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最終章 観測者はまた物語を見る
数日後。
王都エクリアは平和を取り戻していた。
アルテミシアの名は徐々に忘れられていく。
だが、ある本屋の片隅に一冊の本が並んでいた。
表紙には美しいの少女が、読者のほうを向いている。
『観測者アルテミシア』
著者不詳。
それを手に取った少年が、ページを開く。
すると、最初の一行にこう書かれていた。
あなたがこの文字を読んでいるその瞬間──私もあなたを見ている。
少年はふと顔を上げ手みる。
店の隅に黒いドレスの少女が立っていた。
彼女は微笑んで、そっと頭を下げる。
そして、消えていった。
この物語は読者がいるから存在する。
登場人物は紙の上だけの存在じゃない。
彼らはあなたの意識の中で、呼吸している。
悪役令嬢が本当に悪かどうか。
ヒロインが本当に善かどうか。
それは──あなたがどう観るかで決まる。
だから、次に物語を読むとき、ぜひ観測者”になってみて。
そして、どこかであの少女と目が合ったら──「こんにちは」と、声をかけてあげて。
彼女はきっと、笑うから。
THE END