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第四章 ヒロインの“正しさ”に疑問を抱く
ヒロインのセリーヌは完璧だった。
優しく、謙虚で、誰に対しても笑顔を向ける。
平民出身ながら王子に見初められ、王妃候補にまで上り詰めた。
人々は彼女を「救世主」と呼んでいる。
だがアルテミシアには見えていた。
セリーヌの優しさが、時に他者を踏みつぶしていることを。
この前の孤児院の資金援助は、セリーヌの名前で行われていた。
でも、実際は私が提案した政策。
彼女はただ“優しいふり”をしているだけ……。
アルテミシアはセリーヌが「正義」だとは思えなかった。
彼女は物語のルールに従って“正しく”振舞っているだけ。
まるで、読者が望む“ヒロイン像”を演じているかのように。
「私たち、どちらも“役”を演じているのね……でも、私は少なくとも自分の役を自覚している」