのだろう。
「あなたたちは、もう死んでいます」
リリィ姫は、その涼やかな声でそう告げた、次の瞬間
「ぐべらっ!!」
盗賊たちが一斉に体内から弾け血の花を咲かせた。リリィ姫がダンジョンに潜る際に服が汚れてしまうことを嫌い編み出した技だった。相手に触れた一瞬で体内に時限爆弾のように爆裂する魔力の塊を叩き込む技だ。バインパイアロードほどの強者であれば、体内に叩き込むまえに弾くことも可能だが、そのあたりにいる盗賊にそのようなことができるはずがない。リリィ姫を襲った、それが盗賊たちの死因だったのだ。
そのような旅を続けること二週間、国境から王都までリリィ姫はたどり着いた。まさか、この日がエイゲル王国の滅亡の日になるとは、このとき誰も想像すらしていなかったのだった。
読んでくれてありがとうございます。
ネタの元はアレです、明言しませんがアレです。
あ、でもこれ二次創作に当たるの?教えてエロい人。
頭空っぽにしてたら生えてきたものですから許してください。