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06 列車の終着駅

ツバサとカケル(オレ)は双子みてーに思われることもあるが実は性格も全然違う。で、性格が違えば身体の動かし方も当然変わってくる。

ツバサ(オレ)は格闘が好きだ。瞬発的な動きやパワフルな攻撃を得意としてる。

カケル(オレ)はどっちかっつーとアスリートだな。持久力やバランス感覚なら負けねぇ。


だから身体操作はある程度の役割分担をしてる。基本的にツバサが上半身と攻撃・防御、カケルが下半身と移動担当だ。でももちろんカケルが腕を使って防御することも、ツバサが蹴りを繰り出すこともある。

いきなりやられた方は大抵怒るが、それはお互い様だし何より敵に殺されるよりはましだ。



だから今も、ミユの背中を見ながら全力で追いかけるカケル(オレ)と、アニャをお姫様だっこで抱えるツバサ(オレ)が居る訳だ。


「はぁっ、はぁっ、ちょ...やばい! 最初の脱落はオレ(ツバサ)だな! 自信ある!」

「喋ってんじゃねーよ! よ、余計に息、切れんだろ!?」

「オ、オマエこんな重くて抱えにくいもん…も、持った事ねーだろ!?」

「その、重みが! 腰に全部、かかってんだ! オ、オレ(カケル)の方がつれぇぇ!!」


正直、もうダメだ。はぁっ、はぁっ。脇腹が痛ぇ息が出来ねぇ腕が抜けそうだ。もう追いつかれる。

オークはともかくリーダーの方は一歩がでかい。それに、何よりぐったりした人間を抱えて走れる距離なんてタカが知れてるだろ・・・!?


後ろのオークリーダーの鼻息が俺の髪の毛を揺らす。もうダメか!?


 

俺は縺れる足を必死に交互に動かしながら、抱えてるアニャを見た。小さく開いた唇も、白い手足も、抱えて走る俺の手の中で揺れる。くそう、こんな状況じゃなきゃ最高の眺めなのに。 ・・・アニャの魅力が、背中に迫る恐怖が、軋む身体の苦痛が、死の予感の絶望が、俺の中で渦を巻く。



何をしてるかも分からないぐちゃぐちゃの頭で、辛うじてミユの背中について行く。



もうダメだ、脚が、腕が痛い。呼吸が出来ない。身体の限界は今、精神の限界と仲良くなろうとしていた。判断力の低下までは自覚があったが、「もう倒れちゃおうかな」という気持ちは、俺たちにはあまりにも甘美すぎた。


俺はなんでこんな辛い目に遭っている? ...生きる為か。でも生きるのがこんなに辛いなら、もう・・・。


諦めかけ、視線が下へ下がった時、それは視界に入った。


アニャの、その白い身体に痛々しく穿たれた傷。そこから流される赤い血。それが、俺たち二人の心に訴えかける。


「自分は良い。だが、この娘も死なせるのか?」



その疑問が俺たちの疲労にのたうつ身体を突き動かす。心臓は爆発しそう、肺から摂りこむ酸素の量が足りてない。足を一歩前に出す為のエネルギーを、毎回身体中から絞り集めてる。次の一歩でもおう動けなくなるんじゃねーか? ・・・でも。



 ・・・それでも。


 「うぉぉぉぉおおおおお! ゲホッ! 仲間ぁ! …死なせる、かぁ!!」


カケル(オレ)は最後の力を振り絞って、跳ばんばかりに加速した。先頭を走るミユに追いつくと、ミユも同時に口を開いた。


「この先に魔法陣があるわ! 私がそこまでアニャを運ぶ!」

「ミユ! ア、アニャを頼む! ゼハァ、俺はもう走れねっ。ゼハァ、ここで食い止める!」


お互いに頷き、抱えてたアニャを投げる様にミユに渡す。


「二人とも! 無理にオークとやり合わないで! とにかく魔法陣まで辿りつけば態勢を戻せるから!」


加速するミユの背中を見ながら、周りの風景を見た。見覚えがある。確かにこの先に魔法陣が数十メートル先にあったな。一安心だ。じゃあもういいよな。 ・・・はぁ、もう限界だ。



カケル(オレ)の足がもつれ、態勢の崩れた俺は壮絶に転んだ。すぐ後ろを走ってたオークリーダーは一瞬、転がる俺に蛮刀を向けたが間に合わないと判断して、とっさにジャンプでかわす。



だが転がってるのは物じゃねえ。「手」がある人間なんだよな!


大豚の後ろ脚(で、合ってるよな?)を、ツバサ(オレ)は転がりながらも両腕でがっしりと掴んだ。大豚は崩れた態勢を戻そうとするが・・・ 「うらぁ!!」 俺は奴の脚を抱きかかえたまま壁に向かって倒れこむ。勢いと自重で、大豚は強かに壁に頭を打ち付けた。


ドゴッ! 「プギィッッ!」 


俺は、鈍い音と短い悲鳴を聴きながら、倒れこむ巨体の目を見る。

奴の視線は・・・・・・定まってない!

 

「はぁっ、はぁっ! 上手くやったじゃねーかツバサ!」

「あん? はぁっはぁっ! お前こそ。げほっ! 良く、走ったじゃねーかよ?」



ギリギリで受け身が取れた俺は、脳しんとうでも起して目を回してる大豚の確認を最後に、俺はぶっ倒れた。

もーーー・・・・限界。




とにかく呼吸だ。カケルは大の字に寝っころがり、全身を弛緩させた。ツバサが呼吸を整え、身体の隅々まで血液が流れるところをイメージする。


30秒くらいは休めたろうか。 お互いに黙ってると、最後に言ったセリフの余韻を口と耳に感じる。疲労と興奮でテンションがおかしかったのか。さっきのやり取りが無償に恥ずかしい!

「やったな!」「オマエこそ!」・・・ってなんだ、友情!? ってゆーか他人が聞いたら自分で自分を褒めてる事になるのか? えっ自慢なの!?



「・・・てめー。気持ちわりーこと言ってんじゃねぇよ。」

「…オ・マ・エ・が! 振ってきたん」

「あーーー!あーーー!うるせい!!」

「うるせっ 黙れよ!」

「なんだとーっ? てめーこそ…」

「ちょ! 本当に黙れ!」


聴こえてくる。豚の足音だ。 そうだ、最後尾の奴らが居たんだ。マズイ。ぶっ倒れた大豚はともかくオーク3匹だって今は戦えねぇ。


「やれるのか? ...ダメだまだ動かねぇよ。 ...弱音吐くなよ。 ...いやお互さまいだろ!」


上半身をなんとか起こし、ダンジョンの冷たい壁によりかかる。せめて、先頭のオークと目が合った瞬間にメイスを投げつけてやる。くぅ、握力が。まともに持てねぇ。



やがて通路の角から姿を現した。3匹は汗だくで、一列縦隊で向かってくる。正直、正視しかねる絵だな。


「ブゥゥ! ヒィィ! ブゥゥ! ヒィィ! ブゥゥ! ヒィィ!」


よぅし。目が合ったら投げつけてやる。



・・・目が、合ったら。 



目が・・・合わねえ?



「ブゥゥ! ヒィィ! ブゥゥ! ヒィィ! ブゥゥ! ヒィィ!」



3匹のオークは壁際に倒れてる俺とオークリーダーを纏めて無視。俺らの目の前横切り、そのままミユが消えた方に行っちまった。俺は反射的にオークリーダーを見た。その定まらない視線の中に、哀愁が見えた気がする。



「・・・・あぁ、うん。やっぱりリーダーと思われて無いんだな。」


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