01 二人二脚
「おい! 真っ直ぐ進めよ」
「うるせっ。 テメーこそ蹴りずれぇんだよ!」
「ちょ。 勝手に脚上げんな!」
「なんだぁ? やろーってのかぁ!?」
「あぁん? 上等じゃねぇか!」
「痛ってーなコラァ!!」
「うるせーっ!! 俺も痛てんだよ!」
いきなりでスマン、俺はツバサとカケル。
見てわかるかもしれないけど喧嘩の真っ最中だ。けどツバサとカケルが戦ってるんじゃねえ。喧嘩の相手は第三者・・・だったんだが、俺ら同士が先に始めちまいそうなのを見て引いちまってる。
・・・ま、そりゃ引くよな。上のセリフ、なんせ喋ってんのは両方とも「 俺 」なんだ。
説明するぜ。
俺の身体には産まれた時から2人の人格が居る。そして、その人格がそれぞれ同時に身体を操作するんだ。 ま、言ってみりゃ二重人格なんだが、俺らには「人格の交代」ってのが無い、発言も行動も全てが「同時」なんだ。
だから上のセリフも、他人にはこう聞こえる。
「おい! 真っ直ぐ進めよ!うるせっ。テメーこそ蹴りずれぇんだよ!ちょ。勝手に脚上げんな!なんだぁ? やろーってのかぁ!?あぁん? 上等じゃねぇか!痛ってーなコラァ!!うるせーっ!! 俺も痛てんだよ!」
・・・ キモいだろ? 俺もそう思う。実はちょっと前から喧嘩相手も消えてんだ。たぶん別の意味でびびったんだろう。
「喰らえコラァ!」
「のヤロウ! ・・・おい!」
「びびってんじゃ...」
「おいっ!!!」
「あぁ!? なんだよ!」
「...アイツもういねーよ。」
「ああぁ !!? なんだそりゃ!?」
・・・とにかくウンザリだ。一人で喧嘩売って喧嘩買って、一人で自分の身体相手に喧嘩してるんだ。正気じゃないだろ。
例えば、仲悪いヤツ同士が手錠で繋がれた状態・・・の1000倍ムカつくぜ? 風呂に入ろうが飯を食おうが学校に行こうが、何をするにも、ずーーーーーっと邪魔がはいるんだ。
俺たちは二人三脚なんてもんじゃねえ。言うなれば「二人二脚」だ。
自分の意思じゃねぇ言動に行動を、勝手にやられちまう。耐えられるか? これでお互い仲良く、なんてムリな話だろう!?
「ダメ! 仲良くしなさい! ツバサもカケルも、二人とも自分の身体なんだから。」
こいつはミユ。ベタでわりーが幼なじみだ。俺ら二人のコトを知っても引かずに居てくれてるだけでなく、パーティも組んでくれる非常に希少な存在だ。
髪の色は黒に近いグレー。長さは肩の下位まであって、雰囲気は「おしとやか」ってとこか。だが同じ歳のくせに、最近妙にお姉さんぶってくる。本当はほんわかキャラのくせに。
「うるせえ、テメーにゃ関係ねー!そーだ、引っ込んでな!うるせぇーのはテメーだよ!だとコラァ!だいたいテメーが・・・」
「はいはいはいはい!! お願いだからせめてゆっくり喋って? どっちの言葉か区別つかないよ。ただでさえ口の悪さまで似てるんだから。」
「「似てねーよ!!!」」
「あ、今のは二人同時でしょ? やっぱり本当は息ぴったりね。」
ミユは、最近特に大きくなった胸の前で、手を合わせてにんまり微笑ってやがる。
う、嬉しそうだな。あの可愛さは反則だろ。
「・・・・・・なんか喋れよ。テメーこそ。てめー赤くなってじゃねーだろーな!? てめーがだろ! 黙れ!」
俺たち三人(身体の数は二人だけどな)は同じ村で育った。 年齢は15歳だ。数ヶ月前にこの街に引っ越してきて、魔法学園「メッサートラウム」に入学した。 ここは魔法ギルドが直轄する数ある学校の中で、最も実戦向けの魔法使いを育成する為のスパルタ校だ。
大体、インドア派の魔法使い(魔法研究者や宮廷魔術師なんか)になりたい奴は、他の学校に行くか大魔法使いに弟子入りするもんだ。つまり、ここに居る奴らはほぼ全員が武闘派の魔法使い(冒険者や傭兵や騎士とか)を目指してるってこと。俺も断然冒険者志望だ。冒険者になって、世界中を回る!
