03 魔法陣での回復
「だ・が・ら!! だんでデメーばべイズ掴んだんだよ!? デメーごぞアボが!? 相手ば武器持っでだんだぞ? バガが! ぞれを素手で倒ずがら格好良いんだど!? ゴードのやづぁびびっでだじゃねーが! おべーな、向ごうば鎧着で盾持っでんだぞ!?」
ダミ声、独り言、喚き声、で聞き苦しいにも程があるよな。
わりぃ、どうやら鼻の骨が折れちまったらしいんだ。
俺たちは今、人が5,6人は入れる様な大きな魔法陣の上に座り込んでる。
地面に書き込まれた文字からは薄緑色の光が立ち昇っていて、モンスターが入って来れない安全地帯になっている。おまけに【自動回復】の魔法がかかってて、折れた鼻も暫くここに居れば全快しそうだ。
さすがは魔法学園、 こんな魔法陣がダンジョン各階に多数配置してある。いかに実戦主義といえども、流石に生徒の安全面の配慮はしてあるって訳だ。
俺が気絶した後、ゴードたちは俺をダシに散々からかって、満足したら勝手に去って行った。その後ミユは、魔物と一人戦いながら、魔法陣まで運んでくれたらしい。
ちなみに2階層はコボルトとゴブリンが出現する。どっちも小っさい人型の魔物で、コボルトは犬っぽい顔をしてるやつで動きが少し早い。ゴブリンは・・・何? 鬼っぽい?顔の奴でこいつらはずる賢い。グループで湧いてきては連携をとったり、パーティー後衛を狙ったりする厄介な奴らだ。
そんな魔物たちから時には隠れ、時には多対一で応戦し、身体の大きな俺をずるずると引っ張るミユ。想像するまでも無く、相当大変な作業だったろう。倒れてる俺に攻撃がいかない様に身を呈して護ってくれたなんて・・・。
「魔法陣での回復を当てにして強行突破したから、攻撃は当たりまくちゃったんだけどね!」
「当たっちゃったんかい! ...いや、そりゃそーだろう。」
そーいや折れた鼻以外も身体中いてーわ。ま、確かに回復するからいーんだけどよ。 ...っと、今気がついた。良く見りゃミユも体中あざだらけじゃねーか。・・・そうか、そうだよな。強行突破って言うんなら正面で俺を引きずるミユの方がよっぽどなダメージだったろうな。
俺、どうしよう。・・・今はミユに合わせる顔がねぇ。
弱いだけならまだしも、俺はミユまで危険にさらしている。足を引っ張ってる。
ま、まずい。唯一言葉を交わしてくれる友達であるミユに嫌われたら、俺は今後まともに生活して行けるのか? それはちょっと自信がない。 と、とにかくせめて足だけは引っ張らねぇよーにしよう。そうだな、よし!
・・・ って、なんて情けねえ決意だ。
「・・・ねえツバサ、カケル。ちょっと話したいんど・・・いい?」
ミユが俯きながら話しかけてきた。や、やべぇ! もうか! パーティ解散か!!?
「あ、あぁ。・・・なんだよ改まって。...おおおぅ、き、聞こうじゃねーか。」
「・・・あのね、さっきのゴードくんたち。去り際にわたしを自分たちのパーティに誘ってきたの。このままツバサとカケルの、かい・・・その、一緒に居るのは大変じゃないかって。」
やっぱキターーーーーーー!!!
・・・え、「かい」って何? もしかしてその後は「ご」なの? ねぇどうなの!?
ってゆーか、「一緒に居るの大変」も! それ全然フォローになってないですよ!?
くっそぉぉぉ!!!
