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二階堂竹夫、攻略します

放課後、私は敵陣へと赴く。

すぐに目的の人物を見つけた。彼は一人黙々と帰る準備をしていた。


あちゃー、陰オーラ出てますわ。黒縁眼鏡でダサい短髪、神経質そうな表情、

想像通りの委員長キャラでした。とてもじゃないが、拓也先輩の弟とは思えない。


というか、この人じゃケンカとか絶対無理だわ。私でも余裕。

やはり、裕介は無能

心の中でそう結論付け、私は彼へと近づいた。


「二階堂竹夫先輩ですね。少しお時間よろしいですか?」

「だれ?」

不審者を見るような目つきで、私を見る。


「1年生の如月悠と言います。同じクラスの如月遥の妹です」

「如月の?全く似てないな」

知ってますとも。


「…お話があるので、少しお時間よろしいですか?」

「悪いんだけど―」

「ああ、ありがとうございます。何て優しい先輩でしょう~」

「おい、ふざけるな!手を放せ!!」


拒否られるのは分かってたので、無理やり連れだすことにした。

私に勝てると思うなよ?


離れて様子を見ていた遥は、私を励ましているように見えた

おうよ!とそれに目で答える。

不出来の妹ですが、頑張ります。



――視聴覚室

抵抗されたら面倒であったが、意外に素直についてきてくれた。

場所は拓也先輩の時と同じ場所。学内にはまだ詳しくないが、ここは人気がなく密談には持ってこいだった。


「それで、こんなところまで僕を連れだして、いったいなんの用事だ?」

不遜な態度で彼は言い放つ。要件ぐらいは聞いてやる。そんな感じだ。


「じつは、拓也先輩からお願いされた事がありまして…」

「はっ!僕の兄さんが、君みたいな人間?と知り合いなわけがないだろう…如月遥さんなら分からなくもないけどな」


おっと?

こいつは、後で教育の必要ありだぞ

しかし、私は年上の年下。こんな生意気野郎にも、冷静に対処する。


「拓也先輩が、あなたと仲直りしたがっていて、”私に”話を聞いてくるよう、お願いされたんです」


シーン。

・・・しばしの沈黙

これは、やはりぶっちゃけ過ぎたか?でも、他に言いようがないし、


だが、返ってきたのは、予想外の答えだった。

「…兄さんとは、別に喧嘩をしてないぞ?」



これには私の方が『?』状態である。

頭の上にはいくつも、はてなマークが浮かぶ。

「兄さんと仲直りと言うが、そもそも僕は、兄さんと仲違いしたつもりはないぞ?」

「でも、お兄さんとは、ここしばらく会話してないんですよね?」

「あれは!その……なんだ。どんな顔をして、兄さんと話せばいいか分からなくなったんだ!兄さんは、とても優秀で、とてもカッコよくて、何でも出来る。完璧な人間だ。それに比べて僕はこんなんだ…。僕みたいな奴が、おいそれと、話をするのも恐れ多い。それに……下手な事を話してだ、もし兄から呆れられたら……怖いじゃないか!!!」


怖いじゃないかー…

私の耳には、エコーがずっと鳴り響いていた。

弟は電波でした。


ゆっくり息を吸い、自分を落ち着かせてから、私は電波へ話しかける。

「つまりは、兄が好き過ぎて、会話が上手く出来ないと」


正直言おう。どーでもよくなった。

だがイケメン王子の為にも、最後まで責任を持とうではないか。


「好き?そんな安っぽい感情ではないぞ、僕の気持ちは崇拝だ!!!」

返ってきたのは、やはり電波だった。


「あ、はい。もういいです。ただ、肝心のお兄さんが誤解してるようなので、一度その『重い』をぶつけてみて下さい」

「む……そうなのか。確かに、最近はほとんどまともに会話出来ていなかったかも、知れない。……しかし、嫌われたりしないだろうか?」

「あーはい。ダイジョウブだと思います。……ちょっと、ウザいかも知れませんが」

「う、うざい………」


ショックを受け、ヘコむ乙女。

しまった、つい本音が。


「あ、はい。今のは間違いです。ウザ可愛いって、世間では言います。とにかく、一度その重いをぶつけてみて下さい」

「分かった。僕の兄さんへの気持ち、しっかり伝えてみる事にするよ!!!」

ありがとう。そう、電波から感謝された。


…拓也先輩、ファイト!



