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会談

 フィフ国王は、そのまま一番奥の席に座った。


「すまん、遅れた。わしとて急いだつもりだったのだが。

 代わりに様子を見てくれてありがとう、息子よ」

「構わねえよ。父上だっていつもの公務に加えてこれなんだ、忙しかったろ?」

「王様とはあくまで最後の決定しかしない、わしとて他の文官に比べたらたいして働いてはおらぬ」


 そのままフィフ国王は、御石の方を向いた。


「此奴が報告にあった商人だな?」

「そうだぜ」

「初めまして」


 テーブルを跨いで、握手する二人。


「食事中だったのかね」

「失敬、陛下がお見えになるというのを聞かされてはいましたがどうも空腹には耐えかねてしまいましてね。ローズルピー王子のご厚意に甘えまして食事を用意していただきました」

「良い良い。ん?ローズルピーが?」


 フィフ国王は自分の息子を見た。少し、なんて言おうかと悩んでいるローズルピーは御石の反対側の席に座ったまま目を背けてる。


「お前もしかしてこの商人に奢ったのか?」

「いいだろ別に腹すかせてたんだから。それともなんだ、父上は人が腹空かせてるのを黙って見過ごせっていうのか。これが民や荒れた路地裏の人間ならともかく現状は大事なお客様なんだぞ。フィフが不信感持つならこいつだってこの国に不信感を持ちかねない」

「いや、なんというか_____」


 国王はすごく困惑してる。困惑、というよりは突然の出来事なのか動揺しているが。


「ようやく友達が出来たのだな、と」

「は?」

「え?」


 若者が揃って素っ頓狂な声を上げる。


「失礼、我が息子もようやく友達が出来たのかと内心舞い上がってしまった」

「ちょっと待って父上ってか親父!オレらまだ会ってそんなに経ってないんだぞ!」

「途中から打ち解けてはいたので友達にはなれるでしょうが、今はまだ時間が足りませんね」

「そうだぞ」

「良い良い、打ち解けられているのならいずれはかけがえのない友になろう」


 はっはっは、と国王が笑っている。そのまま一瞬で和めるような空気になったのを見計らった国王は、御石に食事を勧める。


「ローズルピーの行為を無駄にしないためにも、温かいうちに食べてしまいなさい。わしの前だとて遠慮することはない、話すのは食事をしながらでもできよう」

「ありがとうございます」


 そうして、御石は目の前のサーモンステーキに手をつけた。


 サーモンのムニエルとはまた違った強い香ばしさに、ほぐれた赤みの柔らかさから溢れる塩味と脂。サーモンは生で食べるのが一番だと考えていた寿司の国出身の御石は、初めて食べるものに感動を覚えている。


「美味しいですねこれ!」

「何せサービスは国が援助しておるのじゃ、これくらいも出せないでどうする。しかし口に合うなら良かった、息子もしっかりと人を見るくらいはするのだな」

「よせよ。オレはとにかく食えるものを寄越せって言っただけだ、彼の気にいる食事を出したのはこの旅館の従業員だろう」

「はっはっは、そうじゃな」


 親子仲睦まじい会話を聞きながら、食べる手を勧める御石。


 会話に一区切りがついた頃、食事途中の御石にフィフ国王は話しかける。


「食べながらで構わんが、わしがここまで来た理由はわかっておるな?」

「それは勿論僕が何をしにここに来たのかを知るためでしょう?」

「……怯えている様子ではないな」

「怯えるような目的で来てないですから」


 サーモンステーキとご飯を一緒に食べ、口に残った分をオニオンスープで流す。でも彼は内心少し、緊張していた。


「包み隠さず話してくれればわしの権限にて処罰などはしない。もし仮に何かを隠す、言い逃れるようなことをする。そういうことをするのであれば、しばらくはこの旅館に留めさせてもらうぞ」

「構いませんよ」

「では、単刀直入に聞こう。

 お前は何しにここへ来た?」


 緊張感だけは隠すようにして、口に入れたものを飲み込んで御石は答えた。


「この国の問題、フィフの魔術に関する問題を解決しに来ました」

「……ほう?それは、誰の目的かな」

「______僕と、メイオール王の」


 一度食事の手を止めて、フィフ国王の方を見る御石。


「メイオール、か。金髪の?」

「ええ、ラクシュリー・メイオール。彼の要請を受けてこの国にやってきました」


 国王の顔から笑顔が消えるが、その眼差しに敵意も懐疑もなかった。


「メイオール王は自分の救った大陸に、国家という段階を経なければ作れない社会機構をもたらしたことによる経済格差を嘆いていました。様々な場所が国として独立し、内政干渉を避けるという言い分で自分のできなかったことから離れて暮らしていたことについても悔いておりました。