ゴードの野郎っ! 全ての元凶は奴だ。人の仲間に手出しやがってぇ!!! 実際にはもっと言いたい放題言いやがったんじゃねーの? 奴がヘラヘラ笑いながらミユを勧誘する姿が目に浮かぶぜ。許せねぇ、あいつは許しちゃ駄目だ。次こそはマジで決着をつけねーと。
・・・でも、やっぱそーだよな。ミユだってこれ以上はやってらんねぇよな。戦力的にも今のままじゃソロでやってるのと変わらねえ。いや、俺が足でまといになってる分、・・・ソロ以下か。
ミユが他のヤツとパーティを組みたいってんなら俺に止めることは、出来ないな。
「・・・まぁ、しょうがないな。 ...そーだな。ミユにも目的があって学園にいるんだもんな。 ...ああ。俺らのせいでミユを邪魔するくらいなら・・・解散も ...あぁ」
「ちょ、ちょっと! 何言ってるの! もちろんお誘いは断ったよ? だから今も2人と一緒に居るんじゃない。」
「・・・えっ? あっ? ...あれっ?そーなの? ...そーなのか?」
「うん。当たり前でしょ。これからも一緒行にこうよ! ・・・それに、もし仮にパーティを組むとしても私だってあんな人たちは嫌だよ?」
笑顔で答えてくれるミユ。 うぅ、なんて素敵な子なんだ! もう一生奴隷としてついていきます!!
だが、そんな俺の脳内奴隷宣言をよそにミユはうつむく。
「・・・でもね。・・・正直、ここからは難しくなると思うんだ。」
確かに。ミユの気持ちがまだ俺たちから離れていかないのは有り難い。でも階を降る毎に魔物は確実に強力になっていく。それと戦って行くのは気持ちだけじゃ足りない。ダンジョンは強さを求める。実際の強さ、戦闘力が必要だ。
「確かに。どーしよう。・・・ツバサがもっと使えるりゃなぁ。 なっ! お前が言うか!? テメーだろ! このヤロ…」
「ストップストップ! ・・・もう! 本当に2人はもう少し仲良く出来ないのかなー。」
「あのさ! ・・・ココ! 入れてもらって良い!?」
突然の第三者の声に俺たちとミユは振り返った。
赤い髪の小柄な女の子が 魔法陣の前で立ち尽くして居る。
・・・めっちゃ肩で息をして。
もちろんこの退避用魔法陣には優先権も占有権も無い。どうやら俺たちに気を遣って聞いてくれてるらしい。俺たちは慌てて激しく頷き、彼女に入ってくるよう促した。
「ありがと! ふぅーー! 生ーーーき返るぅーーー!!」
言うなりその女の子は魔法陣に転がり込み、大の字になって寝っころがった。よく見ると呼吸の乱れだけでなく、体中傷だらけだ。大怪我は無いようだが、あざは黒く変色し、擦り傷に滲んだ血は既に乾きかけている。激しい戦闘ってよりは、かなり長い時間戦った後みたいだな。
彼女は手足を投げ出し、気持ち良さそうに【自動回復】の効果を受けている。紅い胸当てと、同じく紅い腰当てから伸びる白い腕、白い脚。この子はミユや俺と違って鎧の下に服を着て無い。いや...もちろん下着は付けてるだろうけど。 たまに居るよな、こーゆー人。肌を出してる方が気配やら何やらを察知出来て戦いやすいとか言うけど。。。
とにかくこの子のしなやかな二の腕や白い太ももが露わになってて、その肌が魔法陣からの薄緑色の光につつまれてて、それがすげー幻想的って感じで・・・。
「・・・キレーだ。・・・うん。」
「ん? なーに?」
やばっ! 思わず声漏れた! 話題転換、えーっと、とにかく! ここは名前でも聞いとくか!
「・・・お。な、なぁ。 ...えっと、なっ!? ...あの! 名前・・・ ...キミの・・・?」
女の子どころか、男友達も碌に居ない男×2。上手く話せない...とゆーか完全に挙動不審だ・・・。
「ねぇ! アナタ、誰っ?」
くい気味にミユのからの質問。ナイスフォロー! あれ? でもなんかミユにしては今の聴き方ちょっとトゲがあるような。
紅いアーマーの子は全く気にならないのか、とにかくはち切れんばかりの笑顔で応えた。
「ボクはアニャ。今、3階から戻って来たんだよ!」