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04 アニャとの合流

「えー!? アニャ、もう魔法憶えたの!? すごーい!」


「まーね! ボクの魔法はスゴイよ! ・・・でもこっちも驚いたよー! 噂の二重人格くんがキミだったなんてー。」


「あ、あぁ。まぁ正確には二重人格じゃねーけどな。ああ。俺らは同時に意識があるからな。」


「どー違うの?」


「普通の二重人格は、片方が眠るかなんかして人格の交代があるだろ? そ。俺たちは同時に2人の意識がある。起きてる時も、寝てる時も必ず2人同時だ。プライバシーも何もねーんだよ。」


「そっかー! 仲いいんだねー!」


「・・・普通そーなるか? ...この子変わってね?」



まーなんとか俺らは、緊張せずに女の子と話せる様にはなってきたぜ。赤髪の女の子、アニャはもちろん魔法学園(トラウム)の生徒だ。聴くと、俺達と同様にコンビで試練に参加した様だ。そして3階層で、めでたく2人とも魔法を習得出来たらしい。


出口に向かって上がって来た彼女たちだったが、アニャは魔法を使用した戦闘がすっかり気に入ったらしく、無理をしないと言う約束で、一人でもう暫くダンジョンに残ることにしたらしい。



それなら! と、俺たちは臨時でパーティを組むコトを依頼し、快諾を得た。



「魔法にも慣れて来たし、もうちょい行けるトコまで行ってみようと思ってたんだよね~。」だ、そうだ。確かに良い考えかもしれない。魔方陣で体力も魔力も回復出来るんだ。気をつけて戦い続ければ魔法にも戦闘にも慣れ、レベル上げにも持ってこいかもな。


なんにしても俺たちにとっては願ったり叶ったりだ。これで更に下の階層に進める。・・・もう完全に他力本願になっちまってるが、こーなりゃヤケだ。とにかくもう暫く潜りゃ俺だって魔法を憶えるだろ。それさえ憶えりゃこっちのもんだ。



「剣よ。炎を纏え!  ファイアドレッシング!!」


アニャの剣に紅蓮の炎が宿る。振ると炎がなびき、触れた相手には炎が纏わり付く。アニャの憶えた魔法。


【 炎 纏 】(ファイアドレッシング)だ。


なるほど。確かにまるで剣が炎のドレスを纏っているみたいだ。

正直羨ましい。これだ。俺もぜってぇ魔法を憶える。そしてこんなお荷物的な立ち位置から脱出するんだ。



そう。俺には夢がある。自立した一人の冒険者となり、いつかツバサとカケルが別々の身体を手に入れるかなんかして、「一人づつの自由」を手に入れるんだ。・・・そんなこと出来るのかって? いや、世界は広い。きっとそーゆー魔法やアイテムだってある! 


・・・と、思う。


・・・もしダメならせめて人格の交代だけでも出来るようになりたい。

せめてプライバシーの確保を・・・。だ、ダメだ! 目標がなんだかみみっちくなってきた。



とにかく、俺とミユにアニャを加えてトリオになった俺たちのパーティは、何気に結構強い。

【 炎 纏 】(ファイアドレッシング)によって炎を帯びた剣を手に敵陣に切り込むアニャ。

慌てた魔物たちを冷静に片付けるミユ。逃げまどう残りの魔物と俺!



「ちょ、ちょ! ま、待て…待てってカケル!! ...いーや、待たねぇ!俺は戦闘時のベストなポジションをキープする ...だぁら、それ逃げてるだけだろ!? ...今だツバサ! 殴れぇぇぇ!! ...あ、危っねぇぇぇえええええ!!」



どうだ。楽しそうだろう?



・・・・・・誰も何も言わないでくれ。頼む。


ま、とにかくそんなこんなで。

俺たち三人はなんとか3階層まで降りてくる事が出来た。ここは1階の小川に苔と言った静かで神秘的な様子とは全然違う。


ここは暑い。蒸し暑いんだ。


壁には松明、地面からもマグマ…では無さそうだがタールの様な油性の液体がチロチロと小さな火を灯しながら溢れてるのが見える。岩肌も場所によっては触れないほど熱くなってる。