 ですが、その結果が龍貫を始めとした希少な資源の取り合いによる戦争です。これまでは流石に避けたりすることはできない、放置すればその戦果が広がってしまうのだから。仮に戦争が収まったとしても、大部分が死んでしまった土地では意味はありません」

「だから、その一歩としてここへ来た。と?」

「決してこの国の問題を軽視しているわけではありません」


 一度栄養を補給するためにオニオンスープを二口飲んで、話し続ける。


「人類すべての行動が土地の急激な変化を起こす。ここに来るまで、いや今に至るまで考えてましたが接点や辻褄が合わないのです。それがすぐに分かるものであるならば、フィフの国は問題なく栄えていたことでしょう。難題にも程がありますが、それでも立ち向かわなければなりません」

「メイオール王も、ついに老いたな」


 フィフ国王は、そうポツリと呟いた。


「己の技量を弁えたは良いものの、良心の呵責に耐えられなくなったか。歳を取れば取るほど、自分の功績に疑念を持つ。仮に英雄であってもだ。昔の話を掘り返し、威張るよりかは人間性は出来てはいるが_____罪に対しては弱いままなのだな」

「メイオール王との面識は、国家の主である以上はあるとは思います。彼は、昔からあのような人物なのでしたか?」

「きっと、お主に出会うまでは変わらなかった」

「親父」


 若者二人揃って、国を統べる王を見つめる。その王は、メイオールの意思を目の前の異邦人に感じながら、話を続ける。


「メイオール王は救世主でありながら、そもそもそうなる前から悩む男だった。自分がそのまま魔族を滅ぼして救世主になって良いのかと、度々自身の協力者に漏らしていた。広くは語られなかったがな。

 それは、魔族に対する意識ではなく、自分が救い統一した後のこの大陸の社会に対する不安だった。目の前の問題こそすぐに超えなければいけない試練であったからな、そのままメイオール王は救世主となった。

 だが、その後は商人が知っての通り自分の国に引きこもってしまった。自分と同じく領土を持て、その土地で住んでいた者たちに全てを委ねると言ってな」

「でもラクシュリー・メイオールのその発言はどの国でも自由と自律の象徴としていろんな国で重んじられているんだろう?なら別に良いじゃねえか勝手に責任感を負わなくても」

「持てとは言わないけど、持たざるを得ない理由はあるよ」


 御石はローズルピーの発言に注釈を付け足すように、そして諭すように話した。


「確かに彼の発言に対して責任を問う声はなかった。むしろ、拡大した土地を自分たちの好きにして良いという甘言には乗るだろう。事実これが罠ではなく、しっかりと土地の管理や支配を何も知らない自分がするべきではないという確固たる考えをもってそう言って受け入れたんだから。でもね、彼は国という区分を作って社会を作り、それぞれの国家間の貿易こそ勧めたが、《《細かいことの手本は見せなかった》》んだ」

「今までの生活の規模をただ大きくして、他の土地との交流ができるようにって言ったけど細かいルールなどは言わなかったのか?」

「彼の甘いところでもあるね」


 国の経済・国家間の調停、こうした方がいいのではないかという提案は、ラクシュリーは一切していない。これは、提案した人間で考えるならばあまりにひどい怠慢と言えるだろう。


(今にして思えば、壮大な計画を立ててそれを口実に金もらって旅はしてるけどやはり彼は無責任な面もあるんだな。確かに国という枠組みを持たせることで大陸の管理を他人に任せつつ英雄だからといって下手に改革を進めないっていうのは住民たちの生活を知らない以上は言い分は認められるだろうし、己の無力を知り後退したのは弁えるという品を考えれば褒められやすい。だが、言い換えてみれば自分でもどういう仕組みかわかっていないものを人に勧めてのうのうとしているのは無責任だし酷すぎる)


 だが、その無責任さを御石は責める気が起きなかった。ラクシュリーにしてみては英雄になった以上は下手に後はよろしくなんて隠れておくわけにも行かなかったのも確か。自分が暴れた結果魔族は滅びたが、戦った分だけ人類側も損失を被った。敵を滅ぼした後に出した被害の処理を丸投げしてどこかへ行く、これもまた無責任極まりない選択であることに違いはない。


「メイオール王は正しかったと、わしは思う。分かりきった事だが、土地勘のないものに委ねる都市の建造などは正直恐ろしい。ゆえに社会機構の枠組みだけ立案し、そのほかの治安やルールを他の国の、その土地の人間に委ねることは、英雄の後生にふさわしい。自分は人間であり神ではない、尊大な心は持ち合わさなかったからこうして悔いたのだからな」

「歳を取っちまったらその後悔が棘になって心を刺したって、親父は言いたいのか?その結果、国の商人を用意してそのうちの一人に国の貿易という名目で他国に放って内政干渉する、ってわけか」

