~創造~
早くも、自分が飛べちゃうと思ったイッちゃった主人公。
そんなトコロで、常識的(翼があったところで飛べるかは別問題)なツッコミをする新しい登場人物。
奇想天外、摩訶不思議、作者も終わりが見えない物語をご覧あれ!
なんで虫は垂直に登れるか知っている?
「足の先の毛で歩いている」
なんて、センスのカケラもない答えは聞いていないよ。ここで人間としての大きさが分かるってモンだよ。あはは! 嘘だけれどね。これも人間としての大きさと思ってくれよ。で、話を元に戻すけれど。少しセンスを交えて言うとね。虫は二次元の世界で生きているんだよ。だから、虫は壁を垂直に歩いている時には、普通にその辺りの平坦な所を歩いているの時と同じなんだよ。虫には二次元と三次元の区別がつかないんだ。元々、虫には次元の区別なんてつかないけれどね……。これを僕達に当てはめたらどうだろう? もちろん、次元の違いはつくよね? でも、実際に二次元か四次元を体験した事はないだろう? 自分を題材にした小説なら出来るけれどさ。まぁー、これはナシにして。だから、僕が言いたい事はね、「僕達にも区別がつかない、別の世界が見えていないんじゃないか?」って事さ。で
で、僕は区別がつかない世界というモノを知る事になった。
「飛べないよ。だって君はまだ人間だもの」
僕は別に驚かず首だけを後ろに倒した。女の人が屋上の床に立っていた。女の人が上に見え、空が下に見えた。ぼけっと女の人を見てみた。逆さに見ているせいか、身長でさえもよく分からない。
「何か?」
おっと、文句を言われてしまった。僕は慌ててちゃんと姿勢を正して見る事にした。
「何か言いたい事があるの?」
冷めた目線で僕の方に寄って来た。月光に照らされて、女の人の服装がよく見えてきた。縁のデカイ白い帽子に白いワンピース、僕にはその服装が光って見えた。そして、女の人の身長は低かった。百五十あるかないかぐらいだった。女の人が近づいて来るにつれて段々と空気が詰まってきたので、僕は女の人に声をかけた。
「何か用ですか?」
僕が声をかけたら、あからさまに女の人は不思議そうな顔をした。
「あ、すみません」
僕は反射的に謝ってしまった。反射的に返事をしてしまうのは、癖なんだよ。初めて会う人には必ず敬語になってしまうという癖もあるんだ。いや、お恥ずかしいったらありゃしない。
「で、貴方はどうしてここにいるの?」
そう言われても困ってしまう僕。一応、不法侵入だし。あ! これはこの女の人もそうか。いや、でも、もしかしたらこのマンションの持ち主かもしれない。持ち主はないか、持ち主の娘ではあるかもしれないな。
「貴方はさっきから黙ってばかりいるけれど、何かあるの?」
「すいません」
また、反射的に返事をしてしまった。おそるおそる女の人の顔を見てみると、その顔はそっぽの方に向いていた。何か悲しい気分と良かったという安心感が僕の中に流れた。女の人は何を熱心に見ているのか、口を固く閉ざしてしまった。女の人の向いている先をちらりと見て、そして僕も黙った。どの位の時間が経過しただろうか、と考えるくらいの時間はゆっくりと流れている気がした。空気の圧縮度が時間を増すにつれて増していき、息苦しくなっていく。
「君は今日、ここに何をしに来たのですか?」
僕が息苦しさに負けて、女の人に質問をしてみた。この質問は社交辞令というモノなのだろうか? それとも、そこまで深く考える必要もないのだろうか?
