入学式
入学式当日、桜舞い散る中で私立桜花学園へ続々と生徒が登校してくる。
「春休み、どこへ行きましたの?」
「私は、パリへ行きましたわ」
「私は、イタリアへ行ってきましたわ」
「あらあら皆さん羨ましいわ~。私は国内でパーティがあったのでそちらへ」
生徒の9割以上が名家のご子息・ご令嬢であるこの学校は、春休みは海外旅行に行くのは当たり前の事であった。
もちろん数名の一般枠も用意されている。ただその倍率は凄まじく名だたる名門中学・高校よりも遥かに高難易度であった。
如月家の3人もその中へと混ざる様にして登校していた。
「話には聞いていたけど、本当にすごい世界だね…」
「くらだらねぇ」
「パリと言えばマカロンですわ。そうそう、この前食べたアベロッティーの限定マカロン。あれは本当に美味しかったですわ」
「…とりあえず、お前は少し食い物から離れろよ」
「お義父さんが買ってくれたアレですわね。確かにあんなに美味しいマカロン。初めて食べたですわ」
「…お前ら、怒られるぞ。…まぁ確かにウマっかったけどよ。と、その前に、お前はその無駄な脂肪を少しはどうにかしろ!」
元気の良い義弟は、そういうと私のお腹を叩く。
ぼよ~ん
そんな音が聞こえた気がした。一応言っとくと、セクハラだぞ?
「お前じゃなくて、悠お姉様って呼びなさいって言ったでしょ」
「はいはい、悠」
く、生意気なやつめ。まあいい。
「それに、この体は義父さんにも原因があるのよ。庶民の頃は食べられなかったお菓子を、毎回買ってくるんだもの……」
私はダイエットするどころか、この春に体重が増加したのだった。兵糧攻めとはお父上も憎い事をしよるぜ。
しばらく歩いていると周りの生徒が裕介に気づいて声をあげる。
「あれは裕介様じゃない?」
「ほんとよ、裕介様だわ!」
「……裕介、様?」
姉は疑問を抱いて、裕介を見る。
「如月家のご子息だからか知らねーけど、一部からそう言われてんだよ」
嫌そうな顔で彼は答えた。
「加えてイケメンだしねぇー。何でも、親衛隊なるものまでいるらしいよ?」
「ばっ、なんで、そのことをお前が知ってんだよ!」
「さーて、どうしてでしょ~?」
「……裕介くんって何だか凄い人だったんだね」
「ほっとけ」
如月裕介、二階堂拓也、堀田邦明、この3人には親衛隊なるものが存在していた。
御三家+イケメンと来たら、それは尋常じゃない程モテるのも納得である。
その為、秩序を保つためにそれぞれに親衛隊というのが出来たのだそうだ。
まるで漫画のような話である。
「ところで、一緒に歩いているお二方はどちら様でしょう?」
「確かに……お見かけしない顔ね」
「裕介様が女性と一緒に登校する姿、初めて見ましたわ」
話題は裕介から私たちへと移る。無愛想人間が見知らぬ美人2人と一緒に登校していたら
不思議に思うのも無理はない。
「ち、面倒くせぇ。俺は先に行くからな」
注目されることが嫌いなのだろう、私たちを置いて裕介は一人でさっさと行ってしまった。
「遥、私たちも早く行こうか?」
「そうだね」
裕介に続いて、私たちも校内へと入っていく。
クラス分けを確認すると、私は裕介と同じクラスだった。
2年生の姉とは途中で別れて、私は自分のクラスへと向かう。
教室へ入ると先にいった裕介が、私に気づく。
「げ、同じクラスかよ……」
「そこ、なんでがっかりするのよ!喜ぶとこでしょ、ここは」
「豚と一緒か…」
「あ?てめぇー、○○○」
普段より低い声で脅すと、裕介がビクッと震えた。
甘やかされた義弟を教育するのは、姉の役目である。
「口は、災いのもとよ。覚えておきなさい」
「……はい」
「うむ、分かればよし。じゃあ、これから1年よろしく」
「ああ」
そういって自分の席へと戻り、椅子へと座ったら――椅子が壊れた。
え?え?えええ!?
慌てて義弟へ振り返ると、奴は私を指さしながら、大爆笑している。
周りを見ると声に出して笑う者こそいないものの、概ね似たような反応である。
その後、来た先生が、新しい椅子を用意するといい、私たちはそのまま入学式の会場へと向かった。
裕介、後で覚えておけよ。
長い校長のあいさつが終わり、次は生徒会からのあいさつだ
周りが、特に女子が徐々に色めき立つ。挨拶は生徒会長だった。
攻略キャラの一人、堀田邦明である。
(おー人気でいらっしゃることで)
「新入生の皆様、ご入学おめでとうございます。本日は―」
会長の凛とした声に周りの女子達は光悦とした表情を浮かべる。
私は、例の男を思い出してげんなりしていたが。
アカンて、これはあきまへんわ。
裕介を見ると大きな欠伸をしている。眠そうだ。
無事?に入学式が終わり、私は桜花学園へと入学したのだった。
後日、学園から私専用の椅子をプレゼントされた。
耐重量も幅も大幅アップの特注品だった。