「やつは無様も屈辱も堪える男だった。だが、ついに耐えられなくなった。自分が無力である、泰平の世を統べるのに相応しくないという30年の月日に傷ついた男はついにこのような手段に出た」

「英雄が腐る始まりってことか?」

「いいや、そうはさせない。わしはな」


 フィフ国王は、御石を見る。その目は、はっきりとした展望を伝えようとする、信頼の目つきだった。


「______御石と言ったな。

 メイオール王はまさしく英雄だった。どこから来たのかは分からぬが、それでもわしらを救ってくれた大切な恩人じゃ。土地に長く住んでいながら、その発展を推し進めることの出来なかったわしの実力不足だ。

 それでも、魔力の異変が始まった後のある程度の制定で国民の生活は安定した。が、その結果魔術は裕福なものの権利となり、その裕福な者達ですら十分に使えず、魔術の国を謳っておきながら魔術をよく知る賢者達はメイオールにて骨を埋めるようになった。

 一旦は安定したこの状態もいつ不安定に戻るかは分からぬ。だから、御石。本を寄贈できるほど、あの男からの信頼を得ているほどの者に頼みたい」


 軽く、フィフ国王は頭を下げた。


「そなたの力を持って、この問題に終止符を打つべく御助力頼みたい」

「いいのかよ親父!?」


 ローズルピーが声を上げた。


 自分の父親、いやこの国の国王が頭を下げるなど前代未聞のことだったからだ。


「俺は確かにこいつ口と頭ならなんかやってくれそう感はある。俺も王子という立場上全然御石に頭を下げるさ!だけど、だけど親父はいいのか!?そんなプライドを投げ打ってまで、恥じることをしなくてもいいじゃないか!一国の王が頭を下げた、もし広がったら市民に不安が広がるぞ!」

「お前がわしの子供であるなら、わしはお前の親じゃ。血の通った以上は、お前と同じ意志をもって頼んでいる。口出しするでない。そしてこれは、お前のためでもあるのだぞ」

「なんでだよ?」


 少し混乱気味のローズルピーに、御石は話を続ける。


「確かにフィフ国王は面倒な制限下で安定させる政策を取った。

 だけれども、すでに優秀な人材が多くメイオールに流れている上に魔導戦争以降の時代、30年はいってる時間で市民達の生活は魔術というインフラの不備のせいで市民達は非常に苦しい生活を送っている。

 今の国王はまだ安定した政策を打ち出し実践しているという実績があるから、暴動は起きない。起こしてしまうと市民はかえって苦しくなるだけだ。けれども、その中でローズルピーが即位した時、果たして彼らはなんの進化も齎さない王に頭を下げ従うのだろうか?」

「下げねえと思う。寧ろ、その不満や欲望を解消するためにオレを殺すことも厭わねえんじゃねえかな」

「そうだね。でもそれをしたら……魔術がインフラの一つであることは万国共通、これで魔術関係ない技術の無理な開発を続行したら、この国だけ魔術が使えないという大きなハンデを背負う事になる。特に魔術を使ってるだろう軍なんかは大変な事になるだろう。それこそ滅亡の引き金だ」


 事実、魔術は個人の資質に大きく寄るが矢や大砲に比べて空気抵抗等を考えなくてもいい強い兵器だ。これが使えるのと使えないのとでは戦力に雲泥の差が出てしまう。


「だから、フィフ国王はこの件の早急な解決を望んでいるんだ。それに、もし僕の協力者として君がついて来てくれたなら手柄については王子に恥じぬ行動と慧眼によって僕の知識や技術は勿論、ローズルピー自身の政策の正しさの証明になるから、二代目の王として恥じぬ経歴で信頼を獲得できるよ」

「事実、お前はわしの一人息子だ。可愛い子には旅をさせよと言うが、結局は王を継ぐにしろそうでないにしろ、わしはお前に手柄の一つもくれてやりたい。その手柄がホラではなく真のものならば、きっとその経験で自然とお前も成長しているはずだ」

「あ、ああ。わかったよ。二人がそういうなら黙っとく」


 ローズルピーは自身に向けられた説明で納得して、口を閉じた。


 御石は、自分に対して頭を下げた王に対して、座ったまま礼をして出来る限り誠意を見せる。


「僕とてその目的のためにここへ来たのです、黙って見ている訳にはいきません。

 こちらこそ、このような余所者にご協力いただき感謝します。今回の件は、早く解決しなければ政財面の傷は大きく広がるどころでは済まなくなり、王政が崩壊する危機ですから。全力で対応します」

「ありがとう、御石よ」


 そのままフィフ国王と御石は固い握手を交わした。


 ここから、フィフの大改革と呼ばれる魔術の歴史が始まる。

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