こうして、無事に竹夫の説得を終えたのであった。


ああ、そういえばもう一つあったな、

「最近、クラスメイトから孤立してる点も、拓也先輩が心配していましたよ」

「どいつもこいつも、僕を通じて兄と接点を持ちたがってるだけだからな。あいつらと、仲良くする気はない!」


なるほどね。

だが、姉についてだけはフォローしておくのを忘れない。

私は、出来るモブキャラですから


「身内贔屓かもですけど、私の姉にはそういう魂胆がないので。他はどーでもいいですが、姉の遥とは、仲良くしていただけると嬉しいです」

「き、如月さんと……?わ、分かった…ところで、彼女は僕について何か言っていただろうか?」

「前に消しゴム返そうとしたら、睨まれたって言ってましたよ。姉が気にしてたんですが、何か気に障りました?」

「睨むだと!?そんな事はしていない!動転して、何と言ったらいいか、分からなかっただけだ。だって、あの如月さんだぞ?…彼女を初めて見た時は、本物の天使かと思った」

うっとり。電波は妄想力もたくましいご様子。

だが、悪い奴ではないだろう。ただの残念な奴だ。


「姉の方には、私から誤解だったと、言っておきますね」

「お願いする。いや、ちょっと待て!」


彼は慌ててカバンから便箋とペンを取り出し、何かを書き始める。

覗こうとしたら、「み、見るんでない!」と、怒られた。


「彼女と向き合っては、まだ上手く話せる自信がない。だが、誤解は解いておきたい。それゆえ、書面にて、僕の最大限の謝罪の気持ちを書き記してみた。どうか、これを彼女へ渡してもらえないだろうか!!!」

頭を下げて、私に便箋を差し出しす。

その仕草がどことなく拓也先輩に似てるなと思ったら、流石に失礼か?


「いいですよ。家に帰ったら、姉に渡しておきます」

「ありがとう、感謝する!」


これで、全部スッキリである。


ところが、帰ろうとしたところで、電波に呼び止められる。

「そういえば、君と兄はどういう関係なんだ?」

「え?だから、友達ですって」

「……本当か。じつは、君が一方的に思いを寄せてるとかじゃないだろうな。君と兄とじゃ、とてもじゃないが釣り合わない。さっさと諦めてくれ、悪いね」


人を馬鹿にした、その言い方にイライラする。それと同時に、ふと悪戯心がわきあがる。

顔がニヤけそうになるのを、必死に隠しながら私は語りかけた


「…じつは、これは内緒にしておいてくれって、言われたんですが」

「む、何だ?」

「拓也先輩、私に対して、その…好意を抱いているみたいで……」

「なんだと…?そんなの、あるわけないだろう!」


お、これは意外といけそうだぞ

私はさらに調子にのり、とても困惑している体で彼に語りかけた。


「私もそう思ったんですけど。どうやら本気だったみたいで…。『君の事は、必ず振り向かせてみせる』ってこの前言われしまって…」

「そんな馬鹿な!」

彼は大変衝撃をうけたようだ。


兄はブス専だったのか…と、心の声まで外へ漏れている

余計なお世話である。

そもそも、ただのぽっちゃり系ですし


慌てふためいた様子で、竹夫は私に尋ねてくる、

「それで、まさかとは思うがOKしたんじゃないだろうな!」

「少し考える時間を下さいって…」

「兄さん…。こんな男か女かも分からない奴に、騙されるなんて!」


やべー、面白いぞ、コイツ。

私は吹き出しそうになるのを堪えるのに、必死であった。


「僕がしっかりサポートしていなかったせいだ!僕が兄さんを守らないと!いいか、如月妹。間違っても、兄と付き合えるなんて思うなよ!僕が断固として阻止する!というか、兄に変な薬でも、飲ませたんじゃないだろうな!!!」

「そんな事してません。これは、拓也先輩のご意志です」

「黙れ!用事も済んだだろう、僕は失礼する!」


兄さん、戻ってきてくれー。

彼はそう叫びながら、走り去っていった。


訂正しないままだけど、ま、いいか。

拓也先輩が、何とかするだろう。



私は清々しい気持ちで、視聴覚室を後にしたのだった。

シリアスな展開を期待してたら、すいませんでした。

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