「ちゃんと、貴方は話せるのですね? それは素晴らしい事ですよ。私が何故ここにいるのかは、少し貴方に関係ある事です。何故ここに来たのかは、貴方に関係ないと思います。だけど、貴方がここにいるから私はここに来たのかもしれません」
僕は女の人の言っている事がよく分からなかった。何を言いたいのかも。でも、女の人の話の中で一つだけ分かった事があった。
「僕は君に会った事がある?」
「いいえ」
女の人はそうはっきりと僕に言った。そうすると、女の人は僕が座っている横に立った。女の人は手を後ろに組み、体全体に風を受けている。
「君は飛べるの?」
女の人は僕の方に笑顔を向けた。
「私の背中に翼があるのが見えませんか? それはとても悲しい事だと思いますよ。本当は貴方にも見えているはずなのに、貴方が見ようとしないから見えないのでしょう」
そうすると、女の人は後ろ手に組んでいた手を横に真直ぐ伸ばした。それは今。すぐにでも飛んで行きそうな感じを受けた。でも。背中に翼があるのなら手は必要ではないか? という疑問が浮かび上がった。
「空を飛ぶにはイメージが必要です。飛べるというイメージが、人間を空へと運ぶのです。日常の世界はイメージで出来ているのです。生きているというイメージ、生活をしているというイメージ。全てはイメージなのです。貴方が見ている世界は、見せられている世界なのです」
女の人はそう言い終えると腕を下ろした。女の人の意識というか思考、もしくは頭脳は飛んでいると僕は思った。哲学者というには幼すぎた身長と声だが、その言葉は哲学そのものだった。哲学と言っている基準は、僕の頭脳が少し悲鳴を上げているからだ。さっき女の人が言った事を、よく噛み砕いて飲み込んでみる。自分なりに解釈をしてみる。「この世は仮想現実」という事なのだろう。
「僕にはイメージが足りないという事なの?」
僕は少し苦笑いをしながら女の人に聞いた。この苦笑いは社交辞令と自分の出した回答があっているかの不安の意味を込めたモノだった。
「そういう取り方もあるのですね」
女の人はそう言って笑った。その顔はとても愛らしくて可愛かった。女の人は笑った顔を隠すかの様に下を向いた。
「良いですか?」
女の人は下を向いたまま、しゃべり始めた。
風が吹き始めた。
「貴方がイメージと言っているイメージとは、固定観念というモノなのでしょう。固定観念を外そうとしている時が一番固定観念に囚われているのです。まず、固定観念というモノが既に誰かがイメージした世界なのです、私が言っているイメージとは創造する事なのです。固定観念とはまた違うモノなのです」
僕は同じようなモノだと思った。イメージとは創造という意味が含まれているような気がした。イメージとは自分の想像で、現実の自分の頭の中で創造される。いや、女の人が言っている現実とは仮想現実であるのだろうか。
「聞いていますか?」
女の人の声で、僕の思考は翼をしまった。僕の頭は煙草を必要としているのかもしれない。酸素が多過ぎると、僕の頭は翼を付けて飛んでしまうのかもしれなかった。これは女の人が言っているイメージではないのだろうか? 自然の飛躍。固定観念とは違うイメージ。
「本当に聞いていますか?」
女の人は僕に近づいて、僕の顔を覗き込んだ。突然出てきた女の人の顔に、僕はびっくりした。見れば見るほど白い肌。暗闇では見えなかった女の人の目はクリっとしていた。
「聞いていますよ。聞き過ぎて耳にタコが出来るくらいですよ」
僕は出来るだけ冷静を装って答えた。僕はこういうタイプの女の人に弱いのかもしれない。純真というか無垢という感じのタイプに。なんか自分が危ないタイプの人間に感じてきたな。危ない、危ない。
「その耳にタコという使い方は少し違うと思います」
女の人はそう言うと身を翻した。
「もしかすると、貴方のその思考がイメージという概念かもしれませんね。貴方はそのタコに関する諺の使い方を熟知しているが、わざとそれを間違える。それはきっと直感というには確か過ぎる存在なのでしょう。それゆえ、貴方はイメージという概念が創れないでいるのです」
世の中があやふやなくらい、女の人が言っている事はあやふやだ。あやふやというか、ぐにゃぐにゃだ。言っている事が雀の涙並みに分からない。
