そういえばお腹すいたな
夜の底、森の中には獣のそれとは異なる音を奏でる集団がいた。
土を踏みしめ、不規則ながら固い物がぶつかったような音を出す集団。
移動の際に、椅子がぶつかっちゃう俺達である。
「なぁ、今更だけどこの椅子持ってくる必要があったのかな」
「本当に今更だな、多分先生にも考えがあるんだろ」
「どうかなぁ、加賀の疑問は尤もだと僕は思うよ。先生、椅子なんか持って来てないし」
えっ、と言いかけながら視線を先頭の先生に向ける。
そこには、ワハハと笑い声を上げて巨狼に跨るジャージ姿のオッサンがあった。
「ズルイ、俺だって乗せてもらってないのに」
「おい、話がズレてるぞ」
「ズルイ、椅子持ってない」
「無理矢理修正したな」
自分だけ椅子を持たない姿に憤りを感じる。
だって、実際に狼に出会って椅子を使ってないじゃないか。
もう、いらないとばかりに椅子を置いて少し進んだら周囲から咎める視線が来た。
「えっ、必要?」
「どうだろうな、でも皆と違う事をすると反感を買うってのは日本人特有だよな」
「一見、意味の無い所に意味を見出す。それが大人って奴なんだと、僕は思うんだよね」
そうか、ここで俺は先生と同じになってしまう。
持たざる者達は持っている者達に、お前だけ楽するなよと思われるんだ。
面倒だな、次の休憩の時に是非を唱えることも検討しよう。
「まぁ、トレーニングになるし俺がお前のも持ってやろう」
「本当、じゃあ僕も頼むよ」
「加賀のだけだ、お前は少し鍛えろ」
「さ、差別!さては、お前らホモだな!畜生!」
えっそんな関係だったの、と女子の声が聞こえた。
やれやれ、日本人は業が深いな。聞かなかった事にしよう。
「おい、江戸川。そうやって友情をすぐに恋愛に結び付けるとは中学生か」
「自分が男を好きだからって、俺まで一緒にしないでよね。俺と松田は友達だから心配しないでくれよ」
「ノーマル!僕は普通に女の子が好きだよ!」
「すまない江戸川、俺はお前を受け入れられない。別の男にしてくれ!」
「待って、告ってもないのにフラないで!っていうか、告らないよ!」
疑惑の追及は行われないまま、クラスのみんなの雑音の中に紛れ込んでいく。
ちょっと、女子の視線的にこれ以上会話したくないです。
「何で距離取るの!ち、違うから!」
「うるさいぞ!森で動物に襲われたらどうするんだ!」
「こんな時だけ仕事すんな、公務員!」
騒ぐ江戸川を置いといて、僕達は休憩に入ることになった。
夜の森で休憩は実にあぶないかと、当初は思われていた。
「ファイアー!」
「おぉ、田中がいつになく燃えているぞ」
「物理的な意味で燃えてるね」
まぁ、蓋を開けてみれば田中を中央にみんなで囲んでキャンプファイアーみたいになっていた。
燃えているのが田中なので、少し猟奇的だが談笑する集団の中央に火達磨の男がいるだけだ。
楽しい光景だね。
「火傷しないとして、酸欠しないのかな?」
「おい田中が倒れたぞ!」
「何で明かりが倒れてんだよ、馬鹿かよ!」
重労働させられて倒れたら攻められる。
そうか、これがブラック社員の末路か。
学校は社会の縮図とはよく言ったもんだ。
「いい、炎だったぜ……うっ」
「田中ぁぁぁぁ!」
「無茶しやがって……」
まぁ、どうして俺達がこんな風にのんびりしていられるかというと、新たに仲間に加わった狼パワーらしい。
なんか、匂いとかで寄ってこないそうだ。
狼が言うには、同じ大きさのイノシシとかいるらしく、良く俺達のような人を襲っては食べてるんだって。
猪って雑食だったんだな……
「そういえばお腹すいたな」
「まぁ、食事なんかないからな」
「このまま餓死するのかな」
「加賀、目が据わってるぞ」
俺と細内しか、狼とは喋れない。
つまり、猪についてみんな知らないのだ。
人食いって事を黙っていれば、みんな協力してくれるんじゃないだろうか。
「松田、実は狼さんが言うには森に猪が出るらしい」
「まさか、お前食べる気か」
「狼でこの大きさ、きっと全員分食べれるはずだ」
やるしかない、肉を食うために、やるしかないんだ!
