生徒会長と猫
はい、生徒会役員の如月悠です
チャームポイントは美味しそうにご飯を食べる姿かな?
長所はスマイル 短所はお茶目なところです
別に気が狂ったわけではないぞ。こんなことをしても平気なのだ伝えたかった。
晴れて、生徒会役員となった私は、
部外者が立ち入り禁止の、生徒会エリアにある中庭へと頻繁に足を運んでいた。
中庭は、日本庭園のつくりになっており、何でも四季折々の景観が楽しめるとか。
テラスも併設されていて、自然に癒されながら食事を取る事も可能である。
まるで気分は、優雅なセレブ。
こんな立派なものを、生徒会の為だけに用意してあるとは、なんと贅沢なことか。
こんな特権なら大歓迎である。
最近は生徒会のせいで、ストレスも多く、身も心も疲れた私の体重は、きれいな右肩上がりであった。
そんな私にとって、ここは最高に癒しの場所であったのだ。
ただ、足しげく通う理由はそれではない。一番は一匹の猫にある。
その猫は、太っちょでどこかふてぶてしいその態度から、私は『まんそく』と呼んでいる。
まんそくは、私がここでご飯を食べているときに、出会った一匹のにゃんこである。
学食無料のいま、私はおやつを食べ放題であるのだ。
前世の頃は、にゃんこに好かれた私であるが、
この体になってからは、アンチにゃんこ属性になってしまった。
威圧感半端ないからな。
そんな私に、警戒しながらも近づいてきた、まんそくは、私をスルーして飯を食べ始めた。
……恋に落ちた瞬間であった。
それから、コツコツ餌付けをして、最近は私を見かけると、自ら近くに寄ってくるようになったのだ。
家には1匹の犬、学校には1匹の猫、私は幸せです。家の駄犬は、あんま可愛くないけどな。
今日も持参した猫餌と、猫道具をまんそくに使用する。
「ちゅっちゅ、ちゅっちゅ。よーし、よし、よし。まんそく可愛いでちゅねぇー」
見よ、全く見向きもしない!
私より飯。私より道具。だが、そこがいい。
「……何をしてる」
天国絶頂の私へ聞こえてきた、背後からの悪魔の囁き。
ッ!!!
慌てて振り返ると、その声の主は生徒会長こと堀田邦明であった。
訝しげな表情で私を見ている。
いやぁぁぁぁぁぁぁぁ
生粋の猫好きの私は、いつものように猫と接していた。
その声は、過去には数多のにゃんこを虜にしてきた、魅惑のメロメロボイス
……正直言おう、帰りたい、と。
悶絶するほど、恥ずかしい。これは何たる屈辱であろうか。
嫌な沈黙が訪れる。
目の前の男は、何も触れてこない。
だが、私はしっかり見た。振り返った瞬間の、奴のあの顔を!
沈黙を先に破ったのは、生徒会長だった。
「なんだ、『まんそく』か」
生徒会長の口から出たのは、予想外の言葉。
驚きな事に、猫に同じ名前をつけていたようだ。
かなりショックだった。
まんそくは私をあっさりと見捨てて、彼の元へと近づいていく。
……け、猫もしょせん顔か
「おい、豚。まんそくに何をしていた?」
疑わしい目で、私を見てくる生徒会長
生徒会長からは『豚』という、素敵なあだ名で呼ばれている。
きゃ、私ってば特別!?
はっ。
私の心は少し荒れているようだ。
「餌をあげてたんですよ。というか生徒会長も、ネコが好きだったんですね」
「ああ」
生徒会長は何も触れてこないので、私も忘れる事にした。
次からは、絶対に気を付けよう。
生徒会長がまんそくを撫でる姿は、普段の横暴な態度とは違い、どこか優しげであった。
人を鼻で笑うような人間だが、意外な一面もあるようだ。
今だけは、かなりいい男に見える。
恐ろしや、ネコ補正
「私以外にも、まんそくを知っている人がいたとは、驚きです」
「まんそくは、俺が1年の頃から可愛がっている」
確かに、私よりも随分と懐いているように見える。
まんそくは生徒会長に撫でられて嬉しそうにしていた。
私の方が絶対に可愛いがってるのに…
「それをよこせ」
そう言い指を指したのは、私が持ってきた猫道具。
その態度に釈然とはしないものの、私は大人しく渡した。
生徒会長は私から受け取ると、定番の猫じゃらしを使い、まんそくと戯れ始める。
「ふ、まんそく。相変わらず馬鹿だな」
言葉は悪いが口調は穏やか。それに、慣れた手つきである。
何だか面白くないので、私は別のおもちゃを使いまんそくの気を引く。
…だが、私のはことごとく無視された。
生徒会長を見れば、勝ち誇った顔で、得意げに私を見ている。
(まんそく、その人は性格悪いから気を付けなよー)
私はまんそくへと想いを発信することにした。
だが、反応は思いもよらぬところから返ってきた。
「俺が嫌いか?」
「は?」
「答えろ」
脈絡もなければ、あまりにド直球なその質問に、私はたじろぐ。
生徒会長の方を見れば、こちらを振り向くわけでもなく、ただ猫の相手をしていた。
その横顔からは、感情がよめない。
私が苦手意識を持っているのに、気づいていたらしい。
元々、こういう「俺様の言う事を聞け!」タイプの人は苦手なのだが、
前世の男のせいで、さらに拍車がかかっていた。全ては、あの男のせいだ。
下手に隠すよりは正直に伝えた方がいいだろう、そう私は判断する。
「別に嫌いじゃないですよ。ただ、生徒会長の雰囲気が、少し嫌いな人と似ていて…。それで、不愉快に感じていたなら、すいませんでした」
「そうか」
私の説明に対しては一言だけ。
特に怒っている、とかでもなさそうである。
色々質問されるかと身構えていたが、それ以上は何も聞いてこなかった。
…いまいち読めない男だ。
さて、まんそくも取られた事だし帰るか。
そう考えたところで、生徒会長から呼び止められる。
「これから、暇か?」
「はぁ、まあ…」
「よし。なら付き合え」
生徒会長はまんそくへと別れを告げると、説明もないまま私を連れ出した。
「乗れ」
言われるがままに、生徒会長の家の車に乗り込むと、そのまま車は発進する。
…どうやら私、誘拐されたみたいです―
『まんそく』は、私が好きな猫を集める某アプリ
そのキャラクター名からもじっています。