「君には僕の中が読めるの?」
僕は僕自身の事なんか分からないし、分かりたくもない。知ってはいけない気さえもする。それを会ったばかりの女の人に読まれているのは気持ちが悪い。
「私にじゃ貴方は読めません。ただし、こういう風に立体には出来ます」
女の人はそう言うと、何かをすくう様に手を出した。
「見ていてください」
女の人の言葉が合図になったかのように、女の人の手が光り始めた。それは本当に何かを生み出すようだった。それはイメージ、創造なのかもしれない。
「ほら、見てください。これが貴方のイメージです」
女の人は僕に近づいて、手を僕の前に差し出した。そこには光が輝いていてなかなかよく見えない。
「え?! とりあえず、君は手品師? いや、奇術師といった方が良いのかな?」
僕はそんな事を言いながら、内心は原爆並みに驚いていた。
「私は手品師でも奇術師でもありません。良いから見てください。そうした方が早い気がします」
いや、そんな事を言われても……。もう右も左も分からない状態である。
は~。僕はため息を一つした。そして、意を決して光の中を覗いた。とても、煙草を吸いたい気分である。
「一服してからで良いですか? なんて言ったら怒られるのだろうな……」
「何か言いましたか?」
「いや、何も……」
どうやら、僕の小声が聞こえていたようだ。少し罪悪感に駆られるな。
は~。
「ため息は良いから、早く見てください。結構、疲れるので」
女の人は少し呆れ顔で僕に言った。そんな苦労をして僕に見せる必要があるのかな? と言葉にはしないで言ってみた。そして、僕はそんな思考に苦笑いをしながら光の中を覗いてみた。その中には水晶よりも透明でアメジストのように紫色をした宝石があった。紫色というには少し黒くて、何とも言い表しにくい宝石だった。僕はその宝石を取ろうとして自分の手を近付けた。
「触ってはいけません。貴方のイメージが崩れてしまいます。見るだけにしてください」
僕はその女の人の言動で余計に怪しい手品師、もしくは奇術師に思えてきた。僕がそういう思った事を素直に顔に出したのか、女の人が苦笑いをした。
「私には貴方の見ているモノが見えません。私に教えてくださいませんか?」
本当に手品師みたいだ。僕はまるでトランプのカードを持っている気分になった。でも、手品師にしてはなんとも可愛らしい手品師だった。上手くは言えないが、騙されてみたい所も少しはあったりする。そんな思考に僕はため息を吐く。ところで、なんでこの女の人は自分で出しておいて見られないのだろう。
「なんで僕は君にこれを教えないといけないのですか?」
「貴方が私の翼を見られないのと同じように、私も貴方のイメージが見られないのですよ」
女の人はそう言ったが、僕にはとても言い訳っぽく聞こえた。それは最初の印象から裏切られた世も感じたのだが、女の人は続けてこう言った。
「私と貴方のイメージを共有すれば良いのです」
「どういう事ですか?」
パソコンではないのだから、そう簡単にデータを共有できるわけないのに。でも、この女の人が言っている理屈と少し似ているのかもしれない。一から考えてみると、僕はこの女の人にどうしてここまで付き合わないといけないのだろうか? 原因を探ってみるが一向に見える兆しがない。
「良いですか? 人間は元々他の人間と繋がっているのです。それを今の人間は忘れてしまっている。いや、拒否していると言った方が良いかもしれませんね。何故、人間同士は繋がっているか。何故、現代の人間は繋がりを拒否するのか? それが分かりますか?」
女の人が僕の頭に追い討ちを掛けてきた。自分の事さえも全然分からないのに、他人の事なんか分かるわけがない。まったく、この女の人は僕に何を希望しているのだろうか? また、問題が増えてしまった。考えるのをやめようかな。そうしたら僕はとんでもなく下等な生物になってしまうのだろうけれど……。仕方がない事かな……。
「答えてくれますか?」
「わかりません」
僕は思考をしないで即答をした。もうここまで来ると半ギレというか逆ギレである。初対面の人に悪いけれど、僕はこういう問題には向いていないのだ。
例えば、こういう問題なら答えられる。
「女性を処刑するのなら、人前で語る機会を与えよ」といったのは誰だ?
