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第六章 物語の終焉を操る者
牢獄の中でアルテミシアは目を閉じた。
そして、物語のコードに干渉し始める。
彼女の意識は文字の海へと飛び込んだ。
行を書き換え、章を削除し、因果の糸を解く。
「もしも……私が悪役じゃなかったら? もしも、セリーヌが善人じゃなかったら? もしも、この物語が読者の期待に応えないなら?」
彼女の手が、最終章のページを握り潰した。
次の瞬間、世界が止まる。
空が凍り、風が消え、人々の声が途絶えた。
すべての登場人物が、静止した人形のように動かなくなる。
そして、アルテミシアだけが動いた。
彼女は鏡のない部屋の中央に立ち、読者──あなた──のほうを向く。
「こんにちは。あなたがこのページをめくっているその手も、この物語を楽しんでいるその心も、私はちゃんと感じているわ」
静寂の中、彼女の声だけが響いた。
「あなたは私が破滅するのを見たいの? 私が“悪”だと信じて、スカッとするのを望んでるの? それとも……私があなたと同じ“観測者”だと気づいてほしいの?」