本当なら戦い方も地形に合わせて変化させなくちゃいけないだけど、当然俺にはそんな余裕は無い。よけて転がる時に必死に熱い所を避けるだけだ。


魔物はまだ2階層と同じコボルト、ゴブリンしか遭ってない。階層が進む毎に魔物の種類は増えるから、確実に新しい敵が現れるはずだが。


アニャとミユのタッグの前には今のところ敵じゃない。無論、俺たちだって頑張ってる。攻撃が命中した事こそ無いが、殺伐とした戦闘に素敵な花を添えてはいるはずだ。



「ねぇ? ツバサくんとカケルくんはさ、ちょっと見た感じ強そうだし身体も結構動くよね。けどなんで敵を攻撃しないの? あと、・・・凄く元気だよねっ?」


炎を纏った二振りのレイピアでゴブリン達を焼き切り、少し興奮気味のアニャが話しかけて来た。

ちなみにどうやらアニャは火を見ると燃えるタイプらしい。



「あ。・・・ま、まだ俺が本気を出す程じゃねえかな! ...そ、そう! ダンジョンは何があるか分からないからな。戦略的な温存だよ。なっ? ...ああ!」


回復の魔法陣がそこら中にあるのに「戦略的温存」は意味がない。もちろん嘘だ。攻撃はしてるんだけど当たらないだけっす。



「そーなんだね! 意外と知的なんだねー。じゃあ秘密兵器、楽しみにしてる!」


「お、おう! 俺も楽しみ! ...バカ、他人事かっ。 黙ってろって!」


にっこり小首をかしげるアニャ。


・・・可愛い。ど、どれだけハッピースマイルだよ。今の信じてくれたのか。俺は、出来ることならまだ一匹も魔物を倒してないことなど隠しておきたいと言うのが本音だ。



ミユの優しさとはまたちょっと違う、アニャの天然のポジティブ感が眩し過ぎて俺は横を向いた。

ちょうどミユと目が合う。あれ、ミユさん? なんでじと目で俺を見ている?


「そうね、アニャはまだ知らないもんね。秘密兵器さんは、すごぉおく強いんだよねー? あたしも楽しみだなーーー。」


あ。話しには乗ってくたけど、なんか無駄にハードル上がってんですけど? 言い返す言葉を探す俺。


しかし天から与えられたのは言葉では無く咆哮だった。



「グゥゥルルゥゥゥ・・・グゥアアッ!!!!」


豚の頭に筋肉質な人間のような身体、身長は小柄のアニャと同じくらい。・・・オークだ。


バックラーにシミター、カトラス。兜やメイルまで。統一はされてないが各々が色々な武器や防具で武装してやがる。素材も木製、銅製、鉄製と様々だ。身体もゴブリンより一回りデカい。のしのしとふてぶてしく歩いてくる。


あの装備、まさか他の生徒から奪い取ったもんじゃねーだろーな。…かなりボロボロで年季も入ってるから、さすがに違うか。なんて事を思ってる内に俺たち三人は5匹のオークに囲まれた。



「二人とも! ボクが切り開くから突破して! 囲まれたまんまは駄目だよ!」


叫ぶなり炎を振りまきながら躍り出たアニャ。流石だ。この戦い慣れた感じ、すっかり頼っちまう。



アニャが炎を纏った剣を振るう。しかしオークは金属製のバックラーで受け止めた。更にもう一匹がアニャの背後をに回り込む。挟まれた!


ニタリ、と豚の口元が勝利の笑みを作る。だがアニャは・・・


振り返らないまま、もう一方の腕を後ろに振り下ろす。


ザクッ!! 「ピギィ!」 


後ろについたオークはとっさに肩で受けたが、レイピアの刃が深々と刺さる。微かな悲鳴と共に片腕の動きを奪った。さすが二刀流! まだちょっと危なっかしいけど、身体の柔らかさと遠心力を活かした二本のレイピアでの闘方は、アニャの小柄な体を充分に補ってるようだ。


片腕の動きは奪ったが、オークの戦闘意欲は健在。恨みを燃料に瞳は爛々と燃えあがる。アニャがバックステップで距離を置いても、追い詰める様に動く豚2匹。



一方、ミユもオーク二匹を引き付けて応戦する。ヒーターシールドを牽制の為にかなり前に押し出す。必勝と言うよりは食らわない事を重視した防御の構えだ。相手は近距離でグイグイと盾を押し付けられると、中々届かない攻撃に焦れる。焦った荒い攻撃の隙をショートソードで文字通り「突き」、相手を屠る。ミユらしい、地味だが模範的な戦い方だ。



もちろん俺も相手は一匹だが頑張ってるぜ。


興奮して牙を剥きながら手斧を振り下ろすオーク。涎を垂らしまくって、だらしねぇ口元だな! 俺はオーク間合いを読み、奴の手斧を鼻先すれすれで躱す。 ・・・チャンス!


メイスを右肩口に振りかぶり、相手(ブタ)の側頭部へ向けての渾身の一撃!!!



すかっ  「ブ?」


・・・俺の身体が後ろへ大きくジャンプし、空振りしたメイス越しに少し困惑したオークと目が合った。


「ツバサ、今じゃねぇ! ...オ・・・マ・・・エ、な!」



合わない。とことんイキが合わない。


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