答え。オランブ・ド・グージュ。
この人はフランス革命の民衆の被害者、暴力を批判した。一七九一年にオランブは女性の権利宣言を発表した。
要約すると、僕は世界史が得意という事なだけさ。ま、これはさておき。ぼくが即答したモノに、女の人は少し喜んでいるように僕に話し始めた。
「そうです。分からないからなのです。昔の人は他人の聞こえない声を聞きたがったのです。そして時が流れその心境は薄れていき、人間はその聞こえない声を聞きたくなくなったのです。それは何故か? この問題の答えは簡潔です。ただ、単純に怖いからですよ。聞こえないのなら、聞かない方がいい。これに気付いてしまった。諺で言うと「知らぬが仏」というモノに当てはまるでしょう。死線と言っても良いほどの境界線なのです。それはとても細くて見えにくいモノですが、とてもハッキリしているモノなのです」
日々是決戦というどっかのスローガンではないのだから、そんな死線という物騒なモノを見たくも、気付きたくもない。聞こえないモノを無理して聞く事は、どちかというと無礼な気がする。そう思うのは僕だけなのだろうか? 当り障りのない人生を送ってきた僕だけなのだろうか? ヤバイ、ヤバイ。なんか自己嫌悪になって来たよ。こんな事ではダメだ。僕はもっとこうポジティブ野郎だったはずだ。この女の人に汚染されてきているのかもしれない。おっと、汚染は言い過ぎかもしれない。と、いうか言い過ぎだな僕。そういえば、さっきから僕は僕らしくないのでは・・・。そう思ってきたら、段々この女の人に対抗したくなってきた。
「死線っていう物騒なモノに僕は気付きたくないし、他人の聞こえない声なんかに興味はありません。こういうと、失礼なのですが君の話は僕にとっては意味がないですよ。だって、僕は、そういう話に興味がないのですから」
僕は少しキツク言ってしまったかなと、少し後悔した。早過ぎる後悔だったかもしれないが。女の人の反応が気になって顔を覗いて見ると、その顔は少し微笑んでいるように見えた。
「まず、コレを答えてくれませんか?」
女の人はまた、光輝いているモノを僕の前に差し出した。僕は面倒になってきたのでその手を払って答えた。
「紫に黒が入った宝石、もしくは黒に紫が入った石ですね」
「そうですか・・・」
女の人はそっけなく返事をした。その割にはまた少し微笑んでいるようだった。僕はまた、怒りが出てきた。
「結局、なんなのですか?」
僕は力んで女の人に聞いてみた。もしかすると、この女の人は僕をおちょくってただ楽しんでいるだけなのかもしれない。僕をおちょくってこの女の人は何が楽しいのだろう? もうなんかイヤになって来たな~。キレちゃうよ僕。
「私は貴方を覚醒しようと思っているのです。良いですか? 私の背中を見てください」
女の人は手の中の宝石を空に投げた。空に舞った宝石は綺麗に砕けちった。それは打ち上げ花火のように。落ちていった火花が女の人の背中に集まっていった。それは段々と形を形成していく。形成されていったのは翼だった。女の人の背中に翼が出来た。
「どうです? 貴方にも翼が見えるようになったでしょう。これが共有なのです。たったこれだけの事なのですよ。分かりましたか? 人はこういうモノなのですよ」
女の人は翼を滑らかに羽ばたかしてクルっと一回転した。女の人の周りにアノ色の翼が綺麗に舞っている。
パチパチ
僕はなんとなく拍手を送ってしまった。
最初に書いたのは、ただの気まぐれ文だったり、なかったり。
建設途中のビルで男女が二人。
こんな、状況に陥ってみたい作者が此処に一人。