俺は立ち上がると江戸川の元に直行し、そして椅子を奪い取ってその上に立つ。
当然、視線は椅子の上に立った俺に注がれる。
「みんな聞いてくれ!狼情報により、この森には猪が出る事が分かった。そこで、みんなで狩りをしないか!俺は肉が食べたいんだ!」
「加賀、お前……」
「みんなだって誤魔化してるけど、お腹空いてるんだろ!いつ、街に着くか分からない状況なんだ。協力しないか」
そうだな、俺も、猪って、と口々にみんな言葉を発する。
ええぃ、一押し足らないか。
だが、ここで倒れていた田中が上半身だけ起き上がらせ、目を見開いて口を開いた。
「そう、異世界でモンスターの肉を食べることはよくあること!みんなやってることだ!」
そう言って、力尽きたのか田中はまた倒れる。
何がしたかったんだよ、田中ァ!
だがしかし、その言葉はみんなの心を動かした。
「そっか、みんなやってるのか」
「みんなやってるなら、なぁ?」
「あぁ、なんかみんなやる感じだしな」
そう、日本人の価値観を揺さぶる一言。
みんなやっているだ。別に異世界人のやってることだから、日本人が狩りをして食べることはみんなやってないけど、そんな細かい事はどうでもいい。
問題は、やるかやらないかだ。
「よし、みんなやるんだな!江戸川、探偵の能力を使うんだ!」
「フッ、やれやれ……犯人を見つける、過程を推理する、両方やらなきゃいけないのが探偵の辛い所だぜ。異能力、探偵!」
バサッと、制服のボタンを全開にしてはためかせる江戸川。
ボタンを全部外す理由はあるのか?
そんな疑問を生じずにはいられないが、当の本人は凄まじい速度で推理しているのだろう。
傍から見ればカッコ付けて立っているだけだけど。
「僕の推理によれば、猪は日中は寝ていたのだろう。起きていたなら気付けたはずだ。そして、狼の爪には血が付着していることから巨大猪は負傷した。更に、逃げ回っていたとして匂いが分からなくなる風下方面に逃走中。逃走犯のルートは、追跡者から逃げるのが常だ。最後に巨体だと言う事は痕跡が残りやすい。向こうの方の開いた道に沿えば見つかるだろうね」
「よし、ちょっと見てくるぜ!」
江戸川の推理を聞いて、真っ先に動いたのは若林だ。
若林は直立したまま、急速度で空に上昇したのだ。
若林の異能力、空中浮遊だ。
「おっ、なんか森の方で木が動いてるぞ!」
「スゴイな、こんなに暗いのに見えるのか?」
「月明かりでも十分明るいからな!」
確かに、異世界の空は空気汚染がないのか夜空が綺麗に見える。
しかし、これで猪はどこにいるか分かったぞ。
「巨大猪か、まるでケルト神話だな」
「じゃ、松田頑張って」
「あぁ、仕留めて来るぜ」
松田を筆頭に、男達が一狩り行こうぜと旅経つのだった。
さて、大人しく待っていようか。
「僕が言うのもなんだけど、言いだしっぺが座るのってどうよ?あと、それ僕の椅子」
「適材適所だよ。俺、血とかダメなんだよね。その点、松田なら苦手とか無効化出来そうじゃん」
「そっか、捌かないといけないのか。うわぁ、僕も行かなくて良かった。僕の能力って即死は対人向けだしね」
「チッ、使えねぇな……」
「えっ、お前が言うのそれ!」
高山先生 能力???
生徒一覧
1相沢達也 能力???
2安部裕也 能力 生命感知 生物を認識する能力。
3伊藤香織 能力???
4飯塚綾子 能力???
5一之瀬菜緒 能力???
6江戸川啓 能力 探偵 探偵になる。
7加賀満 能力 吸収 吸収した物の性質を得る。
8菊池順子 能力???
9倉橋香奈 能力???
10佐々木次郎 能力???
11佐藤玲央 能力???
12佐野桃子 能力???
13清水葵 能力???
14鈴木亮太 能力???
15鈴木玲子 能力???
16田中龍之介 能力 炎操作 炎を操る、色や温度は自由自在。
17長島秀雄 能力 記憶操作 記憶を植えつけたり読み取ったりすることが出来る。
18長野真 能力???
19葉山幸彦 能力???
20樋口秋帆 能力???
21藤俊介 能力???
22保坂真由 能力???
23細内京子 能力 思念伝達 思念を送る。
24松下芽衣 能力???
25松田英雄 能力 無効化 対象を無効化する。
26松永清 能力???
27三浦和子 能力???
28水谷凜 能力???
29皆本和馬 能力???
30宮野茜 能力???
31毛利友則 能力???
32最上可憐 能力???
33森蘭子 能力 念力 思念による物理干渉。
34薬師幸太郎 能力???
35矢口美緒 能力???
36八雲響 能力???
37安田正弘 能力???
38和田翔 能力???
39若林隼人 能力 空中浮遊 空気抵抗や重力を無視して浮遊できる。
40渡辺咲 能力???