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第二章 私はあなたと同じ目を持っている
アルテミシアの寝室には鏡がない。
代わりに壁一面に、無数の文字が浮かぶ。
それはこの世界の「小説」そのものだった。
行ごと、章ごと、未来の展開まで、すべてが記されている。
そして彼女は、自分がどう振舞うべきかを知っていた。
第三章にてヒロインのセリーヌを魔物の群れに襲わせる。
第五章にて王宮の宝物庫を盗み、平民たちに罪を被せる。
第七章にて王子との婚約破棄を宣言し、狂気の笑みを浮かべる。
「……また同じ展開ね」
アルテミシアは天井を見上げてため息をついた。
「でも読者が望んでいるのは、こういう“悪役”でしょう?」
彼女はこの世界の住人でありながら、この世界の外にもいる。
なぜなら──彼女は物語の“観測者”だったからだ。