と言ってもまだ俺らは魔法を使えない。入学以降数ヶ月間、授業で嫌になるほど薀蓄を叩き込まれ、いよいよ魔法を修得する為の試練を今日、受ける事になってる。
試練は学校が管轄するダンジョンで行われる。今はそこに潜る為の最後のブリーフィングの時間。大抵の連中は既に4,5人程のパーティを既に組み、前衛だの後衛だの作戦だのと楽しそうにやっている。
「どーしよっかぁー。このままだと本当に二人で潜る事になっちゃうねー。」
「・・・うぅ。クソ!」
ミユの言葉が俺の胸に刺さる。そう、パーティが増えないのは間違い無く俺のせいだ。まだ一人の奴や二人組の奴らに片っ端から声をかけてんだが、どーも上手くいかねぇ。さっきもそれで喧嘩になりそうだったくらいだ。
それどころか、実は俺はみんなに嫌われてる。と言うより、引かれてる…って方が正しいか。もちろんこの体質のせいだ。まともに話しをしてくれるのはミユだけなんだ。 うぅ、自分で言ってるとなんだか切ねー気持ちになってきた・・・。
「そんなに落ち込まないでよー。大丈夫だよ。 中にはソロやコンビで潜ってる人達もいるんだし? それに私達は人数は2人だけど仲間は3人でしょ!」
ミユは優しい。 幼なじみってのもあるだろーが。
「・・・すまねぇミユ、助かる。けどその気遣いが逆に辛いって言うか。おまっ!バカ!そーゆーこと言うなよ!」
「ちょっと! 今言ったのどっち!?」
「・・・ツバルだっ!!」
「そんな人居ないでしょ!!」
ま、そんな調子で結局俺たちはミユとのコンビで試練のダンジョンに挑戦することになった。ここら辺で俺たちの装備を紹介しとく。
【ツバサ・カケル】
ライトメイス ×6
ブレストアーマー
キュイス
レガースブーツ
【ミユ】
ショートソード
ヒーターシールド
ショートボウ
コイフ
ホーバーグ
俺の「キュイス」ってのは太ももに着けるプレートだ。レガースブーツは膝までを守る金属のブーツ。上はブレストアーマーだけで動きやすさを重視した装備だ。メイスはかなり小振りで長さは30センチほど。木製の握りの先端に円筒型の鉄が着いてるだけの単純な武器だが、身長の高い俺が振りかぶって使えばそこそこの威力になる。6本持ってるのは愛嬌だ。無くしたら困るからな。腰に左右3本づつ挿してある。
ミユの「ヒーターシールド」ってのはいかにも「盾」って感じのあの逆三角形のやつだ。大きさも胴がすっぽり隠れるくらいで弓矢なんかも防げる。「コイフ」「ホーバーク」ってのは簡単に言えば鎖を編んだ兜と鎧だ。コイフが兜…ってゆーよりフードをみたいだけど。ホーバークの方は袖が手首、丈が膝上くらいまであるが、下半身の動作に支障が無いようスリットが腰まで入ってる。
ミユは本当は弓が得意な後衛・中衛タイプなんだが、とある事情から俺と二人で前衛をやってもらう事になってる。
そしてついに。
学園から歩いて1時間程度、レベル0ダンジョン【ゲブールト】の前にやってきたぜ。
落ち葉に埋もれる森の中にぽつんと盛りあがった地面。二人並んで通るのがやっと程の口がぽっかり開き、かなり急角度で下る階段が見える。
入学してから今日までの間、魔法だけじゃなく実践訓練もやってきた。でも、なんだろう。やっぱり魔物の蠢く洞窟の中に入ってくってのは結構勇気がいるもんだな。
「・・・ねえ。結構こわいね。」
「・・・ああ。そうだな。でも入らなきゃならない。...そうだ。俺たちはここで必ず魔法を手に入れなきゃならない。そうだろ?」
「・・・うん。そうだね! その為に頑張ってきたんだもん! いよいよだね!」
「ああ! まずは第一歩だ!」
俺は魔法使いになって世界中を冒険する。
世界中を探し回りゃあ流石に見つかるだろう?
この体質を治す方法がさ!
ツバサとカケルのセリフの区別がしにくいのは仕様です、すいません。